黄色い潜水艦
次第に薄れていく意識の中で、ぼんやりと光る天井の裸電球がゆらゆらと揺らいで見えました。
駄々をこねて買ってもらった黄色い潜水艦を、おじいちゃんの屋敷のお風呂で浮かべて遊んでいるうちに、頭から落ちてしまいました。
不思議に "苦しさ" とか "怖さ" とかは、感じませんでした。
ただ「一人でお風呂場で遊んだらダメよ」という、おかあさんの言付けを守らなかった事を叱られるのが心配でした。
ゆらゆらと揺れるオレンジ色の光の中を、深紅の蝶がひらりひらりと舞っていました。
とても綺麗だとぼんやり思いながら、僕の意識は次第に白い霧の中へ溶けていくように薄れていきました。
「千尋、千尋! いやーっ!」おかあさんの悲鳴のような泣き声で、僕は意識を取り戻しました。
どれくらいの時間が経っていたのでしょうか。
ずぶ濡れのままで寝かされている僕の周りには、大勢の人達が集まっていました。
怒ったような顔をして僕を見つめる、ランドセル姿のお兄ちゃんもいました。
「おかあさん、ごめんなさい。 もうひとりで、おふろばでは遊ばないよ。 だからもう泣かないで」