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日常と非日常  作者: OGRE
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閃雷の兆し

 思い入れや様々なできごとは何かを軸に起きる。形…世界、どんな物、いや者にもそれを取り巻く形で紡がれる。縁と同じだ。次は面ではなく立体になって球としてゆく。美しい形である必要はない。それが俺を形作る礎になる。それだけの事さ。


「悠ちゃんはこういう仕事が多いの?」

「どちらかというなら修理屋だな。手工芸とか機械とか…いろいろやる。一番多いのは農具や道具の修理で次はネットでのクラフトショップにある色々な玩具の修理や改造が多いな」


 紅子の要望も強くあった事から互いに探り合うような状態から見せ合う形へと変化させつつある。先程も語ったように俺は農具に限らず道具の"修理"や"手入れ"、"再利用"をメインの仕事とし、場合によっては機械製品を法定規格内での精度調整、旧型製品でオーバースペックの物を現行の法定規格内へ調整などもする。要望さえあればいろいろと仕事は請け負う。だが極めて特殊な操作や特定危険物など、一般では取りにくい資格が必要な物に関しては、おおっぴらにはできないことも勿論ある。

 俺の仕事事情はさておきだな。何故こんな無駄に細かい説明をしたかと言うなら仕事が身近にあったからだ。今日の依頼人は紅子と母。実は紅子は左利き。家には左利きがいないため、使っている道具類は右利き用の道具ばかりだ。一部の道具、ハサミや包丁等には利き手により使えないものもある。紅子はこれまで右手でこなしてきていたのだ。調理中に母がそれに気づきいろいろ揃えてくれた。

 そして落とし穴がもう1つ。手入れができ、切れ味や使い易さを気にする人間からすると購入の直後の包丁や刃物は切れ味が悪い。家の家族は俺がこまめに手入れする道具を使っている。紅子も数日だが調理包丁の切れ味にかなり差がある事に気づいてしまったらしく頼まれた。他にも細かい要望を聞くために俺が動いたのだ。


「すっごーぃ!! 切れ味が全然違う!!」

「そりゃ兄ぃは本職だし。うちらが使う道具も兄ぃが全部手入れしてくれてるんだよぉ」


 時間があれば紅子の手に合わせた包丁を打ち出すのだが……。それだと時間がかかりすぎる。それならば既製品に手を加えた方がいいのだ。俺の工房が比較的小規模であるのは俺が手がける物が小さい物であったり、必ずしも工房内で手入れするとは限らないからだ。黒い話をするならば実は……違法な物も手がけていない訳では無い。売り出したりはしていないが……同族には需要があるのだ。

 包丁の手入れのお礼と言うことで、今日は美しい手つきでの解体ショーを見ながら新鮮な魚の刺身を食べる事となった。パフォーマンスまで入れての……はしゃぎ回る紅子。彼女の気持ちを汲み上げ、俺の気持ちとより合わせる。この態度がとても嬉しかったらしい。あの夜以来、紅子は遠慮なくボディタッチをしてくる。これまではただただ恥ずかしがるだけだったのだ。それがどうだ蓋を開ければ、あの子は恥ずかしがりはしてももう拒んだり逃げたりもしない。

 基本的に早寝早起きらしい紅子。昨日もできる限り起きては居たようだが結局寝落ちしていたしな。それにも関わらず毎晩している復習にしても勉強嫌いの癖に自分からしたいと求めてくるようになった。……が俺にもしなくちゃならない事はある。今日はその同族絡みの仕事。環さん経由でたまにくる高額な依頼だ。俺の主収入源がこの辺りになる。


「悠ちゃんは勉強しなくていいの?」

「ん? 俺は赤点なんてありえないからな。紅子は自分の心配だけしときな」

「ひ、ひどいよー…。でも、悠ちゃんってとっても頭いいよね」

「一応は首席だしな」

「んぇ? 1番?」


 紅子が俺のノートを見ながら復習している。その横で環さんの裏の顔を支える為の特殊な道具を手入れしているのだ。母や俺にもあるにはあるが俺達のように部族からのはみ出し者はそのような絡みが無いから手入れしかしていないが。

 解らない所がある時は優先的に紅子の方へ集中。それ以外の時は環さんが使う爆裂機構付きの薙刀の手入れをしている。環さんは……現在の我が一族の頭取。それだから母は自由にやれていると言っても過言でない。それは俺や紫神、紫杏にも言える。……この話はさておき、これからは紅子を守る為の力を持たなくてはならない。

 ……全くこの娘は。俺の手元が気になり勉強の方に集中できていない。今日ぐらいはいいか。紅子と雑談しながら俺達の現状を話している。紅子にも何らかの武器を渡しておかなければならないな。母が部族を離れたのにも理由がある。大きくは父の事だが……最近は俺に関わることだ。母は俺に教えてくれた。父が持ち、俺が受け継いだ。その俺を守るためだ。まぁ、今は平和だからな。


「にひひ…えへへぇ」

「紅子……」

「んぅ? なぁに~?」

「あまり俺を煽ると大変だぞ?」

「いいよ。僕はいつでも。……悠ちゃんなら」

「……計画性を持ってくれないとこの先困るんだが?」

「むぅ……」


 俺がどれだけ頭で考えた所でこの娘はなんでも覆してくれる。入学式の日……この娘の暴投から始まったんだ。彼女が突っかかって来るから。


『ねぇ!! 城井君!!』

『? あぁ、ボールの子』

『べ……』

『べ?』

『勉強を教えてください!!』


 一年時二学期中間テスト直前だった……。

 一学期末テストで紅子は壊滅的な得点をたたき出していた。授業を聞いていたら普通ならあんな凄惨な結果にはならない。……はずだろう。

 その時期はショートカットでボーイッシュだった紅子は季節を追うごとに俺への視線に艶を強めた。髪も伸ばしたんだろう。可愛らしい女の子から綺麗な女性に……なっていったよ。時間が過ぎ、新しい春が巡る頃、あの木の前で紅子に告白されて付き合うに至る。その紅子が今、隣で寄り添いながらウトウトしているのだ。微睡みはじめ眠いらしい。頬をつつくと身動ぎし小さく嫌がるような反応をしている。幼児のような愛らしさ…、だが体つきは十分に女性なのだ。妹達が言うように確かに俺はギャップ萌えかもしれない。小さく可愛らしい掌だが、家事をしてきていただけあり逞しく、童顔の癖に…やたらと発育はいいのだ。こいつ、体を擦り付けてわざと誘ってやがる。


「ゆ~ちゃ~ん。唇にチュー……」

「はぁ、解った。それで今日は寝よう」

「……」

「机片すぞ」


 彼女の感情や体調の変化で彼女の能力が現れる事が解ってきた。彼女自身が解らない間は彼女の能力を見られる範囲で考察し、一般の中では発動させないようにセーブさせなければならない。昨今、裏の世界は表の世界程平和ではないからな。弱い力である内は強い力で守らねばならないのだ。紅子を護るのは俺。その為にはなりふり構わず闘う覚悟さえある。もっとも俺だけではどうにもならない節があるから母や紫神、紫杏にも力を貸してもらうがな。

 座卓を片し、布団を用意する。……最近では布団を2組敷いても紅子が俺の布団に入って来てしまう。この事から1組分しか用意しない日さえ出てきてしまった。それだけあの夜の俺がした告白はこの紅子には大きな事だったのだ。確かにビビりで思案屋な紅子には彼女が1人で抱えていた部分が大きな重荷になっていただろう。それをタイプは違えど『未確認生物(イレギュラー)』同士で共有できたのだから。


「電気……紅子の力? 違う。おそらくもっと根本に何かがある」


 朝は2人で一緒に登校するが当然いつも一緒な訳では無い。俺も幅は狭いが友人は居るし、紅子は人気者だからな。暖かな春から既に暑さが際立ち始めた今、そろそろ雨が降り出す季節だ。冬服では熱を集めてしまい眠くて仕方がない。……紅子が復習に使うからノートは取らなくちゃならないが。

 そんな時、紅子が俺の横に来る。いつもならこんなタイミングでは来ないはずなんだが。まぁ、たまには違う事もあるか。

 少し後ろ側から紅子は耳打ちする様に言葉を残す。あれ以来、急激に積極的になった紅子。違和感が無いわけではないが俺にもそれは当てはまるため強くは出ず、今はそれに合わせる。紅子の体の周りに弱い電流が流れているのだ。この反応は以前の夜にあったような激しいものでは無いが……。まだまだ解らない事ばかりで俺も対処のしようがない。だが、わかり始めた事もある。


「ねぇ、悠ちゃん。お昼一緒に食べたい」

「構わないよ。屋上?」

「うん」


 紅子は高揚したり不安が加速したりするなど、彼女の気持ちが急激な変化に見舞われた時に電気を放出している。ただ、発光色が問題だ。紅い。彼女の名前の通りで紅い光。バチバチと飛び交う電気。俺じゃなかったら悲鳴物の痛みだよ。最近の勉強から夜更かししていたため紅子は寝不足気味らしい。飯を食べ終えた後、俺が抱き込む形で眠ってしまっている。その間も放電は続いている。……何もしてなけりゃただの美少女で終わりなんだがな。

 紅子は"超"の付くアホだ。

 単に受け入れる体勢が出来上がって居ないから素直に受け入れられないのだろう。勉強や人間関係はそれが顕著だ。交友関係も何を恐れているのかは解らなかった。初対面には異常な程の人見知りと怯えが見られたし、拒否や否定、防御の方法を知らないと言った感じかな。

 対して一度彼女の身内になれば彼女は遠慮しない。心を許した人物には尻尾を……。いや、犬ではないんだが。そんな感じだな。だが、彼女自身が遠慮なく要望や希望、意見を向ける事。それが彼女の防衛線の1つ目を抜けたと言う指標と俺は判断した。今回の……この娘の第二段階を引き出す為の策謀が吉と出るのか凶と出るのか。今のこの子は弄り回さない方がいい。嫌な予感がする。


「紅子、予鈴だ」

「んむぅ……あと、ごふ…ん」

「5分寝たら数学の教科担任に指名されまくるぞ?」

「ひゃいっ!! 起きます!!」

「ははは、それじゃ、教室の近くまでは運んでやろうか?」

「!? 意地悪……」


 彼女が周囲へ見せている防御がおそらく彼女自身の防御だ。

 紅子は感情により自身の力を制御しているはずだと思う。断定はできないが…紅子が放電するのには条件がある。

 1つ。紅子の近くに俺がいる時。

 2つ。紅子の気持ちが前向きに向いている時。

 3つ。彼女が心を完全に開いていない人物が居ない場合。

 これだけの条件が無ければ紅子は力が漏れ出るような状態になりえない様なのだ。家の中や学内でいろいろ見てみたがこの条件は崩れない。それにこの状態は彼女が力をコントロールできている訳では無いのだ。先程も言ったが俺はあくまで『漏れ出ている』と見ている。嬉しくて、楽しくて……彼女の心にある栓が緩んでいるんだろう。誰にでもあるだろう? 心の安らぎから来る油断がな。


「ねぇ、悠ちゃん」

「ん? な……」

「僕の"悪魔"を……抑え…てぇ!!」


 紅子の体は……物理法則を無視し、渡り廊下を飛び上がって屋上を跳ね上がった。いきなりしゃがみ込んだと思えば何が起きたのか……。俺にもよく解らなかった。だが、そんな事を言っても仕方がない。現状彼女を止められるのは俺だけだ。いつも眠らせている力を解放し、代謝を上げて彼女を追尾する。なんの力? どんな力? 解らない。だが、とにかくしなくちゃならない事は……。街を破壊するようなレベルの暴走をさせない事ようにしなくては。

 深紅の光は俺をおちょくるように俺へ向けて何かを飛ばしてくる。当たる事は無いが当たれば俺でも無傷じゃ済まないな。紅い光は物体と接触すると破裂する様に小規模な爆発をうむ。ただ、単なる爆発とも言い難い。爆発の中心部には何かが刺さったような痕跡があるのだ。そして、紅子は少し山間に入った送電線の鉄塔付近で止まる。天辺に立ち、俺が何かをするのを待っているかのようだ。


「悠染君…って言うのね。紅子の大好きな彼」

「『お母さん止めて!!』」

「……大丈夫。私程度を止められないなら彼はその程度って言うことよ。紅子。だから、お母さんに任せて少し寝ていなさい」

「『止めて!! いくら普通じゃなくてもこの力は!!』」

「そうね。悪魔、魔女、女神。時や人により呼び方や見方は違う。私達、色の女。彼が受け入れられる(ひと)なら……大丈夫」


 これまでにない強い発光。紅さが際立ち、かなり距離があるはずなのだがくっきり見える。俺の体に密着していた時は静電気程度のものだった。今は雷が紅子を中心に走る。左手を……こちらに向けてる?


「貴方が紅子(ムスメ)に相応しいか。見せてください。紅波超電磁砲(ブラッディ・レールガン)……フフッ」

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