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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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再生

主人公の出番!

 

 漆黒の巨体。

 しかしそれは、明確な『形』を有してはいなかった。

 腕があり、足がある。胴体もある。だが、どうにも歪で受け入れがたい。まるで粘土で作ったゴーレムのようだ。


 それは、汚染された魔力で作り出した生物だった。

 ある程度の知性に限らず、明瞭な知識を有す、魔物とは似て非なる存在。魔人である。


 男が創り出そうとしたそれと比べてしまえば、今となっては面影も残っていない。それでも、男が目指した兵器はこれであった。

 この生物は——魔人は、進化する。

 魔力から自然発生する魔物には無い概念を持っている。

 それはつまり、ここから始まるのだ。

 男が目指した、最強の存在は。


「さあ、やれるものならやってみなよ。少年」




「——やるしか、ないのか」


 ヤヨイは現状に不安しか感じられなかった。


 共にいた時間は短いが、それでも今ではよく知る存在となった女神は、もう姿形を捉えることができない。

 それでも、これと戦うということは、取り込まれた彼女を危険に晒すということになる。


 そして何より、自分たちの魔法が、目の前の未知の脅威に通用するのか分からなかった。いや、通用する気がしなかった。

 一目でわかる、魔物という概念の中にありながら、そこから逸脱した存在は、恐らく今まで見てきた魔物達よりもはるかに強大な敵だろう。

 おそらくそれは、あの龍すらも超える。


 そんな相手に、自分たちが並ぶ方法。

 さらに言えば、あの中にいる神すら容易に救ってしまえる奇跡の力。


 それは。


「ヤヨイ」


 そのたった一つの行動を取ろうとした少年の耳に、それを制すような声が届いた。


「あれは、使わないで」


 隣に立つ少女は下を向いていて、ヤヨイからはその表情を読み取ることができない。だが、なぜだろうか。

 彼女が今、いつも通りの無表情では無い気がした。


 あれ、というのは、何を示すのか。

 それはもちろん、ヤヨイが使える禁術のことに他ならない。


「だけど」


「私の力じゃ、次は、どうにもならない」


 そう言ってこちらを見たシグレの瞳を見て、やっぱりと心の中で思わず納得がいく。


 そこに立っていたのは、今までどことなく投げやりで、取り繕っていた人形のような少女ではない。

 明確な意志を持ち、今この瞬間も、目指すべき場所へと意識を向けている。


「隠してるみたいだけど、分かってるから。魔力器官、ボロボロでしょ」


 そんな彼女の口からは、ヤヨイの身を案じる一言が発せられている。


 魔力器官。

 ヤヨイの前世の人々がおそらく持っていなかった、魔力を操る脳の一部を示す。


「何で」


「何度も治療してれば、分かる」


 まだ一週間ほど前の影との死闘では、シグレの回復魔法によって事なきを得た。何の代償もなく力を振るえた。


 けれど、正確にはそれは間違っている。

 目に見えた傷ではない。そして、放っておいていいものでもない。ヤヨイはここ数日で、それを再認識していた。

 魔力の操作技術が、僅かではあるが、確実に鈍っているのだ。そして、次使えば、魔力器官がその機能を停止する恐れがある。シグレの魔法でも、治せるかは分からない。


「私たちは、三人合わせて仲間だから。だから、一緒に戦おう」


 三人。ヤヨイと、シグレと、そして今、ここにいない騎士。


 彼は今も、戦っているのだろう。

 音も何も届かないこの場所でも、二人はそれを感知していた。魔力感知の範囲内というわけではない。

 ただ、そんな気がしただけだ。


 共に戦う。

 あの時のように、一人で全てにカタをつける必要はない。

 今度は、彼女達も戦えるのだ。


 全力を超えた力を出すことができないという事実。それは自分よりも強い相手と戦う今の状況において、絶対的な憂心だった。

 だが、彼女の一言で、それが少しでも払拭される。


「ああ、やるぞ」


 恐れていないわけではない。

 だが、やらない選択肢など、始めからないのだ。


 チートに頼ることが出来なくとも、戦うことは決まっている。


「強化っ!」


 全身に強化魔法をかける。そして、持続時間をある程度削り、揚力を増したその魔法の上に、さらに重ねて、


「治癒強化」


 シグレの支援魔法がかけられた。


 回復魔法は、何も怪我に直接発動するものに限らない。

 自然治癒もその魔法の範囲内で、傷を負う前からかけるものだ。さらに言えば、肉体にかかる負荷を軽減することができる。

 それは僅かでしかないが、ヤヨイの強化魔法のデメリットを確かに相殺していた。


 全力で踏み込み、走り出す。


貯蔵ストック


 先ほど魔物と戦っていた時、ヤヨイは一つの魔法を発動していた。


 魔力の性質そのものを記憶し、それを再現するというものだ。その時支配下に置いた魔法を、後で好きな時に発動できる。

 許容量が決まってはいるが、そんな制限は、支配魔法にとって問題になりえない。


再構築リメイク


 何せ、魔法を書き換え、より強力なものにする術が、あるのだから。


 右手に雷光を纏いながら、まだ形をなして間もない魔人を相手に、問答無用の一撃を放つ。


第四式だいよんしき 常雷じょうらい !」


 生み出した雷の刃による突き技は、落雷ほどの音を発しながら魔人の体を穿ったかに見えたが。


(硬い!)


 貫通することなく、ある程度(えぐ )っただけだった。


 だが、あの龍ほどではない。

 魔法に対する防御力がある、龍の鱗ほどの耐久性はない。

 ならば、斬れる。


常炎じょうえん っ!」


 飛び上がり、そのまま右肩から斜めに、高熱の刃を振るった。

 しかし。


「なっ!?」


 魔人は、体勢を崩すことなく、右手で弥生を捕まえにかかる。

 バックステップで距離をとったヤヨイだが、そこにさらに左腕が伸びてきた。


 体のパーツそれぞれの大きさが整っていないのではない。まるで植物のように、急速に成長させて伸ばしてきたのだ。

 その一撃は、ヤヨイの横を通り過ぎて。


「くっ、常氷じょうひょう !」


 咄嗟に貯蔵ストック から生み出した魔力で氷を生み出し、魔人の腕に突き刺す。

 瞬間的に凍結したそれは、しかし本体まで届くことはなかったが、目的は達せられた。


「シグレ!?」


「……大丈夫」


 腕が狙った先にいたのは、シグレだった。


 どうやら敵には、ある程度の知恵があるらしい。今シグレを叩かれるのは、二人にとって最も辛かった。何せ彼女には、自分を守る術が無いのだ。

 人間相手なら付加術で対抗することも可能だろうが、あれだけ強靭な魔物が相手では無意味だろう。


 そして、シグレの継続的な回復魔法の援護が無ければ、ヤヨイは強化魔法を持続できない。


 それを本能的に、その強大な力で襲ってくる。


「文字通り、化け物だな」


「でも、助けないと」


「ああ」


 再び接近を始める。

 走りながら、ヤヨイは考察を続けていた。


(魔力感知が間違ってなければ、ヒュギエイアがいるのは——)


 まるで眼のように赤い模様が描かれた、あの丸い頭部だろう。


 続けて、直近の問題について考える。


(あの再生能力、魔力か————いや、違う!?)


 そう。あの再生能力は、言い換えれば、治癒能力だ。ヒュギエイアの神としての能力による副産物——神薬の効果に酷似している。

 つまり、


「エイアの能力を、奪って?」


 つまりあの男は、ヒュギエイアを動力源にこの魔人を創り出したということになる。


「ふざけやがって」


 拳を強く握りしめ、次第に走る速度が落ちていく。


 そして、ヤヨイはついに立ち止まった。

 魔人のすぐ、眼の前で。


「おや?諦めたのかな?」


 声もなく、予兆もなく、右腕が振り下ろされる。

 先ほど真近で見た限り、その一撃は軽いものでは無い。それを前に動かないなど正気の沙汰ではないと思ったのか、男の笑い声が響いてくるが、ヤヨイは構わず集中し続けた。


「第一式、常闇じょうやみ


 静かに放ったその一言と同時に、魔人の四肢が切り落とされる。


 ヤヨイが放ったのは、闇属性魔法で創り出した、魔力の刀——その斬撃である。

 闇属性は理論上、光属性を除き、どんな物質にも勝る優先度を誇る。なんでも斬れるし、貫ける最高の攻撃だ。

 その分、破壊することしか基本できないという弱点はあるが。


「再生、しないだと!?」


 破壊することに関しては、最強の魔法である。


 再生しようにも、闇属性魔法に侵食された腕は、もう使い物にならないだろう。


「さあ、詰みだ」


 魔力を更に込める。

 辺りを包み込む紫の輝きが、魔人の首を切断する——その、直前だった。


「は?」


 目の前で起こった光景を、思わず疑う。

 再生ではない。

 腕が、さらに生えたのだ。まるで、翼のように、背に生まれたのだ。


 漆黒の巨腕は、突風を超える勢いで振り下ろされ。

 金髪の少年を。その小さな体を、いとも容易く叩き潰した。


「ヤヨイぃぃっ!」


 響き渡るのは、少女の悲痛な叫び声だけ。


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