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神様だからって許されると思うなよ!  作者: 有彩 朱雀
第2章 解き放たれし騎士
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剣舞


普段に比べて空気が少しばかり薄い、山の中腹。

そんな場所に満面に咲き誇っている花々の花弁を吹き散らして、その土色の巨体は姿を現した。


「ッ!」


先ほどの眩しさとは違う理由で、ヤヨイは目を庇った。再び周辺を見渡せば、それでも尽きることのない花びらが、未だにこのオアシスを彩っている。

その場所にたたずむ、光り輝く鱗を持つ魔物――否、幻獣。おとぎ話くらいでしかその姿を見ることのない、龍が、そこにいた。頭から尻尾の先まで、全長およそ二十メートル。おそらく、これでもまだ龍としては小さい部類なのだろう。


さすがのシグレとゼノも、その姿は初めて拝むらしい。どこか夢でも見ている様子だが、すぐ臨戦態勢に入った。


「やはり、そう簡単に通してくれるわけではないらしいな」


剣を構える騎士が、冷静に呟いた。

ヤヨイたちが目指す薬草は、この花畑を抜けた先にあるらしい。


「どうするか、できれば、きずつけたくはないんだけどな」


「……うん」


この地龍は、この山にいわゆる守護者として住み着いている。この龍がいなくなるだけで、ここの生態系は大きく変わってしまうだろう。下位の魔物と同じく、魔力から生まれるとも限らない。


つまり、ヤヨイたちはこの龍を相手に、本気で挑むわけにはいかないのだ。多少のけがを負わせる程度ならまだしも、手足を切断するなどもってのほかなわけで、そもそもそううまく倒せるとも思えない。


「来るぞ!」


ゼノの掛け声と同時に、大気が、魔力が渦を巻く。

再び響き渡る龍の咆哮。その衝撃波と同じくして、巨大な魔法陣が空へと描き出される。


「剥奪!」


この世界でそれが起こるのかヤヨイには分からないが、5メートル程の隕石が虚空から発生し、いくつも空から降り注いでくる。


「改稿!」


そして、すぐに支配魔法によって、魔法陣が書き換えられた。

方向、速度、大きさ。もはや全く異質の魔法の一部となった大岩は突如砕け、地龍へ向けて、雨のように降り注いだ。その礫は、軽量化した分、魔法による移動速度が数倍に跳ね上がり、先端がより鋭くなっている。


それらはまっすぐ龍の体を貫いて、花畑を無残な姿へと変えた。


かに見えたが、


「なっ!?」


思わず、目の前で起こった出来事に目を見張った。


支配魔法には、ほかの魔法に対処しきれない場合が存在する。


まず思い浮かぶのは、純粋に、魔力が足りない場合だ。魔力は自然と大気中に生まれてくるものだが、それでも魔力の濃度には差が見られ、相手の魔法を奪えるだけの余裕がなくなるときもある。それに何より、支配魔法に必要な魔力は相手の魔法にかけられた分の二倍ほどで、こういう状況が最も多い。

また、相手の技量が高すぎてもだめだ。来るとわかっていても対処できないのがこの魔法の利点ではあるが、相当の実力者であれば抵抗することも可能である。

そして、今起こった問題は。


「一瞬だとっ!?」


純粋に、魔法の発動から効果が及ぶまでの時間が、支配魔法を発動する暇もないくらいに短いことだった。


同じ属性ということもあって少し改変しただけで跳ね返したのだが、自らに突き刺さりかけたその岩を、地龍はさらに魔法をかけて、粉々に砕いたのだ。魔法が効かないわけではない。ただ、もはや殺す気でかかっても、死なせるどころかちょうど隙を作れる程度ではないか。

ヤヨイの支配魔法は、相手の魔法を利用して攻撃するもので、その魔法自体には何の殺傷性もない。


「でも、相殺はできる」


確かに、これにより、ヤヨイにできることは限りなく減った。


だが、ヤヨイはそのことに少しも不安を感じない。ここにいるのは、ヤヨイだけではない。

前とは違い、二人の心強い仲間がいる。


「――――」


目くばせをして、3人は各々行動に移ろうとした、その時。


「ヴォゥ!」


三度、龍の叫び。

魔法が降ってくると、そう思い支配魔法の準備に取り掛かるヤヨイだが、そこで違和感を感じた。集中力を高めている間、思わず躓いてしまうほどの地響きが起こったのだ。


「これは!?」


その正体は、もちろん地龍だった。

しかし、先ほどの魔法とは違った方法で。


単純に、こちらに向けて突進してきたのである。


魔物は、基本的に魔力を扱い魔法を御すことができる程度の知能を持っている。しかし、彼らは、動物が火を恐れ対処に困るように、相手の魔法にそれほど緻密な戦略を立てることがない。

だが、それはあくまでも、下位の魔物の話で、もしそれが、上位になるにつれ、物理的な力だけでなく、精神的なものまでより高位であるとしたら。


当然、ヤヨイの魔法にも容易に対策を取るだろう。、


「ヤバい!?」


あの巨体とゼロ距離で対峙しなければならないとなれば、相当な苦戦を強いられるだろう。

自分ごときの強化魔法では何の効果もないと、ヤヨイ自身もわかっている。


そして。


「ッ!」


無数に生まれた不可視の斬撃が、龍の身体を傷つけようとする。しかし、人の体を容易に斬ることが可能な付加術も、龍の強靭な鱗の前では焼け石に水だった。


彼我の距離はあっという間に縮まった。


魔法よりも、付加術よりも遥かに凶悪な鋭爪が、ヤヨイへと迫り、そして一瞬にして止まった。

辺り一面を、先ほどよりも凄まじい圧力が覆う。


「————」


受け止めたのだ。

人の身では捌き切れるはずもないその一撃を、ゼノは剣撃一つで往なしてみせた。


「下がっていろ」


彼はヤヨイとシグレにそう言って、龍の目を見据えた。

自分よりも遥かに小さな人間に今の攻撃を防がれたためか、爪を地面に突き立てたまま固まっていた龍だが、ゼノの気迫に攻撃を再開する。


「いいのか?」


「……うん、でも、しばらくは様子見」


呪いを解かれ、回復等の援護に回るようになったシグレ。それに加え、魔法を使ってこない相手ならば、ヤヨイには何もできることがない。

いや、それだけでなく、ゼノは下がっていろと言ったのだ。ただ離れて見ていろと、まるで自分を追い詰めるように。


最も、龍相手とはいえ、今の光景を見たヤヨイには、彼ならば倒すことは造作もないのではないかと、そう思えてしまった。


ゼノは再び、人間業とは思えない絶技を披露している。


一瞬で龍の目前まで駆け寄り、それを見切られて頭突きを浴びせられそうになるが、剣で薙ぎ払う。ヤヨイの予想では、あの剣には相当量の魔力が込められているだろう。

ゼノは魔導師ではないが、魔力を扱えるのは魔導師だけではない。肉体そのものに魔力を込めて、自身を強化する。それは魔法とは違い、ただ魔力を纏っているだけに過ぎないが、単純故にその威力はまた凄まじいものだった。


ゼノの一撃は、龍の一撃に負けていない。

それを超えているとまではいかないが、そもそも拮抗している時点で有り得ないことである。


龍の身体を足場に、相手を斬るためではなく、ただ攻撃を防ぐためだけに剣を振るっている。おそらく手足を切断するくらい、あの騎士には造作もないことだった。

おそらく一撃喰らえば、例え高濃度の魔力を纏っていても、瀕死にはなるだろう。だがそれでも、ただ一本の剣で、時には手足を使って戦う。


力だけではない。ゼノの剣技そのものがとても洗練されていて、ヤヨイには殴り合いというよりも、鮮やかな剣舞に見えた。


そして、空中から仕留めようとでも思ったのか、翼を広げた瞬間。


「はっ!」


龍の首筋に、今まで以上に力のこもった一撃を加えた。


「あー、そう」


不意を打たれ、地に叩きつけられた龍は、白目を剥いて倒れた。




龍を気絶させるという偉業をたった一人で成し遂げたゼノは、薬草採取に向かう途中も、それほど疲れた様子を見せなかった。


(本当に、騎士団って何)


果たして、自分は必要だったのだろうか。


驚きを通り越して呆れていると、ヤヨイはふと視界の端に青く光る何かを捉えた。

二人に声をかけそちらへと向かえば、そこには異彩を放つ青い花が数輪咲いていた。


「これだな」


それを摘んで、ヤヨイ達は、来た道を戻り始める。

眠ったままの龍が、今尚意識を失っていることを祈りながら。


主人公なのに……まあ、ほら、よくいるよね、主人公よりも活躍するキャラ。


コメディ要素は少なめです(今更)


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