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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
37/99

仲間

大変遅くなりましたm(_ _)m


天獄からの脱獄。


その報せは、やはり瞬く間に天界中へと響き渡った。


先日の天戒違反に続いての罪状に、天界唯一の軍隊――天軍の上層部は頭を抱えた。いかに天軍といえども、ここまで来てしまうと擁護しきれない。彼らはいまだサリアを捕縛を最優先としているが、今度の指令は、『生死を問わず彼女を止めること』だった。

サリアはどうやら、下界へと向かったらしかった。人に会ってくる、と律儀に伝言を残し、牢屋ごと破壊していったそうだ。




「お祖父様!」


 ヒュギエイアは、先日会ったばかりの親族の名を叫びながら、ある建物へと入って行った。門番達も彼女の素性は分かっているので、止めることなく案内役を買って出ている。


「こちらです」


「————っ!?」


 その場の惨状に、思わず彼女は絶句した。

 切り傷や火傷を全身に負った負傷者達が、部屋の端に並べられている。

 男女計12柱の神々の姿が、そこにあった。


 慌てて近づき、腰に下げたポーチから薬を取り出し、傷口へと余すことなく塗る。


 他にも治療に来ている神がいるようで、気絶はしているが、すでに完治している者もいた。


 神は基本的に死ぬことがない。

 それは天界中で知られている事実だが、例外も存在する。

 簡単に言えば、例え永遠とも言える寿命を手にしていようとも、人間と同じように怪我を負って死ぬということだ。だが、それも恐らくはとしか言いようがない。


 今まで、ちょっとした怪我を負う程度の問題しか起こらなかった。神々は個々の能力を持ち、それを使えば命に危険が及ぶような事態になることがないからだ。


 では、なぜこのような状況に陥ったのか。


「誰が、こんなことを」


 明らかに、神同士が戦ったが故に他ならない。


 彼らがなんらかの任務で天界を離れることは、ヒュギエイアの耳にも届いていた。それは彼女が、この一件になんらかの形で関わっているからに他ならない。


「あなたもよく知る神物よ」


 ある程度治療が済み、後は完治するまで様子を見る段階になった頃、部屋の中央から、どこか妖麗な声が響いてくる。


「あなたは?」


「私はゼアラ。彼女の犯罪を目撃したものよ」


 夜色の髪の、静かだが独特の雰囲気を放つ女性だ。

 彼女が立っているのは、この部屋の司令官が座るような椅子の隣。

 ヒュギエイア達がいる出入り口付近とは反対の壁が透明な水晶で覆われており、そこに映像が映し出されるようになっている。

 人類の発明で言うなら、超大型液晶テレビとでも言うのだろうか。


 おそらくなんらかの監視の任についているのだろうが、ヒュギエイアには彼女が何を言っているのかさっぱり分からなかった。


「彼女?犯罪?何を言って——」


 いや、気づかないふりをしていた。


「あなたも薄々気づいているんでしょう?ヒュギエイア。彼らがなぜ怪我を負い、命を落としかける羽目になったか」


「……嘘よ」


 その可能性は、他のそれよりも確実と言っていいほどありえないもので、しかしそれが最も現実的なものだ。


「女神サリア。彼女が、今回の元凶であり、彼らを攻撃した張本人よ」


 聞きたくなかった言葉が、ゼアラの口から語られる。

 咄嗟に、ヒュギエイアは異論を唱えようとした。


「そんなっ!?何かの間違いではっ!」


 何の根拠もない。ただ、サリアと何度も言葉を交わし、共に時間を過ごしたことで、彼女がそんなことをする神ではないことは分かる。


 最も、サリアが今まで猫を被っていたと言うのなら、話は別なのかもしれないが。


「現にここに戻って来た彼らは、彼女にやられたと証言している。もちろん、貴女の祖父にあたる、アポロンもね?」


「…………」


 その発言に、今度こそ言葉を失う。

 自分の親族が、そう証言している。たとえ友であろうと、信頼度が高いのはどちらか。そんなことを考えたくはないのに、次々と勝手に頭に浮かんでくる。


 それらから逃避するために、部屋の有り様を改めて見回して、そして、壁の水晶が映し出しているものを悟った。


「あ」


「ようやく気がついたようね。私たちが先程から、一体何を見ているのか」


 天界の建築物とは一風変わった住宅街。公園や学校、コンビニなどが立ち並んでいる。


 そう、そこは、紛れもなく下界。

 そして、そこにいるはずの者達は、神々が見守るべき、人だ。


「あれが————人?」


 その町は、所々から煙が上がっていた。

 酷い場所では家が全焼していたり、自動車が爆発を起こしていたり。


 そして、人————そう呼ぶには不相応な、狂気に塗れ、どう言うわけか赤い瞳をしている暴徒達が、武装し、次々と他のそれらに切り掛かり、殴りかかり、殺していた。


 人が密集している場所は、すでに血で溢れている。


「なんで、こんな」


「さあ、でも、少なくとも、降りて行った彼女が原因でしょうね」


 あくまでも人ごとのように、目の前の女神は言った。水晶を操っている神々の方はといえば、一部は彼女のようでいて、一部は本能的に拒絶しているのか苦しそうに目を逸らしている。


 サリアが、この惨状を、今のアポロン達以上の苦しみを、生み出した。

 その信じがたい現状が、より彼女を困惑させる。いつの間にか、ヒュギエイアはゼアラの言葉を少しずつ信じかけていた。


 だが、心の底では、ありえないと、そう思っていた。友を最後の最後まで信じたかった。


 そうだ。きっと、彼女が会いに行ったのは、あの灰色の髪をした男神だ。今頃、どうやって冤罪を証明するか、理知的な彼女は考えている。


 そう、思い込もうとしていた。


 次の瞬間、その光景を目にするまでは。


「今、光が」


 水晶の中の異質な光景に、思わずその一言がこぼれ落ちた。


「今の地点を拡大して」


 窓から漏れる光に気づき、今度は、建物内の様子が映し出される。


 そこに立っていたのは、そこにいるはずがないと信じていた、女神。


「サリア」


 そして、彼女は——



 ❄︎



「彼女は、私たちの目の前で、人の命を奪いました」


「…………」


 ヤヨイ達は、何の反応も返さずに、その話を聞いていた。

 それでも、ヒュギエイアは自分が経験したことを、包み隠さず話していく。

 具体的にどうその人間が殺されたのか、そういったことには何一つ言及せずに。


「女神サリアは邪神と認定され、天界から永久に追放されました。その後、彼女を止めるべく何柱もの神が下界へと向かいましたが、どうなったのかは分かっていません」


「行方をくらましたんですか?」


 疑問に思ったシグレが、そう尋ねる。

 その質問にヒュギエイアは黙ってしまったが、今度は時間をかけたが答えた。


「というより、私たちに探すことができなくなったのです」


「?」


 初めは漠然と、自分達に起こったことを話し始める。


「天界は、ほぼ壊滅状態に陥りました」


 そして、その衝撃の一言に、流石の3人も、それぞれ動揺を見せた。


 ゼノとシグレは、純粋に驚いたと言った様子だ。彼女の話を聞いて、自分達が信頼を置くリーダーである法皇の存在に感づき、そして法皇の故郷がどうなってしまったのか興味を抱いたのだ。


「一部の神々が反乱を起こし、建造物を、資源を、そして別の神々の命すらも奪い、壊し始めたのです」


 だが、ヤヨイは、動揺しているのは確かだが、話が長引くに従って感情が気配になって溢れていた。


 今も机の上で拳を握りしめ、震わせている。


「この騒動の最中、サリアと征伐に向かった神々は交戦していたようですが、天界は混乱に陥り何もできなかった。どうなったのか、誰も認識していません」


「お前は」


 ただ淡々と語り続けるヒュギエイアに、とうとうヤヨイが、初めての反応を見せた。


「はい?」


「お前は、それを信じたのか」


 その言葉は、果たして彼女に対する質問だったのか。

 この場にいる誰もが、それを把握することができなかった。


「信じる他、ないでしょう」


 苦しげに、悔しそうにそう嘆く彼女の様子を、じっと見つめて。


「——そうか」


 沈黙が続いた後、ふと席を立ち、庭へと出て行った。



 ❄︎



「ヤヨイ」


 それからしばらく、シグレとゼノはヒュギエイアから話を聞いていた。最も、先ほどのように内容が濃いものではなく、法皇はどんな様子だったとか、なぜこの街にいるのかとか、そういったものだ。


 そして、今、夜風に吹かれて頭を冷やしている仲間の元に、彼女は向かい、声をかけた。

 隣には、当然のようにゼノが立っている。


「私には——私たちには、ぶつけていいよ」


 まだそっぽを向いたままのヤヨイだったが、


「あいつがそんなことするはずがない。そんなこと、望むはずがない!」


「あいつは俺1人のために、長い時間をかけて償っていた。そんな人に優しいあいつが、そんなこと!」


 そして、きっと信じていないとでも思っていたのだろう。仲間の表情を見て、その激情が一瞬止む。


「私は、私達は、どれを信じればいいかなんて、分からない」


 ただ、静かに、彼を、悲しげに見つめて。


「分かってるよ!俺の言ってることは——」


「でも、私達は、あなたを信じるよ」


 そんな、他愛のない、一言をぶつけた。


「……何で」


「まだ、半信半疑だけど。出会ったばかりの人よりも、仲間を信じるのは当然でしょう」


 少しだけ微笑んで、彼の独り言にも丁寧に返答する。


「お前が嘘をつくとも思えん。騙されている可能性は大いにあるが」


 ゼノも、いつもの仏頂面で、そう言った。


「そう、か」


 完全とは言えないが、無償の信頼を寄せてくる仲間に、色々と思うところはあるらしい。


「いつか、もっと、ちゃんと話す」


 そんな約束を口にして、また落ち着きを取り戻した。


「うん」


「ああ」



 ❄︎



 そして、それから気を取り直したヤヨイは、先ほどのゼノの言動に、遅すぎながらも苛立っていた。


「ところで、ゼノ。俺のことバカにしてるよな?」


「何のことだ」


 知らん顔で、どこか面倒そうに返す。


 2人の相変わらずの仲に、遠巻きに眺めて笑っているシグレの姿を、ヤヨイは横目で見ていた。

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