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第四話 「疑惑」

「隊長さんよお、オレたちは今まであんたの言うことは理不尽な命令であっても聞いてきた。それは、あんたが尊敬するリーダーだからだ」


 本部内の一室に、マルコーの声が響き渡る。

 第八特務部隊室。

 決して広いとはいえない部屋だが、中にあるのは大きめのソファーと小さな机、それからローランが座る一人用のデスクだけで、飾りっ気のない閑散とした部屋だった。


 ローランはデスクの前に座り、青筋を立てて必死に怒りを抑えているマルコーの言葉を冷静に聞いていた。


「でもよお、これはないぜ。いくらあんたの命令であっても、こんな傭兵学校の奴らにも劣りそうな小娘を特務部隊に引き入れるなんてなあ」

「マルコーの言う通りさ」


 ソファーの背もたれに両腕をかけて足を組みながら踏ん反り返っているシャナも同意した。


「あたいらはチームなんだよ? 役に立たないならまだしも、こんな足を引っ張りそうなヤツを、どうして入れたんだい。それだけで、あたいらの死亡率が上がるじゃないか」


 死亡率、と聞いて部屋の片隅で申し訳なさそうに聞いていたクレアの表情が青ざめた。


 そうなのだ。

 傭兵たちの憧れである華の特務部隊は、その晴れやかな活躍とは裏腹に、一般傭兵隊員以上に危険な思いをしている。

 特務部隊の主な任務は、一般傭兵部隊では歯が立たないような凶暴な魔物との戦いが基本であるからだ。


 魔物の強さに上限はない。

 ゴブリンやオークなど下級の魔物には一般傭兵部隊でも対抗できるが、近年増えつつある伝説級の魔物となるとその強さは計り知れない。

 彼らは、そのどんな魔物とも戦わなくてはならないのだ。

 人智を超えた化け物でも相手をしなくてはならない。


 選りすぐりの集団ではあるが、彼らの周囲には常に“死”がつきまとっていた。


「あたいはごめんだね。あんな小娘とチームを組むぐらいなら、一人で魔物を狩ってたほうがマシさ」


 ローランにとってマルコーとシャナは3年もの付き合いになる。

 仲間の死などで入れ替わりの激しい特務部隊においては長いほうだ。

 そのつながりは、他の部隊よりもはるかに強い。

 故に、そんな二人の辛辣な言葉には第八特務部隊隊長としては胃が痛くなる思いであった。


「二人になんの相談もせず、オレの判断で勝手に彼女を入れたのは謝ろう。しかし、彼女の腕前も見ずに見た目だけで判断するのは特務部隊隊員としてどうかと思うが」

「腕前?」


 はん、とマルコーは笑った。


「こんな、剣もまともに持てそうにねえ細っちょろい腕で、どうやってオレたちが相手をする魔物と戦うってんだ?」


 小さくなってうつむくクレアに、シャナも目を細めて意地悪く笑った。


「そうさ。仕合ってみるならまだしも、見るからに足手まといになりそうなツラをしてるじゃないさ」

「ならば、仕合ってみるか?」


 ローランが、まるで今思いついたかのように言った。


「仕合ってみれば、彼女が足手まといかどうか、わかるだろう」


 その言葉に真っ向から反対したのは、クレアである。


「ち、ちょっと待ってください!! 私、隊長が思っているほど強くありません。みなさんの言う通り、足を引っ張るだけです」

「強いか強くないか、足を引っ張るかどうかはこちらで判断する。貴様は言われた通り、仕合えばいい」

「で、ですけど……」


 チラリ、とクレアは筋肉隆々のマルコーに視線を向けた。

 この太い腕で思いきり剣を振るわれれば華奢な自分の身体など真っ二つにされそうだ。


 そんなクレアの不安を見透かしたかのようにローランは言った。


「大丈夫だ。危なくなりそうだったら、オレが止める」


 それはつまり、隊長自らが助けに入るということだ。

 それでも、まかり間違えれば命を落とす危険性もある。

 クレアにとっては、転属初日にこんなことで命を落としたくはなかった。


「……本気ですかい」


 マルコーは隊長の真意を確かめようと目を細めた。

 いくら新入りの実力を示したいからとはいえ、現役の、しかも不死身の朱雀隊とまで言われる彼らと仕合いをさせるのはあまりに無謀である。


 中でもマルコーは数々の修羅場をくぐり抜けてきた猛者である。

 その蓄積された経験値は、手加減しようにもできないほど、身体に染みついている。

 殺すつもりでなくとも、彼の繰り出す一撃は致命傷になるかもしれない。


「隊長は、この新入りの腕前を知ってるのかい?」


 シャナが、自信たっぷりな態度をとっているローランに尋ねた。

 彼女にとっても、そこまでしてクレアを推す隊長の考えが計りかねた。


 しかし、ローランの口をついて出た言葉は意外なものだった。


「いや、まったく知らん」

「は……?」


 隊長の言葉に、3人が目を丸くしたのは言うまでもない。



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