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儀式

大変お待たせしました。

 

 溶けてしまいそうなほど熱苦しい道を歩くヤヨイ達は、汗を拭いながら辺りに仕掛けが無いか細心の注意を払っている。


「道はあるのに、何も見えてこないな」


「第二階層と違って、自然の通路には限界があるよ。それに、一本道だしね」


 この火山岩でできた道には、分かれ道が一切なかった。迷路を一から作り上げるならまだしも、溶岩の上に道を作るのは容易ではないからだろう。

 しかし、全てが自然というわけではないらしい。

 崖のように不規則に崩れている両端はともかく、道の中心には、上で見たような細い溝がまるで血管のように至る所に延びている。つい先程までヤヨイはそこから何かを感じ取っていたが、それも既に消えていた。


「二人とも」


 それが何か考察しつつ歩くヤヨイに、後から声がかけられた。声音からして敵が迫ってくるというわけでもないようだが、すぐに振り向くと。


「アキラ?」


 シグレの隣にいたはずのアキラが、少し離れたところに立っていた。というより、道の端──足を滑らせれば落ちてしまいそうな位置にいる。


「何か、気配を感じる」


 覗き込むように姿勢を低くした彼女は、近づいた二人を見ずに言った。

 だが、ヤヨイ達も覗き込んでみるものの、何も感じない。魔力の反応も、何か生き物が潜んでいる気配すら無いのだ。

 気のせいか。それとも、彼女の第六感か何かか。


「あまり近づくな」


 何故か悲しそうに見つめる彼女がいい加減なことを言わないのはよく分かっている。それに、警戒して損は無いだろう。

 確認を取って先に進もうとして、今度は何かの足跡が聞こえてくる。魔物のような重々しいものではない。どちらかといえば先程まで何度も遭遇した死人と同じものだが、その足取りはしっかりとしていた。


「さっきのヤツらとは違うな」


 現れたのは、ほとんど汚れてもいないローブを着た集団だった。

 先頭に立つ一人が、低い声で短く言う。


「何者だ」


「……冒険者だ。このダンジョンの探索に来た。お前達は──答える気は無いか」


 声からしてその人物は男とわかるが、彼らはどう見ても友好的ではない。鋭い視線を浴びながら、ヤヨイは肩を竦めた。

 威圧的な彼らは、武器を構えるアキラを見るなりそれぞれローブの下から武器を取り出す。


「ここから先へ通すわけにはいかない」


 しかし、それはどう見てもほとんど無力なものだった。槌や短剣、人によってはピッケルなど、せいぜい護身用に持ち合わせたものだろう。少なくとも彼らは、元々は戦う意志を持っていなかったはずだ。


「何故だ、この先に何がある?」


「それを話す義理はない」


彼らが強く言葉を発した瞬間、アキラは静かにこちらを振り返った。


「どういうつもりか知らないが、仕掛けてくる気だぞ」


 それでも戦わない気か、とアキラは剣先を彼らに向けて言う。

 確かにそのとおりだった。冒険者を、それもここまであらゆる魔物を倒しのけてきた人を、相手に出来るのだろうか。

 けれど、それでも彼らは戦う気だ。なら、こちらもある程度の対応は必要だろう。

 ヤヨイも魔法を準備し、アキラは剣を構えたまま息をゆっくりと吐く。

 その時だった。殺気を放ち始めた彼女の隣を、ちょこちょこと影が通り過ぎて行った。


「ヒカゲ!」


 まるで知人に近づくような足取りで、ささっと彼は謎の集団の、リーダーらしき男の目の前まで近づいた。


「君、前に僕と会ったことあるよね?」


「え?」


 ヒカゲの口から出た突然の質問に、ヤヨイは思わず聞き返していた。

 何も答えないローブの男を、それでもヒカゲは静かに見つめて言う。


「確か、ここの攻略が決まる前、師匠と一緒に伺ったはずだよ。この地で栄えていた文明の生き残り────その子孫として、話を聞くために」


 師匠という単語に興味が向くが、彼の説明にはそれ以上のものがあった。

 この場所に古代、文明が栄えていたのは前から聞いている。だが、その子孫が未だに生きていることと、彼らが張本人であるという事実にヤヨイの関心は向いていた。


「話してみてよ」


 ヒカゲはあっけらかんと、何でもないことのように、そんな提案をする。


「理由次第で、僕らはここを立ち去ろう」


 その言葉に、おそらく嘘は込められていないのだろう。ここにいる彼らが誰かに対し悪事を働くやからでない限りは、宣言通り立ち去るに違いない。

 ヤヨイとしても、ここまで来てと思わなくもないが、彼らが情報を提供してくれるならそれでもいいと思えた。


 今しばらく黙り続けたローブの男は、フードに指をかけて素顔を明かした。

 髭を生やした屈強な男は、ヒカゲから視線を逸らして小さく呟く。


「……儀式のためだ」


 彼が告白したことで、仲間たちも避けられないと分かったのだろう。

 次々と顔を明かし、口々に事情を述べ始めた。


「魔物が増え、俺たちは故郷を追われた。だが、神獣を呼び出し祈りを捧げれば、きっと道を切り開いてくださる」


「そんな都合のいい話があるっていうのか?」


「あるとも。現に私たちは日に一度、ここで儀式を執り行っている。もう時期、呼び起こすことができるんだ」


 張り詰めた表情に、嘘の色は見られなかった。

 聞くところによると、数週間前からここで毎日儀式を行っていたらしい。

 魔法陣を描き、ただ祈りを捧げる。ただそれだけの行程ではあるが、少しずつ洞窟内は変化しているらしい。

 彼ら曰く、数日前まで溶岩は存在せず、ここはただの冷え切った洞窟だったそうだ。それを信じるのなら、ここに何かしらの変化が起きているのは確かな事実と言えるだろう。


「確かに、神獣は意思を持つ存在だと聞いたことはある。それを信仰している彼らがあると言うなら、その可能性もあるだろう」


 神獣の生息についてヤヨイは知識を持っていない。

 あらかじめ頭に入れていたヒカゲは分かるようだが、口ぶりからするにまだ謎は多いようだった。

 しかし、それ以上の謎が残っている。


「でも、魔物がそれを許さないはずだ。ここは下層なんだから、魔物も多く、そして強くなってる。それに日に一度なんて、ここは王都からも離れてるし、不可能だよ」


「そうだ。だから、私が通した」


 それこそ、なんの前触れもなく、その声は洞窟に響いてきた。いつからそこにいたのか。

 ヤヨイ達の背後に突如姿を現した女性は、警戒する四人とは対照的に落ち着き払っている。


「また会えて嬉しいぞ、少年」


 優雅に微笑むアイセラは、ヒカゲの目を見つめてそう言った。


まだ忙しく書けていないので、水曜日の投稿は休みます。楽しみにしてくださっている読者の皆様、本当にすみません。

木曜日に一区切りがつくので、次の土日に連続投稿します。どうかよろしくお願いします!


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