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攻略

お待たせしました。

 

 高いもので二十メートルを超える針葉樹が立ち並ぶ山の中、木の根が走り、苔生した岩が転がる道無き道をヤヨイ達は歩いていた。

 熊や猪などの形をした魔物が木々の間に何度か見えたが、魔法で身を隠して避けるか、先導するアキラが一撃入れればそれで済んでしまった。ウォーミングアップでさらに強い魔物を相手にしていたのだから、当然とも言える。

 しかし、油断が出来る相手ではない。現に魔物の数は森よりも圧倒的に高く、とても野営ができる状態ではなかった。

 ヤヨイは新鮮な空気を体に取り込みながら、ふと思った。魔力の濃度が高く感じられるのだ。魔物は魔力を取り込むことで成長する。この事実と魔物の出現率は無関係ではないだろう。


(この分だと、遺跡の魔物はあれらと同等か)


 山道に入って三時間ほど経った頃合だった。突然木々が途切れ、その先に石組みのアーチが視界に入る。


「ここが入り口だ」


 この先が、彼らの戦場。未だに制覇できない古代遺跡の迷宮だ。

 皆で無言で頷きあい、彼らは再び進み始めた。

 アーチを潜り抜けた先には大穴があり、それがしばらく続いていた。暗いが洞窟といえるほどの広さは無く、小さく見える出口には光が差している。

 それを潜り抜けた先には、思わず息を呑む光景があった。


「話の通り、空があるんだな」


 天井までの高さはおよそ数十メートル。そんな広大な空間を見下ろせる位置に、ヤヨイ達は立っていた。石造りの廃墟は森に覆われて一種の神殿を作り上げ、天井からの光がそれを照らしている。

 そう。外と変わらない光量が、空から降り注いでいるのだ。


 古代の魔術師達の技術力は現代と比べても遜色ないものだ。良い意味で変わったことは魔法の普及率くらいだろう。そして悪い意味での変化は、いくつかの技術が埋もれて消えてしまったことだ。

 この空も、そしてヤヨイの支配魔法もそれに当たる。

 空間が捻じ曲がっているのか、ただ投影されているだけなのかは分からない。だがそこに、確かな外の景色があった。


 遠くから響いてくる動物の鳴き声で思い出した。ここは迷宮。魔力濃度も明らかに外より高い。今は魔物達に占領された、人の命を脅かす危険地帯だ。

 景色に浸るのは、謎を解き明かしてからでいい。


「行こう」


 ヤヨイの声に、シグレ、ヒカゲ、そしてアキラは笑みを浮かべながら頷いた。



❄︎



 振り下ろされた巨大な狼の爪が、紫紺に輝く盾とぶつかり合う。

 支配魔法を元に造られた闇属性の魔力の盾だ。どっな物質にも勝る絶対優先度の闇は、何者にも貫くことができない。それが分かるのか分からないのか、魔物は執拗に術者であるヤヨイを狙い続ける。

 だが、正直辛いのも事実だった。

 強い魔法であればあるほど、消耗は激しいものだ。闇属性や光属性の魔法は生成とその維持が難しい。本来ならアキラが盾役を務めるのだが、彼女は今別の脅威に対応していた。

 戦えるのは、後衛であるシグレを守れるのは今のところ彼だけだ。


「っ!」


 盾に魔力を注ぎ込みながら、彼は数日前の作戦会議を思い出していた。




 テーブル席で羊皮紙を睨むヒカゲが、指を二本立てながら説明を始める。


『僕らがこの迷宮を踏破できなかった理由は二つ。まず、純粋に戦力不足であること』


 彼の話では、遺跡の魔物は基本的に群れることはないが、量が多いらしい。それでもこちらは少数。それが二体三体現れれば対応が遅れるのは確かだ。

 しかし、これはヤヨイとシグレが加わったことによりある程度解決している。


『そして次に、迷宮内に施された魔術の仕掛けが解けないことなんだ』


 彼らは未だ、広大とはいえこの迷宮の第一層さえ攻略できていないらしい。

 古代の文献によれば彼らが探索した場所には地下に何層もの空間が連接し、どうにかして先へと進めるという。


『重要なのは後の方だけど、戦力も足りるかどうかわからない。だから、可能な限り安全に、消耗を抑えて進もう』




「って言っても、なぁ!」


 ヤヨイは盾を思い切り押し出した。

 爪を弾き、盾は狼の顎に直撃した。上を向く狼の視線を追うようにヤヨイは飛び上がり、盾を作り替えて生み出した刀で首を斬り落とした。

 強化魔法による肉体強化は、シグレの治癒魔法により負荷を感じずに使い続けられる。


(次は)


 空中から次の敵を探すと、蛇竜じゃりゅうが通路を曲がって来ているのが見えた。

 ヤヨイは着地と同時に走り出す。

 蛇竜は近づいてきた獲物に向けて炎を放ってきたが、彼は支配魔法で魔法の指向性を書き換え爆散させた。


「効かねぇよ」


 巨大な花火に隠れるようにして、壁へと着地。そのまま回転をかけながら首目掛けて刀を振るった。


「次だ」


 視界の端でシグレの安全を確認しつつ、再び魔物の気配を探る。前は二人が抑えているため後ろに注意していたヤヨイだが、そんな彼の耳に大声が届てきた。


「失敗だ!」


 それは前線を担っていたアキラの声だ。続いて、どしどしと地鳴らしが響いてくる。

 慌てて振り向けば、背後に多数の魔物を引き連れたアキラとヒカゲ二人に向けて合図を送っていた。

 逃げろ、と。

 誰だって言われなくてもそうするだろう。今倒した蛇やら狼やら、この大自然の中豊かな魔力で育った魔物達が獲物を見つけたような瞳でこちらに向けて駆けてきているのだから。


「走れ!」


 先を歩くヤヨイが撤退を妨げる魔物を斬り捨てて行くが、徐々にアキラ達もそれに追いつく。ヒカゲが魔法で微力ながら足止めをしているので、まだ余裕があった。


 そもそもどうしてこうなったのかと言えば、探索を始めてすぐに遭遇した魔物が原因だった。

 シグレに向けて突然上から飛びかかってきた巨大な蝙蝠こうもり型の魔物は、すぐに他の三人の手で倒されたものの、その魔法が発動してしまったのだ。対処する暇もなく、その振動系の魔法は遺跡中に爆音を轟かせた。そうなれば、どうなるかは目に見えている。

 ヒカゲとアキラは四人に向けて一斉に集まってきた魔物への対処に専念していた。瓦礫や魔法で通路を塞ぎ、前方からの脅威を失くそうとしたのだ。しかしそれも間に合わず、こうして魔物に追われている。

 だが、もうあまり時間もない。

 ヤヨイは今日一番であろう不運に心の中で悪態をつきながら走っていた。が、魔力感知に微弱な反応を捉え、止まる。

 突然立ち止まったヤヨイに驚きながらも、ヒカゲは彼に問いかけた。


「ヤヨイ?」


「あながち、そうでもないみたいだぞ」


「え?」


 シグレも聞き返してくるが、答えている時間も惜しい。

 ヤヨイは全神経を集中させ、辺りから違和感の元凶を探し出す。すると、壁に立つ柱と柱の妙な距離感に気がついた。


「アキラ、ここだ!この瓦礫をどかしてくれ!」


「任せろ」


 アキラの持つ魔剣が一瞬で白い光に包まれる。

 次の瞬間、爆音と土煙が上がった。






 幸運にも発見できた地下室の中で、ヤヨイ達は息を切らしていた。


「少し、休憩を取ろうか」


 そう言って、安全なその部屋で休息を取ることにした。

 部屋の中央で円形に座り、話し合う。ヒカゲの話によると、どうやらこういった隠し部屋は初めて見るらしい。この広い空間の奥には古代遺跡にありそうな石版やらが置いてある倉庫があったようだが、そこにもそれらしいものは何もなかったそうだ。


 となると、この部屋こそ彼らが探し求めていた場所なのかもしれない。そう思い、四人は休憩もそこそこに探索を始めた。

 しかし、元々部屋には何一つものが置かれていない。あるとすれば、ここを見つけるに至った魔力反応だけで、それはこの部屋一体から感じ取れている。


「ん?」


 ヤヨイはあることに気がついた。壁に触れてみるとそこにも細い溝があり、一つではなく多数のそれが、上から下に向けて流れているのだ。


 つまり、この部屋そのものが、一つの────。


「どうしたの、ヤヨイ?」


「試してみたいことがある」


 了解を得てから、ヤヨイは行き止まりの壁に向けて支配魔法を発動させた。

 薄暗い部屋全体が淡い光に包まれたのは、その直後だった。

一日遅れてすみません。体調は治りました。


次回の投稿は日曜日になります。お楽しみに!


感想やアドバイス、要望などがあればぜひ聞かせてください!

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