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親睦

お待たせしました。

 

 日も暮れかけた帰り道。

 伸びていく影を追うように歩きながら、ヤヨイは今日一日の出来事を思い返しながら呟く。


「だいぶ倒したな」


 中型、いや、大型と呼べなくもない魔物を五体ほど相手にしてきた気がする。

 今まで相手にしてきた龍などの強敵ではないものの、油断出来ない的ではあった。最も出会ってすぐに倒してしまったが。


「うん、これで連携もバッチリだよ」


 先導して歩くヒカゲも満足したらしい。

 互いの手の内も大方把握できたし、ヤヨイは戦闘中の思考も何となく分析できた。

 ヒカゲは常に俯瞰するように戦況を見て、仲間に合わせて行動する傾向がある。人柄から見ても彼が先導するように思っていたが、どうやら違ったようだ。想定外のハプニングにも対応できる冷静さが、彼の魔法──いや、魔術の技量にも現れている。

 個人的に驚いたのはアキラの方だった。荒々しい言動やその戦闘スタイルから力技に頼っているのかと思えば、敵の動きだけでなく周囲の気配も敏感に察知している。ヤヨイの視線にもおそらく気がついていただろう。魔力による力押しは危うさもあるが、使いどころをしっかりと見極めていた。

 どちらも頼りになる、一流の冒険者だ。


 ヒカゲを除いて皆あまり話をする方ではないようで、しばらく彼が中心になった会話がぽつぽつと続いていた。ヤヨイにとって、この距離感は心地よかった。

 隣にいるシグレはどう思っているだろう。ふとそう思って様子を伺うと、ヤヨイはあることに気がついた。


「どうした?」


 シグレはなぜか、少しだけ不安そうに俯いていたのだ。


「いや、その、私戦闘ではあまり役に立ててないなと、思って」


 正直、そんなことはなかった。

 回復要員として安全な場所にいる彼女だが、それでも十二分に役に立ってくれている。

 考えを訂正しようと口を開こうとしたが、それより早く後ろから声がかけられた。


「そんなことねえよ」


 アキラは少し苛立ったように、そしてどこか優しく言った。


「お前が後ろにいたから、ある程度余裕を持って戦えてる。だから、気にするな」


「……うん」


 微笑みながら口にされた励ましの言葉を聞いて、自然とシグレの顔から不安が取り除かれる。ヤヨイが思っていた以上に、信頼関係は築けているようだ。


「でも、無茶はしちゃダメだから」


「あ、ああ」


 どうやら今日の怪我を忘れていたわけではないらしかった。ヤヨイもヒカゲも、二人の様子に自然と笑みがこぼしていた。






 それは、ギルドで報酬を受け取ったあと、夕食を食べていた時だった。


「それじゃ、そろそろ本命のクエストについて話すね」


 朝言っていた、ヤヨイ達の護衛を買って出た理由の一つである、高難易度のクエストのことだろう。

 しかし。


「今まで戦ってきた魔物だけでも十分危険なクエストと言えると思うんだが」


「あれは倒す相手が決まってるし、対策も立てやすいからな」


 敵を引き付ける近接職のアキラが言った。

 確かに強い相手ではあったが、単体で見れば問題はなかったが。


「僕達の目的は、王都から数キロ離れた山にある、迷宮の攻略なんだよ」


「山?」


「ここに来る途中に見えたやつだと思う」


「うん。シグレが言ってるテイテス山には、中腹から地下に続く広大な迷路があるんだよ」


 迷路。迷宮。その単語を聞いて、彼らが何に苦戦しているのか大方の予想がついた。

 ヒカゲは頷きながら自分達の現状を説明する。


「何度かもぐってはいるんだけど、古代の魔術が使用された罠が手強くて。まだ地下にすら到達できていないんだ。パーティーを組もうと思ったんだけど」


「こいつに解けない魔術が、そんじょそこらの魔導師に解けるはずない」


 アキラの言う通り、ヒカゲの魔術についての知識はヤヨイ以上のものがあった。


「と、いうわけで、八方塞がりって状態だったんだ。ヤヨイとシグレなら攻略のレベルにも十分届いてる。危険なのは変わらないけど」


 緊張した面持おももちで、二人の顔色を伺うように、ヒカゲは問いかけた。


「協力してくれない?」


 その提案に、ヤヨイは。


「いいぞ」


 快く即答した。

 その横では、シグレもこくこくと頷いている。


「え?」


「せっかく冒険するなら、太古の謎を解き明かするくらいのことはしたいしな。むしろ興味があったから機会ができて嬉しいくらいだ」


 いろいろあったが、ヤヨイもシグレも冒険者として生きていくと決めたのだ。物語に描いたような冒険をしてみたいのは、変わらない願いだった。


「そっか。じゃあ、よろしく!」


「おう!」


 改めて乾杯をする。もちろん酒ではなく、ジュースだが。


 それからは今までの迷宮の仕掛けや、ヒカゲが魔術を学んだ学院についての話を聞いていた。

 だが、食事も終えてそろそろ帰ろうとした矢先、ある問題が起こる。


「なんだよ。《│血濡れの狂戦士ベルセルク》じゃねぇか」


「あ?」


 酒を飲んで酔っ払った大人の冒険者が、アキラを見て絡んできたのだ。

 以前も聞いたその名は、ヒカゲの話によれば冒険者の通り名のようなものらしい。彼女の言動や戦い方、そして赤黒い髪色が原因らしく、彼がアキラと出会った時には既にそう呼ばれて畏怖されていたようだ。

 最も、ヒカゲと出会ってからは刺々しい態度も大人しくなり、絡まれるようなことは無かったようだが、


「パーティー組んだって聞いたぜぇ!けど、どこの物好きかと思えばお子様か!」


「脳筋のあんたにゃ子守りは似合わねぇな。ハハッ!」


 この通り、酔った彼らにはその危機意識が無いらしい。

 喧嘩を売られただけならばまだしも、ヤヨイ達のことを話に出されれば拳を握って立ち上がっていた。


「てめ──」


 しかし、それよりも早く。

 地面から生えた氷の先端が、彼らの喉元に突きつけられる。アキラの隣にいるヒカゲは、冷たい瞳で男達を睨めつけていた。魔剣によって生み出された氷が、彼らを包むように展開されていたのだ。

 思わず後ずさった男達が次に見たものは、自分たちの足下や頭上など、至る所に浮かぶ魔方陣だ。支配魔法によって改変された鋭い氷柱が彼らに向けられている。今にも飛んできそうなそれは、事実ヤヨイの意思に応じて男達の体を貫くだろう。

 彼らは青ざめているが、それではすまない。


「動けば死にますよ」


 周囲の温度が一気に低くなるような声音で、赤い瞳を輝かせながら右手を彼らに向けている。見えない魔力の刃が、彼らの周囲に散りばめられているのだろう。


 怯えきった男達が、まだ未成年の子供に大声で謝罪を述べる。答える代わりに魔法を解除すると、彼らは一目散に逃げていった。酔いも覚めたに違いない。


「悪い。最近は静かになってて、油断してた」


 自分のせいで、すまない。その意味で謝罪をしたアキラだが、すぐにヤヨイは首を横に振っていた。


「気にしなくていい。それよりも」


 ヤヨイの視線はすぐにすぐ隣の少女に向いた。

 その口には、自然と笑みがこぼれている。


「お前、本気かと思ったぞ」


「確かに、ちょっと心配した」


「そ、そんなことしないってば!」


 ヤヨイだって、あそこまでしなくても。そんないい争いがしばらく続く。

 確かに普通から見ればやり過ぎ以外の何物でもない。後で苦情を言われるとすら思えたが、彼らの会話にアキラは笑った。


「っ、く、ははっ!」


 絡まれたことで気を悪くしなかった彼らにアキラは安堵したが、それ以上に悪く言われた自分のために腹を立ててくれたことを嬉しく思った。


「ありがとな」


 それから何が面白いのかも分からずに皆で笑った。

 そんな彼らを、ギルドの酒場にいたほかの冒険者たちはチラと見やって思う。


 絶対に、関わるのはやめておこうと。


すみません、次回はその日のうちに投稿できるようにします!

今後もこういったペースになると思いますが、どうかよろしくお願いします!

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