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13話 割れる村

 後の始末を自由の雲の面々に押しつ……任せて、俺とケルさんとドラ吉は家に戻っていた。

 もちろん事件解決の手柄は彼らに譲った。

 ギルドに調査や捕獲の依頼が出ていたので、報酬も出るだろう。


 ………


「終わっちゃったなー」

「終わったな」

「ぴゅー」


「1日でしたねー」

「1日どころか、正味2時間だな」

「ぴゅーい」


「結局最後まで、あの人の名前知らないままでしたねー」

「魔物の名前もな」

「ぴゅいー」


「悪魔って作られるモンだったんですねー」

「おう、俺も知らなかった」

「ぴゅいぴゅい」


「ケルさん、魔将と戦ったコトあるんでしたよね?」

「ぴゅい?」

「おう、逃がしちまったけどな」


「何年前でしたっけ?」

「40年前ってとこか……まじか、もう40年も経ってんのかよ。俺も爺いになるはずだよなぁ」

「ぴゅい」


「それから魔将って出てこないんすか?」

「出てこないな……言われてみりゃ、なんで出てこないんだろうな」

「ぴゅいーー」


「終わった割には、解んないコト多いすねー」

「そうだなぁ」

「ぴゅー」


「ドラ吉ー」

「ぴゅ?」


「相づちはいらんぞー」

「ぴ!?」

 イヤ、驚くトコじゃないから。


 ………


「明日から俺は、何を楽しみに生きていけばいいのだろう…」

 イカの胴体部に餅米を入れながら、俺は嘆く。

「たかが暇つぶしが終わっただけで、おおげさな」

 もうちょっとかな? さらに餅米を投入。


「どっかに面白そうな事件とか、落ちてませんかねー」

 楊枝で開口部を閉じる。

「探せよ」

「何言ってんです? 事件てのは探すんじゃなくて、巻き込まれるのがお約束でしょーに」

「なんだそりゃ? 誰と約束してんだよ」


「事件が俺を待っているんだ!」

「待ってるんなら行けよ」

「たが俺には、このイカ飯を完成させるという使命が!」

「おう、それは完成させろ……にしても、えらい数だな」

「なんか最近、大量生産がクセになってるんですよねー」


 ………


 完成した! 煮汁もったいないなー、取っておいてまたそのうち作るか。


「ドラ吉、よく相づちを我慢したな。ご褒美にお前が一番先に食べていいぞー」

「ぴゅいー」

 ウチの子は機嫌を取るのが簡単で助かる。


「で、どうするんだ」

「何をです?」

「……お前なぁ、事件が待ってるとか言って無かったか?」

「あぁ、それね……どっかで待ってると思うんですけどねー、待ち合わせ場所がどこなんだか」

「もうどこでもいいんじゃねぇか?」


「そうなんですけどねー、とりあえずの目的地が欲しいというか…」

「昆布採りに北へ行くんじゃなかったのか?」

「そろそろ山の幸が欲しい」

「ぴゅい」

「ドラ吉もそう言ってる」


「だったら北の街道からポイドラス公国に入って途中から東へ行けば、ジセーカ村ってのがあるぞ。山の幸で有名なのは、ここいらじゃそこだな」

「じゃあとりあえず、そこかなー」

「あと街道を海なりに進めばブンレドの街があるぞ、海と山に囲まれてるからこっちは海と山の幸だな」

「じゃ両方」


「食いものがありゃ何でもいいのか、お前は」

「うん」

「認めんのかよ!」

「あと景色が良ければ最高、絶景ならなお良し」


「冒険とかはいいのか?」

「う~ん、一度は冒険者ってのをやってみようかとは思ってるんだけどね」

「別に冒険者にならんでも冒険はできるぞ」

「知ってるけど、冒険者稼業も体験してみたい」


………


「……話し相手がいなくなっちまうな」

「寂しいですか?」

「そこまででも無いけどな」

「師匠たちなんて、ドラ吉と離れたく無くて泣いてましたよ」

「そこは弟子じゃねぇのかよ」

「普通そうですよねー」


「ま、俺は釣りさえ出来りゃそれでいいからな」

「自由の雲の連中でも、可愛がってやれば?」

「あいつらが懐くんなら、そうしてやってもいい」

「じゃ懐くよう言っときますね」


「好きにしろ……あっ! そうだ」

「何です?」

「飯の作り置きを置いてけ、10日分でいいぞ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 事件より2日後、旅立ちの朝を迎えた。

「ほいじゃ、ケルさんまたそのうち遊びにきますねー」

「おう、土産はちゃんと持ってこいよ」


「面白いもんがあったら必ず持って来ますよ。お前らも元気でなー」

「ナミタローさんもお元気で」

「私たちは、しばらくここを拠点に頑張ります」

「あたしたちも、すぐに世界に羽ばたくからねー」

「ドラ吉くん、また会えるよね」

 ケルさんとも自由の雲の連中とも、しばらくお別れだ。


 事件の事後処理を押し付……お願いした自由の雲のメンバーだが、ギルドの報酬の他に調査の協力を頼まれて、そちらの報酬も入るコトとなり喜んでいる。

 もっとも、事情徴収などの面倒事もセットで付いてきたらしいが。


「それじゃ、みんなまたなー! よし、それじゃ行くか、ドラ吉」

「ぴゅいー」


 俺とドラ吉だけの旅が、再び始まった日であった。


 ぽっかりと浮かんだ雲が、進む街道の先に浮かんでいた。


 ………


 夜になって、星空を見ながら砂浜でバーベキュー。

 花火したいなー、そのうち作ろう。

 魔法で作るか、火薬で作るか……あれ? 火薬作れるなら、近代兵器も作れんじゃね?

 なんとなく危険な香りがしたので、魔法で作るコトにしよう。


 いつの間にか風が強くなって、海が荒れてきた。

 そろそろ寝ようと思ってたのに…。


「雲も出てきたし、普通に野宿はマズいか」

「ぴゅいぴゅい」


 万が一を考えて、水に浮くシェルターを作って寝床にする。

「今日はこの中で寝るぞー」

「ぴゅいー」

 おやすみなさーい。


 ………


 おはよー。

 シェルターから出ると、外はいい天気だった。

「ドラ吉ー、いい天気だぞー」

「ぴー」

 眠そうな目でドラ吉が起きてきた。


 天気は良いのだが、浜辺には色んなモノが打ち上げられていた。

 昨晩はかなり荒れたんだなー。


 流木に小舟、荷箱に家具、タマゴに馬車、様々なモノが……。


 ……タマゴ?


 大きさが60cmほどの、まだらな水色をしたタマゴ。

「何のタマゴだ?」

「ぴゅー」

「う~ん、これは食うんじゃなくて、孵してみないか? 生命反応あるし。見たコト無いタマゴだから、何が生まれるか見てみたいんだよ」

「ぴゅい」


 師匠たちの図鑑も、全ての生き物を網羅しているワケではない。

 抜けもけっこうあるので、何か見つかったら埋めてほしいと頼まれているのだ。

 なので、とりあえず色つきでスケッチしておこう……やっぱ魔道カメラ作っとこうかなー。


 孵化させるには、やっぱ温めないといけないよね。

 温められる袋でも作るか。

 待てよ、でも割れたりするといけないし…。


 考えた結果、以前ハエ用に作った次元収納を改造して、温める効果を付加するコトにした。

 時間経過もあるし、この中入れときゃいいよね?

 時間魔法で時短はしない、こういうのは待ち時間も楽しいモノなのだ。


 よしよし、旅の楽しみが1つ増えた♪


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ポイドラス公国との国境は、有って無いようなものだった。


 ポイドラス公国は元々バイリバル王国の一部であったが、何代か前のポイドラス公爵が潰れかけた王国を立て直し、その功績があまりに大きかった為に領地を増やした上で、更に国としての独立を許されている。

 独立とは言うものの、実質は自治領でしかない。

 なので独立国の形は取っているが、ポイドラス公国は現実にはバイリバル王国の一部でしかないのだ。


 というワケで、ポイドラス公国にはポイっと入れたのだ。


 ……皆まで言うな、おっさんだから仕方無いと思ってくれ。


 ………


 街道の分かれ道まで辿り着いた。

 コレを東に向かえばジセーカ村、お待ちかねの山の幸だ。


 坂道を上って下ると村が見えてきた。

 里山に囲まれた村は一年を通じて温暖で雨も多く、四季に関わらず様々な産物を楽しめるそうだ。

 竹林も多いな……竹は色々と使えるからなー、少し仕入れておきたいところだ。


「ようこそジセーカ村へ」

 門番さんが、どこぞのゲームのようなセリフで出迎えてくれた。

「どうも、山の幸を楽しみに来ました」

「ぴゅい」

「そりゃ丁度いいところに来たね。今この村じゃ、観光に力を入れようとしてるんだ。楽しむついでに感想も聞かせてもらうと嬉しいね」

 観光に力を入れられるってのは、平和な証拠だね。良いコトだ。


「へえ~、ちなみにどの辺にチカラを?」

「確か今、特産品の新しいメニューを考案してる最中のはずだ。ぜひ食べてやってくれよ」

「いいですねー、けっこう食道楽なんでそりゃ楽しみだ」

「ぴゅいー」


「試作品が多いから、とんでもないのが出てくるかもしれないぞ?」

「それはそれで、話のタネになるからokだし」

「はははっ、なるほど。じゃ、楽しんでいってくれ」

「あぁ、そうするよ。ありがとう」

「ぴゅぴゅい」


 ………


 村はけっこう活気がある、この上さらに産業振興策を打ち出すとは…ここの領主か村長か知らんが、なかなかやり手ですな。


「お、あんた旅行者だね、ジセーカ村へようこそ!」

 いきなり村人らしき人に、声を掛けられた。なんだろ?

「今、新メニューの試食会をやってるんだ。良かったら食べてみてほしいんだが、どうだい?」

「へえ~、試食会ですか。そりゃ興味ありますねー」

「ぴゅーい」

「そうかい、だったら是非とも頼むよ。会場はそこの店だ、無料だから遠慮なく食べて行ってくれ」


 それじゃ、遠慮なく。

 なんかいいよね、こういうグルメイベントって♪ おら、ワクワクするぞ!


 会場に入ると……あれ? なんか空気がピリピリしてない?


「おぉ、旅行者の方ですね。どうぞこちらの席に」

 案内されかかると

「ちょっと待て、こんどはこちらが先の番だろう! 順番は守れ!」

 順番って?


「何言ってるんだ? 今は先行の数が同じなんだから、早い物勝ちだろう。次は譲ってやるよ」

「そんなルール決めた覚えは無いぞ、そんな汚いやり方は認められん!」

「汚いのはそっちだろう! 腹が減ってるほうが美味く感じるんだから先行が有利に決まってる! 旅行者なんて何人来るか判らんのだから、先に先行を取った方がいいに決まってるだろ!」

「だから最初にルールを決めたろう、いまさら変更はきかんぞ!」

 この人たちはいったい何をこんなにアツく……。


「待て待て、だったらこれからは両方の料理をいっぺんに出せばいいんじゃないか?」

「でもどっちの料理を先に食べるかは…」

「そこは食べる人に任せればいいんじゃないか?」

「なるほど、そこは見た目勝負ということか」

「確かに、味以外も重要だからな」

 そろそろ誰か説明してくれません?


「あのー、どなたか状況を説明していただけると有難いのですが…」


「あぁ、すいません。実は今『村を代表する特産品は何か』という話になってまして、二つまではすぐに絞れたのですが、そこからなかなか決まらなくてですね…」


「話し合いで決めようとしたんですが、これがまた村を二分にする大騒ぎになっちゃいまして。そこで知恵を絞って特産品を使った料理を作って、投票で決めようということになんとか決まったのですが……」


「これがまた接戦でしてね、今のところ同数なんですよ。だから両陣営とも必死で……まったく、まさかこんな論争で、村が真っ二つに割れるとはね……」


 村の人たちが、代わる代わる教えてくれた。


「ハァ、それは大変なコトですね…」


「ま、勝つのは我ら『キノコ派』だがな。そうは思いませんか? 秋の味覚の代表である『キノコ』が一年中食べられるんですよ? それにキノコには高級品も多い、特産品を代表するにはふさわしいでしょう」


「何をくだらないことを。『タケノコ』こそが村を代表する特産品にふさわしいに決まっているだろう。春の味覚、庶民の味、しょせん添え物の『キノコ』と違って主役を張れる。この勝負は我々『タケノコ派』の勝利で決まりだよ」


「『キノコ』だって十分主役を張れる! それに、そんなエグ味のある食いもの、特産品になどできるか!」

「馬鹿か? 毒のある食いものを特産品にするほうがどうかしてるだろ、特産品の代表は『タケノコ』だよ!」

「山で採れるキノコのほうが……」「里で採れるタケノコのほうが……」

「いいや、キノコのほうが」「やっぱりタケノコが」「キノコは」「タケノコが」……。


 なんかどんどんヒートアップしてきちゃったよ……。



 しかしまさか……まさかね……。



 まさか異世界で『キノコタケノコ論争』に巻き込まれるとは……。

私はキノコ派です。

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