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日常と非日常  作者: OGRE
2/11

火種はあの時、今燃ゆる

 出来事には原因があり、結果に結び付く。何が絡みどうなって行くのかは全くもって予知出来ない。……履歴となる足取りから予想は出来てもね。

 不思議なことは何も奇跡とか怪奇現象とかのように解明されていない物だけではない。いつでもどこでも現れるのだ。それは受け取る側において物時が普遍的で無い時に現れる。

 そんな訳で彼女、紅子が家に来た。

 制服姿でない彼女を見るのが新鮮で少し高揚している自分に驚いている。それ以上に妹達と来訪とすれ違う様に出立した母の歓迎ぶりといったらまぁ……。母も顔を見るためにいそいで帰って来たいと言っていた。とりあえず、いい予感はしない。

 体格差から紅子はまだ幼く見えてしまう。俺は亜人と言うだけあり180cm前後だし、妹達も165cm前後だ。そんな比較的、高身長な中学二年の2人に囲まれても150cm有るか無いかの紅子は小柄に見えてしまう。2人に囲まれた紅子は驚きながらも家の敷地の奥に位置する和装な建物へと連れ込まれていった。因みに今はあそこが俺の部屋と言う扱いである。


「え? どういう事?」

「ウチらが引っ越して来た時はよかったんだけどね。今じゃあ母屋だけだと狭くてさぁ」

「生活が馴染んで仕事が本格的になるに従って、居間やお母さんの仕事場と生活空間を作るだけで限界になってしまったんです」

「前からあった離に加えて敷地内に増設した建物に俺達が分かれてるんだ。だから、離れてはいるが部屋の扱いだな」


 現実には幼い頃は兄妹3人は同じ離だった。だが、成長に合わせて手狭になったのである。そのため母に願い出て年頃になりいろいろ有るだろう2人には新築の二階建てをあてがった。設備もそれ様に増やして貰ってある。そして、俺は1人で使うには少し広過ぎるが少し古いこの離に残る形にしたのだ。

 荷物をそんな俺の居室へ運んだ理由。それは母の使う母屋は基本的に泊まりがけの来客施設としては向いていないためだ。居間も会食、仕事の応接様に整えてあるし、妹達の居室は2人用に作られて居るため…結果的にまだ許容量のある俺の所な訳である。

 3日分の荷物を部屋に置き、休憩と思った思っていたのだが……。紅子が落ち着いたと知るや彼女を連れ回す妹達。目的としては紫神の作った衣装を着せる事や母が作るアクセサリなどの実験体らしい。正直に可愛らしいが……。いつも露出の少ない紅子、際どい物だと目のやり場に困る。とてもスタイル良かったんだな。


「お姉、超可愛いー!!」

「うん……。綺麗……『それに私の声に魅了されない……。でも、亜人じゃないみたいだし』」

「う、ウエディングドレス? なんでこんな所に?」

「母さんと紫神の合作だよ。仕事さ。布地の加工は主に紫神がして、宝石やガラスの加工は母さんが担当だな」

「えぇ?! 紫神ちゃんが作ったの!?」

「はい。そうですよ。姉さん」


 紫神が驚いている理由。察しは付くが今は伏せよう。

 それよりも恥ずかしそうな紅子から俺は目が離せない。ドレスも相応に目を引くしな。純白のドレスではなく、白に赤と言う大胆な色調構成。胸元が少し広く開いたデザインに腰が細めの紅子だと胸を主張してしまうのが原因らしい。それに母のデザインだけ有り、趣向が派手目なドレスだ。露出が広いな。

 素材が引き立てる部分は大きい。ただし、この作品は製作面でもかなり派手な物の使い方をしている。高価であり今は乱獲により姿を減らした宝石珊瑚をあしらったアクセサリや衣装など言葉にならない。衣装に使われている染物も紫神が長時間面倒を見続けて作り上げた代物だ。恐らく、母はこれを着せたかったのだろう。母の持つ能力は”神眼”。対象者における記憶領域などに侵入し、情報を引き出せる。相手には気づかれない点が恐ろしい……。


「……『これを着て、悠ちゃんの隣を、歩き、たいな』」


 俺の記憶から紅子の存在を知った母はすぐさま作りだしたのだろうな。そうでなければこんな手の込んだ作品は作らない。更に言えば売り物にするなら目を覆いたくなる様な金額となるだろう。だが、これの図面や様々なメモを確認しても売値が記されず、オーダーメイドが主体の母のはずなのに売約もついていない。それに色合いや趣味の関係から双子の妹達へ宛てたドレスでも無いだろうしな。


「すっごくピッタリ……」

「たまたまだろう」

『『いやいやいや………限度って物が』』

「そ、そうだよね」

『『この人も天然過ぎる……』』


 妹達の反応はよく解らないが、誤魔化せた? のか? 俺としてはバレても差し支えないが、囃し立てられた状態は気に食わない。そんなドレス姿の彼女を見ていると妹達に懇願され…白の燕尾服を着させられるハメになった。妹達は嬉しそうだが…俺からしたらあまりに羞恥を伴う。仏頂面が崩れたのが面白いのか2人はケータイのカメラで隣りに居る紅子とのツーショットの撮影を楽しんでいるようだ。

 少し時期が早かっただけだ。未来に…この光景が現れる。近い……近い未来だ。母さんも知らない俺の力なら見える。だが、断片が見えるだけなのだ。しかも確実ではない。体験から確率は高いようではあるが。

 紅子は俺の袖を掴み、いつもと異なる行動をする。確かに異性であるがスキンシップ的な接触は濃い子だ。それが羞恥が邪魔をするのか手を握ってきたり、腕を抱いたりなどの行為は未だしてこない。俺からするのは構わないが、この子のリアクションはかなりオーバーで…痛い痛い、強く握りすぎだぞ。っと、それが恥じらいと…恐らく嬉しさから上目で見つめて来るのだ。双子が施したメイクなども合わさりいつもより段違いに雰囲気が高まっている。妹達さえ居なければ……。


「この調子なら破局とか考えられないねぇ」

「というか、姉さんは兄さんにぞっこん? 兄さんも手放す気は無いみたいだし」

「ヒェッ!?」

「紅子、奇声を上げない。紫神と紫杏も期待をするのはかまわないがあまり年上をからかうな」

「ふぅぅ~」

「だってお姉可愛いんだもん」


 この子は本当に表情が豊かで可愛らしい。自分が表情に乏しい事は理解しているつもりだ。治す気も無ければ治らない自覚さえある。そんな俺だからこの子に惹かれた。人は自らにない物を切望する。人でなくとも俺達とて人の中に生きる以上感情は人に近似するはずだ。

 撮影会の後は赤面し、俺の背に隠れるようにして2人の妹達から逃げている。……俺にも限界があるのだよ? 紅子さん? 下の妹である紫杏に追いたてられ逃げ場を無くした紅子は俺の腕を抱き込み、脇腹へ顔を埋めるように表情を隠している。お構い無しに激写する下の妹の紫神……。


「さ、最初がこれはハード過ぎるよぉ」

「2人とも紅子を気に入ってるんだよ。人を玩具にするのは彼女等の悪い癖だが」

「……『悠ちゃんの部屋、悠ちゃんの臭い。落ち着く』」

「どうした、紅子?」

「あっ! うっ、うん! ごめん。家は洋室だからなんか新鮮で」


 箍が外れかけている。

 ……そう感じるのだ。制服の彼女は少しサイズの大きな物を着ている印象だった為にそこまで彼女の体つきに目を向けなかった。しかし、今は先程の追い込まれた彼女が警戒からか俺の腕を抱いたまま隣に座っている構図だ。この子はそう言う意味で少し常識が緩い。それとも意図的にしているのか。

 そんな事はどうでも良く、離から出て家の内部を案内した。トイレ、洗面所、簡易的なシャワーは離にも増設したからある。しかし、しっかりとした風呂はない。新築の双子用に用意された新築にはあるがね。だから、紅子と俺は母屋の設備と離の設備を使わねばならない。加えて家族で食事を作り、取るための部屋も主屋にある。その説明をした後に母屋の後ろ手にある別棟に紅子が目を向けた。

 ここは皆の工房。メインは母の物だが割と稼いでいる紫神も割合広いスペースを使っている。俺の加工品は小さいものが多い事からそれ程スペースを取らない。紫杏は野放図な製作をするために計画性を持たせるためか。母にスペースを制限されている。俺もそう言う意味ではクラフトマンだ。基本は金工やガラスを細工、宝石のカットなど母と被るが母はアクセサリーを作るための加工も仕事として行う。俺はどちらかと言えば小物や金属鋳造などによる造形物の作成、または金属製のフィギュアやモデルガン、精密機械の組み上げ、修理が主になる。


「悠ちゃんも作ってたんだ」

「意外か?」

「え? えと…ちょっとだけ寂しいかな? まだまだ僕の知らない悠ちゃんが居るのは」

「そうか、悪かったな。隠してた訳じゃないし、時間が流れれば露見してくるから言わなくても良いと思ったんだ」

「うん、嬉しくもあるよ? また1つ悠ちゃんの事がわかったから」


 不意に飛びだすこんな発言によく動揺させられる。ここ最近こんな事ばかりだ。この子の挙動は変化が大きい。俺は羨ましいのさ。物心ついた時に未来視による予知が可能な俺は詰まらない私生活に飽き飽きしてきていた。そんな俺の毎日を大きく変えたのが俺の真横で調理をしている女の子である。この子の変化には驚かされたし、最初は”同類”なのか? とも考えた。しかし、紅子にはそれらしい過去や未来はどこにも見当たらず、人間的にも周囲とは大きく異なっていたのだ。

 紅一点とは普通ならば多くの男性の中に1人ないし2人の女性と言う感覚の意味合いだ。間違った使い方ではあるが…人間、亜人を引っ括めても紅子はその一点になりうる程周囲より輝いていた。

 俺の主観だけの問題かもしれない。しかし、俺の目には先程から述べているように彼女はより輝いて見えたのだ。


「ん~~~!!!! お姉料理上手!!」

「そ、そうかなぁ」


 手際もその他に見れる立ち振る舞いにしても妹達には悪いが彼女には遠く及ばない。美味いものを食べると途端に無口になる紫神と対照的な五月蝿い紫杏。2人とも紅子の料理を絶賛している。確かに美味い。レパートリーも豊富で後片付けを減らすための並列行程などやり方を解っていないと出来ないものだ。父子家庭であるために彼女は家事の一切を請け負っている。だが、それにしても手が込んでいる気がする。俺としては美味ければなんでも構わないし、紅子の料理なら何でも構わない訳だが。

 妹達の大絶賛に頬を赤らめながらこちらを気にしてきている紅子。母は心を見る事が出来る。俺はそういった能力を持たないが今の紅子の心情はよく解っていた。どうやら紅子の標的は俺だけらしい。俺からまだ感想を貰っていない彼女はソワソワして落ち着かない様子だ。


「美味いな。味付けもかなり好みだし」


 嬉しいの次に恥ずかしいが来たのだろうな。紅子は少々俯いた後に自分も箸を握り食べ始めた。期待してはいたのだろうが、いざ聞いてみると恥ずかしかったようだ。紅子はこの様な感情的な起伏が大きく、見ていて飽きない。その俺の反応に妹達が目を丸くする。確かにいつもの自分と今の自分は大きく異なるだろう。2人ともそれを目の当たりにし、どう思ったのだろうか。

 まさか朝から来るとは思って居なかったため、実はすることがない。家にはあまり娯楽的な物は少ないのだ。無いことは無いのだが……。そんなタイミングで紫神は思い出したように席を立ち、工房の1画へ。彼女は仕事を請け負っている。明確には母の作る作品の布部分に関する加工を1部しているのだ。そのため、出品者、製作者は母の扱いになるが確りとアシスタントとして名前を売っている。それだけの腕があの子にはあるのだ。実用的なら分野だけあり需要も比較的高いしな。


「ホントに上手、今度時間のある時に僕にも教えてよ」

「うん。姉さんなら器用そうだし。時間のある時に私が教えに行く……『姉さん、僕っ娘なんだ』」

「え! 僕が来るからいいのに」

「兄さんから聞いたよ。姉さんの家、高校と家の通過点。わざわざ来てもらう事ないよ。駅近いし、私が行ったら姉さんも家事の時間減らさなくて済む」


 確実に姉にする気だ。

 紅子は俺の胃袋を掴みに、紫神は紅子の心を鷲掴みに……って感じか。蚊帳の外感のある紫杏も製作終盤らしいオブジェの仕上げをしていた。この子は実用目は小さいが器や彫像など嗜好性の高い品を作る。金額だけならばこの子は簡単に母の稼ぎを超える額を既にたたき出した程なのだ。

 ただし、母の意向で作品は有名だが、作者は名前を伏せてプロフィールも完全に伏せた。彼女が成人してから責任を持てるまでの間はそうするらしい。

 紅子には良さが良く分からないらしいが器は気に入っていた。……その器は売約がついていて、100,000,000近い額を払ったもの好きも居るのだよ。紅子は一瞬青ざめてからゆっくりと器をもどして俺のスペースに目を向けた。俺は母と被る部分が大きく、大っぴらには活動していない。それに俺はあらゆる材料を扱い小物を作っているのだ。まぁ、高価な材料は銀やたまに宝石を扱うくらいだが。


「紫杏ちゃんも紫神ちゃんも悠ちゃんも凄い」


 この時の彼女に俺達は3人共時間を奪われた。思えば、俺は彼女の見た目が変わろうと服装が変わろうと気にならず、彼女を単に幸せにしたいとだけ考えていた。それは彼女が最初にした『笑顔』に惹かれたからだ。彼女が笑顔を崩さぬように俺は幸せな道に導かなくてはならない。彼女が幸せなら俺も幸せなんだから。

 物事の開基なんてのは意外と曖昧だ。開基にもきっかけがあったり、それを引っ張ってくる理由がある。だから、物事の理由は様々。受け取り方で違うのだ。より良い未来を変え見据える事で様々な原因から新しい結果が生まれると…俺は思う。

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