セカンド・リアル 11
その声には聞き覚えがあった。確か昨日、現実世界とこの世界に入ってから。
すると、脳裏に一つの名前がフラッシュした。
「弥富…謙介!」
「気づいたか」
その人影は、ゆっくりとタスクに近づく。
その男は、白い白衣をなびかせ、強い視線をタスクに向けた。
大人びた口調をした男、弥富謙介は空中をなで、水色の八面体がオブジェクトさせ、左手の上に浮かせる。
「これはシステムコンソールだ。これを使えば君はこの世界から出る事が出来る」
「ゲームマスター権限はどうした」
タスクの問いを、ゲームマスターはすぐに返した。
「あれを使うと八パーセントの確率でバグが発生するのでね。こちらの方がいいかと思ってね」
そう言うと、弥富謙介は右手をシステムコンソールに触れる。その刹那、白衣がいきなり光となって消滅し、代わりに鉄の鎧、盾と剣を装備した。
「えっ!」
明らかにおかしかった。なぜならその装備は全て低レベルで手に入る装備だからだ。だが、一つ確実にわかる事がある。それは…
「お前を倒さないと、この世界からは出れないって事だな」
そう言うと、弥富謙介は素っ気なく応えた。
「そうだ。君は私と戦い、勝たなければこの世界から出る事は出来ない。しかし、前と同じように戦っても面白くない。そこでだ、今度のアップデートに追加する新しい職業、フリージョブで戦いたいと思うのだが」
その提案には賛成だ。しかし、一つの疑問がある。職業によっては、使用できるスキルが限られている。タスクの使用できるスキルは片手剣スキルと素手スキルなどだ。
しかし、その疑問を察したらしい弥富謙介は、タスクの疑問に応えた。
「フリージョブの使用できるスキルは全てだ」
…そうか
タスクは息をゆっくりと吐く。緊張を抑えるためだ。
「君は革と鉄の鎧、どちらが好みだ」
革は防御力が低いが軽い。対して鉄は防御力が高いが重い。タスクは軽い革を選択した。
「革だ」
「そうか、ではどの武器がいい」
ここは即答。
「片手剣」
弥富謙介はタスクの答えを聞き終えると、システムコンソールに触れた。その瞬間、タスクの装備が先ほどの弥富謙介のように外れ、革の鎧と片手剣が装備された。
「今ならスキルの変更を変更してもいいぞ」
そう言われて、タスクはメニューを呼び出し、スキル設定でスキルを変更した。
それを見た後、弥富謙介はシステムコンソールに触れる。その直後、先程まで減少していたタスクの体力ゲージが回復した。
タスクは大きく深呼吸をして、口を開いた。
「さあ、始めようか」
弥富謙介はその言葉に、システムコンソールを握り潰して返した。