旅立
お待たせしました。
エピローグ前だから少しでも伸ばそうとしたのに短い……申し訳ありません。
「随分と急な話ですね」
冒険者ギルドの受付嬢——レイナが、驚きのあまりか書類を落とした。
「ええ、まあ。なんかすみません、レイナさん」
衝撃の報告をした張本人であるヤヨイは、一緒に書類を拾いながら謝る。だが、流石は受付嬢といったところだろうか、別れというものには、少なからず慣れているらしい。
「気にしないでください。いつかはこんな日が来るんじゃないかと思っていましたから」
ヤヨイ以外にも、外国から働きに来るものは少なくない。他にも、そういった冒険者との別れを経験しているのだろう。
「ほら、マスター。別れを惜しんでいないで、送り出して上げましょうよ」
「ヤヨイ、か」
応接室へと続く扉から、1人の男が出てきた。
彼こそは、このギルドの長——ギルドマスタであるガレアだ。
屈強な逞しい体つきで、普段は目つきが鋭い、まさしく戦士というような男だ。おそらく子供なら、人睨みしただけで泣かせてしまうことだろう。
(えぇ)
そんな大の男が、涙を流して、隠せもしないそれを隠そうと目頭を押さえている。それほど自分との別れが惜しいのかと思ったヤヨイだが、次の一言に少しばかり苛立ちを感じた。
「こんなに働いてくれる若者が、いきなりいなくなってしまうなんて……」
(俺はただの社員としてしか見られてないってことか!?)
ここで過ごした3ヶ月は、一体何だったというのか。
心底呆れていると、受付嬢のレイナがこっそり耳打ちしてくる。
「マスターなりに、自分を誤魔化しているんですよ……多分」
「いやそこお願いですから断定形にしてくださいよ!」
ヤヨイはツッコミを入れるが、レイナはあははと笑うだけだった。
「さて、それで、ヤヨイさんはどちらに行かれるんですか?国に帰るんですか?」
「最終的にはそれが目標ですけど、ここ以外の町とかも、いろいろ見てこようかと」
まだ目的地は決まっていないが、とりあえず道なりに歩いて、何処か遠くへと向かうつもりだ。紋章のおかげで、辿り着いた町で頼み込めば、何かしら仕事をさせてくれるので、お金に困ることも無いだろう。
「ほう。まあ、お前ならやっていけるだろう。何なら王都で働くことも夢じゃないな」
自信に満ち溢れた言葉で頷くガレア。それは無いだろうと思ったヤヨイは、すかさず否定しようとしたのだが、
「いや、流石にそれは——」
「そうですね、こんなに働いてくれるあなたなら、きっと大物になりますよ!」
2人して瞳をキラキラさせながら、うんうんと頷き合う。
(別れってこんなものだったか?)
そんな中、ヤヨイは自分が予想していたものとの違いに、こめかみを押さえていた。
それからしばらく世間話のようなものを続けていたが、そろそろ旅立たなければならない。
「そろそろ時間なので……行きますね」
そう声をかけて、ヤヨイはギルドの出入口——いや、出口へと向かう。途中で振り返って、激励の言葉を送った。
「2人もお仕事頑張ってくださいね。では、またいつか」
「元気でね〜!」
「あぁ、仕事が……いつでも戻ってきて良いんだからなー!」
最後にギルドマスターをぶん殴っておけばよかったかもしれない。ヤヨイはそう思いつつ、なんだかんだ居心地が良かったギルドを後にした。
「やっときた」
昨日一日過ごしていた、森の空き家。
その玄関の前には、いつもとは違った服装に身を包んでいる黒髪の少女が立っていた。
「悪い、挨拶に手間取ってな」
「いつまでかかるかと思った」
そう言って、ヤヨイはふと気がついた。
シグレがここにいる理由は分かるが、もう1人はなぜいるのだろうか。
「というか、今更なんだけど」
「?」
「……なんだ」
ヤヨイにつられて、シグレもその人物に視線を向ける。向けられた張本人であるゼノは、居心地悪そうにしながら戸惑う。
「お前も来るんだな」
その一言を聞いて、彼はヤヨイを睨みつけた。
「当たり前だろう。私は彼女に忠誠を誓ったのだ。それは教会から独立しようとも、変わることはありません」
「……ゼノ、口調」
シグレ以外には、一人称は私で、敬語で話し続けていたゼノは、なぜか時々こうなるらしい。
「……それに、会ったばかりの子供に、シグレを任せられるか」
「お前だってそんなに変わらないだろう」
「俺はもう20になる、一緒にするな。保護者は俺だ」
互いに睨み合ったままでいると、ふとシグレが笑みをこぼした。
「「なぜ笑う?」」
「ふっ、いや、2人とも意外と仲良くできるかもなって」
そして、そんな2人してあり得ないと思っていることを言ってくる。
「「どこが!?」」
「ふはっ」
2人して詰め寄っているというのに、タイミングが合うせいで緊張感が全く伝わらない。まるでコントか何かをしているような気分になり、ついに3人とも笑い始めた。
「さて、そろそろ行くか」
「うん」
「ああ」
これからヤヨイ達は——、
「どこに向かうんだ?」
「そうだな、まずは王都に向かうのが良いだろう」
行く当てもない、父親探しの旅に出る。
彼女達も居場所が予測できないと言うので、情報は確実に必要だった。
「そうか。……そういえば、シグレ」
「ん?」
先ほど気づいておきながら言いそびれていたことを、なんだか恥ずかしい気持ちになりながら、ヤヨイは伝える。
「巫女装束も良かったけど、その服もとても似合うな」
「ありがとう」
嬉しそうに微笑むシグレ。
普段はほとんど無表情なので、少しの表情の変化にも慣れてきたところだ。先ほどのように笑いが込み上げてこない限りは、未だに躊躇しているのだろう。
早く慣れて欲しいと微笑ましく思っていたが、
「当たり前だ。俺が選んだんだからな」
「は!?」
爆弾発言をしたゼノに、ヤヨイは驚きのあまり声をあげた。
すると、隣からもそんな発言が飛んでくる。
「ああ、うん。ゼノには服装選びでとてもお世話になってます」
「いやいや待て待て、どうして護衛騎士が女の子の服装を選ぶんだよ!」
すかさず突っ込むが、ゼノは平然と言葉を返してくる。
「何を言っている、護衛だからに決まっているだろう」
「お、お前は騎士とメイドを間違えてるんじゃないのか!?」
そんな彼の様子に、常識だよなと自分を疑わずにはいられなくなる。今時の騎士はメイドとしても機能するのだろうか。いや、いくらなんでもそれはないだろう。
すると、シグレが
「面倒見がいいから、なんだかんだ信頼は高かったんだよ。教会で預かってる子供達も、ゼノにとても懐いてたし。それで、気づいたらこんな感じに頼もしくなって」
「そ、そうなのか」
そう言うものだろうかと思っていると、またある問題が頭に浮かんだ。
「そういえば、2人とも騎士団じゃ顔が広いんだよな?旅先でバレたりとかは」
「それに関しては問題ない」
「うん、ちゃんと対策はしてあるから」
「……」
なぜだろうか。
まだ何か問題があるような気がして、心配になる。
3人の旅路は、これから始まる。そう、まだ始まったばかりなのだ。
明日は0時ごろと朝に2話投稿する予定です。
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