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結成


 少女は走馬灯のような夢を見ていた。

 城から出ることを許されなかった幼少期。修行に明け暮れた日々。そして、悪とされる者達を残虐にも殺し続けた地獄を。

 次々と変わる視界に少女は怯え、うずくまっていることしかできなかった。

 だが、チラつく光はいつしか消えた。

 そっと顔を上げると、そこには見慣れた人影があった。

 法皇に似た髪色をした、黒いローブを着ている女だ。

 暗い部屋の入口で、迷い込んだ少女に女は手を差し出した。まるで、悪い魔女が人を騙すような、そんな気配を忍ばせた笑みを浮かべて。


(だめ)


 記憶の外にいる少女の声は彼女達に届かない。

 届かない、はずなのに。

 魔女は少女に近づきながら、子供をあやす様に言ったのだ。


『ダメでしょう?こんなところ・・・・・・に居たら』


 視界のすべてが、魔女の手に覆われて、深い闇に包まれた。






「……ぅ…………ん」


 怖かった夢から覚めたのか。

 瞼を開ければ、そこにはいつも通り、とは行かない光景が広がっていた。知らない天井が見える。屋内で寝ていた覚えがない、というよりは眠った覚えさえないのが不思議に思った。

 そして何より、どことなく、辺りが騒がしい。


「…………」


 体はそのままで視線だけ動かせば、部屋の入口らしき場所に二人の人物が立っていた。

 ここ数日共に旅をしていたフィオレと、見覚えのない黒髪の少年だ。


「二人を助けていただき、ありがとうございます」


「いや、僕らも彼らに用があったので」


 どうやら彼らの会話が原因らしい。

 明るい雰囲気で、深い眠りから覚めたばかりのシグレには居たたまれないものだったのだろう。


「目、覚めたか?」


 頭に入ってこない会話をぼうっと眺めていると、反対側、ベッドの左隣から聞き慣れた声がした。

 落ち着き払ったようで、どこか心配を隠せないでいる。そんな顔からしばらく目が離せないでいたが、首を傾げたヤヨイにシグレはハッとして頷き返した。


「あ、うん。……えっと」


 口ごもりながら、改めて近くで話す彼らに視線を向ける。純粋な興味以外にも得体の知れない理由があった気がしたが、シグレは深く考えないでいた。

 ヤヨイも特に思わなかったのか、尋ねずとも教えてくる。


「あいつら──あの人達は、王都の冒険者でフィオレさんの知り合いらしい」


 言い直したのは、警戒する必要が無いからだろう

 旧友であるならばと、シグレも彼女の様子に納得が行った。敵を前にしたフィオレの様子とは明らかに違うからだ。


「おい」


 すると、彼らのすぐ側に腰掛けた、血塗れた髪色をした女剣士が彼らに気づかせるように声を出す。初対面だが、どこか機嫌が悪そうだ。

 二人して彼女を見て、彼女の顎を向ける仕草で視線はこっちに向いた。慌ててフィオレが駆け寄ってくる。


「あ、シグレさん!大丈夫ですか!?」


「はい。おかげ様で」


 事情は把握出来ていないが、彼女達のおかげで自分は無事だったらしい。

 ヤヨイも顔色を伺っていたようだが、ため息をついてから諦めたように言った。


「目が覚めたばかりで悪いけど、少し話をするぞ」






「何があったか覚えていますか?」


体を起こしたシグレに、フィオレは質問する。


「……アイレーン法国の宮廷魔導師団長、アイセラに会って」


戦いが始まる前から恐怖で体を震わせていた彼女だが、どうやら覚えていたらしい。しかし、それよりも今の彼女の反応から分かることの方が重要だった。


「やはり、ご存知でしたか」


シグレは、あの女魔導師のことを知っているのだ。


「あの人は、私の師ですから」


 シグレの告白に、その場の全員が驚いた。ヤヨイですら、彼女の師匠は法皇だとばかり思っていたのだ。


「でも、ここ数年は法皇様に命じられて、他国を転々としていたみたいですけど」


 そんな彼女がなぜ、よりにもよってこの王都にいるのか。シグレが視線で訴えれば、フィオレは苦々しげに口を開く。


「実は今年の初め、彼女は大使としてこの国を訪れたんです」


 大使。国同士での話し合いのために遣わされるはずだが、今年の初めといえばまだヤヨイが行動を起こす前のことだ。


「相互不干渉。それがフラキオとアイレーン、そして帝国の関係性でしたが、近年フラキオからの不法入国があったらしく、彼女が送られてきたようです」


 ヤヨイは彼女の言い方に疑問を持った。

 彼女の口振りでは、まるで知らされていなかったように聞こえたのだ。


「フィオレさん達には伝わってなかったんですか?」


「はい。上の方針で彼らとのやりとりは内密に進められていたようで、おそらくあの人も知らないでしょう」


 地方とはいえギルドマスターですら伝えられていない事項。それだけにアイレーン法国を警戒していたのか、それともまた別の事情があるのか。


「彼女の提示した要求は、彼ら犯罪者の引き渡しです」


 フィオレが明かした事情に、大まかな予想はついた。


「それで俺達が狙われたわけですか」


「ええ。そして恐らく、あなた達の行動はギルドで素性を明かした時点で伝えられていたのでしょう」


「……なるほど」


 道理でマスターが首を縦に振らなかったわけだ。伝えたのは十中八九、彼に違いない。魔法によるものか、職員に頼んだのかは知らないが、それでもギルドが敵であれば行動は制限されるだろう。


「しかし、上層部の方針は覆りました。完全にとは行きませんが、この国で働く上では何の問題もありません。ただ──」


 彼女の報告に安堵しかけたが、続けられた言葉はヤヨイ達も息を呑むものだった。


「彼女からあなた達を守りきれるか、と言われると」


 表向きには動きを見せないにしても、今後確実にヤヨイ達の前に姿を現してくる。そんな相手を前に、ギルドはまだ意見が統合されていない状態にあるのだ。

 正直、難しいだろう。

 この国の魔導師の実力を知らないのもあるが、ヤヨイが正面からぶつかってそれを痛感している。次に会えば、今度こそやられるだろう。もちろん、何の対策も立てていなければだが。


「それなんだけど」


 腕を組んで考えていると、今まで口を閉じたままでいた黒髪の少年が声を上げた。

 それも、どこか目を輝かせた様子で。


「僕達とパーティーを組まない?」


「おい!」


 深刻な雰囲気をぶち壊しにした一言に、すぐさまその隣から制する声が上がった。

 椅子に座ったまま我関せずとしていたアキラが、聞いてないぞとばかりに立ち上がったのだ。


「んな話聞いてないぞ」


「いや、でも彼らなら」


 それから彼らはこそこそと話し合っていたが、最終的にアキラがジト目で彼を睨みつけて事なきを得たようだ。


「てなわけで、どうかな?」


 ヤヨイとシグレは目を合わせるが、互いに相手の考えがおおよそ伝わる。

 正直、信用出来ない。助けてもらったのはあるが、それでも今のやりとりを見せられて黙って頷くのは難しかった。


「それってつまり、護衛をしてもらえるってことか?」


「うん。まあ、護衛っていうよりは一緒にクエストをこなしてもらう形になるけど」


 少年はあははと苦笑しながら頭に手をやっている。何か隠しているようだが、悪い人間とは思えない。

 旧知の仲らしいフィオレを見れば、彼女はヤヨイの視線に気がついて頷いた。


「彼らなら、私も安心して任せられます」


 彼女がそういうのなら、とも思ったが。

 実力はこの目で見ているし、事情も把握していて、人柄もだいたい分かっている。考えてれば、これ以上の適任はいないだろう。


(それに、話もあるしな)


 シグレを見れば、今度は覚悟を決めたように頷いてきた。そうなれば、ヤヨイも覚悟を決められる。


「じゃあ、頼む」


「任せてよ!」


 自信満々にそう言うと、彼はヤヨイに向けて拳を突き出して笑いかけてきた。


「僕の名前はヒカゲ。よろしくね、ヤヨイ」


 パーティー。

 それはきっと、ただの仕事仲間という括りでは無いのだろう。今までの旅でいうなら、ヤヨイとシグレ、そしてゼノのパーティーだったと言える。

 果たして自分は彼らに背中を預けられるのか。それがヤヨイの気がかりだった。しかし、フィオレの言葉を思い出す。


 何も、今すぐに信じきれなくてもいい。

 いつか背中を預けられるようになれば、いいはずだ。


「ああ、よろしく」


 まだ謎の残る、しかし何故か信頼出来る少年の拳に、ヤヨイも笑いながら自分の拳をぶつけた。

定期更新に遅れてしまい、すみません。

次は必ず間に合わせますので、どうかよろしくお願いします。


それにしても、ヒカゲはこんな謎の少年にするつもり無かったのに……何故だろう。


次回、『準備』。

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