プロローグ
2章、開始!
真っ赤に染まっていた。
木々も、花も、土も。
それだけではない。足場は砕け、大木は破片と化している。いったいどうすれば、こんな惨劇の場が作られるというのだろうか。
「━━━━」
二人の男が、雄たけびをあげながら各々の得物を振るう。
それらがぶつかり合うたびに鳴り響く金属音だけが、今この場を支配している。一瞬のうちに何度も切り結ばれる両手剣と長剣。その鳴り止むことのない音が、両者の卓越した技量を物語っていた。人間離れの荒業は、化け物と罵られる原因ともなりうるその剣技は、それでも見る者の言葉を失わせただろう。
彼らのそばには、もう動くことのない骸が横たわっている。それも、一体や二体ではない。それらはすべて、彼らの手によって命を失ったものだ。今なお続く剣舞を止めようとした者の末路。それほどに、この戦いは━━殺し合いは、幻想的で、優雅で、そして残酷なのである。
だが、その夢とも地獄とも思える時間も、次第に終わりが近づいていく。少しずつ、その力に差が出てきたのだ。どちらかの体力に限界が出てきたわけではない。ただ、もとより彼らの能力は拮抗してなどいなかったのだ。段々と遠ざかっていく彼我の距離に、若い方の男は打ちひしがれそうになるが、それでも満身創痍で剣を振り続けた。
しかし、いつしかその差は圧倒的に開き、ついに彼は膝をついてしまう。
「失望したぞ」
相手の男は、気づけばその笑みを消していた。その大剣が、俯く男の首に当てられ。
何事か呟いた直後、剣閃がきらめいた。
「……どうしてこうなった」
まだわずかに幼さが残る金髪の少年━━ヤヨイは、目の前の光景にそう嘆いた。
暑すぎない陽射しが降り注ぐ、青空の下。森を横切るように作られた道での出来事だ。
近隣の町から来たという商人のけがの具合を見ている、黒髪の少女。赤い瞳はまるで宝石のように輝いて、日に照らされる純白のローブと合わさり、より彼女の静かな魅力を引き立てていた。
「……大丈夫です、すぐ治りますから」
シグレはそう微笑んで、商人の足の患部に手をかざした。暖かい光を纏う複雑な記号で構成された陣がうかび、傷口を癒していく。
晴れやかとは言い難い声のトーンと、僅かにぎこちない笑みは、本来ならマイナス要素に違いない。がしかし、見方によっては恥じらいを隠すようにも見えるし、その隠し切れない一所懸命な心は微笑ましくも思えるのだ。現に、ヤヨイはそれにやられて反対することができなかった。
あくまでも、直接的には。
ヤヨイはそっと、隣に立つ彼女の騎士━━ゼノに視線を向ける。
(おい、いいのかこれ、まずいだろ)
(シグレに人助けを勧めたのはお前だろう)
互いに視線だけで情報をやり取りする。それができたのは、今この状況で何が悪いといえるのか、それが一つに限られているからこそだった。
ヤヨイたちは、今現在逃亡生活を余儀なくされているのだ。必然的に、無用な接触を避けることが重要視される。にもかかわらず、姿を見せただけでなく、話しかけ、傷の手当までしているのだ。
確かにヤヨイも、悪いことだなどと思うほど鬼ではない。だが、簡単に傷の手当てをするならまだしも、まだ距離があり歩きにくそうだからと回復魔法までかけていいものだろうか。これは、確実に噂になる。そして、確実に、それがシグレだと発覚する。
今後またこのような事案があったらどうしたものだろうか。気にしないのが一番なのだが、それでもヤヨイは考えずにはいられなかった。
「……ああ、どうするか」
短いので、次回の投稿は明日の朝になります。
この時間に投稿したのも、2話投稿のためです。
さて、ついに2章が始まりました。
え?1章この前と比べてクオリティ落ちた?…………合間に少しずつ直して行く予定です(大きな変化はありません)
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