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月光

 

「本当にやってくれるとは」


 王都の上空から軌跡が消えるのを眺め終えてから、男は笑いながら嘆く。


 その口調から全く怒りも悲しみも感じられないのは、果たして何故だろうか。


「ふむ。長きに渡る努力の結晶が一瞬で崩れ去るのは、流石に応えるな」


 それでも、少しの悔しさはあるらしい。

 数年に渡って研究してきた。友さえ裏切り、狂気に満ちても尚反乱を続けてきた。そのうち一つの成果が、今消え失せたのだ。


 だが、それにも勝る成果が、まだ残っている。


(さあ、我が至高の魔物よ。法皇を滅ぼせ)


 頭の中でそう強く念じれば、どうやら伝わったらしい。少しずつその反応が、王都の中央にある城へと向かっていった。


「──まだ、戦いは終わっていない。どうする気だい?神の子よ」


 自分の意思に従わない、かつての友が愛した少年に、そう投げかけた。



 ❄︎



「はあ。はあ」


 ヤヨイは城壁に背中を預けたまま大きく肩を揺らす。

 既に大空に浮かぶ魔方陣はほとんど崩壊しており、空には光の粉が舞っていた。


「あー、緊張した」


 まだ疲労が残っているが、とりあえずは方がついたことに安堵する。魔力の大半を魔物の生成に消費したとはいえ、支配魔法で対処するには精神力を大分消耗した──わけではなく、彼はただ別の意味で精神的に参っていた。

 魔力が無くなるほんの数瞬。それだけが、あの魔法を無力化する機会だったのだ。


 そもそもあの魔法陣は、立体構築魔法陣という複雑なシステムの元成り立っている。

 本来、魔法陣は直接どこかに記すか魔力器官で創り出さなければ機能しないが、例外が存在する。

 それは、魔法陣そのものを、魔法で作り出すというものだ。

 普通ならばそんな方法は使用されない。なぜなら魔法を扱える者ならば、自分で創る方が早いからだ。だがこれは、ある意味上等なやり方と言える。


(そもそもあの魔法は、人が扱えるようなものじゃないからな)


 通常の魔法に及ばず、闇属性や光属性などよりさらに複雑な魔法陣。あれは人間の知識量では到底生み出すことが出来ない魔法だった。

 ヤヨイとて、どんな仕組みで発動していたのか分からないのだ。ただ、どうやって魔法陣を生み出したのかは分かった。


 それは、立体映像だ。


 地上から発動した魔法は、それぞれあらゆる方向から光を放っている。それがある位置で魔法陣の形を成すのだ。魔力で生み出された光のため魔力を通すので、あとは発動さえすればそれでいい。


 魔力が流される限り、その光は停滞する。

 それが、あの魔法陣の正体だった。


「さて、どうしたもんか」


 まだ戦いは終わっていない。

 魔法陣が消えて無くなっても、既に生み出された龍人は今尚暴挙を振るっている。


 騎士団や魔導師相手をしてもらおうと思っていたが、この瞬間を逃さないために仲間への報告を後回しにしてしまったのが良くなかった。

 魔力感知から、ゼノたちが参戦しているのも分かっている。

 そして、それが優勢でないことも。


 少しずつ大きくなってくる振動に、相手がすぐ近くに居ることもわかった。


(最善手。好機。散々だまくらかしてきたが──言い訳はここまで)


 今更背を向けて自分を優先できるほど、ヤヨイは落ちぶれていない。

 そして、仲間を置いて救いに行っても、あの男が頷かないのは分かっていた。


(方法は一つだけ、か。さあ、反撃と行くか)


 立ち上がったヤヨイは、自身に強化魔法をかけてから────城壁から飛び降りた。


 壁を駆け下りるようにして、すぐ近くの異形に目を向ける。魔法を発動させたことでヤヨイの存在に気づいたのだろう。獰猛な瞳に負けじと、彼は叫んだ。


「神様だろうがなんだろうが、まとめてぶっ飛ばす!」


 そして、右手を掲げて、禁じられていた魔法を発動させる。


絶対支配アウトレイジ!」


 複雑な魔法陣が、身体を覆うようにして複数展開された。


 龍人の体へと。


「!?」


 突然現れた魔法陣に少なからず驚いたようだが、すぐにヤヨイへと意識を戻した。知性があるため、魔法は無意味だと認識したのだろう。

 だが、その頑丈なはずの体に、魔法が干渉する。


(これで、魔法が通る)


 建物の壁などを利用して上手く着地したヤヨイは、龍人に不敵な笑みを向けた。


 支配魔法の最上級魔法『絶対支配アウトレイジ』の効果は、対象を完全に支配下に置き、好きなように改変可能にするというものだ。それは魔力通して干渉するのではなく直接対象に反映されるため、龍の鱗では防ぐことは出来ない。

 また、肉体限界そのものを失くすことに限らず、概念を書き換えることも可能だ。かかっている重力を無くしたり、時間経過を早めたり、その物質の耐性を操ったりできる。


 つまり、龍の鱗から『魔力を通しにくい』という性質を消したのである。


 残る問題は。


「ストックが無い」


 前回の魔人戦以降、まともな戦闘はクエストで遭遇した魔物くらいだった。いつもは緊急時のために取っておくのだが、小竜を倒すのにほとんど使い切ってしまった。


 ヤヨイに使えるのは支配魔法と、あとは強化魔法のみ。絶対支配(アウトレイジ)も自分を対象に使う訳にはいかない。


「くっ!」


 何も対策が無いヤヨイを見逃すほど、龍人は甘くない。

 未だ攻撃を続ける騎士達には目もくれず、彼に向けて剣を振りかざした。


「ヤヨイ、避けろっ!」


 中途半端な強化魔法ではその動きに対応することは出来ないだろうし、どこぞの騎士のように素手で受け止めるなど不可能だ。

 振り下ろされる骨剣に、しかし何も出来ないまま終わるわけにはいかないと右手を突き出す。何か策があるわけではない。奇跡を信じたわけでもない。


 だが、奇跡は起きた。


 一筋の光が降ってくる。

 それはまさに知識にあるような流星で、剣に衝突すると同時に神秘的な輝きを放った。

 物理的には何の効果もなかったが、ヤヨイの体が潰されることもなかった。


 剣の刀身が、半ばから消滅していたからだ。


(あの魔導師)


 助かった、と。

 遠くから手助けしてくれた魔導師に心の中で礼を言って、魔法を発動する。


「使わせてもらおうか」


 散っていく光が渦を巻き、ヤヨイの右手に極光として形成される。それを捕まえて、地面に手をついた。


「ルナ・グレア!」


 龍人の足下に、それに負けないくらい眩い光が生まれる。

 改変された魔法陣は空から光の塊を落とす。それは巨大な龍人をも飲み込んで、爆ぜた。月光のような淡い光だけが、そこに残っていた。


とりあえず龍人を倒しました。


作者の心境


(え、魔力を通さずに物理的にも超強い龍人?どう倒せばっ!!!???)

その後、作者は思い、出した。

主人公の魔法の効果を。




次回からは戦闘シーン減ります。重要なシーン多いので。

……あれ、嘘は言ってない、はず?

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