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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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忠誠

お待たせしました


 

 反乱軍、そしてヤヨイとシグレ。

 彼らがいる結界付近から、少し離れた、森の中。

 いや、森だったはずの場所で、火花が散る。


 一合。また一合。それぞれの武器が、瞬きの間に何度も重なる。


 言葉を交わすことはなかった。ただ、今まで止まっていた時間が動き出したように、自然と戦いを始めていた。


「…………」


「くっ」


 ゼノの眼前を、剣先が横切る。もう何度、この危険を乗り越えたのか定かではない。開戦からまだ5分も経っていないにもかかわらず、だ。


 それでも、若い騎士は、その手を緩めない。


「っ!」


 彼は大量の魔力を脚に纏って、地を蹴った。すると、相手もまた、同じ動きでもって追いついてくる。


 突風が木の葉を飛ばす。彼らが地を踏みしめるたび、災害と見間違うほどの土煙が上がる。

 嵐のような怒涛の勢いで、2人は何度も鍔迫り合いを重ねた。時間の感覚がズレている。そうとしか考えられなかった。本来、人間はこれほど速く行動することはできない。


 数秒の間に、幾重にも渡って爆音が鳴る。


 その衝撃が風を生み、ついに木々は土からその根を別けた。

 彼らの一つ一つの動作が、地形を、さらには生態を変えてしまう。それが、この国の騎士団の実力だ。


 団長が強烈な一撃を放ち、若い騎士がそれを受け止める。何度も、何度も、周囲を省みることなく、全身全霊で持って迎え撃つ。

 だが、ある時を境に、その戦況は崩れ去った。


 若い騎士——ゼノが、悟ったのだ。


(もう、十分だ)


 仲間2人の、気配が、感じられなくなった。


 そう。ゼノが戦闘中防御に徹していたのは、実力の差というのもあるが、下手に彼の注意を自分から外せば、彼らにそれが向くからだ。

 時間を稼ぐこと。それが、ゼノの目的だ。

 目の前の男でも、今から彼らを見つけ出すのは、相当骨が折れるはずだ。その危険は去った。

 もう、守りに徹する必要はない。


 そう考えた時だった。


「がはっ」


 腹部に途方もない一撃が、もろに入る。

 そのあまりの重さに、鎧は破損し、その持ち主も吹き飛ばされた。


 一瞬の変化に、脳が追いつかない。

 景色が次々と変わって行く。木が、川が、花々が、視界の端に捉えられ、そして瞬く間にそれはまた違ったものへと姿を変えた。


「ぐっ」


 そして、今度は背中から、全身に痛みが広がる。

 意識を手放しそうになるのを、唇を噛んで耐えながら、ゼノは今の状況に困惑していた。自分に何が起こったのか、理解が追いつかなかった。


「!」


 辺りを見渡して、気がつく。

 そう、ここは、先程までいた、荒れ果てた森ではない。

 そこは、林だった。針葉樹が所狭しと乱立し、陽の光がほとんど立ち入ることの叶わない、そんな場所だ。


「まさか!」


 そう、ゼノは理解してしまった。あの街の近くに、こんな場所は存在しない。

 そう。それはつまり、ゼノは気づいたのだ。自分が、数百メートルもの距離を、ただ一直線に飛んだことに。


 まずい。そう思い、すぐさま立ち上がる。

 彼が飛ばされた方向は、ヤヨイ達とは真逆の方向だ。あの男が彼らを探し出せば、すぐにでも蹴りがつくだろう。ここからでは、彼を足止めすることが出来ない。

 あの時点で、あとは自分がしぶとく戦えていれば、それで足りたはずだ。


 ゼノはヤヨイの実力を認めていないわけではない。ただ、彼のそれは、あくまで魔導師としてのそれだった。決して、剣士相手に通用するものではない。おそらく、一瞬で決着するだろう。


「早、く」


 シグレも同様だ。前のように死の魔法を使うことが出来たなら、牽制の役割として活用できた。だが、今の彼女には、付加による援護攻撃くらいしか、戦いに加わる術がない。


 軋む足を無理矢理にでも動かして、歩き出す。

 少しでも早く、走り出せば、まだ、間に合うはずだ。


 そう、考えた時、それは現れた。


「ったく、舐めた真似しやがって」


 呆然と遠くへやった視線の先に、自分と同じ服を着崩した、敵がいた。


「っ!何故わざわざ!」


 自分を追ってきたのか。

 団長が全力を出せば、恐らくもう少し早く到着できたはずだ。


 警戒しつつ、心を落ち着け、ゼノは構えを取った。


「そういう態度が、気に入らねぇ」


 そんな彼を眺める団長は、何故か苛立ったように、そう吐き捨てる。

 そして、すぐにその表情は、不敵な笑みへと変わった。


「おお、そうだ」


 ちょっとした冗談を言うように。


「あいつらなら、どうせ結界の中だろう」


 その事実を口にした。


「!?」


 可能性はあった。しかし、目を背けていた。

 こんな、下手をすれば法皇の次に名前が上がる危険人物が近くにいるのに、異変の調査に赴くはずがないと。


「まさか、信じなかったのか?」


 だが、ゼノは知っている。自分の主人が、自分の知る中でも1番のお人好しであることを。


 ゼノは、そうあって欲しくなかった。

 彼らだけは、生きていて欲しかった。

 彼女の未来を、彼に託したかった。


「ほれ、俺を倒さないと、あいつらも死んじまうぞ?」


 馬鹿にしたような、どこか呆れたような瞳で、両手を広げて隙を見せる。いや、隙など無い。彼ならば、その隙を突こうと突撃した瞬間に、一瞬で構え、断ち切るだろう。


 だが、それでも。


「っ!」


 その挑戦に、乗る他なかった。


 空気中の魔力を、自らの体へと込める。

 強化魔法とは違った肉体強化の術が、今まで何度も行使し慣れて来たはずの身体に、痛みを走らせる。


 まずは、正面から。


「さあ、来い」


 笑を消し、大剣を持ち上げる、悪魔の元へとひた走る。


 一瞬で距離が詰まり、剣が激突し、そして。


「ぬ?」


 大剣を往なし、走り抜けた。


 逃げ出した怒りで額に血管を浮き立たせながら、団長は振り向く。


 そして、


「ほう」


 感心したような声を上げた。


 ゼノの姿は、既にそこにはない。そして、逃げた訳でも無い。


「はあ!」


 右斜め後ろ、上方から、剣先を突き立てる。

 だが、まるで分かっていたかのように、高速で、相当な重量の愛剣を振るってくる。

 触れ合った瞬間、重心移動を利用して勢いを残したまま、大剣を蹴り、飛び上がる。針葉樹にその足をつけ、再び敵へと舞い戻った。


 頭上からの攻撃。魔力で強化していなければ、到底てぎないその技で、風を超える速度で空をかける。

 正面から、背後から、頭上から、速度を維持したまま斬りかかる。


「…………」


 けれど、届かない。

 どれほど疾く走ろうと、如何に欺こうと、目の前の男性——騎士団長は、それを物ともせず防ぐ。


 そして、同時に反撃も受けていた。

 斬撃ではなく、武器な重量を利用した一撃は、次第にゼノの動きを鈍くしていく。すでに体の数カ所の骨には、ヒビが入っているだろう。


 だが、止まるわけにはいかない。

 止まれば自分の命が潰えると、ゼノは気づいているのだから。


 そうして、さらに何度も衝突を繰り返した。

 しかし、騎士団団長は、元部下のその技に翻弄される様子もなく、ただ、冷たく一言放つ。


「緩い」


 ゼノの目にも捉えられないほどの速度で、剣が振られた。構えも、何もない、ただ振り回しただけのそれは。


 ゼノの武器の寿命を、一気に削った。


 愛剣が、根元から折れる。それほど強く握り締めていた。シグレの護衛の任に就いてから、ずっと肌身離さず装備していた武器が、その役割を失う。

 それはつまり、ゼノにとって、騎士として戦う術が消え失せた瞬間だった。


「がっ」


 そのまま左拳で顔面を殴打され、吹き飛ぶ。

 何とか足から着地して、地を砕きながらも停止した。


 ついに、膝をついてしまう。


 隣には、何年もの時を共にした、もう生きていない、ただの刃が転がっている。


「あ」


「お前には、もう、必要ないからな」


 それは一体、何を意味するというのか。

 ゼノには理解し難かった。いや、理解したくなかった。


 ただ、


「あ、あぁ」


「騎士道ごっこは、いい加減卒業しろ」


 諭すような、静かなその声に、否定を叫びたくなるが、視界が黒く染まるような感覚に加えて脳がぐらつくように痛み、呻くような声しか出てこない。


「失望したぞ」


 男が何をしているのか、彼には気配でわかった。

 首筋に刃を当てられても、冷たい目を向けられても、ゼノの口からは、言葉どころか、ついに呻きも、悲鳴も、出てこない。


「騎士としてのお前は、これで終わりだ」


 その一言を聞いて。

 ゼノの視界は、唐突に純白に染まった。


少し出来が……え、いつものこと?申し訳ない(._.`)


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