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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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理想

どこかの騎士の過去編です。

……あれ、過去編って言い方あってるかな?

 

 幼い頃の記憶は、微かだが、覚えている。


 名前も、場所もわかりはしない。

 ある村の、ある農家の、ある少年。

 それが、自分だったことだけは、覚えている。


「━━━、朝ごはん出来たわよ」


「はーい」


 父と母。

 彼ら2人との生活が、少年の日常だった。

 畑を耕し、家畜に餌をやる。そんな日常は、のんびりとしていて、退屈で、少年は変化を求めた。


 ああ、そうだ。その頃、ある本を読んでいた。


『カッコいい騎士』たちが登場する、英雄譚だ。空想か、実話かは定かではない。ただ、その物語は、確かに少年の心をつき動かし、少年にある願いを思い描かせた。


 自分もこの騎士のように、英雄になりたいと。


 だが、少年の世界は狭かった。

 生きるために、ただひたすらに働く他ない。

 自分がまだ幼い子供であるがゆえ、それを目指すことが難しいということことを自覚していた。

 しかし、夢は終わらなかった。

 必死に働いて、子供ながらも修行のようなものをして、両親に怒られて。

 いつか騎士になるのだと、そんなふうに思いを馳せて、自分の日常を歩く。



 そんなある日、少年の人生を変える出来事が━━事件が起こった。

 いや、起こってしまった。



 村は炎に焼かれていた。

 小屋も、畑も、家も燃やされ、今後の生活ができなくなる。だが、少年の脳裏には、ある一つの可能性が浮かんでいた。


 ここからまた、始められる。


 自分の人生を、新しい道を歩むことが出来る。

 果たしてそれは、ただひたすらに前向きだったのか。それとも、絶望から目をそらしただけなのか。

 少年は、家族を恨んではいなかったはずだ。

 それなのに、なぜ少年は、そんなに心に余裕を持っていたのだろうか。


 目の前で、人が、喰われているというのに。


「た、助け、て」


 それが誰かもわからない。

 ただ、呻きが聞こえた。男の声だった。


「━━━、逃げなさい、あなただけでも逃げて」


「おかあ、さん?」


 母親の声だけは、分かった。

 その声を聞いた瞬間に、少年は気づいた。


 戦う力が必要だと。


 騎士になって、自分は何を守りたかったのか。

 ただ、武勲をあげ、名のある騎士としてあり続けたかっただけなのか。

 違う。ただ、守れるものだけでも守りたかった。自分の知る人を、愛する人たちを守りたい。


 武器を探そう。

 剣でも、斧でも、木の枝でも、何でもいい。

 戦う意思を持てるなら、戦うことができるなら、もう、なんでもいい。


「やめなさい!」


 転がっていた鍬を手に取り、少年は、母達を襲う獣━━魔物の、その群れへと走り出した。


 思い返せば、なんと滑稽なことだろう。

 少年はあの時、自分が何を思っているのか、理解していたのだろうか。

 絶望に打ちひしがれて、無理やり希望を見出して、戦って。

 そうして、無力な少年に、一体何ができたのだろうか。


 そう。何も、出来なかった。


 血が飛び散る。

 振り下ろした鍬の先で、僅かだけれど、傷ができる。熊のような大きな体を持つ、その得体の知れない魔物は、苦しむ母親からこちらへと視線を向けた。


 その時少年は、ただ、恐怖を感じた。

 殺気に当てられたのだ。

 魔物の一挙一動が、少年の心を蝕んでいく。紛い物の勇気を、砕いて粉々にすり潰していく。

 一歩。また一歩。後退りをして。

 足に、何かが当たった。


「ぇ?」


 それは、死体だった。

 先程まで呻いていた、村人の死体だった。

 ああ、見たことがある。確か、馬を育てていた人だ。前に、子馬に乗せてもらった。これで槍でも何でも武器を持てたなら、騎士みたいだとはしゃいでいた。


 もう、彼は微塵も動かない。


 そして、それはつまり、彼を襲っていた魔物が、別の存在に気が行ったということになる。

 そう、まだ息のある、少年に。


「あ」


 気づけば、辺りにいた魔物達は、全てこちらを見ていた。

 獲物らしい獲物が、自分しかいなかったのだろう。

 こうなったのは何故か。そこで気づいた。彼らは、幼い少年を庇ったのだ。無力な自分を守ろうとしたのだ。


「ぇ、ぁ」


 何も出来なかったどころか、周りを犠牲にした。

 自分のせいで、皆が死んだ。嫌でも、間違っていると言われても、そう考えてしまう。


 その時、明るい光が自分を覆った。


 魔物が魔法を、放とうとしている。

 村を焼いた炎を、自分へと向けている。


 空腹を満たしたのか、一匹も噛み付いては来ない。だが、魔法を喰らえば一溜りもないだろう。

 囲まれているため、逃げ出すことも出来ない。

 ただ恐れ、腰を抜かし、せめて泣き声を上げないように耐えることしか出来ない。


 男なら泣くなと、父は言っていた。

 だから、泣かない。例え死ぬのだとしても。


 魔物が詠唱を終えるのを、ただ目をつぶって待ち続ける。

 すると、声が聞こえた。


「伏せろっ、くそガキ!」


 その怒号は、少年が無意識に従ってしまうほどに、強い意志を帯びていた。


 地に這いつくばりながら、音が止むのを待つ。

 金属音に、何かが零れる音。そして、断末魔の叫び。

 目を開けば見えてしまう惨状から目を背け、ただ時が過ぎるのを待つ。


「怪我はないか」


 永遠にも思えるほどの長い時間━━いや、もしかすると、ほんの数秒の時間を乗り越えてた時、そんな声が耳に届き、目を開いた。


 そこに立っていたのは、白銀の鎧を纏った、騎士だった。

 無精髭に、青黒い短髪。そして何より、実際はそれほどではないのだが、身の丈を超えるような存在感を放つ大剣。

 そして彼の周りには、魔物の死骸が、文字通り散らばっていた。


「おい」


 どうやら、自分の返事を、長々と待ってくれたらしい。


「は、はい」


 返事を聞いて安心したのか、騎士はほっと息を吐いて、あたりを見回し、そして毒づく。


「こりゃ、ひでぇな」


 それは、彼らが殺した魔物に対してのものではない。

 魔物が食い散らかした、人だったもの。原型をとどめていながら、苦しみが具現化したような、無残な最後を迎えた人の姿。


 その中には、もちろんだが、少年の母親もいた。


 立ち上がり、おぼつかない足取りで、近づく。

 飛び散った肉塊を踏まないように、できる限り気を付け、失敗しながら、謝りながら、少年は辿り着いた。


「おかあさん」


 抑えていたはずの涙声でそう呟いた時、近くで誰かが、息を呑むような気配がした。


「おいガキ、行く宛はあるのか?」


 再び話しかけられる。

 振り向くこともせず、ただ亡き母の骸に触れることもしないまま眺めながら、慌てて首を振れば、騎士が舌打ちをした音が聞こえた。


 随分と騎士らしくないなと少年は思った。

 物語に出てきたような騎士は、私利私欲のためではなく、主に忠誠を誓い、騎士道に準じて行動していた。それに比べ、彼はどこか人間らしさに塗れている。


 ここに来たのも、偶然通りかかり、見過ごすわけにもいかなかった、と言われれば、簡単にそうなのだと落胆してしまいそうだ。


 父の姿を見てはいないが、恐らくもう、魔物に喰われてしまっているだろう。先程まで、村のあちこちから、人々の必死の叫びが聞こえていたが、それももう、途絶えてしまったのだから。


「お前は、どうするつもりだ?」


 その問いかけは、先程少年が思った考えの、裏付けでもあった。だが、当然といえば当然だ。

 物語に出てきたような騎士は、この世にはいない。

 父も母も、おそらく気づいていながら、言わなかった。子供に夢を見させてあげたかったのだろう。

 目の前の騎士も、そうだ。理由はどうあれ、彼は自分を、絶望の淵に追いやるような真似は、したくなかったのだろう。


 守られている。

 だから。


「弟子に、してください」


 それでも、騎士になりたかった。

 清廉で、忠誠心を持ち、決して裏切ることなどない、強者になりたかった。

 ただの理想だ。叶えられるかどうかは、これからの自分にかかっている。今までの自分を捨てて、どこまで変われるかが、結果を変える。


 その道に至るための一言を、少年は口にしたのだ。


 暫く、風の音と、それで木の幹が揺れる音だけが、鼓膜に響いていた。


 まるで、今ここにいるのは、自分だけだとでも言うように。いや、もう、自分すらも、空気に溶けて、消えてしまったかのように。


 だが、たった一言、されどきっかけとなった一言が、少年の意識を取り戻させる。


「……勝手にしろ」


 男はただ、面倒そうに少年を眺め、そして投げやりに言い放った。


すみません、次の投稿は一日遅れます


少しずつ、自分で腑に落ちないところを直していきます。どうかアドバイスや感想があれば聞かせてください!


気に入りましたら、ブックマークや評価等も、よろしくお願いします!モチベーションも上がりますので、どうか感想だけでも!

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