表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/99

旅立

お待たせしました。

エピローグ前だから少しでも伸ばそうとしたのに短い……申し訳ありません。


 

「随分と急な話ですね」


 冒険者ギルドの受付嬢——レイナが、驚きのあまりか書類を落とした。


「ええ、まあ。なんかすみません、レイナさん」


 衝撃の報告をした張本人であるヤヨイは、一緒に書類を拾いながら謝る。だが、流石は受付嬢といったところだろうか、別れというものには、少なからず慣れているらしい。


「気にしないでください。いつかはこんな日が来るんじゃないかと思っていましたから」


 ヤヨイ以外にも、外国から働きに来るものは少なくない。他にも、そういった冒険者との別れを経験しているのだろう。


「ほら、マスター。別れを惜しんでいないで、送り出して上げましょうよ」


「ヤヨイ、か」


 応接室へと続く扉から、1人の男が出てきた。

 彼こそは、このギルドの長——ギルドマスタであるガレアだ。

 屈強な逞しい体つきで、普段は目つきが鋭い、まさしく戦士というような男だ。おそらく子供なら、人睨みしただけで泣かせてしまうことだろう。


(えぇ)


 そんな大の男が、涙を流して、隠せもしないそれを隠そうと目頭を押さえている。それほど自分との別れが惜しいのかと思ったヤヨイだが、次の一言に少しばかり苛立ちを感じた。


「こんなに働いてくれる若者が、いきなりいなくなってしまうなんて……」


(俺はただの社員としてしか見られてないってことか!?)


 ここで過ごした3ヶ月は、一体何だったというのか。

 心底呆れていると、受付嬢のレイナがこっそり耳打ちしてくる。


「マスターなりに、自分を誤魔化しているんですよ……多分」


「いやそこお願いですから断定形にしてくださいよ!」


 ヤヨイはツッコミを入れるが、レイナはあははと笑うだけだった。


「さて、それで、ヤヨイさんはどちらに行かれるんですか?国に帰るんですか?」


「最終的にはそれが目標ですけど、ここ以外の町とかも、いろいろ見てこようかと」


 まだ目的地は決まっていないが、とりあえず道なりに歩いて、何処か遠くへと向かうつもりだ。紋章のおかげで、辿り着いた町で頼み込めば、何かしら仕事をさせてくれるので、お金に困ることも無いだろう。


「ほう。まあ、お前ならやっていけるだろう。何なら王都で働くことも夢じゃないな」


 自信に満ち溢れた言葉で頷くガレア。それは無いだろうと思ったヤヨイは、すかさず否定しようとしたのだが、


「いや、流石にそれは——」


「そうですね、こんなに働いてくれるあなたなら、きっと大物になりますよ!」


 2人して瞳をキラキラさせながら、うんうんと頷き合う。


(別れってこんなものだったか?)


 そんな中、ヤヨイは自分が予想していたものとの違いに、こめかみを押さえていた。

 それからしばらく世間話のようなものを続けていたが、そろそろ旅立たなければならない。


「そろそろ時間なので……行きますね」


 そう声をかけて、ヤヨイはギルドの出入口——いや、出口へと向かう。途中で振り返って、激励の言葉を送った。


「2人もお仕事頑張ってくださいね。では、またいつか」


「元気でね〜!」


「あぁ、仕事が……いつでも戻ってきて良いんだからなー!」


 最後にギルドマスターをぶん殴っておけばよかったかもしれない。ヤヨイはそう思いつつ、なんだかんだ居心地が良かったギルドを後にした。




「やっときた」


 昨日一日過ごしていた、森の空き家。

 その玄関の前には、いつもとは違った服装に身を包んでいる黒髪の少女が立っていた。


「悪い、挨拶に手間取ってな」


「いつまでかかるかと思った」


 そう言って、ヤヨイはふと気がついた。

 シグレがここにいる理由は分かるが、もう1人はなぜいるのだろうか。


「というか、今更なんだけど」


「?」


「……なんだ」


 ヤヨイにつられて、シグレもその人物に視線を向ける。向けられた張本人であるゼノは、居心地悪そうにしながら戸惑う。


「お前も来るんだな」


 その一言を聞いて、彼はヤヨイを睨みつけた。


「当たり前だろう。私は彼女に忠誠を誓ったのだ。それは教会から独立しようとも、変わることはありません」


「……ゼノ、口調」


 シグレ以外には、一人称は私で、敬語で話し続けていたゼノは、なぜか時々こうなるらしい。


「……それに、会ったばかりの子供に、シグレを任せられるか」


「お前だってそんなに変わらないだろう」


「俺はもう20になる、一緒にするな。保護者は俺だ」


 互いに睨み合ったままでいると、ふとシグレが笑みをこぼした。


「「なぜ笑う?」」


「ふっ、いや、2人とも意外と仲良くできるかもなって」


 そして、そんな2人してあり得ないと思っていることを言ってくる。


「「どこが!?」」


「ふはっ」


 2人して詰め寄っているというのに、タイミングが合うせいで緊張感が全く伝わらない。まるでコントか何かをしているような気分になり、ついに3人とも笑い始めた。


「さて、そろそろ行くか」


「うん」


「ああ」


 これからヤヨイ達は——、


「どこに向かうんだ?」


「そうだな、まずは王都に向かうのが良いだろう」


 行く当てもない、父親探しの旅に出る。

 彼女達も居場所が予測できないと言うので、情報は確実に必要だった。


「そうか。……そういえば、シグレ」


「ん?」


 先ほど気づいておきながら言いそびれていたことを、なんだか恥ずかしい気持ちになりながら、ヤヨイは伝える。


「巫女装束も良かったけど、その服もとても似合うな」


「ありがとう」


 嬉しそうに微笑むシグレ。

 普段はほとんど無表情なので、少しの表情の変化にも慣れてきたところだ。先ほどのように笑いが込み上げてこない限りは、未だに躊躇しているのだろう。

 早く慣れて欲しいと微笑ましく思っていたが、


「当たり前だ。俺が選んだんだからな」


「は!?」


 爆弾発言をしたゼノに、ヤヨイは驚きのあまり声をあげた。

 すると、隣からもそんな発言が飛んでくる。


「ああ、うん。ゼノには服装選びでとてもお世話になってます」


「いやいや待て待て、どうして護衛騎士が女の子の服装を選ぶんだよ!」


 すかさず突っ込むが、ゼノは平然と言葉を返してくる。


「何を言っている、護衛だからに決まっているだろう」


「お、お前は騎士とメイドを間違えてるんじゃないのか!?」


 そんな彼の様子に、常識だよなと自分を疑わずにはいられなくなる。今時の騎士はメイドとしても機能するのだろうか。いや、いくらなんでもそれはないだろう。

 すると、シグレが


「面倒見がいいから、なんだかんだ信頼は高かったんだよ。教会で預かってる子供達も、ゼノにとても懐いてたし。それで、気づいたらこんな感じに頼もしくなって」


「そ、そうなのか」


 そう言うものだろうかと思っていると、またある問題が頭に浮かんだ。


「そういえば、2人とも騎士団じゃ顔が広いんだよな?旅先でバレたりとかは」


「それに関しては問題ない」


「うん、ちゃんと対策はしてあるから」


「……」


 なぜだろうか。

 まだ何か問題があるような気がして、心配になる。


 3人の旅路は、これから始まる。そう、まだ始まったばかりなのだ。


明日は0時ごろと朝に2話投稿する予定です。


気にいりましたらブックマーク、評価等よろしくお願いします!

アドバイスや感想も募集中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ