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二人のかけら  作者: ラト
3/5

side グリュック 贔屓目

オルトに連れられ、グリュックは長い廊下を歩いていた。

窓から見える空は雲一つ無い青空で、グリュックは茫洋とした顔付きのまま、ずっと空を見上げていた。

「何か、外にありますか?」

それに気が付いたオルトが話しかける。

しかしグリュックは空を見上げたまま、

「……空が、広い」

と返答にもならない言葉を呟いたのだった。

オルトは苦笑し、

「そうですね、窓が大きい分、見える空の面積は広くなります……一度外に出られてはいかがですか?きっと、もっと大きな空をご覧になられますよ」

と言った。すると、グリュックは立ち止まり、オルトの方へ顔を向けた。

「ほんとに?」

その顔は、好奇心と驚きが入り混じった

表情となっていた。

先程まで目立った感情を見せなかったグリュックだが、やはりまだ幼さを残す少年なのだろう、その表情には年相応の感情が映されていた。

オルトは、そんな彼の表情に少し驚いてから、やがて優しく笑った。

「ええ、本当です。今日は天気が宜しいので後ほど、旦那様にお庭の方に出て宜しいか聞きますね」

そう言うと、グリュックはパァッと嬉しそうに笑ったのだった。

「ありがとう!」

気持ちが高揚しているのか、先程まで恥ずかしくて、言い辛そうにしていたお礼の言葉がはっきりと声に出せていた。

そんなグリュックを見て、オルトは

「いえいえ、主人の望むことを出来る限り叶えるのが私の役目ですからね」

と言ったのだった。


ダイニングルームの前に着くと、微かに香ばしい匂いがグリュックの鼻を掠めた。

と、同時に彼のお腹が大きく鳴ったのだった。

「今日の朝食は、卵とベーコンのスクランブル、サラダ、スープ、果実の蜜漬けとなっています。パンはご自由にお取り下さい」

そう言いながら、オルトは扉を開けた。

すると、先程よりも美味しそうな香りがグリュックを包み込む。

「やあ、湯浴びはどうだったかな?」

奥の席には、あの男性が座っておりグリュックに微笑んだ。

「あ……、よ、よかった」

グリュックは少したじろいだが、なんとか言葉を返す。

オルトが、男性の向かいの席にグリュックを促し、椅子に座らせた。

長テーブルには、すでに朝食が並んでいた。

「大いなる我らが神、メシウスの御心に感謝の念を」

男性が目を閉じ、そう呟いた。

グリュックはポカンとした表情で男性を見つめる。

それに気付いた男性は、少し苦笑して

「祈りの言葉だ。お前はまだ分からなくていい。さあ、頂こうか」

グリュックは、メシウスとは何なのかや、何故今言ったのか、色々と気になったが、男性の言う通り食事に取り掛かることにした。

フォークでスクランブルエッグを掬って口に運ぶ。

しかしーー

「っげほ、がはっ」

グリュックは、味に驚いて噎せてしまった。

オルトが心配そうに、グリュックに近寄る。

グリュックは、少し涙目になりながら、グラスに入っている水を飲んだ。

「どうした?」

男性は、フォークを置きグリュックを見つめる。


ーー味が濃いと、グリュックは思った。

しょっぱいし、油っこい。


町で幽閉されていた時は、固い質素なパンや味気の無い粟を食べていた彼にとって、目の前にある色とりどりの料理は受けつけられないらしい。


グリュックは袖で口を拭いながら、ぽつりと

「……まずい」

と呟いたのだった。

男性は、少し目を細め、やがてグラスの水を飲む。

「味が濃かったか?」

水を一口飲んでから、グリュックに尋ねた。

グリュックは俯き、無言で頷く。

「そうか……では、パンを食べなさい。それは小麦粉しか使ってないから食べられるだろう」

しかし、グリュックは下を向いたまま、首を横に振った。

「もう、いらない」

まだ口に残る気持ち悪さを感じながら、グリュックはそう言った。

瞬間、男性はゴトリとグラスをテーブルに置く。

ただ置いただけなのに、グリュックにはその置いた音が、何だか重く聞こえた。

咄嗟に、男性の方へ顔を向ける。

「人と話すときは、ちゃんと顔を上げて目を見なさい。それと、自分の意見は口に出しなさい」

男性は、低い声でグリュックに言った。

「食べらないのなら仕方無いが、少しでも食べる努力をしなさい。品位に欠ける行為は、このサールベンス家では認めら無い」

グリュックは、男性の灰色の目を見つめた。

「侯爵家の養子となったからには、恥じのない行為をしてもらいたい。お前がこの先、この家の顔となるのだから」

グリュックが難しい顔をしていたからだろう、男性はそれから少し苦笑して

「まあ、今は分からない様だが、これから分かるようになるだろう」

と付け加えた。

それから、男性は思い出したように

「それと私の名は、スターリ・サールベンス。この家の主だ」

と言ったのだった。

「さて、私はこれから用事があって家を開けるが、何か欲しい物はあるか?」

スターリがそう聞くとグリュックは、ハッとした顔付きになった。

それに気付いたスターリは、彼の言葉を待つ。

「……服が、動きやすい服が欲しい」

「服?……ああ、そのゴテゴテした服では動きにくいのか。分かった、後で動きやすい服を用意させよう。他には無いか?」

スターリの問いに、グリュックは頷いたが、それから何かに気付いたように少し焦る表情をしてから、

「……な、い」

と答えたのだった。

そのグリュックの仕草を見て、スターリは微笑んだ。


ーーこの子は、賢い子に育つかもしれない。


そんな贔屓目の考えをしている自分に、スターリは苦笑した。


さあ、行かなくては。グリュックのために、良い家庭教師を見つけて、彼の将来を安定させよう、彼に色んな知識を与えよう。この子は、大切な私の息子となったのだから。


スターリは、そう考えながら食事の席を立ったのだった。


1/31に 商人→男性 に訂正しました。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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