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反乱

別視点の部分ありです

 

「なあ、本当に大丈夫なのか?」


 近くに座ったまま、ある男がそうこぼす。

 薄暗い、ぐらりと傾く部屋の中、彼女は面倒そうに何度目か分からない説明をする。


「あいつが陽動してるんだ。そうそうバレることなんてないさ」


 最も、説明と言えるほど長いものでもない。

 ただ、この言葉だけでも、この場にいる者たちは、少なからず安心できた。彼女が指した『あいつ』という存在が、それほど信頼に足る者だと分かっているからだ。

 しかし、それでもこの場には、不安以外の感情もある。


「俺たちがやってること、本当に、間違ってないんだよな」


 先ほどとは別の男が、そう独り言を呟く。

 そう、不安とは違ったものだ。今から自分たちがする行いが、許されるものではないかもしれないのだ。それは、罪悪感のようなものだった。

 彼女はそんな泣き言にも、少しでもやる気を起こすように答える。


「ああ、あたしたちの子供を、助けに行くんだ」


 そう言って、拳を固めた。

 今晩は運良く月が雲で隠れていた。なぜ運がいいのかといえば、そうでもなければ、彼女たちはここに辿り着くことができなかっただろうからだ。

 揺れが収まって、外から呼び声が聞こえてきた。


「こんな日の、こんな時間に何の用だい?」


「長旅で通りかかったんだが、ちと食糧を分けてやくれないかい?」


「何か身分を……しょう……めい」


 バタリと、商人の男は目眩を起こしたように倒れる。


「効いたらしいな。こいつら、本当にただの国民らしい」


「この国は表向きはまともだからな。武力を持ってるのは教会やギルドくらいのもんだろう」


 魔法で目撃者の気を失わせて、彼女が率いる集団は歩き出す。目的地はここから数キロ海沿いに行った先にあった。

 と、そこで突然、ぞろぞろとフードを被った集団が現れる。

 彼女は仲間を腕で制して、言った。


「誰だ?」


 しかし、彼らはなにも答えないまま、動かない。


(陽動が失敗したのか?しかし)


 それにしても、相手の行動には不可解だ。


「ここでやろうってならこっちは構わないが、良いのか?」


 ここで彼らに勝てる自信はない。

 おそらく、彼らは教会が保有する二大戦力である、宮廷魔導師団と騎士団、そのいずれかの団員だろう。化け物揃いと恐れられるほどの者達相手に正面から戦えば、戦況がどう運ぼうともここにいる味方の大半が命を落とすのは自明の理だった。

 だが、彼らは国民に、内乱が起こったという事実を知られるわけにはいかない身だ。

 そう簡単に動けるはずがない。

 そう高を括っていたが、ふと、敵の1人が前へと出てきて、そのフードを外した。


「その、黒髪は!?」


「……おとなしく、捕まってください。そうすれば、命までは奪いません」


 その言葉を聞き、彼女は黒髪の少女が置かれている現状を思い出す。


「それは、できない。あたし達も、信じる正義のために戦ってる。あんたらには危害を加えるつもりはない。ガキはさっさと、失せな」


 彼女は恐れていた。

 僅かに上ずった声は、僅かな体の震えは、気づかれていないだろうか。ちゃんと、隠せているだろうか、と。

 彼女の声を聞いた少女は、少しだけ表情を歪ませて、呟いた。


「ごめんなさい」


「っ、散らばれ!」


 その言葉とともに、突如自分たちを囲むように、闇が辺りを包み込んでいく。敵と味方を除いた空間そのものが、姿を消した。

 先ほどまで潮の香りがしていたはずがそれは薄れ、足元の感覚も変わる。先ほどまでザラザラとした石畳を踏みしめていたはずが、一転してパタパタと土の感触になっていた。


「これは——」


 転移。

 それも、50人近い集団全てを、同時に対象とする程の、大掛かりなものだ。足元に魔法陣が敷かれていたわけでもないので、おそらくこれは魔法なのだろう。

 そう、魔術の行程を魔力などのエネルギーのみで短縮する、言ってしまえば非効率的な魔法という方法で、これは成し得られたのだ。

 おそらくは、たった1人の何者かによって。


(なるほど。これほどの魔導師が相手となれば、あいつがしくじるのも無理はない)


 そして、冷静に考察していたことを後悔した。

 そう、ここは、港町ではない——おそらく人里離れた森の中なのだ。

 フードを被った魔導師達が、一斉に魔法陣をその手に浮かべる。


「伏せろ!」


 彼女が叫んだその瞬間。

 暗い森を、何色もの光が照らした。



 ❄︎



 反乱軍の女が叫ぶ十分ほど前のこと。


 波の音と、それに揺られる船の軋む音。

 日付が変わる頃、港には人の気配が全くなかった。

 町の中心ではまだ宴会騒ぎになっている場所もあるようだが、それも遥か遠く。例えこの場所で爆発が起こったとしても、気付くものはほとんどいないだろう。

 そんな静寂に包まれた場所に、別の音が混ざる。

 波が何かにぶつかる音とともに、水平線の方に小さな影が確認できた。その影はみるみるうちに大きくなっていき、港へ着くやいなや動きを止める。

 その船は、他の船と何ら変わらない容姿であった。

 装飾も施されておらず、大砲などが積み込まれているわけでもない。

 普通の船だ。その中に潜む人間達を除いて。

 足音が響き、人影が船から落ちてきた。


「…………」


 飛び降りてきた女は辺りを探るように見回しながら、こちらに近づいてくる。

 と、そこで、通りかかった商人がそれに気づいて、声をかけた。彼はすぐに眠るように倒れる。そして、女に続いて何人もの魔導師が、戦士が船から降りてきた。


「っ!」


「シグレ」


 耳元で、ゼノの止める声がする。

 分かってはいるのだ。彼らは国民には直接的に危害を加えるつもりはない。今使用した魔法も、最低限の催眠魔法だろう。


 頃合いを見計らい、シグレは仲間の何人かを引き連れて、物陰から姿を現した。

 そっとフードを外せば、女の顔は驚愕に染まる。


「その、黒髪はっ!?」


「……おとなしく、捕まってください。そうすれば、命までは奪いません」


 自分は今、情けをかけている。それを、気づかれていないだろうか。

 シグレは、それをとても心配していた。


 しかし、彼女はできないと言った。どうやら彼女達にも、引けない事情があるらしい。

 彼女の声が震えていたように感じたシグレだが、その期待も、次の瞬間には無意味になることを知っている。


「ごめんなさい」


 辺りの景色が、一瞬で闇に覆われ、そして変わる。

 誰1人欠けずに、立ち位置すら変えずに、全く別の場所への瞬間移動。


『始めろ』


 魔導師達にしか聞き取ることのできないその声と同時に。

 辺り一帯を太陽のごとく照らす爆炎が、姿を現した。


 マグナフレア。

 発動地点を軸に辺りに炎を出現させる魔法で、謂わゆる広範囲殲滅魔法である。

 集団のほぼ中央に巨大な魔法陣が浮かび上がり、中心から膨大な熱エネルギーが放出され続けた。

 無論、この距離では自分たちも巻き込まれてしまうのだが、各々防御魔法を展開し相殺するか、距離をとる等の手段を取っている。

 それに対し、侵入者達は当初の指示通り散開しするが、数人が魔法の餌食になってしまった。


 彼らは、この国の法を快く思わない、反乱軍だ。

 目的はよく分かっていないが、彼らの行動がこの国の民を、直接的でなくとも傷つけるものであることは確実であった。

 そのため、今こうしてシグレ達が相手をしているのである。

 最も、影のようなあの男であれば、たった1人で瞬時に殲滅できると思うのだが。


 先程とは比較できない程、この場には多くの魔法が入り乱れていた。

 紫電に暴風、氷結に極光。

 正しく阿鼻叫喚の地獄絵図を生み出していながら、彼らは手加減せず魔法を繰り出す。

 だが、敵もそう簡単には倒されない。

 アイレーン法国。

 神が統べるこの国を敵に回す以上、彼ら反乱軍も相当の実力を備えていて当然だ。


「ああぁぁっ!」


「ぐっ!」


 味方の1人が斬りつけられる。

 少し年上の男性、確か名前はと記憶を探るが思い出せない。

 慣れ親しんでいる者がゼノしかいないシグレにとって、彼らのことは味方としか認識していない。

 だが、心配であることには変わりなかった。



 ❄︎



「なっ!?」


 反乱軍の彼女は、敵の魔導師の1人に斬りかかり、手数を合わせることに成功した。だが、その時フードがはずれ、彼女はさらに絶望する。

 まだ若い青年だった。おそらく、二十歳にすら届いていない。

 慌てて周りを見回せば、やはりこの少年だけではなかった。魔法の光に照らされるその顔はハードに隠れて部分的にしか見えないが、全員が未成年なのではないだろうか。


「なにが神だ」


 子供を無理矢理戦士に育て、手足として使う。しかも、それは自分の国の子供ではないときた。人々を見守ると云う神のすることではない。

 戦意を失いかけた彼女に、青年が放った魔法が迫る。



 ❄︎



(私達は、弱くない)


 僅かに斬られた味方はすぐに敵を風の魔法で吹き飛ばし少し距離をとる。

 どうやら無事らしいが、怪我を負ったためか影の転移によってかすぐに姿が見えなくなった。攻撃を受けた女も、僅かにダメージを負っただけのようだ。


「どうなってる!何で魔力が枯渇しない!」


 敵の叫び声が聞こえた。

 だが、その疑問には誰も答えることができなかった。

 相手も魔法を使っているが、こんな乱戦状態では魔力は使い果たされるはずであった。

 おそらく影が、魔力そのものを転移していなければ。


「はあっ!」


 視界の端では、ゼノがシグレに近づく敵に斬りかかっている。

 魔法の対策はしているものの、やはり剣技ではゼノを上回る者はそういないらしく、少しずつ敵の数が減っていった。

 そのほとんどが、気絶している状態だった。


 シグレは俯き目を閉じながら。

 ただ、念じ続ける。

 時に手を伸ばし、時に距離を取りながら。

 ただただそれを繰り返し、そして願っていた。


(……敵も味方も、できる限り傷つきませんように)


二度目の投稿なのですが、一度目の文章にもいいところがあり、時間があれば修正していきます。物語に大きく関わる変更はない予定です。


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