表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/99

極光

短いです。

 

「なあ」


 眼前に広がる光景に、ヤヨイは呆れたように呟く。


「建国以来、この国では災害なんて、ましてや何者かの陰謀による大事件なんて起こらなかったよな?」


 正確には、起きていたとしても表向きには知られていないのだが。


 その問いかけに、少女も答える。


「ええ、そうね」


 その相槌には、やはりどこか疲労が蘇ったかのようは声が添えられる。


「しかも、王都そのものを、こんな大規模な襲い方するなんて、異例中の異例。もう隠し通すなんて出来そうにない」


 そこまで言ってから、テイラーはヤヨイを横目で見てきた。

 何か聞いてくるのかと思えば何の反応もないので、


「何だよ」


「あなたは、戦う気ある?」


「……さあな」


 曖昧な返事を答えとして、そっぽを向く。

 正直彼も、率先して戦場に行きたいわけではないし、一介の冒険者がそんなことをすれば正体もバレる。


 すると、彼女は現状を忘れたように能天気に笑い始めた。


「ま、戦う義務なんて無いもんね〜。あー、あたしも血を見るなんて嫌だなー」


 しかしそれもすぐに消え、真剣な眼差しで外壁の方に振り向く。


「じゃ、行ってくるわ。聴取に付き合ってくれたこと、感謝します」


 丁寧な口調でそう話す彼女がどんな表情をしていたのか、背を向けられたヤヨイには分からなかったが、振り向いた瞬間の顔とは違っている気がした。


「いえ、こちらこそ。健闘を祈ります」


 ヤヨイの激励と共に、今日出会ったばかりの魔導師は去っていく。


 異変に気付いた者達の人混みに消えていくその背中は、とても立派に見えた。


「まあ、嫌でも戦うことになるだろうけどな」


 彼女に聞こえないようにそう呟いた。

 理由はいくつかあるのだ。シグレのこともそうではあるが、最大の理由は、ヤヨイの魔力感知の反応だ。

 ここからだと微かにしか感じられないが、魔物の群れがこちらに向かっている。


 とりあえず宿へと向かおうと走り出そうとしたのだが、そこで彼は重大な事実に気づいた。


「あれ」


 そう、思い返してみれば——手錠を外された覚えがないのだ。


 自然に鍵が開くということもなく、今も尚ヤヨイの両手は、がっしりとした手錠で縛られたままで。


「えぇ」


 これはまずい。

 そう思ったが、今はどうしようもないことに気がついて、怪しまれないように身を隠すべく路地裏へ走った。



 ❄︎



「ヤヨイだったら……ううん、無理か」


 支配魔法による相殺を考えてみたシグレだが、すぐに否定した。

 どういった効力の魔法かは分からないが、古代魔法の一種だと思われる。そんな大魔法を彼が解体できるとも思えないし、もしできたとしても、魔力が足りないだろう。


「どうする、シグレ?」


 隣に立つゼノが問いかけてきた。


 彼らが今いるのは、宿の近くだ。

 朝から呼び出されたヤヨイと違って、シグレ達は仕事が昼からということもあり外出が遅かったのだが、その瞬間にこんな状況に陥ったのだ。


 尋ねられたシグレは、しかしすぐに言葉を返せなかった。

 通りの向こうを見る彼女の視線をゼノも追えば、そこには金色の髪を風に靡かせて走る一人の少女の姿がある。

 見覚えのあるその姿に、彼もますます警戒が高まったようだが。


「とりあえず、ヤヨイと合流しよう。もし魔物が召喚されたら、できる限り気づかれないように倒す。ゼノは——」


「俺も行こう」


 この後の選択は変わらない。

 魔物相手なら素手で戦うことも可能なゼノは、そう即答してきた。



 ❄︎



「仕掛けてきた、か」


 眼下の城下町を窓から眺めれば、その上空には巨大な魔法陣が浮かんでいる。


「アレウス、ヒュギエイアの護衛は結界に任せてすぐに戻ってきなさい」


『了解した』


 法皇がその手に持つ通信石にそう声をかければ、しゃがれた男の声が返ってくる。

 ここから徒歩数日の距離でも、騎士団長の脚力ならば数時間もかからない。こちらが正体不明の脅威にさらされている以上、彼の力は必要不可欠だろう。すでに宮廷魔導師団も集まっているので、問題はない。


 そしてなにより——。


「我が国の民達よ」


 法皇は執務机の上から別の通信石を取り出した。

 それは、この国全域に呼びかける際に使われるものだ。


「この国は今、何者かから強襲を受けている。しかし私がいる限り、あなた達が被害を受けることはないわ」


 現状を端的に説明し、そして安全だと言い放った。


「今すぐ城に避難しなさい。宮廷魔導師団と教会騎士団が、そして私が、あなた達の盾となります」


 慌てることはない。いずれ訪れるかもしれない——いや、何度も迫ってきた脅威が、今目の前に現れただけだ。


「この支配神が、ついています」


 そう、彼女がいる限り、この国が負けることはない。

 その一言は、この国の民達が抱く不安を、最大限に抑えた。



 ❄︎



 魔物の鳴き声が聞こえ始めると同時。


「さて、それじゃ」


 門から数十メートルの距離で待ち構えていたテイラーは、背中の杖を構えて叫ぶ。


「始めますか!」


 それと同時に、彼女の足下に光の紋様が浮かび始めた。


「神の光よ、我が敵全てを覆い尽くせ」


 直径五メートル程の魔法陣は、詠唱と共に少しずつその輝きを増して行く。


神の浄光(ディバイン・グレア )


 正しく聖女が放つ極光の奔流が、木々を掻き分けて魔物へと殺到した。

前回のタイトルが『開幕』なのに今回始まってる。


気にいりましたら、ブックマークや評価等、よろしくお願いします!

アドバイスや感想も、よければ聞かせてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ