エピローグ
少し遅くなりました。
この話、書いてよかったのかなぁ。コメディあり
ある部屋の一室へ向けて、法皇——ゼアラは歩いていた。
いつも通りの黒いドレスに、煌びやかな装飾の数々は、彼女の魅力をさらに引き立てている。最も、神であり法皇であるが故に、そういう意味で見られることはないのだが。
通りかかった者たちが、丁寧に礼をしてくるので、微笑み返して、ご苦労様と労いながら、また歩き出す。
そうしてたどり着いた場所——その扉をそっと開いた。
特定の者しか扉に触れることもできない、一種の牢獄だ。
とは言っても、居心地はその全く逆なのだけれども。
「久しぶりね」
笑顔でそう声をかければ、今現在の部屋の主人は、ソファに腰掛けて腕を組んだまま、視線だけこちらに向けてきた。
灰色の髪の男だ。外見年齢は、おそらく30代と言ったところだろうか。身に纏う神父服はつい先日見かけたものにどこか似ているが、別物だと認識できる。おそらくは、わずかに模様が違っているのだろう。
彼はそっとゼアラを見つめたのち、ゆっくりと呟いた。
「私に、何か用か」
「ええ、まあ。ちょっと質問をね」
座っていいかしら、と尋ねれば、何も言わずに彼は目を閉じる。
勝手にしろとでも言うような態度だ。だが、それもそのはずである。この場所に閉じ込めた張本人が、いちいち許可をもらう必要などないのだから。
「さて、単刀直入に聞くけど」
「……」
「あの、ヤヨイって子のこと、教えてくれない?」
黙り込む男に、誘うようにそう耳元で口にする。
が、男はそれでも寡黙であった。しばらくして、無表情のまま、ただ一言で返す。
「貴方にそれを教えたら、どうなる」
「うーん、そうね。じゃあ、報酬は弾むわよ」
「そんなものはいらない。私が欲しいのは——ッ!?」
と、そんな時、彼の目はある一点に止まった。
それは、ゼアラが取り出した一枚の紙切れ、いや、写真だ。
ちらりと見えたその中には、白と黒の髪色が確かに見て取れて——
「お前!?何故それを!?」
慌てて奪い取ろうとするが、ゼアラはそれを両手でビシッと掴む。
「これ、やぶいちゃおうかなぁーーーー」
「待て待て待つんだやめたまへ!何でも話す!頼むからそれだけは!もう何千年も見ていないんだ!お願いです神様仏様その写真だけはどうか譲っていただきたいもので——」
「うわ、引くわー」
ゼアラは心底口を引きつらせた。
そっと、触れないように、写真を差し出す。
「ありがとうございます!」
「さて、じゃあ、話を——」
「私は何も知りません」
「ふざけんじゃないわよ!どう言うことよ説明しなさいよっ!」
しかし、何も知らないと言いながら、写真を見てとびきりの笑顔を、いや、何かもっと違う、宝物でも眺めるような表情を見せた。
「ほんと重症ね、これは」
だが、これもある意味ギャップなのかもしれない。
確かに引きはする。だが、それもそれで彼の一つの魅力なのかもしれない、と思ったゼアラであった。
「まあ、私は結構だけど……どこがいいんだか」
幸せそうにしている男の姿を、無意識に微笑ましい想いで眺めていると、ふと男はゼアラに言った。
「だが、何も教えないわけにもいくまい。私はあの子を育てただけだが、ただ一つ言えることがある」
「ふうん。何なの、それは」
すると、男は何やら自信満々に、
「聞いて驚け!この子は、俺と彼女の愛する子だっ!!!!」
そんな事を叫んだ。
……なぜか語尾が反響して聞こえた気がする。
「ああ、そう」
さっきまでの気分を返せと。
そんな事を思いながら、サリアは大きくため息をついた。
(ほんと、どこがいいんだか)
❄︎
「くしゅん!」
なぜか、急に鼻がむずむずし始めた。
まだ夏だと言うのに、風邪でも引いたのだろうかと思ってみる。
「ふう、夏風邪でしょうかねー」
サリアはそっと額に手の平をのせてみるが、やはり熱くもなんともない。
「気のせいですかねー」
何やら、ワクワクが止まらないからだろうか。先ほどから、自分でもおかしいくらいに、サリアは楽しい気分でいた。
「さあ、貴方はこれから、どんな冒険をするのでしょう」
木の幹に腰掛けながら、大切な者を、はるか遠くの森に見えるその後ろ姿を見つめて、サリアはそう呟いた。
「私が創った、貴方のための世界で」
とうとう!ついに!一章終了!
ここまでお付き合いいただいた方、まだ終わりではありませんよ!
……と言いながら、明日出すのは番外編です。
主人公は、港町バルトレアの冒険者ギルドが長、ガレアさんです。
2章の投稿は、5月末からになります。そこからは3日に1話のペースになります。勝手ながら、どうかご理解ください。
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