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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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暴走

お待たせしました

 

 目の前の巨体が宙に浮く。

 ヤヨイ達はそんな光景を、ただ呆然と見上げていた。


「は?」


 常に笑みを絶やさなかったヤヨイの仇敵である男もまた、自分の創造物に起こった現象に、間抜けな声を上げる。


 だが、それも仕方が無いだろう。彼が創り上げた、彼の言う傑作は、周囲の魔力を吸収して進化する、いわば兵器だ。戦っている彼らは気づいていないが、その能力はぶつけられた魔法にも作用している。

 受けた攻撃を一部吸収し、変化する。今はまだ魔法を使うことが出来ないが、成長すれば大規模な魔法陣も構築できるようになるだろう。


 そう。そんな化け物が、たった一撃で、地面から離れた。


 その事実に、動揺しないはずもない。


 驚いている間に、取り込んだ彼女の庭の塀を優に飛び越え、裏にあったちょっとした森を破りながら、魔人は背中から倒れた。


「一体、誰がこんな」


 そもそも、一体何がぶつかったというのか。


 周辺の被害はほとんどないため、物理的に何かが激突したとしか考えられない。しかし、そんな物質が存在するだろうか。


(岩や木で、あんな威力が出るはずは)


 そこまで考えて、男の耳に、聞きなれない声が届く。


「ったく、あのヤロウ。本気で殴りやがったっ」


 いてて、と寝転がった体勢から跳び上がり、肩を回す熟年の男が、そこに居た。


「まあ、これも親の務めか。ん?なら殴り返してもいいよな?」


 何やら訳の分からないことを言っている、そんな彼の風貌を見るなり。

 紳士ぶった男は不敵に微笑み、自身の配下に命令した。


『叩き潰せ』


 魔物を操る方法は二つある。

 一つは、予め行動パターンを植え付ける方法。魔物を生み出す魔法陣にその情報を書き込み、使役するというものだ。

 そして、二つ目は。

 今のように、術者と対象にパスを繋いで、逐一命令を出す方法。


 そして、念話による命令はすぐに伝わったらしい。


「ん?」


 その気配に気づいたのか、その場で首をかしげた騎士団長の姿は。

 魔人の手の平に、かき消された。


(騎士団長を仕留める、絶好の機会)


 彼が教会騎士団の団長であることは、まず間違いない。男は幾度となく、彼の姿を見かけたことがあった。

 つまり、彼の強さも知っている。

 国外に幾度となく赴き、任務をこなす彼は、失敗を知らない。

 それだけの実力が、彼にはある。


 そんな人外の存在は、彼の作戦には邪魔だった。ここで始末してしまうのが妥当だろう。


 だが、


(な、はずもないか)


 土煙は上がったが、手応えがない。

 それを裏付けるように、


「なんだよ、危ねぇな。残存魔力、半分になっちまったじゃねぇか」


 低い声でそう言う騎士団長は、まるでつまらないものを見るような目をしていた。


 片手で、途方もない重量の一撃を、余裕で受け止めながら。



 ❄︎



 その時、ヤヨイは目紛しく変わる戦況に混乱していた。


 今立っているのは、先ほどと同じヒュギエイアの家の庭だ。

 先の戦闘で崩れた塀の隙間から、遠くで起こっている状況を、姿を隠すことなく見つめている。


 ゼノと別れた時。すなわち、あの男と遭遇した時の状況は、まだ記憶に新しい。

 だが、これほどとは思っていなかった。

 背後から迫った爆発音から、自分などではどうやっても付いていけない戦いが行われているのだろうと、そう思っていた。

 けれど、最早規格外だ。

 精神力の大半を消耗して何とか耐えた一撃を、易々と片手で受け止めている。


 彼にヒュギエイアの奪還を任せるという作戦が先程まで浮かんでいたが、それはすぐに消えた。

 恐らくあの男ならば、魔人ごと彼女を滅してしまう。


 隣に立つシグレを見やれば、突然の騎士団長の登場に驚いていた。


 無理もないだろう。彼の相手をしていたのは、彼女の騎士に他ならない。

 あの男がこちらの戦いに専念しているということは、つまり、彼は敗れたということになる。

 普通に考えれば、それが正しい。

 だが、信じたくは無かった。


 そのまま二人して何も言えないでいると、ふと背後から、何かが飛び降りてきたような音がした。


「ゼノ!?」


「!」


 二人は慌てて振り向き、そして。


 絶句した。


 騎士は身体中に怪我を負い、純白のマントを血に染め、鎧の損傷具合からも、戦闘の凄まじさが感じられた。

 そして、何より、その目だ。


 ドス黒い瞳は、ヤヨイ達を見ていなかった。

 そこに伺える感情は、喜びでも、怒りでも、憎しみでも、嫌悪でもない。


 そこには、何も無かった。

 彼等を認識しているかさえ、怪しい。


「おい、どうし——」


 ヤヨイの言葉は、続かなかった。

 攻撃を受けたわけでも、意識を失ったわけでもない。

 ただ、驚いたのだ。目の前の騎士が見せた、底知れない闇を抱えた、狂って歪んだ口元に。


「見つけた」


 姿が搔き消え、風がヤヨイ達を襲う。


「んなっ!?」


 振り返った先に、騎士はいた。

 あっという間に距離を離していき、その先には、敵である魔人と、その術者、それに加え、恐らく本命である、彼の師匠が。


「ゼノっ!」


 シグレが甲高い声でその名を呼ぶが、もうあの騎士は、振り向くことすらしない。



 ❄︎



 面倒だ。

 ただ、そう思った。


「舐めてるのか」


 少なからず、怒りが込み上げる。


「これでも俺は、教会騎士団、騎士団長の━━」


 受け止めた右手に魔力を集中させ、全力で持ち上げる。


「アレウス=グレアデスだぞ!」


 怒号を上げると同時に、足場が崩れた。どうやら力を込めすぎたようだ。

 勢い余って、魔人の腕は空へと向けられる。


「さて、面を拝ませてもらおうか」


 隙を見せた魔人を置いて一歩踏み出すが、今度は突然、背後から殺気が迫ってくる。


「ちっ、もう来やがった」


 心底うんざりした様子で、アレウスは逡巡した。


 自分でなければ、どちらも止められないだろう。民を守るのが騎士の役目ではあるが、子を正すのも拾い、育てた親の役目だ。

 しかし、そもそもここに来たのは、様子を見てこいという法皇の使いによるものだ。

 なら、相手をしている暇などないのだが。


「ふむ、ここは」


 一つしかない。


「逃げるか」


 散歩に行こう。

 まるでそんな風に、あっさりとそう言って、魔人に背を向ける。

 数歩歩けば、見慣れた影がすさまじい速度で迫ってきた。


「はぁぁああぁぁぁぁっ」


「はっ、そのまま━━━━暴れてろっ!」


 突き出された右拳を掴み、投げ飛ばす。

 その先にいたのは、腕をもう一度振り下ろそうとする魔人だ。


「邪魔だ!」


 勢いのままに繰り出されたゼノの裏拳は、魔人の拳と激突し、競り勝った。


 アレウスがヒュウと口笛を吹いて辺りを見渡していると、今度はまた別の乱入者がやってくる。


「ゼノ!」


 シグレだ。


 数年前に一度だけ顔を合わせたことのある少女は、アレウスに一目もくれずに通り過ぎていった。

 なんだか残念に思っていると、彼女に付いてきた少年が、彼を見るなり絡んでくる。


「お前、あいつに何を」


 アレウスは突っかかってくる少年を避けるように脇へとずれて、肩を掴み一言告げた。


「あとは頼んだ」


 そんな丸投げ発言をされたヤヨイは、ただ怪訝そうにアレウスを見返した。

すみません、次回の投稿は木曜日になります。


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