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開幕

お待たせしました。


「ギルドから呼び出しが?」


 その問いかけは、先日雑用仕事を任されていたゼノの口から発せられた。


「何だろう、事情聴取かな?」


「にしては、めっちゃ急を要するらしい。理由は分からないが、行ってくるよ」


 宿屋の受付に届けられたから良かったものの、伝言を話していた様子から、次は部屋に押しかけてくる場合もあり得る。そうなれば、シグレ達のこともあるし正体が見破られかねない。


 なら、すぐにでも出向くのが身のためだろう。


「二人は昨日受けといた仕事を頼む」


「うん、行ってらっしゃい」


「任せろ」


 二人を置いて、ヤヨイは宿を出ていく。

 ギルドとの距離はそれほど離れていない。探しているうちに、自然と街の中心に近い宿になったのだ。


 しかし、ヤヨイは気がかりだった。

 昨日ギルドに報告を終えた時、気にせず次の仕事をどうぞと勧めてくれたのにも関わらず、こんな唐突な呼び出しがあるものだろうか。


 そうこうしているうちに、ギルドについた。

 開かれたままの扉をくぐって中へと入り、受付に目をやる。

 すると、そこに珍しい人影があった。


 ヤヨイと同じ年の頃の少女だ。

 自分と同じ金髪で、二つに縛っている。俗に言うツインテールというやつだろう。

 話していた受付嬢は、彼女の肩越しに弥生の姿を発見したようで、顔色を変えた。すると、少女も視線を追って彼を見てくる。


「彼が?」


「は、はい」


 受付嬢に確認を取ってから、彼女は自然な笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


「あたしは宮廷魔導師団に所属している、テイラー=リヒトという者です」


 丁寧に自己紹介を始めたテイラーに対する印象は、正直に言って良かったのだろう。

 ヤヨイも快く名乗ろうもするが、彼女の言葉に遮られる。


「冒険者ヤヨイ」


 いきなりの呼び捨て。肩書きまで口にする少女の様子に困惑し、何も言えないでいると。


「逮捕するっ!」


 ヤヨイの両手に、ガチャリと手錠が嵌められた。


「……………………ナニコレ」


「拘束用の魔道具よ。さあ、大人しく同行しなさい!」


「ちょ、ちょっと待てって!俺が何したんだよ!?おい!」


 突然の出来事に動揺を隠しきれず、講義の声を上げた。しかし彼女は──いや、そこに居た誰もが、それに取り合うことは無かった。


 巻き込まれたくないという一心が、彼らの様子から伺えた。




 冒険者ギルドから少し離れたカフェのテーブル席。

 そこが、拘束されたヤヨイが連れてこられた場所だった。


「さてと。────それじゃ、取り調べを行います」


「へーい」


 最悪な待遇をされたヤヨイは最早、訳の分からないテンションで応じる始末。


「あなたは一人で森の探索に向かい、空き家を発見。魔力感知で妙な気配を感じ、その地下室で魔術儀式の場を目撃したと」


「正確にはその材料の数々をな」


 しかしそれでも、事情聴取は開始された。


「そしてそれを冒険者ギルドへと報告しに戻った……これで間違いないわね?」


「……ああそうだよ。それで呼び出されたと思ったらこんな扱いだなんてどういうつもりだ」


 不満気にそんなクレームをぶつける。

 しかしそれでも、テイラーは当然のように自分の正当性を主張した。


「必要な措置を取ったまでよ。あなたは仮にも隣国からの移住者なんだから、普通の冒険者と比べて疑われるのは当然でしょ」


「へいへいそうかい」


 人の身分で疑いをかけるのは仕方が無いことだと思うが、幾ら何でもこれは酷すぎるだろう。

 先ほどに加え、ストレスを隠すことなく、むしろあからさまに貧乏ゆすりをして不機嫌そうに目を吊りあげてそう返せば、彼女も少しだけ自分の非を認めたようだ。


「ごめんなさい」


 もしかすると彼女は、無理に先ほどまでの態度を作っていたのかもしれない。


「なんだよ急に」


「確かに、突然こんな扱い受けたら、腹が立つわよね」


 先程までの強気はなんだったのか、今はしょんぼりと弱気になっている。


「数ヶ月ぶりに帰ってきていきなり仕事で呼び出されたから」


 そう告げられれば、ヤヨイとしてもその苦しみは理解できてしまう。

 だからという訳でもないが。


「宮廷魔導師も大変だな。まあ、分かってくれたならいい。で、事情聴取は?」


「ありがとう。そうね、まずはそこの位置と、あなたが具体的に何を見たのか教えてもらえる?」


 少しだけ、恐る恐る問いかけてくるテイラーに、ヤヨイは事細かに話し始めることにした。





「あー、私がいない間にこんなことになってるなんて」


「いない間にって」


「私、つい先日帝国から帰ってきたのよ。……あ、これ言っちゃ行けないんだった」


 さらりと重大な機密情報らしいものを口外した彼女は、しまったと口を押さえた。

 今の発言を正そうとして、彼女の口から発せられた名称に首をかしげる。


「おい。というか帝国って、三国の一つの?」


「まあ、あなたに言うなら別にいっか。そうよ、潜入捜査」


 帝国は、地図で言うならこの国の真下——南に位置する大国家だ。

 アイレーン法国と同じく他国との仲はそれほど良くないとヤヨイは聞いていたが、この国とは全く違う理由だ。


「こっちからは何にもしてないのにああも敵視していれば、そりゃいろんな国に嫌われるわよね」


 さらにさらりと極秘任務を明かす彼女に、この国の機関は正常に機能しているのか些か不安も感じたヤヨイだが、正直に言えば情報を得ることができて万々歳である。


 そして同時に、そんな危険な任務についている初対面の少女を、心配さえしていた。

 何せ、見た目はただの女の子なのだ。魔法が使えると言っても、諜報に向いているものでなければ、バレて殺される可能性だってある。

 それほどに、帝国は恐れられていた。


「そんな危険な任務もあるんだな、宮廷魔導師団ってのは」


 大変だな、と。

 続きの話をさせようと、愚痴なら聞くぞという姿勢でそう言えば、彼女はそれに乗ったのか自信満々に話す。


「ま、あたしくらいじゃなきゃ頼まれないような任務よ」


 それはどういう意味なのか。


 それを聞くことは、叶わなかった。


「っ!」


「おっと!」


 彼らがいるカフェを、いやおそらく、王都そのものを大地震が襲ったからだ。

 揺れは一分ほど続いたが、その間に徐々に弱まり、ついには止まった。


 地震が起きた場合、建物の外に出た方がいいというのは、万国共通の考えなのだろう。

 そしてそれに従って建物を出れば、上空から陽光以外のものが降り注いでいることに気づくのも、また明白だった。


「な」


「魔法、それも、大規模な」


 目を見開いたまま、ポツポツと呟く。

 そこにあったのは、この王都全体を覆いかねない、巨大な魔法陣だった。






 そこは、森の中。

 王都からだいぶ離れた地点にある、崖の上。

 遠見の魔術で上空から王都を見下ろす彼は、そこにいた。


「さあ」


 礼服に身を包んだ彼は、普段見せる狂った笑みを消し、光を映さない虚ろな目で、静かに宣言する。


「これにて、閉幕としよう」


 長きに渡る、神々の戦争を。

 男が王都の方に伸ばした手を翻せば、空気中の魔力は波打ち、光を通さない瘴気に変わった。


ここ最近、更新が遅くなりすみません。


ついに王都への本格的な攻撃が開始され、事件の隠蔽が不可能となる。

魔物の群れを掃討すべく出陣する、教会騎士団と宮廷魔導師団。果たして、男の言葉が意味するものとは。

次回、『極光』。


……この予告、どうでしょうか?

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