表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

最終話 「帰還」

 暗闇の中を、クレアは歩いていた。

 いったいどこに向かっているのか。

 一寸先も見えない、真っ暗な世界。

 不安に押しつぶされそうになりながら、彼女はひたすら歩き続けた。


「クレア」


 どこからともなく、声が聞こえる。

 優しくて、柔らかな声。


「ライトニングさん……?」


 キョロキョロと辺りを見渡すと、はるか前方にライトニングの姿が見えた。


「ライトニングさん!!」


 思わず駆け出す。

 彼の優しげな笑顔。その姿に、心の底から安堵する。

 この暗闇の中で彼だけが光り輝いていた。

 しかし、行けども行けども距離は縮まらない。


「ライトニングさん……!!」


 だんだんと不安になっていく。

 手を伸ばすも、届かない。

 駆け出すクレアにライトニングは笑顔を向けながら言った。


「クレア、君は僕の希望。この世界を託したよ」


 瞬間、まばゆい光がクレアの目の前に現れた。

 強烈な光に思わず立ち止まり、腕で顔を隠す。

 光は彼女の全身を包み込むと、強い力で闇の世界から引っ張り出していった。



「う………」 


 クレアはうめき声を上げて目を覚ました。


「気が付いたか」


 聞きなれた声に、顔をあげる。

 気づけば、彼女はローランに背負われていた。

 アルス山脈のふもとだった。

 ゆっくりと慎重に、もと来た道を戻っている。


 何があったのか、はっきりと思い出せない。


 背負われながら振り向くと、シャナが心配そうな顔で覗き込んでいた。


「シャナさん……」

「ったく、最後まで隊長に面倒を見てもらうなんてさ。とんだ新入りだね」


 そのはるか後方には、ガトーたち第十四特務部隊の面々が見える。

 彼らはライトニングのレイピアを大事そうに抱えながら歩いていた。

 その姿に、一気にクレアの記憶がよみがえる。


 洞窟内で遭遇した魔族の集団。

 その集団から身を挺して自分を護ったライトニング。

 その直後、一気に爆発した感情。

 ひとつひとつが鮮明に思い出される。


 瞬間、クレアの頬に涙が伝った。

 溢れんばかりの想いに、声が出てこない。


 ガトーたちは、何も言わなかった。

 それが余計につらい。


「私、私……」


 それに気づいたローランが、クレアを背負いながら言った。


「今は何もしゃべるな」


 それは隊長としての優しさでもあり、ガトーたちに対する配慮でもあった。

 仲間の死は、口に出してしまえば一気に押し寄せてくる重荷のようなものである。

 今はただ、本部への帰還を考えるだけでいい。


「はい……」


 言いながら、クレアはローランの背中に顔をうずめた。

 魔族出現の報、ライトニングの弔い、帰ったらやらなければならないことはたくさんある。

 泣いてる暇はない。


 彼女はローランの背中から飛び降りると、強い眼差しで言った。


「行きましょう、隊長」


 いつものオドオドした顔つきとは違う凛とした表情に、ローランは目を丸くした。

 しかし、どこか力強いその顔立ちに、安心感を覚える。


「ああ、行こう」


 一行はクレアを先頭に、ひたすら王都への帰還の道を歩き続けた。

 真冬のアルス山脈は、これからの戦いの厳しさを象徴しているかのようであった。



おわり

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

本作は序章的な意味合いですので、ここで終了となります。

拙作『魔王のいなくなった世界は、混沌としていた』のクレア編でお届けしたわけですが、これ単体でも通用するように書かせていただきました。

ことの発端は「王道ファンタジーが書きたい!!」という自分勝手な妄想からきております。邪悪なモンスターたちが暴れまわって、それを戦士たちがバッタバッタと斬り倒す、そんな話。全然、そんな話じゃなかったけど(笑)

主人公最強の物語ではありますが、最強にさせるまでが難しくて四苦八苦しました。

「なんとか覚醒してくれれば」という想いで、どうすれば覚醒してくれるのかなと悩みに悩みました。

結果、親しい人が死ぬというまさにお約束的な展開に。余談ではありますが、自分の中ではクレアとライトニングの間に恋愛感情はありません。友達以上恋人未満みたいな感じです。


このシリーズはいろんな勇者の物語が平行してますので、主人公はたくさんおります。

今後ともいろんな勇者を描いていきたいなと思っております。どこまで書けるかは本当にわかりませんが、よろしくお願いいたします。


最後に、このような拙い作品を最後までお読みくださいまして、本当にありがとうございました。

またどこかでお会いできれば嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ