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衝突

新米騎士はどうなってしまうのかー!!?



バルトは、自分に向けられてその大木が振り下ろされる瞬間、目を瞑ることができなかった。


それによって、その様をはっきり見ることができた。

一本の赤い線が、巨人の右腕——その得物をもつ腕に走る。


「ア?」


切断面から血が噴き出す。

その姿を呆然と見ていると、切れた腕が地面は落下する直前までに、さらに幾多もの線が巨人の体を刻んだ。

それは、魔物を一瞬のうちに絶命に追いやる。


「え?」


その血をその身に浴びながら、バルトはただ惚けていた。

何が起こったのか、理解できなかった。いや、理解したくなかったのだ。

自分は、守られたのだと。あの少女の力で、救われたのだと。

そして、同時に思ったのだ。悪かったと、自分が馬鹿だったと。

自然に目頭が熱くなってくる。まだ戦場だというのに、頭を抱えて叫びたくなる。

そんなバルトを沈めたのは、


「謝りたければ、生き残れ」


ゼノだった。

バルトを囲んでいた魔物達が、次々とその命を散らす。

剣技のみで、魔物を倒すことは不可能ではない。しかし、バルトが見る限り、ゼノの力は人間の限界を超えていた。ただ空を切っただけの斬撃が、魔物の体に届いている。一体どんな方法でそれを実現しているのか、全く理解できなかった。

数秒後、ゼノは息を乱すことなく、最低限自身のそばにいる魔物を殲滅してのけた。

いつの間に自分のところまでやってきたのか。そんなことを考える間も無くバルトは担ぎ上げられる。軽装とはいえ、鎧を着た自分を、文字通り軽々と。その驚きが消える間も無く、隣を見やれば、反対側の腕には、やられたと思っていた同期の騎士が担がれていた。

それに安堵すると同時に、だんだんと意識が遠のいていく。


「だから言ったんだ」


徐々に闇に飲まれていく視界の中、バルトはゼノの言葉を聞き取った。


「この場所は、新人には厳し過ぎると」



❄︎



「……」


既にはるか遠くを走るゼノの姿を、シグレは見つめていた。

その腕には、飛び出した二人の騎士が担がれている。魔物の血を浴びたようだが、だからと言って水で落とせば何の問題も無いだろう。

ふうとため息を吐いて、伸ばした手を下ろす。


「——」


こちらを見て呆然としていた顔見知りの騎士も、何も言わないがさぞかし呆れたことだろう。首を力なく振っているので、もう驚かないぞと自分の価値観を粉々にして風に蒔いたらしい。

以前の任務ではあの術は見せていなかったし、ゼノもほとんど傍観してばかりだった。しかし、自分はともかくゼノは普通だろう。あれでギリギリ騎士団で10位以内なのだ。上位陣はそもそも人間なのだろうか。


「あの、俺はどうすれば」


「……護衛、感謝します。あの人を追ってください」


「了解しました」


頷いて、風のように走り去っていく。


この後何が起こるか知っているのだから、当然と言えるだろう。


この国では、確かにそれほど危険な、言い換えれば魔力の強い魔物は出現しない。法皇が張った結界のようなもので、抑制されているのだ。シグレにも、具体的にどうやっているのかはわからない。

しかし、実のところ、魔物は稀に出現している。

自然発生を抑制しているだけであって、誰かが意図的に造り出すのを止めることはできないのだ。そのため、それを感知した法皇は、度々宮廷魔導師や騎士団を派遣し、密かに掃討していた。シグレも幾度も、その任務を遂行している。

しかし、


(やっぱり、慣れないな)


人の命を奪うわけではない。

人に危害を及ぼす魔物の命を奪うのだ。しかし、それでも、命には変わらない。


足元に魔法陣を浮かべたまま俯いているシグレの元に、少しずつ、魔物が集結していた。

目を閉じて、さらに集中する。

魔力感知を利用して、辺りの木々、魔物の位置、そして、彼らの居場所を把握する。

魔物が魔法を放つのを感じた。

接近してきた魔物が、その牙を、その得物を、自分へと向けてきたのを感じた。

それらが、自分に当たる、その直前に。

シグレは目を開き、魔法を発動した。


「恨んで」


その呟きとともに。薄黒いオーラの嵐が、林に満ちていく。

木々は枯れ、魔物は叫び、闇が舞う。

彼らの生命力は物凄い勢いで奪われていき、魔物は灰と化して、その姿を消した。

静寂が訪れる。今の今まで、命をかけた殺し合いが行われていたなどと言われても、到底信じられるわけがなかった。それほどに、それは一瞬のうちに、戦いを終わらせたのだ。


「……間に合った、かな」


少しだけ、シグレは疲れていた。

この魔法は、対象を選ぶことができない。

辺り一帯に効果範囲を広げれば、自分を除いたその範囲にあるもの全ての生気を奪う。これを魔法と呼ぶのかすら、疑わしいものだった。

だから、心配した。騎士達は無事に逃げ延びることができたのだろうか。


少しだけ、ため息をついた、その直後。


「シグレ」


誰もいるはずのない、シグレのすぐそばで、静寂は絶たれた。



❄︎



手渡された手紙には、こう書かれていた。


『急用ができたので、今日のところは見逃します。クレープ、とても美味しかったです。また会う機会があれば、あの時受け取れなかった言葉を聞かせてください。あと、朝から疲れたと思うから、今日は早めに寝たほうが良い』


この手紙を読んだ人は、何を思うだろうか。

それは、もちろん。


「馬鹿だろ、お前」


「……」


「いや、もしかしてわざとやってるのか?俺をここにおびきだしたかったのか?これみたら誰だって、今日何かが起きるんだなって気付くだろう」


シグレは何も言い返せないのか、黙り込んだ。

ヤヨイはその様子を見て、ふっと微笑んで、そして、彼女を睨みつける。


「そもそもだ。お前、またそのうち会える、なんて本気で思ってるのか」


「……」


「宮廷魔導師であるお前と、ただの出稼ぎである俺が、こんな場所でもなければ、すぐ会えるとでも思ったのか?」


シグレが拳を握り締めるのを、ヤヨイは見逃さなかった。しかし、彼女はその質問を無視して、自分から質問する。


「どうして、平気なの?」


その質問をされるだろうと、予想はしていた。


「今回だけのことじゃない。屋敷でだってそう。私の魔法は、敵も味方も関係なく殺す。それなのに」


「お前が知らない魔法を俺が知ってても、おかしくないだろう」


支配魔法の存在を知らせるべきか、ヤヨイはまだ悩んでいた。しかし、この場でそれをしないのは、ただ怯えているだけだろう。


ただ、一つ問うべきことがあった。


「お前、分かってるんだよな?俺の言葉を聞くことができないのは、その紋章のせいだって」


「ええ」


「もし俺が、それを外せるって言ったら、信じるか?」


悪い話ではないはずだ。

様子を見てきた限り、シグレにとって大切なものはこの国にあるものではなく、今彼女のそばにあるものだ。それも、彼女がそこに居続ける理由にはなり得ないだろう。

一か八か、そう尋ねてみたヤヨイだった。


「信じるよ」


彼女がそう微笑んだ時、ヤヨイは心から嬉しいと思った。

しかし、


「でも、外して欲しくない」


続いた言葉に、顔を顰める。

最初は、何を言っているのか分からなかったのだ。なんど反芻してもそれ以外の意味を持つとは思えない。とすれば、ヤヨイはまだ、何か見落としているものがあるということだ。

だが、考えている暇はない。


「何でだよ」


「何でも」


「何が、お前を縛り付けてるんだ」


彼女は、黙ったまま俯いた。


「答えろよ!シグレ!」


それでも想いに応えようとしないシグレに向けて、ヤヨイが足を踏み出した瞬間。

剛気を纏った重い一撃が、ヤヨイに向けて振り下ろされる。


「っ!」


一撃目を強化魔法込みで何とか避けられたのは、果たして運が良かったのか。いや、明らかに、ヤヨイは手加減されていた。


「貴様、なぜここにいる?」


シグレの護衛騎士であるゼノが、早くもこの場に戻ってきていた。


「ゼノっ!」


「巫女様、下がってください。ここは俺が」


「やめて。彼は私の——」


と、そこで、シグレの言葉は途切れた。

彼女からすれば、ヤヨイはただの不審者だったはずなのだ。それは、ヤヨイから見ても当然のことと言える。


「確かに知り合いのようですが、今この場にいる事実は変わらない。なぜここに来た?」


「魔力をたどって」


「そうか」


しかし、それでゼノが納得するはずもなかった。

瞬きの合間に、再び距離を詰められる。今度は避けることは不可能だった。


「ヤヨイっ!」


シグレがこちらに向けて掌を向けるのが見えた。

しかし、それには及ばない。ヤヨイも、伊達に数年間修行してきたわけではないのだ。


金属音が、静かな夜を妨げる。


「なっ!?」


驚きのあまり、ゼノは飛び退いて距離をとった。

ヤヨイの手に握られていたものが、あまりにも常軌を逸していたのである。


「何だそれは?」


それは、ゼノ達騎士が持つ剣とは一風変わった、片側にしか刃がない、知識から生み出された武器。


しかし、明らかに、それは金属製などではない。

半透明の黒いオーラが形を模っている。それは、どう見ても魔力でできていた。


「カタナって言うらしいぞ。凄いだろ」


カタナ持たせてみました。魔力製です。


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