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逆転

とうとうクライマックス……すみません、遅くなった上に、ちょっと出来が悪いかも。

 

 ここは、どこだろう。

 何だか記憶が曖昧だ。

 真っ暗な世界の中で、まるで海を沈んでいくかのような感覚だ。そこで、ふと思い出した。


 ああ、そうか。俺は、あいつらを助けたんだ。


 なら、いいか。救えたなら、もう、彼女を苦しめるものが何もないのなら、きっと前に進むだろう。嫌なことに、あの騎士もいるんだ。


「……イ」


 あれ、名前も思い出せない。

 あんなに昔から、ずっと覚えていた名前なのに。


「……て、まだ、き……いことが」


 ああ、また気が遠くなっていく。このまま、終わるのか。誰だよあんな魔法作ったの。でも、感謝だな、おかげであいつを倒せたんだ。


「おき……い」


 ああ、そうだ。思い出した。

 屋台をキラキラとした目で見て、でも、なぜか後ろめたそうに笑うことを嫌がって、バカみたいだって思ったけど、それでも。


「……」


 救わないと。

 まだあいつは、縛られたままだ。


「シグレ」


 ようやく思い出せたその名を呟いた時、真っ暗だった世界に光が差し込んできた。



 ❄︎



「ヤヨイ!」


 いつもの静かな口調とは正反対に名を叫ばれて、意識が戻ってもヤヨイの混乱は冷めなかった。


「し、ぐれ?」


「大丈夫?どこか痛いところはない?」


「……全身が痛いんだが」


 強化魔法を行使した時より酷いものだ。


「当たり前だ。あんな無茶をすれば、誰だってそうなる」


 漠然とヤヨイに起こった現象を理解しているらしい護衛騎士は、ふんと鼻を鳴らして言う。


 ここは、空き家らしい。家具もほとんど置かれておらず、滞在するにしてもただ雨風を凌ぐだけの場所だろう。外からはポツポツと水音が聞こえるので、どうやらその通りらしい。

 しかし、それだけではないのだろうとヤヨイは思った。

 ここにいる3人は、見方によっては反乱軍に手を貸した身だ。反逆者として、今後は指名手配されるだろう。民にそれを知られることがなくとも、教会の間でそうなるはずだ。


「え、うわっ!?」


 と、そこで、頭の後ろに感じる慣れない感触に、慌てて起き上がろうとしたヤヨイだが、


「……こら、動かないで」


 ぐっと頭に手のひらを乗せられ、動けなくなった。

 なるほど、どうやら騎士の機嫌が少し悪そうに見えるのは、これが原因らしい。もっとも、いつもこうなのかもしれないと何となく感じたヤヨイではあったが。


「ところで、一つ、聞きたいことがあるんだけど」


「何だ?」


「さっきのこと、覚えてる?」


「……ああ」



 ❄︎



「ぐっ!——あれ?」


 全身に痛みがじわじわと広がってきて、ヤヨイは悶えるように息を吹き返した。

 と、そこで気づく。

 感覚が無くなっていたために分からなくなっていたが、どうやらまだ絶対支配の効力は続いているらしい。


「ヤヨイ」


 さらに、自分の隣に、膝をついて心配そうな顔をしている少女の姿を見つけた。

 シグレは、魔法を発動させていた。どうやらそれによって、自分は回復したらしい。


「無事だったんだな」

「うん、でも、ゼノが」


 彼女が顔を向けた先には、一人の騎士が地に這いつくばって苦しんでいる。


「私の魔法も、全然効かなくて」


 どうやら、最初に見かけたときからずっと苦しんでいたらしい。悪いことをしたなと思いながら、この空間に僅かに残っている魔力を利用して、ヤヨイは支配魔法を発動させる。


 すると、シグレとゼノの二の腕辺りが光り出して、数秒後それは消える。


「これで、もう大丈夫だ」


「大丈夫じゃない!あなたの身体、一体何で!」


 喚きたててくるが、他に気になることがヤヨイにはあった。


「それより、他の奴らは」


 自分が魔法を全力で振るっていた間、巻き込まれた者はいなかったのだろうか。できる限り気を配ってはいたが、どうにも自信が持てない。


「みんなもうとっくに逃げた!反乱軍も、魔導師達も、あなたが暴れたせいでもうここにはいない!——ヤヨイ!?」


 それを聞いて安心すると、またヤヨイの意識は遠のいていく。


「はは、ちょっと、やりすぎた——」



 ❄︎



「迷惑かけたな、ここまで回復させるの、相当精神力を消耗しただろう」


「……別に、私たちは、そんなに戦ってなかったから」


 しかし、本当に疲れているらしい。


 ゼノもそれは同じようで、おそらくあの呪いは、対象の精神力を大幅に削るものなのだろう。魔法を使うことがなくとも、精神力が減れば集中力も落ちていくのだが、それでも尚見張りを続けている。

 こうしてヤヨイに膝枕をしてくれているのは嬉しいが、本来であれば彼女達も眠るべきなのだ。


「それで、聞きたいことは?」


 何でも答えてやるというように問えば、シグレは少しだけ迷ってから、


「まず、聞きたいのは、私が何者なのか」


 真剣な表情で、ストレートにヤヨイに尋ねる。


「そもそも、ヤヨイは私にそれほど深く関わる必要はなかったでしょ。だから、その理由を教えて欲しい」


「……お前は」


 何から言ったら良いか戸惑いながらも、慎重に言葉を選んでいく。


「お前は、俺の、幼馴染で、俺と同じ、とても遠い故郷から連れてこられた人間だ」


 その言葉に、シグレは瞬きをした。


「同じ、故郷?」


「この大陸とは違う、別の大陸だ。ここから東の方にある」


 そう言って、ヤヨイは父から教えてもらった情報を、順序立てて説明した。


「俺たちは、ある里の出身らしい。その里は魔術や魔法に関する才能がある者が多かったんだ」


 ある時、ヤヨイ達の里は、ある集団に襲われた。多かれ少なかれ才能を持つ子供は、小さいうちから育てればいろんなことに利用できる。だから彼らは誘拐されて、古今東西、様々な国に売られたのだ。


 今考えてみれば、相当酷い話だろう。事実、ヤヨイは両親の顔も、声も、存在も覚えていない。そして、それはシグレも同じだった。


「じゃあ、育ての親っていうのも」


「ああ、この国でその人に助けてもらったんだ。本当はお前も助けようと思ったんだけど、失敗したらしい」


 その言葉を聞いて、シグレは少しだけ、悔しそうに唇を噛んだ。だが、それも一瞬のことで、すぐに続きを促してくる。

 頷いてから、再びヤヨイは話し始めた。


「何年もの間、俺たちは姿を隠して、この国で生活してきた。食べる者も、服なんかも、こっそり町に潜り込んで、買っていた。この髪も、本当はお前と同じ黒髪なんだ。目立つから染めたけど。

 そして五年前、俺たちは見つかった。父さんはあのフードに連れてかれて、俺だけケラハに送られたんだ。理由はよくわからないが」


 それからのことをヤヨイが簡単に説明すると、シグレはお礼を言ってきた。


「ありがとう、ヤヨイ。本当の家族のこと、教えてくれて」


「ああ」


「もう一つ、聞きたいことがあるんだけど」


「……」


 その内容がヤヨイには予想がついた。

 神経を研ぎ澄まして見張りよりも聞き耳を立てている騎士に視線を向ければ、彼は躊躇うそぶりを見せながら、ゆっくりと頷いた。

 今この場で、話すべきだと、そう思ったのだろう。


「私は、こんな魔法知らない。でも、なぜか、この魔法の扱い方も、技術も、まるで昔から知ってるみたいに——これは、何なの?」


「シグレ」


 ヤヨイの声に含まれた緊張感に、シグレはなぜか疑念を抱いたようだった。それもそのはずだ。本来この質問は、大きな意味を持たない。

 彼女が——シグレが、死の巫女で、死神で無い限り。


「お前が使っていた魔法は、回復魔法だ」


「……ぇ」


「あの紋章は、その魔力の性質を逆転させて、その力を、逆に命を奪う禁術にしたんだ」


 ヤヨイの言葉を聞いて、シグレはハッとした。

 自分自身、妙だと思っていたことがあるのだろう。それに、現にシグレは、ヤヨイやゼノの傷を魔法によって塞いでいる。


 それが、何よりの証拠で、彼女を絶望へと追い落とすには十分なものだった。


「う、そ」


 両手で頭を抑え、呻く。

 ヤヨイは慌てて起き上がり、彼女を宥めようとその手を握ろうとした。


「触らないで!」


 だが、シグレはその手を強く払って、部屋の端まで逃げて行った。

 壁に背を預けたまま、そこにヘタリ込む。

 そして、自分の両手を見つめて、狂ったように自分を責め出した。


「この手は、もう、汚れてる」


 震えた手には、何が見えているのだろうか。

 ヤヨイは気になりながらも、立ち上がる。


「何人もの、何十人もの人の血で黒く染まってる。だから、来ないでよ」


 だが、それでもヤヨイはシグレの方へと歩き出した。


「来ないでって言ってるでしょっ!」


 シグレが掌をかざして叫べば、幾重にも斬撃が飛んでくる。


「……」


 だが、一つも当たることはなかった。背後の扉に控えているゼノにも、それどころか、途中で効力は消え、部屋すら傷つけることはなかった。

 ヤヨイは座り込んだ彼女の目の前に立つ。

 すると、静かな呟きが聞こえた。


「何、これ」


 低い声で、さらに零す。


「人を救うための力で、人を、魔物を、殺し続けたの?」


 それこそ、最大の皮肉だろう。

 本来は生命力を与える魔法が、逆にそれを奪った。

 今まで、彼女は確かに何度も人を殺してきた。殺すための力を持った彼女は、それが定めなのだと受け入れるほかなかった。

 だが、それすらも、教会に仕組まれたことだったのだ。


「私には、生きる資格なんか」


「あるだろ」


 黙って聞いていたヤヨイが、口を開く。


「そんなこと」


「お前は、今までずっと、国民のために行動してきた。お前が殺してきた連中の中には、確かに悪くなかったものもいるかもしれない。でも、お前は、何の証拠もなく人を殺めてきたのか?」


「それは——」


「ただ殺せと命じられたから、全員殺したのか?」


「違う!」


「なら、生きろよ」


 静かに、低い声で、真剣に告げる。

 挑戦状を叩きつけるように、はっきりと言葉を投げた。


「生きて、償えよ。お前が奪った命の分まで生きて、奪った命の分まで救え」


「そんなこと、したって」


 救われるはずがない、そう言おうとしたのだろうか。

 そう思い、


「おい巫女様、お前はこれまで何のために戦ってきたんだよ!」


 両手で肩を掴んで、訴えかけるように声を上げた。


「え?」


「許されるためじゃない、救うためだけに戦うんだ!今までも、これからも!」


「……」


 言葉を失って固まるシグレに、今度は優しく笑いかけて、ヤヨイは提案する。


「俺たちにできることなら、何度でも力を貸してやる」


「ああ」


 突如聞こえたゼノの声に、シグレは驚いたようだった。


「ゼノ……」


「すまなかった、シグレ」


 彼はシグレのそばまで近寄って、頭を下げた。


「え?」


「俺は、全部知っていた。知っていながら、何もすることができなかった」


 それは確かに、紋章による呪いだ。けれど、だからと言って自分を責めないわけではない。

 ゼノは彼女を守ると決めた。決めたというのに、何もできなかったのだ。


「顔をあげて」


 シグレは、覚悟を決めたようにゼノに言う。


「私も、あなたも、狂わされた。だからあなたも、私と命を救うために生きて」


「ああ、誓おう」


 彼女のたった1人の騎士は、余計な音を立てることなく、綺麗に敬礼をして見せた。

 これからも、彼女達の関係は続くのだ。

 縛られずに、互いを守り合う、本当の意味での仲間となって。


「ねえ、ヤヨイ」


「ん?」


 2人の会話が、いつの間にか自分の方へと向いていることに気づき、ヤヨイは首を傾げた。


 彼女は、そっと微笑みながら、想いを伝えてきた。


「まずは、あなたを救わせて」

もう直ぐ一章も終わりです。

そうしたら、2日か3日で1話という形になります。


また、今後は勝手ながら、6時から10時に投稿とさせていただきます。可能な限り早く投稿するので、お許しくださいm(_ _)m


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