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第十一話 「マンティコア討伐」

 ハザン地区の現場は、ひどい有様だった。


 多くの傭兵部隊の隊員たちの切り裂かれた死体が転がっている。

 その死体に、魔獣マンティコアが鋭い牙を突き立てながらあたりを伺っていた。


 この凶悪な魔物の周りには、百人以上いた隊員たちがすでに十数人と数を減らし、剣を構えながらジッとしている。


 とても適わない。

 適うわけがない。


 マンティコアの動きは異常だった。

 あまりの速さに目がついていかない。

 そして、爪の鋭さも尋常ではなかった。

 魔獣の繰り出す鋭利な爪は、彼らの着ている安物のチェインメイルなど紙にも等しかった。


 ことごとく、彼らはマンティコアの爪に倒れ、牙を突き立てられた。

 彼らにはもはや戦う意志はない。

 ボリボリと異様な音を立てて仲間を喰らう魔獣を眺めるだけである。


「臆するな、もうじき特務部隊がやってくる」


 分隊長の言葉には、なんの力もなかった。

 これほど圧倒的差を見せられたら、いくら特務部隊とて歯が立たないのではなかろうか。そう思わずにはいられない。


 それほどまでに、彼らは絶望感を感じていた。


「グルル……」


 マンティコアの瞳のない双眸がその絶望感を感じ取ったのか、分隊長のほうに向けられた。


「───ッ!!」


 瞬時に分隊長の身体が強張る。

 それは、魔物と呼ぶにはあまりに強烈なオーラを放っていた。

 まさに、食う者と食われる者。


(殺される──!!)


 直感的に、分隊長は思った。

 その瞬間、マンティコアの後ろ脚が跳ねた。

 すさまじいスピードで、彼に向かって跳んでいく。


「ひっ……」


 避けられない、そう思った矢先、マンティコアの身体が地響きをたてて地面に沈んだ。


「───!?」


 数メートルもある巨体が、地面にめり込む。

 気がつけば、一人の巨漢がマンティコアの頭に巨大な斧を振り下ろしていた。


 マルコーであった。


 彼は、住民たちが避難した町に到着すると、1匹のマンティコアと対峙している傭兵部隊を見つけて、この魔獣の攻撃よりも早く、その頭上に斧を叩きつけたのである。


「……ちっ、なんてえ硬さだ」


 しかし、マンティコアの頑丈さは異常であった。

 マルコーの渾身の一撃でさえ、少し傷がつく程度である。


「ガオアァッ!!」


 むくっと起き上がったマンティコアが、マルコーの身体をかみ砕こうと頭をのばした。


「──ッ!?」


 マルコーはその体躯に見合わず、俊敏な速さで身体をひねってかわした。

 マンティコアの牙が脇腹をかすめる。

 パッと鮮血が飛び散るが、致命傷ではない。

 マルコーはそのまま後ろに飛び退き、間合いをとった。


「おい、てめえら。ここはオレに任せて、とっとと逃げな」


 彼らは、待ちに待った救世主の登場に安堵の色を浮かべるとともに、不安そうな言葉を口にした。


「だ、大丈夫ですか……? 見ての通り、凶悪な魔物です、我らでは歯が立たず……」

「へっ、オレ様を誰だと思ってんだ」


 言いながら、目にも止まらぬ速さのマンティコアの攻撃をかわしている。

 並外れた動体視力と身体能力である。

 マルコーは、ブンと前足で胴をなぎにいったマンティコアの攻撃をかわすと顔面に3連続で斧を叩きつけた。


 ガッ、と鉄を叩いたようなしびれる感触が全身に伝わる。


「ここもかよ」


 マンティコアの硬さは顔面でさえも同じらしい。


 一瞬動きの止まったマルコーめがけて、マンティコアは大きな口を開けて噛みつこうとした。


「──!?」


 グッとマルコーが身構える。


 その直後、あふれんばかりの血がこの魔獣の口から噴き出した。

 ぬ、とマンティコアの後頭部から突き抜けるような形でショートソードの刃先が口の中から見えている。

 背後からシャナがマンティコアの首根にショートソードを突き刺したのだ。

 マンティコアの血を浴びながらマルコーは魔獣の背後に立つシャナに視線を向けた。


「こいつの弱点は首根っこだって、教わらなかったかい?」


 見事、マンティコアを仕留めたシャナが得意げに言う。


「あいにく、お勉強は苦手でな」


 マルコーが軽口を叩くと同時に斧を横にふるった。


 ズガン、と鈍い音を立ててマンティコアの首が飛ぶ。それは、きれいな放物線を描いて遠くで見守る傭兵隊員たちの足元へと落ちていった。


「危ないじゃないか!! あたいの剣がまだ突き刺さってたんだよ?」

「てめえなら避けられるだろうって思ったんだよ」

「避けなきゃあたいも一緒にお陀仏だったじゃないか。信じらんないよ、たく」

「へへ、まあ生きてたんだからいいじゃねえか」


 軽口を叩き合う特務部隊のすごさに、傭兵隊員たちは一言も言葉を発せられなかった。

 ただただ、驚愕するばかりである。


「隊長が来る前に片付いちまったな」


 マルコーがさも残念そうに言う。


「よかったじゃないか、隊長の手を煩わせる必要もなくて」

「そうじゃなくて、あの新入りの実力も見てみたかったんだがな」

「はん、あんな馬にも乗れない足手まとい、いなくて正解だったよ」

「馬なんか、すぐに乗れるようになるさ。オレなんか1日で乗れたぜ」

「嘘お言いよ。そんなに簡単に乗れるわけないだろ」

「嘘じゃねえよ。コツさえつかめば、簡単にな……」


 軽口を言い合う二人に、一瞬悪寒が走った。


「───!?」


 瞬時に横に飛び退くマルコーとシャナ。

 直後、二人がいたあたりにもう一匹のマンティコアが牙をむきながら前足を突き付けて着地した。


「なんだい、まだいたのかい」


 横に飛び退きざま、体勢をととのえながらシャナがショートソードを構える。


「へ、何匹いようと一緒よ」


 マルコーが斧を振り上げようと身構える。

 しかし、その顔は一気に凍りついた。


 伝説級の魔獣マンティコア。

 それが、群れをなして建物の陰という陰から次々と現れたのである。


「マルコー……、これって……」

「1匹だけじゃなかったのかよ」


 どう見ても10匹以上はいた。

 傭兵隊員たちにとっては1匹でも歯が立たなかった魔物が集団で姿を現したのは、傭兵隊員はおろか二人にとっても予想だにしていなかったことであった。

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