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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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忠告

遅くなりすみません

 

 来た道を今度は戻って、3人は洞窟内を歩く。


 襲ってくる魔物はゼノではなく、シグレが率先して狩っていた。どうやら彼に対する配慮らしいが、ヤヨイには全く疲れているように見えない。

 たった一人で龍と殴り合ったのだから、多少なりとも疲労するはずだ。そう思ったが、来た時とちっとも変わらない澄まし顔で隣を歩いている。時折休憩を取ってはいるが、その様子を見るに、シグレとヤヨイのためなのだろう。

 もはやヤヨイの頭には、こいつは本当に人間なのかという疑念しか残っていなかった。


 洞窟を出た頃には、すでに夕方だった。

 しかし、この調子なら日が完全に沈んでしまう前にラークルへ辿り着くことができるだろう。そう思って歩き出して、数分後。

 ヤヨイ達の目の前に、それは現れた。


「————」


 フード付きのローブで体の大半を覆っている、謎の集団が、重苦しい雰囲気を纏って、夕焼けに染まった森から出てくたのだ。

 すでにゼノもシグレも臨戦態勢に入っている。

 そんな一触即発の状況で、相手の集団からは、たった一人、おそらく女であろう、線の細い人物が歩み出て来た。


 それはそっとフードを外し、短い赤髪と黒い瞳を露わにする。


「また会ったな」


 女にしては少し低い、暗い声音。

 彼女は、名前も知らない、反乱軍の一員だった。




 ヤヨイ達の殺気が、さらに研ぎ澄まされていく。

 しかし、その様子を見た彼女は、得物を取り出すでもなく、魔法の準備を始めるでもない。

 ただ、どこか呆れたように微笑むだけだった。


「そう慌てるな。付いて来い。話がある」


 誰かに見られたらろくなことにならない。

 そう言って、彼女達反乱軍は、森の中へと入っていった。




 ヤヨイ達が辿り着いたのは、森に隠された地下室だった。

 おそらく土の魔法で作り出したのだろう、人の手ではこうはならないほど角が整った、綺麗な広間だった。

 最も、家具などは殆ど無いので、急拵えの避難所ではあるが。


 そんな殺風景な場所で、未だ警戒を緩めないままに、改めて二つの集団は対峙していた。

 しかし、先ほどのように睨み合っているわけではなく、動向を把握しているだけだ。考えてみればすぐに思い至るが、互いに敵対しているわけではない。

 逆にいえば、味方でもない。


「どうやって暮らしてるんだ」


「狩った魔物の肉を食ってる」


 ヤヨイの独り言にも、どうやら何の抵抗もないようで、反乱軍の女は、さも当然のように言葉を返してきた。


 普通の動物ならば、死骸は自然と土に還る。だが、魔物はその生まれ方故に、特殊な最期を迎えるのだ。少しずつ体が朽ち果てていくように、魔力へと変化して消えていく。

 それ故に、乱獲しても時間さえ経てば何の痕跡も残らないのだ。潜伏中の食料源としては、最適だろう。


 最も、ヤヨイにとってはそんな状況に陥ることだけは、絶対にしたくないものである。


「お前たち、あの女神に会ったのか?」


 そんなことを考えていると、彼女は、聞き捨てならない質問を、世間話でもするかのように平然と言ってきた。

 多少心がざわつくが、ヤヨイも、可能な限り普通に言葉を返すため、落ち着かせる。今、彼らに弱みを見せられるわけにはいかない。エイアが、自分にとって重要な証人であることを、知られてはならない。


 彼女は敵でも、味方でもない。

 つまり、これから敵対する可能性が残っているのだ。


「なんで答える必要がある」


「あんた達と私達の立場は、そう変わらない。敵の敵は味方、とも言うだろう?」


 だが彼女は、お互いに気を許さないこの状況を、あっさり否定した。


「それに、こっちとしちゃあ、助けてもらった恩義ってもんがある。あの影を倒してくれなかったら、私達はあの場で一人残らずやられていた。——だから、忠告だけでもしとこうと思ってな」


 恩義。彼女は確かにそう言った。

 シグレ達に聞いていた話とは全く違う様子を見せる彼女は、ふと真剣な表情で、ヤヨイを見つめる。まるで射抜くような視線だが、それに敵対の意思が含まれていないため、素直に話を聞くことにした。


「忠告だと?」


「あの女神とは、今後関わるな。別に、あの女神が悪いと決まったわけじゃないが……」


 どこか言い淀む彼女に、今度はシグレが話しかけた。


「あなた達に手を貸していた何者か、が関係してるの?」


「……ああ、そうだ」


 反乱軍に手を貸している者がいる。

 果たしてどこでそんな情報を手に入れたのかヤヨイは知らないが、女はゆっくり頷いた。


「そいつと連絡が取れない状況でな。緊急時の待機場所にここを選んだのと、あの女神とは、決して無関係じゃないはずだ」


 少しだけ苛立ちを見せながら、彼女は毒づく。


「利用するのか、利用されるのか、敵なのか、味方なのか。少なくとも、場合によって私達は、あんた達の敵に回ることもある」


 そう告げる彼女は、何故か、残念そうだった。

 少し考えて、ヤヨイは答えた。


「悪いが、その忠告は聞けないな」


 エイアから、サリアの話を聞く必要がある。

 例え、多少の危険を犯すことになっても。


「そうか。なら、警戒だけは怠るなよ」


 そう言って、彼女は手を軽く振った。

 用は済んだとばかりにこちらを追いやる姿に、苛立ちを覚えながら、ヤヨイは2人を率いて出口の階段へ向けて歩き出す。


「ああ、そうだ。そこの巫女」


 だが、彼女の最後の呼びかけに、シグレの足が止まった。


「何?」


 すぐ聞き返したシグレだが、女はしばらく口を開かなかった。

 葛藤しているのか、その拳は、強く握りしめられたままで。彼女を見守る仲間達も、どこか息を飲む様子で。


「アキラを、知らないか?」


 そして、ポツリと。

 その名を、口にした。


「名前?……聞いたことは、無いけど」


「……そうか」


 くたびれたように、女は地面を見つめる。


「悪い、おかしな事を、聞いたな」


 後ろ髪引かれる思いを必死に引き剥がすように、ヤヨイ達は、階段を上る。



 ❄︎



 森を突っ切るように作られた道は、既に闇に満ちていた。

 そんな中、シグレは考え込むようにしながら、ヤヨイに尋ねる。


「ねえ、ヤヨイは、聞いたことないの?」


 彼女の脳裏には、一つの可能性が浮かんでいた。

 初めてあの女性が自分の姿を確認した時、彼女は明らかに動揺していた。そして、今回も、ヤヨイでもゼノでもなく、自分に聞いてきた。


 きっと、関係があるのだ。

 その特徴的な名前と、黒い髪は。


「無いな」


 今は金色に染めている一応は幼馴染の少年は、即答した。だが、考えてみれば当然のことだ。ヤヨイは、シグレしか知らないと、前にも言っていた。この国に家族と呼べる者は、シグレと父親の2人しかいないと。


「そう」


 未だちらつく可能性に苦しみながら、とぼとぼと歩き続ける。


 そして、しばらくしてから、少年はある事を打ち明けてきた。


「実は、エイアの前にも、女神に会ったことがあるんだ」



 ❄︎



「これがその薬草で合ってるか?」


 玄関で出迎えた時からずっと不安げな薬剤師は、ポーチから取り出した青い花を見て、笑顔咲かせる。


「はい、間違いありません。ありがとうございます!これで、あの子達を苦しめる病を、治すことができる」


 念のため、教会の者と偽ってシグレの回復魔法を試してみたのだが、何の効果も無かった。

 彼女の魔法が病気には効果が無いものなのか、それとも、この病気が特殊なものなのか。定かではないが、これでその病も無くなる。


「薬を作り終わったら、サリアの話、聞かせてくれるか?」


 2人きりの時ではなく、シグレとゼノも同伴しているこの瞬間に、それを尋ねた。そのことにわずかに動揺したようだが、同じ様子を見せるはずの2人の姿をチラと見て、納得したように目を細める。


「どちらにしろ、調合には時間がかかりますから、配れるのは明朝になるでしょう」


 それはつまり、すぐにでも報酬を支払うという事だ。


「約束は約束です。後悔しないでくださいね」


 覚悟を決めろと、そう言っているのだ。

 これからする話は、ヤヨイ達が聞いていい者ではないと。


 無理をしても仕方ないので先に食事を済ませ、食器を片付け、そのまま椅子に座る。

 戻ってきたエイアは、自分も覚悟を決めていたのか、それとも休んでいただけなのか、


「昔、ある神が存在しました」


 長い時間をかけてから、どこか遠くの景色を見るように、話し始めた。


「彼女は、私が生まれるずっと前から、天界にいました。神々は、人々の信仰の念によって、存在が確立します。しかし、誰も彼女のことを知らなかった。天界にある資料には、何も記されていなかったのです」


 懐かしむように、口元が少しだけ歪んでいる。


「何を司るのか、何が彼女を生み出したのか。そんな正体不明の神は、ある日、大きな事件を引き起こしました」


 彼女の声が、少しだけ、震え始めた。


「天界とは別の、人々が生きる世界に足を踏み入れ、そして、彼らを殺し始めたのです」


 その言葉に、2人の気配に動揺が混ざったのを、ヤヨイは感じ取っていた。しかし、それ以上に、この後紡がれる言葉が、真実ではないことを、心の底から祈る。


 だが。


「神名を、サリア。彼女は、私達が天界から堕ちる原因を作り出した、悪魔なのです」


 そんな希望は、あっけなく途絶えた。


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