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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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接触


「これが、本物か」


ある程度道を戻ったところで、ヤヨイとシグレは行き詰まっていた。


薄緑色の光の幕が、天高く伸びている。初見だとすり抜けられそうに思うほどそれは透明度が高いが、触れれば込められた魔力が放出され、吹き飛ばされるだろう。

これが本当の、結界の使い道である。


何人も通ることを赦されない、絶対の壁。魔物だけを対象とし、人が認識できないほどまで薄められた、村に貼られた結界。ヤヨイたちの知るそれとは天と地ほどの差がある障壁が、そこにはあった。

一部を破壊するだけでも精神力が尽きてしまうだろう。いや、そもそも待機中の魔力が尽きてしまうかもしれない。


だが、ヤヨイ達に限っては、ここを難なく突破する術がある。


「やれる?」


「ああ。壊すわけでも、丸ごと奪うわけでもないからな。まあ、少し時間はかかるが」


結界の反撃を受けないぎりぎりの距離まで近づき、掌を差し出し。


「再構築<リメイク>」


そして、魔法を発動した。

そう。ヤヨイの支配魔法さえあれば、何の問題もない。もちろん、自分たちだけを対象とするとやはり力尽きてしまうので、人間を対象外とするだけだ。

もし、それが可能であったなら、ゼノを置いてくる必要もなかったのかもしれない。


魔法は、細かな条件を設定する分、消費する魔力も大きくなる。この結界の威力は伊達ではないが、じっくりと時間をかければ消耗はわずかで済むだろう。


ヤヨイの精神力は、常人の比ではない。隣に立つシグレと同様、魔法のエキスパートなのである。


「ところで、聞いてもいいか」


「……何?」


「どうして、あんなことを?」


あんなこと。

それは、ゼノの意を組み、2人して戦略的撤退——いや、仲間を置き去りにしたことだ。


「それは、その」


「……お前が、いや、あいつにしたって、殿<買って出るのも、許すのも、違うと思った。だって俺たちは……仲間だろ?」


珍しく言い淀むその様子に気がそちらに向きかけるが、魔法に集中したままヤヨイは重ねて尋ねた。


先日2人から伝えられた言葉は、まだ記憶に新しく、それ以上に、心に残っている。だからこそ、ヤヨイはあの選択が、どうにも納得いかない。


しばらく黙ったまま、シグレは迷い、ヤヨイは魔法の改変を続ける。


ようやく魔法が効いてきた実感を得たところで、シグレは、震える声を制するように、ゆっくりと話し出した。


「……いつだって、ゼノは私の護衛だった」


「……ああ、だから今でも変わらず、お前のために——」


「違うの」


ヤヨイは同調しようと、彼女が気を重くしないよう、言葉を返そうとして、そしてその言葉は、彼女の声に掻き消された。


一体、何が違うというのか。


疑問が頭の中をぐるぐると蠢き、嫌な予感に虫唾が走る。だが、それでも、堰を切ったように彼女は続けて告げてくる。


「ゼノが私に忠誠を誓ってるのも、護衛であり続けるのも、確かに私のためになってる。でも、本当は」


間を置いたのは、彼女がその事実を恐れたからか、それとも、自分に対して気を使ったからか。


どちらか判別もつかないまま、すぐに続ける。


「私のためなんかじゃ、ない」


「…………え?」


その一言は、まるで、今までの話が全て嘘だったかのような、否定だった。



❄︎



さらに時間は遡り。

シグレが衝撃の告白をした、ちょうど二十四時間前のこと。


「誰だ」


突如差し込んできた眩い光に、目を庇いながら、女はその元凶に呼びかける。

すると、返ってきたのは。


「いやはや、待たせてしまったすまない」


少し甲高い、青年の声だった。

人を待たせた者の様子とは明らかに違い、どう聞いても笑っているようにしか感じられない。


来ている服は黒い礼装で、どう見ても高級な物だ。

地下室の暗い雰囲気とは似ても似つかない豪奢な青年は、口元に微笑を貼り付けたまま頭を下げて来た。


「その割には、随分と愉快そうだが。お前が陽動に失敗したせいで、こちらも負傷者が多数出た」


「ほら、死者は出ちゃいないだろう?予想通りだ」


「…………」


怪我をした張本人達の前でよくもそんなことが言える者だと、呆れを通り越して冷たい視線を向ければ、彼は少し居心地悪そうに——することもなく、自身の黒髪に手をやりながら笑って謝罪を重ねてきた。


「久々に旧友の姿を一目見て、多少胸が踊ってしまってね。いやー、すまない。こちらとしても予想外だったんだよ。まさか、宮廷魔導師が何人も派遣されるとは」


あのフードの男も含めてね。そう言ってこられては、否が応でも気づくものだろう。


彼が、あの戦いにおいて、ただ傍観していたということに。


一層苛立ちが増すが、今は話を進めるのが先決だと考え、女は無視を決めた。


胸が踊っている。どうやらそれは本当らしい。

心底嬉しそうに言うその声を聞けば、誰でもそう思うだろう。


「旧友、ねえ」


彼が何者か。それを知らない者ならば。


「これからそらを相手に何か仕掛けるってのに、よくもまあ、そんなことが言えるな」


「うん?」


「女神に何をするつもりだ。人質に取るか。それとも見せしめに殺すか。それとも——」


「君は何を言っているのかな?」


すると、目の前の青年は、素っ頓狂な顔で、呆れるような視線を向けてくる。


「まさか君は、私が彼女を傷つけるために、わざわざここに来たとでも言う気かい?」


「そうとしか考えられないだろう。これは、単なるあなたの我儘——いや、正当な報酬じゃないか」


ここにいる反乱軍と青年は、今、協力関係にある。

話を持ちかけてきたのは彼の方だが、互いに相手の頼みを聞くという話だった。それがまさか、女を手に入れるためだなどとは呆れる他ないが、それでも無碍にするわけにはいかない。


「それこそ大きな誤解だね。これも、君たちの望みのためにする、栄誉なことだ」


だが青年は、女が一度は否定した考えを、爽やかな笑みを崩さずに、口にした。


「あたしたちと何の関係が」


「君たちの子供を取り返すのに、一体どれだけの戦力がいると思う?まさか、ここにいる人員だけで、それを成すとでも?」


痛いところを突かれた。

そう。ここにいる者たちだけでは、どう考えてもそれを成し得ない。それは、ここにいる誰もが理解していることだった。

反乱軍は、国と正面衝突するつもりも、国民に手を出すつもりもない。しかし、それでも自分たちの願いを叶えるためには、裏口を通るにも非常に不安だ。


だが、それでも。


「やるしかないなら、やるさ」


それだけの覚悟を、皆胸に秘めている。

一度深呼吸をして落ち着き、改めて女は尋ねた。


「その言い方からすると、なにか?あの女神は、あたし達の仲間なのか?」


「それこそないね。彼女は平穏を望んでここに来たんだ」


そう言うと、男の気配が、僅かに変わった。


「なあに、ただ、ほんの少しだけ」


男の声は、どこか対話するそれではなくなる。独り言のように、さらに呟く。


「友達として、力になって貰うだけさ」


そうやって微笑む様は、人ではない、化け物のような気配を帯びていた。


それからしばらく言葉を交わし、いくつか約束を取り付けられる。結構時刻は、明日の昼前。目的は、目の前の協力者を、彼女の元へと送り届けること。

最終的な目標を知らされないまま、散々この地下室の厳粛な雰囲気をぶち壊しにした男は、風のように去って行った。


「なあ」


女の側で話を黙って聴き続けていた茶髪の男が、彼がいなくなった後、口を開き。


「あいつを、信じていいのか?」


困惑気味に、そんな疑心に満ちた声で尋ねてきた。


彼を落ち着かせるために、またも言い聞かせるように。けれど、どこか、自分をも説き伏せるように、呟く。


「信じるしかない」

ヤヨイ、ゼノ、シグレ。それぞれが主人公として活躍してほしい……。


本日(7/5)の投稿は遅くても夕方になります。楽しみにしていた読者の方々、本当に申し訳ありませんm(_ _)m


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