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復讐



 

「……」


「……」


 ヤヨイが問い詰めてからしばらく、影は黙ったままだった。

 2人の過去に何があったのか、シグレには分からない。しかし、もし影が本当に法皇の部下であるならば、ヤヨイの父親に何か関係しているのだろう。

 というより、ヤヨイの様子から見てそれは間違いなかった。


「答えろ」


「……答えなければ?」


「吐かせる」


 ヤヨイの返答に、影は肩を震わせて言った。


「相変わらず、ただの子供だな。だからあの時、ただ守られるだけだったのだ」


「今もそうか、試してみるか?」


 そう微笑んで、ヤヨイは一歩ずつ前へと進む。

 しかし、そう簡単に近づけるはずもない。宮廷魔導師は、シグレ1人ではないのだ。さらに付け加えれば、負傷して離脱したものを除いても、まだ6人いる。

 当然、誰かしらがヤヨイに魔法を放ってきた。


 その体を貫かんと、流星のようにそれは一瞬で彼の目前まで飛翔し、


「剥奪」


 その動きを、完全に止めた。


「なっ!?」


 魔導師だけでなく、反乱軍までもが驚く。

 当たり前のことだった。彼らには、あの一瞬で防御魔法を展開したようにしか見えなかったのである。その上、それは見えない壁として彼を守っているのだ。もちろん、そんな壁など存在しないのだが。


「!」


 だが、そう簡単に諦めるわけでもない。

 すぐにそれぞれ同時に、広範囲を対象とする魔法を発動させて仕留めにかかる。しかし、それらは暴風によって軌道を変えられ、無力化された。


「何やってるんだよ!」


「知るかっ、魔法が勝手にっ!」


 口喧嘩を始める、それほど年が離れていない魔導師達。その姿を見ながら、ヤヨイはそっと彼らに近づいた。


「く、来るなっ!」


「お前らは、多分悪くない。だから、怪我させたくないから失せろ」


 それは、お前達は相手にならないと宣言されているも同然のことだった。当然のごとく、感情に任せて彼らは魔法を発動させる。


「反射」


 ヤヨイがそう呟いて魔法を発動させれば、それらは全て術者の方へと戻って行った。すぐに防御魔法を発動させるもの。回避を試みて、広範囲ゆえに避けることができなかったもの。

 けれども、流石は宮廷魔導師と言ったところだろう。攻撃を受けても、大した怪我を負っていない。

 が、問題はここからだ。


 そう。迂闊に魔法を発動できないのだ。

 対魔導師という点においては最強なのではないかと、彼らに思わせる。それほどに、彼らにはできることが無い。


(ヤヨイは支配魔法だけで、大抵の魔法を自分のものにできる。対して、私たちは魔法の訓練以外にも戦闘訓練をやってきたけど……)


 それでも、強化魔法を使えるヤヨイ相手では分が悪いだろう。

 彼らは魔法記憶容量——人の脳が覚えられる限界値——のほぼ全てを、各々が得意とする属性の魔法で埋め尽くしている。魔術は魔法陣を描ければ大抵発動できるものだが、魔法陣を魔力そのもので描く魔法にはそういった弱点が存在するのだ。

 彼らの覚えているどの属性の魔法も、ヤヨイを傷つけるには至らない。


(……それに)


 おそらくあの少年にはまだ、奥の手がある。そうシグレは踏んでいた。


(せっかく奪った魔法も、すぐにほとんど使い果たしてる。敵が魔法を使わなければ、彼にも勝ち目は薄い)


 つまり、何か秘策があるということになる。

 果たして、一体それはなんなのか。シグレにはさっぱりわからない。


 その上、妙な違和感を感じる。

 つい先ほどまでは当然だったことがひっくり返ってしまったような、そんな感覚だった。


(何、この感じ)


 しかし、具体的に何がどう違うのか、確かめる術がわからなかった。

 考えていても拉致があかないので、ヤヨイの動向を見守る。


「確かに、強くはなったらしい。5年前は何もできずにいた。だが、それでも私に勝つ自信があるのか?」


「……」


 黙り込んでしまうヤヨイ。

 シグレはそのことに、不安を感じた。


 もしここでヤヨイが彼らを倒すことができなければ、なんの抵抗もできないまま拘束され、最悪処刑されるだろう。まだシグレの魔法が残ってはいるものの、それは味方をも巻き込むものだ。


(使うわけにはいかない。でも——)


 焦りだしたその時、ふと少年の声が聞こえた。


「あの人は、強かった」


「?」


「こと守護に関していえば、おそらく最強だった。そんなあの人の守りを、お前は軽々と突破した。そんな奴が相手じゃ、今の俺には勝ち目はない」


 しかし、言葉とは裏腹に拳を固めて、


「でも、だからって、諦めるわけにはいかないだろ!」


 再び、影に向かって走り出す。


(何の魔法も使用せず、素手で!?)


 今の彼からは、ほとんど魔力というものを感じない。強化魔法だけを行使している証拠だ。しかし——そこまで考えて、ふとシグレの脳裏にある光景が浮かんだ。


 シグレの身の上について、でまかせを信じるなと叫ぶ少年の姿だ。


 もし。もし彼が自分の考える通りの人ならば、勝ち目があるかもしれない。

 シグレがそう思うのと、ヤヨイが驚きの行動をしたのは、ほぼ同時だった。


「!?」


 闇を生み出しヤヨイの攻撃を受け止める影の姿が目に入る。

 そして、宮廷魔導師達の声も耳が拾った。


「誰も魔法は使っていないぞ!」


 そう。

 ヤヨイは彼の魔法を発動させただけなのだ。そして、その直後、夜色に輝く剣が生まれた。


「できた!」


 ヤヨイはそう言って微笑んだ。


「何だ、これは、私の」


「ああ、お前から奪った魔力だ。なぜだか分からないが、急にできる気がして、な!」


 ヤヨイが魔力を注ぎ込めば、その剣はさらに輝きを纏った。

 それはシグレの魔法にも似ているが、確かに闇属性のものだろう。同属性の魔法では、それに込められた魔力がものを言う。そのため、ヤヨイの刃は影の闇を切り裂くことに成功した。


「はあっ!」


 そうして、さらに斬りかかる。

 振り下ろし、切り上げ、突き、横薙ぎ。だがそのどれもが届かなかった。影の闇がことごとく彼の攻撃を防いでいるのだ。


「剥奪!」


 ヤヨイはすかさず魔法を発動させる。だが——、


「なっ!?」


 彼の顔が、驚愕に染まった。

 シグレはその意味に気づくことができないが、明確な隙ができている。


「させない!」


「ッ!?」


 しかし、シグレはただの傍観者ではない。魔力に斬属性を与えて、影をそれで取り囲む。それら全てを防ぐのは、影にもどうやら難しいらしい。ヤヨイに回す魔力が無いのか、攻撃は止んだ。


「シグレ!?」


「早く、魔法を——」


「無理なんだ」


「え?」


「あいつの魔法は、奪えない。さっきのは隙をついたから上手くいったが、敵と認識されたと同時に、そんな気の緩みは無くなった」


「……あなたの魔法は、相手の意思で弾かれるの?」


 そんなところだ。そう言いかけたのだろうが、会話の途中に爆炎が撃ち込まれた。


「まだ諦めてないのかよっ」


 魔法を奪ったはいいものの、さらにヤヨイに向けて魔法が放たれる。

 水流、雷撃、さらには土壁まで。


(これは!?)


 それはデタラメに見えて、確かな弱点を突いていた。

 ヤヨイは確かに魔法を奪い、好きなように変化させられる。だが、その属性までは変えられない。魔法を奪えば、それで防ぐことが難しい魔法を発動させられるのだ。

 どうやらヤヨイは、数種の魔法を同時に扱うことはできないらしい。


(私の魔法でも、彼の魔法でも何もできない)


 恐怖が増長する中、シグレにも魔法の余波が降りかかる。

 だが、そのいずれも、瞬く間に切り裂かれ、霧散した。


「ゼノ!?」


「……」


 しかし、目の前の騎士は、何も答えない。いや、言うことができないようだ。

 影の力によるものか、ゼノは未だ苦しんでいるようだ。それでも魔法を切るほどの力を発揮できるのだから、騎士団の期待の若手と言われるだけのことはある。流石にもう動くことができないようで、膝から崩れ落ちた。


「大丈夫!?」


 ゼノに触れて、気を保つよう声をかけるが、そこであることに気がついた。


(この魔力は——)



 ❄︎



 ヤヨイは、次々と放たれる魔法に舌を巻いていた。


 炎で水は防げないし、雷は土で逆に防がれる。

 ヤヨイは一応2、3種類の魔法までなら奪えるはずなのだが、実なところ、宮廷魔導師相手ではせいぜい1つ奪えるかどうかのところだ。

 敵ながら見事な連携で、隙がない。

 次第にヤヨイも精神力をすり減らしていく。相手は4人だ。数の利もあれば、ヤヨイと違って消耗も少ない。


 そして、さらにそこに闇の槍が降ってくる。

 間一髪回避したが、軌道を変えたさらに脇腹を穿たれた。


「ぐっ」


 傷口を抑えながら、ついに倒れた。

 続けて魔法が放たれるが、ヤヨイにそれを防ぐ術はなかった。

 貫き、焼き、体を抉る魔法の痛みに覚悟したが、それは無用だった。


 見やれば、過去に何度も見てきたそれに似た、防御の陣が展開されている。似ているだけで、それと同じものではないが。

 そこに立っていたのは、シグレが守ろうとした赤髪の女だった。魔法を発動させたのは、彼女の仲間らしい。

 なぜ、自分を助けるのだろう。そんなことをぼんやりと思いながら、力を振り絞って立ち上がる。


「お前は下がってろ。ここはあたしたちが——」


 だが、振り向いた彼女は、ヤヨイの目を見て、言葉を失った。


「どいてくれ。お前らこそ逃げろ」


「だが!——ッ!?」


 どうやら、ヤヨイの身を包んでいく魔力に気がついたらしい。

 死ぬなよと。そう呟いて離れていった。


 これは、復讐のようなものだ。

 ヤヨイにとって何よりも大切だった、あの日常をぶち壊した神への復讐。

 そんな戦いだというのに、他人にケリをつけられるのは、我慢ならなかった。


 一対多。自らを窮地に追いやった少年は、とても低い声で、覚悟を決めたように呟く。


「いい加減にしろよ。そっちがその気なら」


 奥の手がある。


 果たして、どこにそんな力が残っていたのか。

 ヤヨイの体を取り囲むように、数箇所に魔法陣が、同時に浮かんだ。輝きを増していくその模様は、次第にヤヨイの体をもその光で淡く包み込む。


絶対支配アウトレイジ


命を削る禁じ手が、発動された。

今後遅くても前話の後書きに書いて、午前中には投稿します。

昨日一気に3人もブックマークが増えて嬉しい限りです!


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