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遅くなった上少し短めです。すみません。

 

「カタナ、か。確かに聞いたことがないな」


「少しでも触れたら致命傷だぞ。見れば分かると思うが」


 その言葉に、騎士は驚いたらしい。

 半透明の黒い魔力が、密度を高め物質として存在している。そして、その色は、彼が何度もその目で見てきたものだからだ。


「まさか……」


「ああ、ちょっとシグレの魔法を貸してもらった」


 先ほど現れた時、ヤヨイはシグレの魔法を支配下に置き、自身を対象外とした。そのまま、その魔力の一部を素材として、この武器を生み出したのだ。

 その武器を維持するために、手の甲には常に魔法陣が映し出されている。


「どういった原理か知らないが、死に関する魔法だろう」


 触れただけで、生気を奪う呪われた魔力。

 しかし、これで勝てるなどとは思っていない。強化魔法で肉体を強化しても、相手のそれには遠く及ばない。いや、そもそもあれが、強化魔法と言えるものなのかどうかすら分からない。

 魔力が反応してはいるが、魔法を使っている気配が感じられないのだ。


「……」


 しかし、それで諦めるわけにもいかないのだ。

 ヤヨイは可能な限り強化魔法の効果を強め、足を踏み出す。風の如き凄まじい速さで接近し、突きを放った。

 だが、やはりゼノの速度には遠く及ばない。


「ッ!」


 彼の剣で、ヤヨイの刀は軽々といなされる。そのまま正面から刃を振り下ろされた。そのまま、ヤヨイを脳天から両断したかに見えたが——


「なっ!」


 直前で、それは受け止められる。

 いなしたはずのヤヨイの魔刀は、すでにその刀身を防御の姿勢に持ち込んでいたのだ。

 物理的には、あり得ない。それが可能になるということは、ヤヨイがゼノの速度を上回ったことになるのだ。

 再び驚愕するゼノだが、ヤヨイからすれば単純なことだった。おそらく傍観しているシグレも気づいていることだろう。


 いなされた瞬間、その刀身は一時的に消え、ヤヨイの手の動きに合わせて再び物質化したのだ。そして、ヤヨイが創り出した魔力の武器は、元にした魔力の効果がそのまま反映されるだけではない。

 魔力をその位置に固定している限り、魔力そのものを切断しなければそれを貫通することはできないのだ。


(これが、俺なりの魔剣だ)


 村での魔物騒動の際に使った炎の腕は、練習もせずただイメージのままに炎を操っただけである。今回の魔法は、それを突き詰めて創り出したものだった。


「「はぁッ!」」


 再び切り結ぶ。しかし、やはりどちらの剣も折れることはない。何合と打ち合って、それでも終わることのない連舞。魅せる動きをしているつもりはなくとも、それを見たものは自然と思考を奪われたに違いない。

 ヤヨイの技は剣技ではない。あくまで魔法の技術だ。

 しかし、それを場違いだと指摘することこそ、間違いだろう。

 魔法の知識と技術を求め続けた魔導師と、ただ守り抜くために剣を求め続けた騎士の戦いは、苛烈を極めたかに見えた。

 しかし——


「「っ!?」」


 その戦いは、一瞬のうちに終わった。

 決着がついたわけではない。ただ、互いに続けることができなくなったのだ。


「これはっ!」


「シグレっ!」


 2人の戦いを止めたのは、涙でもなければ、叫びでもない。

 殺意だった。


「……」


 冷たい瞳で、シグレは2人の顔を見つめている。

 掌を、こちらに突きつけたまま。


(動けば、死ぬ)


 ヤヨイは驚きを隠せずにいた。


 魔法陣を構築することなく、何かがヤヨイの周囲に生まれたのだ。

 それはまるで、今その手に握っている刀のようだと感じられる。無色透明の斬撃が、自身の首や手、足などに突きつけられているのだ。


「どういうつもりだ?」


 それは、ゼノも同じだった。

 そう呟くその瞳には、何かを失念していたような色が見える。

 尋ねられたシグレは、冷ややかな視線を向けたまま告げる。


「それは、こちらのセリフ。バレないとでも思ったの?」


 双方とも知る由も無いが、その時、ヤヨイとゼノの心境は、ほとんど一致していた。

 気づかれていたのだ、と。


 魅せる戦いは、偽りのものだったわけではない。だが、本気でもなかった。互いに、互いが手を引くその瞬間を待ち続けていただけなのだ。


「馬鹿みたい」


 シグレは、俯いてそう愚痴をこぼす。


「私のためだと言って、2人して相手をかばって、手を抜いてる。ヤヨイ、あなたの魔法を私はよく知らないけど、避けるのに徹してその魔力をそのままゼノにぶつけることができたはずでしょう」


 ヤヨイは、歯を噛み締めた。


「ゼノ、いつものあなたなら、それを上回り得る速度で戦える。それに、さっきの戦い、人間じみていた。あなたの本気は、もっと別のもの」


「そんなことは」


「そうだよ、ずっと見てきたんだから」


 ふと、ヤヨイは気づいた。

 ゼノを縛り付けていた反応が、感知できなくなったのだ。


「シグレ!」


「ヤヨイ、もうお別れ。お父さん、見つかるといいね」


 彼女は俯いていて、ヤヨイはその表情を見ることができなかった。

 ただ、声が笑っているような気がする。嘲笑ではない、自嘲を含んだ笑い方で。


「何でだよ!ここから出ることだって——」


「私には、分からない。でも、ここで生きてきたことは、してきたことは、全部が間違いじゃないから」


 そう言って、ゆっくりと近寄ってくる。

 そして、ヤヨイにだけ聞こえる声で、呟いた。


「私のことは、助けなくていいよ」


「なっ!?」


 ヤヨイを解放することもなく、そのまま通り過ぎて行く。

 そのあとそばに来たゼノが、そっと言った。


「俺には、何も出来ない」


 ヤヨイはその言葉の意味に気づくが、しかし動くことすらできない無力感が募るばかりだった。


 救いに来た少女の気配が消えるまで、少年は彼女の名を叫び続けた。



 ❄︎



「シグレ、良かったのか?」


 いつもと違い、普通の口調でゼノは話しかけてくる。

 しかし任務ばかりで慣れていないのか、僅かに上擦っているような気がして、シグレはそれが少しおかしかった。


「うん、あれで良い」


「放っておけば、後で後悔するぞ」


 石で舗装された誰もいない夜道を歩きながら、2人はそんなことを話し合っていた。町の教会に血濡れた騎士達を預け、影から与えられた続きの任務に向かっている最中だ。シグレが少し先を歩き、ゼノがその後を追う形になっている。

 自分の勝手な行動で味方を危険に晒した。そのことをひたすら悔やんで謝罪していた新米騎士だが、仕方がないことだと2人して思っていた。

 シグレの存在はほとんど公になっていないし、あの状況を打破できる魔導師というものを、シグレもゼノも他に見たことがない。

 最も、あくまで魔導師であれば、ではあるが。


「魔法を使っているから、何となくわかる。多分、私にかけられた鎖は、彼の力では外せないから」


 自分で口にしていながら、自分でもそれに含まれた感情が分からなかった。


「それに、もうこれ以上、彼を巻き込みたくはないから」


「……そうか」


「次の目的地は、港だよね」


「ああ、すでに他の宮廷魔導師が到着しているだろう」


 その時、シグレは急に立ち止まった。


 また、血を見ることになるのだろう。戦いを避けることはできないのだろう。間違いではないと、あの少年に先ほど言った。しかし、本当にそうだろうか。自分のこの意思すらも、何かずれているような気がする。

 そんなことを思っていると、気づけば肩に手を置かれていた。

 ゼノは普段は決してしないように、そっとシグレに微笑みかけて、安心させるように言った。


「何かあれば、お前は俺が守る。ガキの頃からの誓いだ。神でも呪いでも、お前のためなら何でも敵に回してやる」


「ゼノ」


 ありがとう、とシグレは小さな声で呟く。

 少しだけ、心が軽くなった気がした。

 今からまた、心が凍りつくような出来事が起きるのだろう。それでも、覚悟を決めて歩き出す。



 ❄︎



 しかし、2人はその時気づいていなかった。

 影が、彼らの姿を見つめ、狂気に満ちた笑みで笑っていることに。


『さあ、見せてもらおうか』


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