12話 潜む悪魔
銅を金に替える魔物。
そいつに主人がいたとしてだ、目的は何だ?
金が欲しかったのなら、秘密にしてじゃんじゃん銅を金に替えればいい。
注目を集めるため……だったら大々的に発表したほうが簡単だ。
愉快犯?……まぁ、確かに面白いっちゃ面白いな。バカ騒ぎになってるし。
愉快犯が楽しんでる可能性が高いとして、何を?
普通に考えれば、このバカ騒ぎとアホな冒険者の行動だよな。
あと何かあるっけ?
あ、あと通貨の混乱ってのもあるか、銅が金になるワケだし。
でもこんな小規模だと、影響なんて微々たるモノだから意味無さそうだし……。
解んねー、何がしたいんだよ。
考えすぎか? 俺の考えすぎなのか?
単に珍しい魔物を手に入れたから、見せびらかして騒ぎを楽しんでる愉快犯か?
……なんかそれが正解な気がしてきたよ……。
「ぴゅい?」
考え込んでいる俺の顔を、ドラ吉が覗き込んでいる。
「あぁ、何でも無い。ちょっとした考え事だから心配いらんよ」
愛い奴め。
確かに俺にも、ドラ吉を見せびらかして自慢したい気持ちはあるもんなー。
もっともドラ吉はテイムしたというよりも、創ったようなモンだけど。
……創る? イヤ、まさかね……。
今日の直感スキルは、随分と精力的にお仕事をなさっているようだ。
創ったんだな、たぶん……クリーモをベースにして新しい魔物を……。
ふむ、気にはなるんだけど、本格的に首突っ込むとなると……。
あとひとつ思ったコトがある……。
俺、直感スキルで名探偵とかできるんじゃね?
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「ケルさん、ここいらで研究者やってる魔道士知らない? 変人奇人扱いされてるような人」
釣りから帰ってきたケルさんに質問をぶつける。
「なんだいきなり……知らんよ、てーか興味ねえ。そいつがどうかしたのか?」
俺は考えたコトをケルさんに話してみる。
…………
「……と考えたのさ。ちなみに俺の直感スキルは正解だと言ってる」
「なるほど……俺の直感スキルも同意してるみたいだな。で? どうする気なんだ?」
そこなんだよね。
「う~ん……気にはなるんだけどね……」
「どうせ暇なんだろ?」
「だからこそなんだよね、俺が首突っ込むと簡単に解決し過ぎちゃいそうで」
「首を突っ込みたいけど、長く楽しみたいと」
「おっしゃる通り」
「かぁ~、なんつーか、わがままだなお前」
「そう言わないでよ、簡単過ぎるとつまんないでしょ?」
ケルさんが、じっと俺の顔を見る。
「ま、好きにしろ……あぁ、手伝ってほしい事があったら遠慮なく言え、どうせ俺も暇だからな」
「じゃあその時は、遠慮なくお願いしますねー」
「……いや、やっぱり少しは遠慮しろ」
俺は返事をせずに、手を振ってケルさんの家を出ようとした。
あ、一言言い忘れてた。
「ケルさん、昼飯はキッチンに作ってありますから食べて下さいね」
…………
さてと……。
推理はあれど手掛かりは無し、解決するならゆっくりと。
一応ね、追跡用に魔道マーカーは作って置いたんだけども……
俺の無駄に高い運と極めてる直感スキルがあれば、その辺適当に散歩してればたぶん全てが解決するんだよねー。
やりたいコトと何か違う……俺は解決したいんじゃない、解決を楽しみたいのだ!
いつもの岸壁に来ちゃった、別に用事は無いのだけれど……習慣って怖いわー。
椅子とテーブルを取り出して座る。
のんびり海を見るのも悪くない、タコの燻製とワインを取り出してちびちび飲み食いする。
海辺と言えば、焼きトウモロコシと焼きそばが食いたいな……今度仕入れておこう。
だがイカは大量にあるので、焼きイカはできるのだよ、ふふふ。
イカ焼きイカ焼き♪
ぱたぱたぱた
聞き覚えのある羽ばたきの音がするな。
「ぴゅいー」
やっぱりおまえかドラ吉、匂いに釣られて……まて、どこから飛んできたんだこいつ?
「どこから匂いを嗅ぎつけてきたんだ、お前は」
「ぴゅーーー」
遠く沖を眺めるドラ吉……お前の鼻、むちゃくちゃ凄くね?
…………
一人と一匹でイカ焼きを楽しんでいると、匂いで別なヤツも釣れた。
どどどどどどどどど……
「イカ焼き! イカ焼きちょうだーーーーい!」
「だからモリアン! 待ちなさいってば!」
「あれ? ドラ吉くん?」
「あぁ、ナミタローさん! すいません! またウチのがすいません!」
気のいい若者パーティー『自由の雲』の面々が釣れた……というか、モリアンが。
「ほれ、食え」
「わぁーーーい!」
「モリアン、食べる前に挨拶くらいしなさい! ナミタローさん、お久しぶりです」
そんな久しぶりでもないけどね、ナリアさん。
「起きてるドラ吉くん……(はぁと)」
こいつは放っておこう、名前も忘れたし。
「こんにちはナミタローさん……えっと、お金は払います……」
相変わらず腰が低いね、ハギウスくん。
「今回はお代はいらんよ、みんなも食べるかい?」
「食べるーーー!」
「あんたもう食べてるでしょ! 私もいただきます」
「僕も、ドラ吉くんと同じものを」
「すいません、僕もいただきます」
「なんだったら、海から好きなもの獲ってきて焼いてもいいぞ」
ばくばくばく…………ピタッ
パクパクパク…………ぴたっ
モリアンとドラ吉が同時に停まった。
そして同時に海を見つめ……。
「大物ゲットするどーーー!」
「ぴゅいーーー!」
ざっぱぁーーーん
ぱっしゃーーーん
やると思った。
一人と一匹は海へ飛び込んだのだった。
「あっちは獲物を獲って来るまで放置でいいだろ。こっちはこっちでやろうか」
「そうですね……これ、そろそろ良いでしょうかね?」
「あ、僕はしっかり焼いたのにします」
「ドラ吉くんが……ドラ吉くんがぁ~」
小魚も焼いてやるべ、シシャモっぽいやつ。
シシャモよりメザシのほうが表現としては適切だったか?
小魚が焼けた、何つけて食べよう?
マヨネーズベースでいいかな?
普通のマヨと、醤油マヨと、味噌マヨ、しまった明太子作って無いな……明日辺り作るか。
俺は味噌マヨでいただく。
いかん、このままではメシ小説になってしまう……。
……メシ描写はこの辺にしよう。
悪かったね、深夜に読んでる人。
…………
「よっこいしょー!」
お、モリアンが返ってきた、崖下から。何を獲ってきたかな?
「どっせーーーい!」
ビッターーン!
「大物でしょ!」
大物だね、全長3mほどのお魚。
見た目マグロのような……モリアンさん、俺に解体ショーをやれと?
「コレはやっぱり、焼くのもいいけど刺身もだよな」
とりあえずカマでも落とすか、と思ったとたん……。
ざっぷあぁぁぁぁん!
ずずずうぅぅぅぅん!
目の前に体長15mほどの……クジラ?
尾びれにはさらに大きい銀色のドラゴン……。
毎度おなじみドラ吉さんが噛みついていた……。
ドラ吉ー、気が付いてないかもしれないが、ソレは『魚』じゃなくて『肉』なんだぞー。
…………
結局のところ、切って見せたら肉だというのに驚いていたが、生姜焼きにしてやると美味そうに食べてた。
どっちでもいいんかい……。
あと『自由の雲』の連中が興奮してた。
巨大化できるドラ吉が凄い、と絶賛してくれたけど……ごめん、でかいのが素なんですわ。
面倒くさいので、誤解はそのままにしとこう。
…………
「で、君たちはここに何しに?」
こんな人気のない岸壁にさ。
「いやぁ、何か例の魔物の騒ぎが大きくなり過ぎちゃって、逆に興味が無くなったと言いますか……」
「大騒ぎしてる連中を冷静に見ちゃったら、なんか引いちゃったと言いますか」
「あたしはまだ探したいんだけどねー」
「それで採取依頼を受けてここに」
あぁ、気持ちは解らんでもない。
馬鹿騒ぎしてるヤツを客観的に見ると、痛いヤツにしか見えなくなる時あるよね……内容に関わらず。
「ま、探さないほうが出くわす可能性は高いけどね」
「なんで?」
モリアンがきょとんとした顔で聞いてきた。
「あいつの飼い主が騒ぎにしたいだけで、捕まえさせたくないから」
「えっ!? 飼い主!?」
「そう、たぶんあいつ、飼い主の命令で動いてる。あと天然じゃなくて人造魔物」
「ええ!? そうなんですか!?」
ハギウスくんナリアさん、リアクションありがとう。
考えたコトを伝えたら、なんか凄く感心された。
そんなに凄くはないよ、スキルのおかげだし。
「そんなワケだから、普通の依頼受けていればいいよ。たぶんその方が出会えるはずだ」
皆がふんふんと感心している。
「あとコレ預けとくわ、魔道マーカー。もし出くわしたら、気付かれないようにぶつけといて」
自作の魔道マーカーを、4人全員に渡しておく。
「当てるのに成功したら、俺んトコおいで。一緒に飼い主に会いに行こう」
会いに行ってどうするかは、その時考えることにする。
即解決しませんよーに。
「じゃーねー」
「見つかるかなぁ」
「ごちそうさまでした」
「ドラ吉くん、またね」
モリアン、ナリアさん、ハギウスくん、あの魔物見つかるといいね。
……残りのあいつの名前、なんだったっけかなー。
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それから僅か二日後、干し貝柱を大量生産して帰ってきたらあいつらが来ていた。
ひょっとして、俺のムダに高い運が仕事しちゃったか?
「お、おじゃましてます」
「おう、ひょっとして見つかったのか?」
「はい、みつかりまつたです」
「ハギウスくんナリアさん、どした? 緊張してるみたいだけど?」
モリアンまでおとなしい……何があった?
「ああ、こいつらここが俺んちだって知らなかったらしくてな」
ケルさんの家だと緊張する? なして?
……あ、ひょっとして。
「ひょっとして、ケルさんが勇者だから緊張してるのか?」
うんうんと頷く4人。
「だ、だって勇者様ですよ! そ、そりは緊張すますよ!」
ナリアさん緊張すると噛むんだね。
「モリアンも相手が勇者だと緊張するんだ……」
ちょっと意外。
「ぼ、冒険者のあこがれなんだよ! そりゃ緊張するよ!」
「別に緊張しなくても大丈夫だよ。普通に釣り好きの、気のいい爺さんだから」
「俺もさっきからそう言ってるんだけどよ、聞かねぇんだよこいつら」
それを聞いて慌ててハギウスくんが答える。
「すいません、その、どうしても緊張してしまって……その、ナミタローさんは最初から平気なのですか?」
平気でしたが、何か?
「平気どころか、ハナっからその辺の爺い扱いだよ。ナミタロー、お前少しはこいつら見習えよ」
「何言ってんです? ちゃんと敬意は払ってますよー」
「どの辺がだよ?」
「毎日メシ作ってるし」
「そりゃ宿代の替わりにだろうがよ」
俺とケルさんのやりとりが、だんだん不毛になっていく。
「あの! それで、ぶつけてきたんですけど!」
「何を? あぁそっか、魔道マーカーね」
だよね、だから来たんだもんね。ナリアさん良くアホな会話に割り込んだ、偉いぞ。
「んじゃ、さっさとみんなで飼い主のところへ行きますか」
「はい!」「行きます!」「うん!」「行きましょう!」
やっと緊張が解けてきたかな?
「ケルさんも行きます?」
「行くぞ、暇だしな。というか連れてけよ」
「ほーい」
あ、また4人が緊張し始めちゃったよ……ケルさん置いてったほうが良かったかな?
…………
我ら勇者御一行様は、とりあえず街の外へ出た。
そして漁に使ってた網を広げる。
「ケルさん飛べたっけ?」
「飛ぶのは無理だな、浮くだけならできるぞ」
「そっか、じゃあケルさんは俺が引っ張るとして……えーと、君らはそこの網に乗って」
網の上に乗る4人。
「こんな感じですか?」
「そうそう、そんな感じ。じゃ、ドラ吉頼む」
するとドラ吉が網の端っこを咥えて飛び上がった。
「うわぁー!」「ええー!」「なんですとー!」「ひゃあー!」
網に掛かった4人は、見事ドラ吉の荷物となったのであった。
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「よし!無事到着!」
うむ、ドラ吉もちゃんと4人を『落とした』な。
「あの建物から魔道マーカーの反応がある、さぁ行くぞ」
「ちょっと待って下さいよ」
「落とさなくったって……あいたた」
「あたし頭から落ちたし」
「足、挫いちゃったかも……」
「ええい、軟弱な」
全員に回復魔法をかける。
「軟弱って……自分を基準にするなよナミタロー。普通の人間は落ちたら怪我するか死ぬからな」
そうだっけ?
「これで問題無いな。よし、行こう」
…………
コンコン
「こんにちはー、いますかー」
「ノックするんですね」
そうだよ、ハギウスくん。
「そりゃそうでしょ、他人様の家だもん」
「やっつけに来たんじゃないの?」
モリアン、何を物騒なコトを。
「やっつけないよ、だって誰も傷ついてないし迷惑もしてないでしょ?」
ギギギイイィィィ
両開きの金属製ドアが開いた。
人はいない、自動ドアかな?
「お邪魔しまーす」
「ようこそ、と言いたいところだが、何か用かね君たち」
薄暗い中に、背の高い黒いローブの男が立っていた。
「ええ、銅を金に替える魔物がこちらの建物へ転移したので、飼い主はどなたかと気になりまして」
ド直球で答えてやる、ここに時間を掛ける気はない。
「フフフフフフ ヒヒヒヒヒヒヒ」
変な笑い声だなー、この人。
「そうかそうか、アレは君たちの仕業だったか! ようこそ我が研究所へ!」
まだヒヒヒと笑い声が続いている……。
「なんか気味悪い」
「これって罠とかなんじゃ」
若い連中が怯えてるなー。
「今のトコ大丈夫だよ、あの人も話したいだろうからさ…………たぶん自慢話を」
にっこり笑顔で聞いてみる。
「ですよね、あれだけの珍しい魔物を創ったんですから。あ、自己紹介遅れました、俺はナミタローといいます」
「フヒヒヒヒ……その通り、良く判ったね。アレは私の作品だ! 素晴らしいだろう! 銅を金に替える……今まで誰も成し得なかった難度の錬金術を、わたしは魔物を創ることによって成し遂げたのだ! この世界で只一人、わたしだけの錬金術だ! フヒヒヒヒ、フハハハハハ!」
すんません、銅を金にするのは俺にもできます……。
それにしても……。
「魔物を創って錬金術なんて、そんなコト良く思いつきましたね。その発想は、なかなか出ないですよ」
「そうだろうそうだろう、そこらの凡人には思いつかん偉大な発想だよ! わたしだからこそ、出来た事だ!」
発想は賞賛に値すると思うよ、素直に。だけども……。
「ところで、本当にあなただけで創ったので?」
黒ローブの男が黙る。
師匠たちも研究してたから良く判る、あれだけの魔物を創るにはかなりの魔力が必要だ。
自身に魔力が無くとも魔力を持った何かで代用できるが、それは必ず完成品に痕跡が残る。
そして例の魔物には、それが無い。
さらに目の前の人物から、それだけの魔力を感じ取るコトができない。
つまり……。
「他にかなりの魔力を持った誰か、もしくは何かが存在するのでは?」
「わたしが指示したんだ、だからわたしの作品だよ。何か問題があるかね?」
少々機嫌を損ねたようだ。
「いいえ、確かにそれならあなたの作品と言えますね。もうひとつ質問よろしいですか?」
ホントはどうだかなー、と思ってるけどね。
黒ローブの男は、じっとこちらを見ていたが……。
「いいだろう、何かね?」
ふむ、許可が出た。
「どうしてわざわざ、こんな騒ぎにしたんです?」
「馬鹿どもに見せつける為だよ! 銅を金に替えるなど不可能だと、わたしの研究を無駄だとほざいた馬鹿どもにな!」
「あ、そりゃ確かにバカだわ」
つい素の声が出ちゃった、だって俺にもできるんだもの。
「そうだろう! だからわたしは考えたのさ、騒ぎを大きくして馬鹿どもに赤っ恥をかかせてやると! わたしの作品だと発表するのはその後さ! そうすれば大きな話題になる、大きな話題になれば広く知られる! それから奴らがわたしの研究を馬鹿にしていたことを公表するのだ! フヒヒヒヒヒ 奴らは錬金術の理論もろくに知らない愚か者共として名を残すのだよ! フハハハハハ フヒヒヒヒヒヒ」
なるほど……ちょっと歪んでる気もするけど、それはそれで良いんじゃね?
特に悪いコトとも思わんし。
「そうでしたか、上手くいくといいですね。それじゃそろそろお暇しますねー」
後ろ向いて出て行こうとすると、『自由の雲』の面々が驚いた顔をしてる。
「帰るんですか?」
「帰るよ、もう用事終わったし。あ、ナリアさんも何か聞きたいコトあった?」
「いいえ、そうではなく……その……事件は放置なんですか?」
「んー、放置でいいんじゃない? あの人の気持ちも解らんでもないし」
「まぁ確かに」
「あたしは魔物と戦ってみたかったなー」
「後でドラ吉と戦ってみるか? けっこう強いぞ」
「だったら戦ってみるかね? 戦闘用の魔物も創ってあるよ?」
「わーい!戦ってみたい!」
「モリアン、あんたはもう……」
「なんかすいません、うちのが……」
「ドラ吉くんと戦うなんて、僕には……僕には……」
戦うねぇ……。
「表に出たまえ、用意してあげよう」
ケルさんが静かに目を細めた。
………………
モリアンが張り切ってる。ふむ、この子は拳で戦う系なんだね。
「さぁこーい!」
「それでは、戦闘実験を始めよう」
黒ローブの男が両手を広げると闇が大きく広がり、その中からかなりの数の魔物が現れた。
「え? ちょっと多くない?」
モリアンが言うと
「多くはないだろう、君たちを一人残さず始末するのにはね。ほんの50体だが、楽しんでくれたまえ……死ぬまでの間をね!」
驚き、それでも戦う構えを見せる4人。ケルさんはまだ余裕だ。
「あー、心配しなくても言いふらしたりしないよ。だからこういうの止めない?」
戦っちゃうと、すぐ終わっちゃうし。
「だが始末したほうが安心だろう? さぁ、遠慮なく戦いたまえ」
「しょうがないなぁ……そうだ、どうする? 君らだけで戦う?」
『自由の雲』の4人に聞いてみた。
「無理です! すいません、手を貸して下さい!」
「お願いします!」
「一人じゃムリ!」
「ドラ吉くん! 助けて!」
……だそうだよ、ドラ吉くん。
「ケルさん、戦ります?」
「うーん、この程度じゃちと物足りねぇなぁ」
「そうですか。ほいじゃドラ吉、やっておしまい」
「ぴゅいーーー」
ドラ吉ブレス……それはドラ吉の口から放射される、聖属性の高収束レーザービームである。
その威力は聖属性魔法の聖属性光線の威力を大きく上回る。
なんて解説をしてる間に魔物が一掃されてしまった。
案の定すぐに終わったし……。
にしても、一匹くらい残しておいてあげなよ、ドラ吉。
まぁ、ケルさんが物足りない時点で、大した魔物じゃないから仕方無いんだろうけど。
「ほう、やるじゃねぇかドラ吉。今度俺とやってみるか?」
「ぴゅいー(面白い、年寄りの冷や水にならなきゃいいがな:ナミタロー訳)」
そこ、火花散らすなよ。
「うおあぁぁぁ! そんな馬鹿な! わたしの魔物が……わたしの魔物たちがこんなに簡単に! 馬鹿なぁぁぁ! 化け物めぇぇぇ!」
相手が悪かったね、つかウチの可愛いドラ吉に化け物とはなんだコラ。
「さて、どうすっかね。俺たちを始末しようとしたというコトは、他の誰かだと……」
「始末されちまってたかもな」
「ですねケルさん。こうなると放っておけなくなっちゃったなー」
とりあえずふん縛っておくか……しばらく放置して楽しみたかったのに……。
「まだだ! 出てこいオムゲゲス! お前ならこいつらを!」
その時、黒ローブの男の影が動き出した。
「ドラ吉、あれ」
逃げた影を指さす。
「ぴ」
バッ ジュッ
グギャアァァァァァ
ドラ吉ブレスが命中し黒い影が立体化していく、黒い人型の体、赤い目、赤い角が2本、手足の爪は黒く光沢があり……。
「ほう、悪魔とはな。あいつの影に潜んでいやがったか」
すぐさま腰の『聖剣バレクェンティン』を抜くと、一気にその剣気が膨らむ。
これが勇者ケルタニアン、魔将を退けし者だ。
あいつらも、いいモノ見せてもらえそうだな。
「助太刀って要ります?」
「いらんよ、相手は只の悪魔だ」
そう言うやいなや、勇者ケルタニアンは悪魔オムゲゲスに躍りかかっていた。
切りつけたかと思った瞬間、悪魔がその爪を飛ばし反撃する。
が、その爪はケルさんの体をすり抜ける。
……残像だ。
「悪いがその手は知ってるんでな」
上に飛んでいたケルさんが、聖剣を振りおろす。
避ける悪魔だが、避けきれず左の角が根元から斬り飛ばされた。
着地したケルさんが余裕な様子で、悠然と剣を構える。
「マぁ待て、オれを殺せばソこの人間もシぬぞ。イいのか?」
いいのか? と聞かれてもさ。
「悪魔と深く繋がり過ぎたんだなこいつ。どうする? ナミタロー、俺は殺っちまうのを勧める」
「逃がすとヤバかったりします?」
「まず間違いなく厄介事を引き起こすな。死人が出なけりゃおめでとうだ」
ふむ……。
「だったら個人的には殺るのに賛成ですね。あの人もこっちを殺そうとした相手だし、悪魔殺したらこの人も死ぬってのは、聞かなかった方向で」
「じゃあ殺っちまうか」
「ナんて奴らだ! ヒとでなしめ!」
「お前が言うな、つーか俺はちゃんと人間だしー」
なんて話をしている間にも、ケルさんが悪魔を追いこんでいる。
「せえい!」
掛け声とともに、ついに悪魔は胴薙ぎに真っ二つとなった。
まだピクピクしてるよ、生命力強いな。
それにしても……。
「この悪魔が魔物を作るための協力者だったわけか……結局どっちが利用してたんだろね」
独り言のつもりだったのだが……。
「ドちらもだよ、ワたしが奴を利用しヤつが私を利用する。ドちらも目的はハたせる」
「あの人の目的は解ったけど、お前の目的って何なんだ?」
「キまっている、コの世界を混乱サせるためだ。ソれが私のシめいだ、ワたしはその為にツくられた」
「作られた? 誰に?」
返事は無い……悪魔は既にただの屍になっていた。
くんくんくん
ドラ吉が匂いをかいでいる、何の?
俺もくんくん……煙?
「しまった、燃えてる!」
銅を金に替える魔物……それがいたはずの建物は、消火する間もなく炎に包まれてしまっていた。
…………
「全部燃えちゃったねー」
「魔物も死んじゃったみたいだね、残念」
「研究の資料もダメね、めぼしい物は燃えちゃったみたい」
「お宝になりそうな物もないよ」
自由の雲の4人が捜索したが、発見できたのは銅を金に替える魔物の焦げた死体だけであった。
全ては炎の中に消え去ったのだ。
「で、どうだナミタロー」
「ダメですねー、緑の霧の元がまだ体内に残ってるかと思ったんだけど、発生器官ごと焦げちゃってる。あとは残った部分を培養して、同じモノが作れるかどうかかな?」
「作れないんですか?」
「そうだね……ナリアさんは魔物を作る研究には詳しい?」
「いいえ、そっちは全然」
「魔物ってね、同じ個体を培養して作ろうとしても、変化しちゃうんだよ。スライムの進化を例にすると少しは解りやすいかな? スライムって分裂するでしょ? でも分裂したスライムの進化って、分裂後の環境で変わるよね? 培養個体も同じで、培養の状態によって個体自体がなぜか変化しちゃうんだよねー。一番ありがちなのが、派生個体が一般個体に戻っちゃう変化。元の部分はそのまま派生個体なんだけど、培養で増えた部分が元の一般個体として増えちゃうのさ。個体の発生環境なんかの詳しいデータがあれば、変化させないように調整可能だけど……」
「研究データが無いと同じ種にはならない、と?」
「難しいだろうね、あと生命体になるかどうかって問題もあるけど、今回の場合欲しいのは霧の成分だけだから、道具としての肉体さえ再生できればそこはどーでも良いだろうけど……」
ケルさんが生温かい目でこっちを見てる。
「何です?」
「いや、なんか研究とかの話になると良く喋るのは、あいつらそっくりだと思ってな」
「…………」
否定したくてもできない……
俺はガックリと肩を落としながら、ドラ吉に頭をポンポンされたのであった。
悪役って難しい…。




