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同胞

視点が変わり過ぎてしまった……。

あと、すみません、主人公の容姿に関する描写が抜けていました。後ほど付け足しておきます。

 

 ある日、男は少年に告げた。


「同胞?僕と同じ故郷の、女の子?」


「そうだ。今は教会で暮らしている」


 男の言葉に、しかし少年は、だからなんだとでも言いたげに男を見つめた。

 仕方がないことではある。まだ十歳にも満たない子供に、同じ町出身の子供がいるといったところで、普通は血のつながりもなければ、赤の他人も同然の存在でしかないだろう。だが、男は少年に託したかった。


「その子は、この国でたった一人しかいない、お前の本当の家族なんだ。これから先、辛いことがあっても、その子と二人で力を合わせれば乗り越えられる」


 この国のすべてが敵になったとしても、きっと切り抜けられる。そう男は伝えたかった。


「俺の力では、救うことができなかった。だが、お前の力なら、きっと」


「もしその子が、この国にいたいって言ったら?」


 少年の言葉に男は目を見開くが、すぐに悔しそうに答える。


「きっとそれは、紋章のせいだろう。だから━━」


「そうじゃなくて、もし心の底から、この国で生きていきたいって言ったら?」


 人の心はわからないものだ。たとえ神でも、完全に理解することはできないだろう。幼い少年からしてみれば、ただ一度だけ、赤子の時に出会っただけの彼女の心など、理解できなくて当然なのだ。


「それは」


「あり得ないことじゃないでしょ。その子にとって大事なものが、この国にできたかもしれない」


 ほんの少しだけ、顔を曇らせる男。この少年の特異さは、その幼い言葉からも、雰囲気からもにじみ出ている。だからこそ、子供の絵空事だと決めつけることができない。それになにより、男は知っている。変わりゆく人の心を。信じたくはないが、少年の言うことが正論だと、男自身も思ってしまったのだ。

 だが、少年の言葉はそれで終わらない。


「でも、もし」


 これから冗談でもいうような軽い笑みを浮かべて、言い放つ。


「助けてほしいって言われたら、全力で助けてやるよ」


 その眼には、少年の覚悟の重さが見て取れた。



 ❄︎



 シャワールームが部屋に常備されていることに驚かなかったといえば、うそになるだろう。ここ最近泊まった宿では、大浴場があるものばかりだった。経費削減というのもあるが、もともと高い宿に泊まりたいと思うほど、贅沢が好きではないのだ。それでも、たまにはこういうのも悪くない

 そんなことを思いながら、シグレは湯につかっていた。

 長旅の疲れに、ポカポカと体を温めてくれる湯はもはや凶器と言っていい。体中の痛みがふきとんで、明日からは軽快に仕事をこなせるだろうと思うと、口元をゆるまずにはいられないシグレであった。ハナウタまで唄っている。


 そろそろ出ようかと、桶を使って体を流してると、


「紅茶をお持ちしました」


 わずかだが、そんな声を鼓膜が拾う。


 さっと体を拭いてから戸を開けた。


「ごめんなさい、今、湯あみを」


 これなら、しっかりと声が届くはずだ。

 しかし、こんな姿で他社と顔を合わせるわけにもいかないので、シグレはテーブルの上に置くようお願いした。かしこまりましたという返事とともに、扉を開く音が聞こえる。体をもう一度丁寧に拭いていると、断ってから部屋を出ていく執事に礼を言った。


 と、そこで気が付く。

 寝巻が見当たらないのだ。

 どうやら普段着と一緒にクローゼットにしまってしまったらしい。一人でのんびりできると、ほんの少しだけ浮足立ったのがよくなかったのだろうか。

 だが、べつに一人きりなのだ。隠しもせず堂々と歩くのはやはり恥ずかしいが、タオルを巻いて歩いても覗くような者はいない。

 ここは二階。そのこともあって、軽くタオルを押し付けただけで、脱衣所からそっと出る。


(誰も、いないよね)


 なぜか気配のようなものを感じた気がしたが、思い過ごしだと考えてクローゼットへと歩き出した。

 そう、それはさすがにないと、そう思ってしまったのだ。


 クローゼットを空いたほうの手で開けた瞬間、シグレは何が起こったのか理解できなかった。ただ、これだけはなぜかわかり、心底自分を恥じた。横着せずに、しっかりと体に巻きつけておけばよかったと。

 押さえていた手が離れ、さらりとタオルが離れる。

 そのまま体にかかる衝撃で倒れて、気が付いた。見知らぬ金髪の少年が、自分にのしかかっているのだ。さらに、その手は自分の胸の方へと伸びていて━━


「ひゃぁむぐ~~~ッ!?」


 その手は明らかに、彼女の胸に触れていた。落ちかけたタオルが間にあるが、如何せん薄い。シグレは自分の顔が一瞬で真っ赤になるのを感じるが、思考が停止して何も考えられなくなる。目が回るようだった。

 対する少年も混乱しているようで、手を放そうとするが体制テクに難しくあたふたしているようにも見える。少年のあわてた様子を見て、悪人ではないのかもしれないなどと考えてしまうシグレだった。


 しかし、その時。

 視界の端に、ロープが見える。

 何に使うつもりだったのかは言うまでもないだろう。だがそれでも、少年が悪人には見えない。今まで罪人を何人も見てきたが、こんな目をする人に限ってそれはないと思ったのだ。

 けれども、その期待は、次の一言で裏切られる。


「痛い目には合わせないから」


 この状況でそんな言葉を出されれば、考えられることは一つで。

 改めて自分の状況を理解し、羞恥心よりも恐怖の方が大きくなる。

 そしが、シグレが魔法を発動させる引き金となった。



 ❄︎



 ヤヨイは動転していた。

 それはもう、目を回すほどに。

 動こうにも、下手をすれば余計に体に触れてしまう。これ以上印象を悪くしたくはなかったし、罪悪感が募るばかりだ。

 怖がらせないようにと、敵意がないことを示そうと、


「痛い目には合わせないから」


 そう伝えた瞬間、床に魔方陣が広がる。


(あれ?)


 なぜだろう。よくわからないが、余計に怖がらせてしまったらしい。

 そう思いさらに言葉を紡ごうとするが、彼女は恐怖のあまり目をつぶってしまった。もう声は届かない、手遅れだと本能が言っている。

 それだけではない。

 恐怖を感じずにはいられなかった。

 以前大量の魔物が発生した時の、濃密な魔力。それ以上の、いや、それとは全く異質な、殺意にも似た感覚が、ヤヨイを襲う。


(これは、ヤバい!?)


 次の瞬間、部屋の中を、黒いオーラが嵐のように荒れ狂った。



 ❄︎



 瞼を開けば、そこには誰もいなかった。

 タオルを胸元に寄せて、あたりをそっと見回す。

 しかし、少年がいた形跡はどこにもなかった。落としていたロープすら見当たらない。自分の魔法で命を落としてしまったのなら、最低でも死体が残っているはずだと、シグレは半分冷静になった頭で考える。

 もう半分はどうなっているかというと、今も混乱の真っ最中だ。体に、よりによって胸に触れられるなど今まで経験したことがあるはずもなく、その上おそらく、少年の言葉を誤解してしまったのだ。


(あの目、何か理由が)


 そう、半分では理解しかけている。

 にもかかわらず、少年に対する怒りがこみ上げてくるのは、当然のことだろうか。

 もはや何が何だか分からなくなっていると、自分がまだ何も着ていないことに気がつく。また周囲を見回して、サッと寝間着をとって脱衣所へと、


(ッ!もう、いないよね?)


 そっと開いて中を見れば、やはり誰もいなかった。

 脱衣所には窓があるが、そこには鍵がかけられている。この場所には逃げて来なかったようだ。

 とりあえずもう一度、軽く体を流すことにした。色々なことがあって、また疲労が溜まったのは言うまでもない。最初の気分とは一転、機械的に終えて体を拭く。服を着て、もう一度、今度は魔力感知も怠らずに外に出れば、やはり誰もいなかった。

 シグレは半ば呆然状態で、ベッドに飛び込み、枕に顔を埋める。


「見られた、触られた」


 しょんぼりとしながら、泣き言を呟く。

 しかし、そんな時間は長くは続かなかった。

 安心したのもつかの間、今度はノックの音が響く。


「私だ、開けろ」


「はい」


 聞いたことのあるノイズがかった声に、扉を開ける。

 すると、やはりそこには、見慣れたフード姿の人物が立っていた。男なのか女なのか、何度か顔を合わせているシグレにも判別できない、影のような人物だった。


「魔法を発動したようだが、何があった」


 淡々と聞いてくるその声音には、一切の感情が込められていない。伝えるべきか迷ったシグレだが、ここで嘘をついたところで、影には隠しきれないと諦める。


「侵入者がいましたので、咄嗟に使用してしまいました」


「その者の安否は」


「不明です。気づいた時には姿がありませんでした」


 その言葉に、影は沈黙する。

 今までは一度も見せたことのないその様子に、シグレは困惑する。


(怒ってる?)


 しかし影は数秒後いつもの調子で声を発する。


「周囲を見張らせておく。何かあればすぐ連絡しろ」


「承知しました」


 去っていく影の姿を見送ってから、シグレはそっと窓の方へと歩き出す。空を見上げれば、今も尚満月が光り輝いていた。


「どうか、もう、誰も——」


 自分のせいで、また人の命が落ちないことを、少女はただ祈っていた。



 ❄︎



 その頃。

 領主の屋敷付近の森の中。

 ヤヨイは木に背中を預け、息も絶え絶えに反省していた。


「慌てて魔石を使ったのはいいが、手紙置き忘れたし、次あったら殺されるし」


 その上。

 自分があのあと陥った状況が再び脳裏に浮かぶが、赤くなった顔を誤魔化すように、頭を振る。それ以上に重要な事実があるのだ。


「あの魔法……」


 魔法とは呼ばないような、違和感。

 あの黒いオーラに触れた花瓶の花を帰り際に見たのだが、なんと、その花は枯れて朽ち果てかけていたのだ。

 何かはわからないが、あの魔法には何かある。

 自分の力で、どうにかしてあげられるかと、ヤヨイは何となく掌を見つめていた。


(そういえば、意外と——って!)


 本当に自然と、触れた時の感想が漏れそうになり。

 ヤヨイは自分の頭を殴りつけるのだった。


書きたいように書いていたら視点が変わりまくってしまった…。

アドバイスや感想等あれば聞かせてください。

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