表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/99

因縁

こんな時間になり、すみません。

少し長めなので、どうかお許しを!(土下座)

 

「随分と派手に暴れましたね」


 はるか遠くに見える森から魔力の余波を感じて、少女はふと呟いた。白髪混じりの黒髪が風に揺れ、彼女の周りにだけ別世界のような雰囲気を醸し出している。


「……でも、あの子の元気な姿が見れて、よかった」


 例え、あの青年の記憶が消えて、もう願いを叶えてあげることができないのだとしても、自分の手で奪い、そうして生まれた命なのだ。

 自分にはまだまだやるべきことがある。彼の励ましを無下にするわけにはいかない。


「さて、そろそろ——」


 そうサリアは意気込んで、その場を立ち去ろうとした。

 その時、空間がわずかに揺らぐのを感じて、近くの茂みへと視線を向ける。

 サリアがいるのは、バルトレアを一望できる山の上。神ですら完治することが難しい距離に自分はいるはずなので、誰かが意図的にこの場所に来ることはまずない。

 偶然とは怖いものだと思っていると、姿を現したのは、フードを深く被った人物だった。


「あなただったんですね」


 一目でとはいかないが、少しの時間があれば、サリアにはその正体に気づくことができた。


「ゼアラ。いえ、今は法皇というのでしょうか」


 本来であればここにいるはずのない、この国のトップの名を呼ぶ。すると、目の前の人物はそっとフードに手をかけて、その夜色の髪を露わにした。

 その顔は、友好的に微笑んでいるように見える。


「あら、サリアじゃない。何でこんな所に?」


 知っていたのか、知らなかったのか。余裕にそう言う彼女の様子に、サリアは困惑する。

 しかし、嘘を言う必要など、微塵もなかった。


「大切な人を見守りに、とでも言えば伝わりますか?」


「ふうん、そうなの」


 少し含みのある返事をした法皇は、そっと振り返ってはるか遠くの森を見た。先ほどとは違う、それこそ神聖な魔力が解き放たれているのを、肌で感じたのだ。

 大きなその反応は、次第に薄れていく。

 その時、サリアには彼女の表情を見ることができなかったが、なぜかその背中には哀愁が漂っていた。

 まるで、今まで大事に抱えていた宝物が、突然目の前から消えたような。サリアも一度味わったことがあるからこそ、その様子から気づくことができた。


(皮肉なものですね)


 その原因を作ったものが、同じような状況にあるのを目にするのは、何とも釈然としない気持ちだった。


「それにしても、あなたと会うのは何年振りかしら」


 誤魔化すかのように、突然そんなことを尋ねてくる。見えるようになったその表情は先ほどと全く変わらないもので、なぜだかサリアは少しだけ寂しく感じた。


「そうですね、もう何万年も昔のことなので、思い出せません」


 人間ではないからこそ言える本音からのその言葉を、法皇は懐かしそうに聞いて、ふと笑った。


「そんなに前だった?私としては、それほど昔のこととも思えないのだけれど」


 またも言外に何か伝えようとするような言い方をして、ゼアラはサリアを軽く睨みつける。当の本人はといえば、あははと誤魔化すように笑う他なかった。


「でもそうね。とても懐かしいわ。天界で過ごす時間も、そう悪くなかった」


 そんな言葉に、サリアは絶句する。

 あの法皇が——ゼアラが、そんな口にするのも恥ずかしいことを、さりげなく言ったのだ。


 何も言うことができなかったサリアの様子に、彼女は今度は残念そうに笑った。


「まあ、いいわ。それよりも聞きたいことがあるのよ」


「なんでしょう?」


「あれ、何?」


 急に真剣な表情をした法皇は、どれとも指さずに疑問をぶつけた。

 彼女が言いたいことは分かっているのだが、サリアは伝えるべきか否か、迷ってしまう。


「あんな力を、ただの人間が持っていられるはずがない。いえ、そもそも持つ資格すらない。この場所にあなたがいたのは、そういうことでしょう?」


「私が彼に与えた力だと、そう言いたいのですか?」


「ええ」


 疑ってかかってくるにもかかわらず、悪びれることもなく彼女はそう口にした。

 しかし、サリアはその返事を聞いても尚、目をパチクリさせている。

 思っていた反応と違ったようで、ゼアラは首を傾げるが、ふとその場に笑い声が響いた。


「ふふっ。はははっ」


「何がおかしいの?」


 苛立ちを滲ませて彼女が問えば、今にも笑い転げそうだったサリアは笑みを浮かべたまま答える。


「あの子には、そんなものいりません」


「?」


「一から攻略する世界に、チートなんて、要らないでしょう?」


 彼はこの世界を楽しむと言ったのだ。最初から何でも知っているのは、ゲームバランスに関わると言ったのだ。なら、自分もそれを尊重する他ない。彼をこの世界へと導いたのは、サリアなのだ。

 最も、偶然手に入れてしまったものは、仕方がないとしか言えないのだが。


「自分の力で、この世界を生きていく。彼はまさにそれです」


 あの青年が描いていた世界も、その主人公も、そんなものだった。簡単な道はつまらない。回り道をすることで、より楽しくなる世界だった。


 すでに日付が変わっているので、昨日のことだ。当時のことを思い出しながら、今度は自然と微笑んでいると、ふと、ゼアラが笑みを消していることに気づいた。


「そう。そうなのね」


「ゼアラ?」


「つまりあの子は——そうなのね」


 瞬間、ゼアラの気配が変わる。欲望を隠しすらしないほど口元を歪ませて、一人つぶやいた。


「あの子が、私の求めた——」


「そういえば、一つ聞いておきたかったことがあったんです」


 彼女の言葉を遮って、サリアは静かに言い放つ。

 先ほどまで和やかな空気だったはずのこの場所は、いつしか神気に満ち溢れていた。


「彼は——フェルクは、どこですか?」


 その問いに、法皇は少しばかり目を見開く。

 そして、口元の笑みが少しだけ弱くなりながら、こう返した。


「私がそれを、答えるとでも?」


 すると、サリアは法皇を睨みつけて、再び言葉をぶつける。


「答えてください」


「答えなかったら?どうするの?」


「無理矢理にでも、吐かせます」



 ❄︎



「あの善神から、随分と物騒な言葉が聞こえた気がするのだけれど」


 笑ったまま、法皇は心配するようにそう声をかける。


「もう、なりふり構っている暇などありません。この案件は最優先です」


 返ってきたのは、そんな真剣なものだ。

 だが、法皇からしてみれば、良いことを聞いた。


「今の言葉をあの男が聞いたら、どれほど歓喜することでしょうねぇ」


「旧友の心配をして、何が悪いのですか?」


 当然のように言ってのけるサリアだが、法皇にはそれは、誤魔化しているようにしか見えない 。

 ふと、ある情報が脳裏に浮かんだ。


「そういえば、天界の中でもあなた達は有名人だったわね。主にそういう意味で」


「彼が一方的につきまとっていただけです」


 うんざりするように言っているが、やはり違和感を感じる。


「その割には、満更でもなかったようだけど?」


 そうやって話題を変えるのは、話を逸らそうとしているのではない。

 少しでも、彼女から冷静さを奪うことが狙いだった。


「ゼアラ、私は出来ることならば、あなたと戦いたくはありません」


「あら、そうなの。私はむしろその逆よ」


「!?」


 法皇の返事に、サリアはとても驚いたらしい。


「天界でもあなたの存在は最古から続くと言われていた。けれど誰も、あなたの本気というものを見たことがない」


 ずっと知りたかったのだ。

 なぜサリアが、ゼウスやブラフマーと仲が良かったのか。古くからの知り合いというだけではない。彼女の力を、少なくともその一端を、彼らは知っていた。だからこそ、一部の者たちは——強大な力を持つ神々達は、彼女を認めていた。

 法皇は、ずっとそれが気になっていたのだ。


(これは、彼女の力を知ることができる、絶好の機会)


 だからこそ、このチャンスを不意にするわけにはいかない。


「なら、仕方ありませんね」


 そう呟き、サリアはそっと手を出した。

 それと同時に、離れた位置にいた法皇も、手を差し出し、互いの力をぶつけようとする。

 生み出された闇は、弾丸のように小さく、そして鋭くその形状を変えて、放たれた。

 だが、サリアは何一つ行動を起こそうとしない。


(どういうこと?彼女の能力は、まさか戦闘には不向きの——)


 と、そんな法皇の疑念も、すぐに晴れた。

 サリアが何もしなかったのは、わざわざ対処する必要がなかったからだ。

 彼女の正面、いや、周りには、正方形型の障壁がいくつも、彼女を取り囲むように展開されていた。


「そう、あの男の障壁か。本当に仲がいいのね」


 笑みを浮かべたまま、嘲笑うように呟き、


「もう会えないのが、残念だわ」


 そんなことを、告げてみる。


「それは、どういう——」


「どちらにしろ、あなたにそんな機会はないということよ」


 すると、サリアの表情から、感情と呼べるものが消えた。


「あら、怒ったの?」


 それでも尚笑みを絶やさず、法皇は挑発を続ける。


「あなたは」


「そんなに、死にたいのですか」


 放たれた殺気に、驚きを隠せなかった。

 あの戦いを嫌う善神が、いつもそんなことを言わなかった彼女が、今、見たこともないほど激怒している。


「神々への賛歌」


 彼女のその一言で、なぜか法皇には、世界から色が失われたように見えた。


(何、これ)


 当然発動したサリアの能力に驚愕しながらも、法皇はその足に闇を纏った。なんとなく選択したその技は、空中を自由に移動することができるものだが、その選択が彼女の命を先延ばしにした。


 サリアは静かに、詠いはじめる。


「アグニよ、邪術師の皮膚を破れ。殺傷する電撃は激烈なる力をもって彼を殺せ」


 次の瞬間、ゼアラの周囲に紅く輝く落雷が生まれる。

 空を翔けることができなければ、避けることすら叶わなかったその攻撃は、しかし一撃だけ法皇に命中した。

 だが、なんの対策もないわけではない。

 その身は、まるで鎧のように闇で覆われている。扱いにくい分、属性上絶対的優先度を誇るその闇には、光属性以外どんな攻撃も通用しないはずだった。


 そんな鎧を、神鳴りは文字通り砕いたのだ。


 驚くべき破壊力に目を見張りながら、ヤヨイとの戦闘では一切使わなかった能力を発動する。

 闇を発生させ、あたり一面全てを破壊するものだ。時間がかかる上に簡単に防ぐことのできるものだが、サリアの視界から外れることが彼女の狙いだった。


(今はとにかく、離れないと——)


 だが、そんな彼女の策略は、一つの詩に阻まれる。


「アグニよ、その眼を歌人に授けよ、それにより汝が家畜の蹄を傷つける邪術師を見破るところの。アタルヴァンのごとく、天的光明をもって、真理を歪曲し・理解なき者を焼き滅ぼせ」


 突如、世界は炎に包まれた。

 何の予兆もなく生まれたそれは、法皇が生み出した闇全てを焼き尽くす。


「なっ!!!」


 何が起こっているのか、彼女の能力が何なのか、少しも理解できなかった。

 ただ分かるのは、彼女の詩が、現象そのものを具現化しているということだけだ。


「アグニよ、今日一対の人々が詛うこと、歌人たちが発する言葉の有害なる部分」


 このままではまずい。

 そう考えて転移を始めた瞬間、サリアは詩を詠い終えた。


「心中の憤怒より生ずる矢の射出、それをもって邪術師どもの心臓を貫け」


 無表情のまま、冷徹に言葉を紡いだサリアの願いは。

 法皇が居る場所を、数えきれない火矢が襲うことで叶った。



 ❄︎



「私も少し、やり過ぎましたか」


 綺麗な山が、炎に焼かれボロボロになっている。

 人間達に気づかれていないと良いと思いながら、サリアは木々達にすまないと、心の底から思っていた。


 今の戦いによるものか、先の戦いによるものか。

 それともただの偶然か、いつの間にか、月が顔を出している。


「また、会えますように」


 それを眺めながら、少女はそう呟いた。

 月を見て思いふける詩人のその姿は、見る者がいれば、きっとその心を奪ったことだろう。

サリアはこのシリーズの裏のヒロイン?みたいなものです(自分で言っているのによく分からない)。1日1話投稿も、当初の予定通り一章とともに終わります。


すみません、記載遅くなりました。

9時過ぎに投稿予定になりますm(_ _)m


気にいりましたら、ブックマークや評価等、よろしくお願いします!

アドバイスや感想があれば、ぜひ聞かせてください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ