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第十三話 「クレア初参戦」

 一言でいうなら、ローランの戦いぶりは洗練された熟練の剣士の動きであった。

 流麗な動きは水が高きから低きに流れるが如く、ごく自然な動きで相手の攻撃をかわし、そのまま流れるように致命の一撃を与えていく。

 無駄な動作が一切ない、惚れ惚れするような剣技に、クレアのみならず端から見ている傭兵隊員たちも息を飲んだ。


 あれだけ恐ろしかった魔獣マンティコアが、まるで赤子の手をひねるかのように次々と屠られていく。


「隊長!!」


 それでも、数の差はどうにもならなかった。

 どこからあふれ出るのか、次から次へと物陰からマンティコアが姿を現す。

 シャナがクロスボウを構えると、援護のために矢を放った。

 矢は目にも止まらぬ速さで飛んでいき、ローランの背後に忍び寄るマンティコアの目を貫いた。


「新入り、何してんだい!! 隊長を援護しな」


 馬に乗ったまま静観しているクレアにシャナが声をかける。

 その声に反応して、クレアは馬から飛び降りた。


「とりあえず、倒そうなんて考えなくていい。ヤツらをかく乱するんだ」


 シャナの言葉にクレアはうなずくと、ミスリル製のダガーを手に装備した。

 実戦でダガーを用いるのは初めてだ。傭兵部隊にいた頃は、まわりに合わせてショートソードを使用していた。

 クレアの非力な腕では重いショートソードよりも扱いやすいのかもしれないが、リーチの短いダガーは正直不安だった。

 第一、マンティコアの懐に飛び込まなくてはならない。


 そんなクレアの不安を察知したのか、シャナは言った。


「言ったろ、倒そうなんて考えなくていい。とりあえずあんたはその身軽な動きでヤツらの狙いを隊長から逸らすんだよ」


 シャナはローランやマルコーが感じるような、クレアの内に秘めた才能には懐疑的だったが、ここは特務部隊内でも一目置かれる二人の直感を信じてみようと思った。


 そうでなくとも、このままでは隊長が危ない。


 クレアはダガーを握りしめると、マンティコアに向かって突進していった。


「やあああぁぁっ!!」


 シャナのクロスボウがそれに合わせて放たれる。

 狙いは寸分違わず、クレアが突進していったマンティコアの目を貫いた。


「ギャオワア──ッ!!」


 前足を上げてのけ反るように立ち上がるマンティコアの足の間をスライディングですり抜けて、クレアは群れの中に飛び込んだ。


 その中心ではローランが一人で剣をふるって戦っている。

 その1匹に向かって、クレアはダガーを打ち付けた。

 ギチッという硬い感触が手に残る。

 見れば、傷一つついていなかった。

 クル、とクレアに顔を向けるマンティコアの首を、ローランは背後から刎ね飛ばした。


「隊長!!」

「クレアか」


 クレアはマンティコアの素早い攻撃を紙一重で次々とかわしながらダガーで牽制攻撃をかける。


「私がかく乱します!! その間に仕留めてください」


 まるで熟練の戦士のような物言いに、ローランは目を見張った。

 そして、彼女の動きはまるで新入りとは思えないほど卓越していた。


 トントンと地を蹴るような動きで相手の出方を見つつミスリル製のダガーを振るい、それによって反撃されればすぐに背後に回るという動作を繰り返す。ともすれば、マンティコアの同士討ちにまで持ち込むほど、それは巧みであった。


 援護しようとクロスボウに矢をセットするシャナも、クレアの動きには尋常ならざる何かを感じていた。


(なんだい、あの娘……)


 当たるようで当たらない。

 傭兵隊員たちでさえ、かわしきれなかったマンティコアの攻撃を、四方八方から攻撃されてことごとく彼女はかわしている。

 身軽、という言葉では決して表しきれない。


 少し離れた場所でクレアの動きを見つめていたマルコーも、「へっ」と真っ赤に染まった口元を歪めて笑った。


「やっぱ、ただもんじゃねえな、あいつぁ」


 クレアのかく乱により、形勢は一気に決した。

 クレアを狙うマンティコアの首を、ローランが横から次々と刎ね飛ばし、シャナの放ったクロスボウが他のマンティコアをけん制する。ここにマルコーがいれば、もっと早く終わっていたであろう。

 第八特務部隊のすごさは、傭兵部隊隊員たちにとって身震いするほどのものであった。


 気が付けば、マンティコアの群れは1匹残らず倒されていた。


     ※


「ご助力、ありがとうございました」


 傭兵部隊の隊長が敬礼をとりながらローランに感謝の意を述べる。


「いや、あなた方が命を賭して足止めをしてくれたおかげです。それにより、命を落とされた隊員たちに、特務部隊隊長として哀悼の意を表します」

「不死身の朱雀隊ともいわれる第八特務部隊隊長殿から、そのように言っていただければ死んだ仲間も浮かばれます」


 隊長以外の傭兵隊員たちは、黙々と仲間の遺体を回収していた。

 中には、ようやく戦いの緊張から解放され、改めて仲間の死を認識して泣き崩れる者もいた。

 しかし、このようなことは魔物が出現するようになってから日常茶飯事になっている。


 今では、仲間の死を経験していない隊員のほうが珍しいくらいである。


 クレアは、今回出動していた傭兵部隊がワッツの所属している十二大隊でなかったことに不謹慎ながらも安堵していた。


「それでは、我々は戻ります。後の処理はお願いします」

「はい、お任せください」


 死んだ隊員たちの埋葬、殲滅したマンティコアの処理、避難した町の住民の帰還護衛と、やることは目白押しだ。

 手伝ってあげたい気持ちを抑えつつ、クレアはローランの馬に乗せられてハザン地区をあとにした。



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