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帰還せし王  作者: 陽炎
1章【帰ってきた王】
16/36

人間の国への出発準備

 フレギオンが蘇生呪文を成功させた後を最後に、周囲から忽然と姿を消したことによって現場は少々混乱したようだ。

 ギーゼルヘアは部族の者達にフレギオンに今後は従えとしっかりと言い聞かせ、ツァハリーアスとイェレミーアスの二人に至っては、フレギオンがあのダークエルフであると知り、心底怖がったそうで、非常に大人しくギーゼルヘアの命令に従ったそうだ。ただし、肝心のフレギオンが居ないことによって、全員がフレギオン様はどこに行ったのだと騒ぎになったらしい。

 皆の前に連れ戻される形で、戻ってきたフレギオンに待っていたのは、オーフィディナの注意である。


 ――休むと言われても、あのように遠くに行かれては私どもが困ります、など。無事でようございましたが、今後は誰かをおつけ下さいなどの言葉が矢継ぎ早に向けられ、フレギオン自身の自覚以上に、このダークエルフ達の中で己の存在は大きくなっていることを実感する。

 探しに向かったのはヴァサドールと同行したセトゥルシアだけではなく、サフラン、ウェルリーナ親子。そして最後にフレギオンを見た人物、ギーゼルヘアまでも生き返った者を数人連れだって(フレギオン)を探しにいったと言うのだから、フレギオンも素直に自分の行動の浅はかさに謝罪した。

 が、謝罪したらしたで今度は、フレギオン様に謝って頂くこともありません、と慌てた様子で言われ、彼は困惑するほかなかった。結局この問題に関しては、今後は誰かと共に行動するという結論で終わった。


「それであの地面の状態は、フレギオン様の魔法使用による結果なのですね」

「ああ………、うん、そう。俺がやった」


 小言――と言ってはオーフィディナに悪いが――が終わって、次はこの事について。と言いたげにオーフィディナの目がややつり上がる。老婆のその眼も明らかに機嫌が悪いと分かると、なかなか迫力があった。この件に関してはセトゥルシアがオーフィディナに報告をしていて、すぐに知れ渡ることになった。

 現場を確認し、皆一様に驚いていたのはつい数十分前のことである。


「どうして、あのような場所で魔法を行使されたのですか?」


 これも叱責するように彼女は言う。若干であるが声に尖ったものがあるのが分かった。

 それもこれも、自分が身勝手に動いたからであるという自覚があるだけに、素直に言うしかないとフレギオンは半ば諦めの境地で、記憶を取り戻したことを話した。

 そのために今現在、魔法全般に、そして召喚魔法に対して大きな好奇心があることも伝えた。


「記憶が蘇った。俺が此処に呼ばれるまでの間にいた世界のことを。それでいろんなことを思い出して、すこし魔法を確認したくなったんだ」

「記憶が、と、言いますと………」

「んと、ここに呼ばれる直前までの記憶だ」


 それをきいてオーフィディナはハッとした顔でフレギオンの顔を見る。


「それであの中位蘇生魔法……? あれをお一人で行われた、そうですね?」

「ああ。魔力が足りないと思ったが記憶が戻ったおかげで、俺一人で実行できることが分かった。魔力の同期という少し危険なことまでさせてしまったな、すまない」

「いえ、先ほども申し上げましたがフレギオン様に謝って頂くことではありません。なにより、偉大なるお方だと改めて皆が感じたことでしょう」


 フレギオンがいるのは例の祭壇の上で、その階段の下でオーフィディナを先頭に全員が並んでいる。わざわざこんなところでと思ったが、言えばまた何かしら言われるだろうと判断したフレギオンは何も言わず、祭壇の上から彼らを見下ろしていた。


「と言うことは、そ……、いえ………」


 暫くして、オーフィディナが何か言いかけようとしては結局言わず、やはりまた何かを言おうとして口が開くという動作を繰り返すようになった。その表情はどんよりと曇った空のようだ。

 それを見ていて耐えきれなくなったフレギオンが痺れを切らした。


「どうした?」


 フレギオンに促され、少し迷った表情を浮かべた彼女は、後ろで控えているネリストとファッティエットのダークエルフ達の顔を見た。

 フレギオンもその視線を追うようにネリスト、ファッティエットの両部族の男女をみる。特に彼の目にとまった光景は、ギーゼルヘアに従って全員が大人しく跪いているファッティエット族の面々だ。

 森での戦闘ではあれほど息巻いていた彼らが今は借りてきた猫のように静かだ。これがギーゼルヘアの族長としての力なのかと大きな衝撃を受けた。


(ギーゼルヘアって本当に族長なんだな。力だけで押さえつけているのかとも思ったけど、あの様子だと長たる素質もあるのかもしれない)


 少しばかりギーゼルヘアという男の力に興味が湧くのと同時に、この間ずっと悩み抜いていたオーフィディナがついに口を開いた。

 全員が彼女らに視線をやり、フレギオンも視線をファッティエット族から彼女に移した。


「すみません。ですがこの事を話せば、皆が怖がるのではと思って、なかなか話せませんでした」


 まずでてきたのは謝罪だ、そしてそこから怖がるから言えないと思ったというオーフィディナの言葉。それはどういうことだろう、怖がるというのはどういう事だ、と、フレギオンはオーフィディナに続きを促した。


「それはどういうことだ?」


 フレギオンの好奇心が顔を出す。なにがどう怖いのか、彼の記憶がネリスト族に恐怖させる何かがあるのか。それらが気になって仕方がなくなる。なによりも怖がると不安がったのは、オーフィディナ自身も怖いと感じたからであろう。

 ならその理由を知りたくなるのが人――今はダークエルフであるが――としての(サガ)だ。


「それは…………。――フレギオン様はこちらに来られるまで、とある龍と戦われていたと思います」


 龍と言われ、それが何を指しているのかフレギオンはすぐに分かった。それは闘神ガルデブルークの神器装備を手に入れるために戦ったあの【双頭龍リベリオス】のことだ。

 しかしそれが何の関係があるのかと分からず、とにかくオーフィディナの話を聞こうと決める。この質問にはすぐに肯定した。


「ああ。リベリオスのことだな、それがどうかしたのか?」

「――リベリオスっ!!」

「え、え、え!?」

「な、リベリオスだって!!」


 リベリオスの名を出した直後、周囲が騒然とし、皆が浮き足立つ。その光景を見てオーフィディナが肩を竦めた。


「フレギオン様、これが私どもにとってのリベリオスへの感情でございます」


 つまり怖がるというのは、双頭龍リベリオスに対してのことだ。と、オーフィディナは説明して、すぅと両手をあげて、バシンとたたき上げる。その音によって全員が静まりかえった。


「皆の者、よく聞くのです。双頭龍リベリオスはフレギオン様の世界では、フレギオン様のお力によって滅せられた存在です。不安がることはありません。その証拠はあの闘神ガルデブルークの神具をフレギオン様が身に着けておられることから、よく分かるでしょう。そうですよねフレギオン様?」

「ああ…………。そうだな、リベリオスを倒したからこの装備を持っている、それは間違いない。しかし、この世界にもリベリオスがいるのか?」


 倒したという言葉に皆が「おおぉ」とわき上がるのが見える。

 リベリオスの名を聞いて怖がるダークエルフ達を見てフレギオンも驚いたが、もっと驚いたのはリベリオスの名を知っていると言う事実だ。つまり、この世界にもあの双頭龍が存在するとい事実を示唆している。

 と言っても、魔力の同期の際に大長老が双頭龍の名を口にしていたため、この世界にも存在すると考えておくのが普通なのだが。その事に対してはすっかりと頭から抜け落ちていたフレギオンは、一応確認の意味でリベリオスの存在を確認してみる。オーフィディナはその質問に対して瞬時に返事を返した。


「おります」


 彼女はそのまま、しかし、と続けた。


「リベリオスはもう百年は姿を現していません」

「なら、なにをそんなに怖がる?」


 いないのなら怖がることもない。そう思ったフレギオンは彼女たちに問いかけた。

 オーフィディナは一瞬呼吸を置いた。


「光王様がご存命のとき、リベリオスが生まれたと聞いています。そして、リベリオスは我らが国を攻撃してきたと聞き及んでいます。その時の傷がもとで光王様は倒れました」

「初耳だ。それなら、エルフの国はリベリオスに滅ぼされたと?」

「いえ、直接滅んだ原因は以前にお話したとおり、エルフとダークエルフが仲違いをしたためです。ですが死因の原因は………」


 そこでオーフィディナの口は動かなくなり、言葉を詰まらせた。よほど言いにくいのだろう、光王の死の原因というものが。

 話を何度も聞くと、彼らエルフとって光王という男の崇拝の度合いが手に取るように分かる。


(光王はリベリオスと戦って負傷し、身体を弱らせた。その怪我かなにかで衰弱した)


 オーフィディナの口ぶりからすると、そういうことだろう。

 光王フレンジャベリオンはその怪我、あるいは呪いか何かで身体を弱らせた。長寿をまっとうして死んだ、というわけではなさそうだ。

 逆に言えば、それだけの力があった王が後継者を選ばずに死去したというほうがおかしいぐらいだ。国を作った王が後継者も指定せずに死ねば、その座を巡って争うのが普通だろう。

 少なくとも、フレギオンがいた世界ではそれが普通だった。


(なるほど、だからフレンジャベリオンの出自を巡る形で二種族が争ったのか)


 ようするに出自を決めるというのは、フレンジャベリオンの後継者を選ぶ問題そのものなのだ。明確な後継者がいない国を引き継ぐのは、フレンジャベリオンの種族がどちらかというのがこの場合、一番大事になってくる。

 当然、どちらかの出身か判明すれば、その種族から後継者を選ぶだろう。その結果、両種族が争いを始めた。


(こういう考えも記憶を取り戻してこそだな。しかし光王か……、俺が光王の生まれ変わり? 俺はただの日本人で、ただゲームでこいつ(フレギオン)を作って、たまたま似てただけだと思うんだけど……)


 彼はゲーム上でフレギオンというキャラクターを作成し、そのキャラを操ってゲームを満喫してた。それが突然、本物の魔法によってこの世界に飛ばされ、光王と呼ばれたエルフの王の生まれ変わりだと言われた。フレギオンがフレンジャベリオンの名とそっくりで容姿もそっくりだとも言われたのだ。

 本当に不思議な話だ。もし日本に戻ったとしても誰も信じない話だろう。戻れればの話であるが。

 光王となぜそこまで容姿が似てしまったか、というのを考え始めたとき、声が響いた。


「お、おい。もういいか! なぁもういいだろう。俺達にも喋らせろ」


 突然、会話に割って入ってくる大声が鳴り響く。それはファッティエット族の族長ギーゼルヘアの声であった。

 彼はもう待てないといった様子で、彼の配下であるツァハリーアスとイェレミーアス兄弟を引き連れ、前方のネリスト族を押しのけて、祭壇前でフレギオンの前で膝をついた。

 オーフィディナらネリストの者達はしぶい顔でファッティエット族を見るが、彼らは気にした様子は一切みせない。


「フレギオン様。この俺、ギーゼルヘア以下ファッティエット族全員が貴方の配下につきます。こいつらがネリスト族にしたこと、俺が今までやってきたこと全てをお許し下さい。そして、どうか俺たちを導いて下さい」


 それはハッキリ言って非常に虫が良い願いだった。今までの悪行を全て許せ、などと言ってネリスト族から好意的に思われるはずもない。

 むしろその願いはさらに非難を浴びそうだ。しかし、フレギオンは眼を細めて、こめかみに手をやって見下ろすだけだった。ただ、一瞬だけ眉がピクりと動くのをオーフィディナは見逃さなかった。

 一体、フレギオンはなにを考えているのだろうか。と思って、ギーゼルヘアの額から汗が一滴だけこぼれ落ちた。

 やがて、フレギオンは(おう)(よう)に答えた。


「俺は以前に言ったはずだ。償ってみせろと」


 右手をこめかみから離し、付け加える。


「ネリスト族の囚われた女達。それはエクスラード国にいるんだな?」

「恐らくは、あの貴族達が」


 あの貴族とはギーゼルヘアが同盟を結んだという人間達のことであろう。フレギオンとネリスト族の者全員からすれば、顔も分からない人物だが、彼はよく理解しているはずだ。


「決まりだ。彼女たちを助ける。エクスラード国の貴族に捕まっているなら、ギーゼルヘアお前が案内しろ、いいな?」


 オーフィディナと話をしていた時の口調から一転して、フレギオンの顔、口調全てに風格が漂い始める。あまりに急なことにギーゼルヘアは眼を丸くしながらも、やはりこの方には逆らえぬと改めて誓った。


「彼女らを助け出すまでは、ネリスト族に対しての行いは許さない。肝に銘じておけ」

「は、ハハッ!」


 どうやら、オーフィディナ達を押しのけて、許しを請うたのがいけなかったようだ。フレギオンは怒っている。

 そう感じたギーゼルヘアは片膝をつきながら迅速に頭を下げる。彼の後ろにいるツァハリーアスとイェレミーアス兄弟は完全にその顔は怯えており、肩を震わせていた。


「それから、お前達の償いが終わるまでネリスト族に対しての言動も慎め。お前達を生き返らせたのはネリスト族を救うためだ。まずはそれをやり遂げろ」

「承知しました……っ!」

「それに、許すというのは俺ではなく、ネリスト族からの許しだ。お前達を蘇生させることを許したのは彼らだ。俺に頼むのは間違っているぞ?」

「も、申し訳ありません!」


 頭部を地面に叩きつけんばかりの勢いで、慌ただしく謝るギーゼルヘアへの叱責はこれで終わった。





 エクスラード国の貴族に捕まったとされる、ネリスト族の女達を助ける計画は、すぐに執り行われた。

 戦力になりそうなファッティエット族の戦士達は生き返ったばかりでまだ当てにならないし、彼らを心から信頼できるかと言われれば全くそんなことはない。

 フレギオンはギーゼルヘアを連れて国に行くことを決めていたし、国に侵入するなら数は少ない方がいい。そのため、ファッティエット族は置いておくことになる。だが、ギーゼルヘアの支配下から離れたファッティエット族が、勝手に暴徒化する可能性も否定できない。

 この問題には彼は悩んだ。なにか最善の策はないものかと。その時に思い出したのが、ヴァサドールの存在である。


「では我らが部族がネリスト族を守れば良いので?」

「ああ、頼まれてくれるか?」

「一旦、族長に話させばなんとも。しかし、ディサバート(族長)が断ることはないでしょう」

「お前は頼りになる。すぐに行って、全てを話してきてくれ。早いほうがいい」

「では、すぐにも」


 即席の大きなテントの中、四角い大きなテーブルを囲んで立つのはネリスト族から、オーフィディナ、サフラン、ウェルリーナ、セトゥルシアの四人。

 ファッティエット族からはギーゼルヘアとツァハリーアスとイェレミーアス兄弟だ。

 各部族の代表という形でこのテントの中で七名が呼ばれ、フレギオンが主導で話し合いを進めている。


「俺たちはフレギオン様の顔に泥を塗ったりはしません。あいつらもしないでしょう」


 ギーゼルヘアがテーブルに身を乗り出して、ファッティエット族を信じてくれと言ってくる。しかし、フレギオンは――ネリスト族が用意してくれた飲み物を飲んですぐには答えなかった。

 この飲み物はこのあたりで採れる特殊な果物で作った飲み物らしい。赤い色の飲み物で、ほのかに甘ったるい匂いが鼻を刺激する。日本で言うところのリンゴか何かの飲み物のような味だが、赤い色の飲み物のためにトマトジュースを飲んでいるような感覚だ。

 グラスをテーブルに戻し、ギーゼルヘアのほうを向いた。その頃にはすでにヴァサドールは出立しており、既にテントから姿を消していた。


「お前達だけではない。問題は人間の兵もくる可能性があるということだ」

「人間が……」


 そこまで考えが及んでいなかったギーゼルヘア達は眼を丸くして、口を閉ざした。


「エルフを仕向けてきた貴族が兵を動かす可能性がある。そうなれば数次第だが、危険なのは間違いないだろう。だからオーク族の力がいる」


 彼らも少数であるが。というのは言わず、彼は話を続けた。


「それと簡単なモンスターは俺が召喚させて、ここを守らせる。最終的な防御壁はそいつらにやらせていいだろう」

「召喚魔法……!」


 もはや何度目か分からない驚愕の声をあげて、ギーゼルヘアはもう口を閉ざすことを内心決心した。

 フレギオンの行動、魔法レベル、思考、全てがギーゼルヘアの考えを遙か上にいくレベルだ。むしろ黙っておく方が無難だと感じるほどだった。


「召喚魔法なら、セトゥルシアが一番得意ですが」

「だが彼女は俺に同行させるんだろう?」


 横からオーフィディナが会話にはいってきた。

 彼女は孫娘であるセトゥルシアをフレギオンと同行させて、エクスラード国に行かせたいと言ってきた。その理由はさまざまだ。


「はい。この子はいずれネリスト族を統べる長になる血筋の者です。その者が何も知らない、というわけにもまいりません。人間に対する知識も今後必要になっていくでしょう」

「だが危険な旅だ、いいのか?」


 その許可はオーフィディナではなく、セトゥルシア本人に向けられる。彼女は淡い碧玉石色の瞳を力強く光らせた。


「フレギオン様のお手伝いがどれほど出来るかは分かりません。ですが、私にも回復魔法と召喚魔法は使えます。仲間を見つけ出したとき、守りながら回復もできます。それに……」


 セトゥルシアは頭を少し下げて、羽織っているローブの襟首を弄りだした。そこから真っ白のフードが出てきて、彼女はそれを深く被った。


「なるほど……」


 そう言ったのはサフランだ。

 彼もセトゥルシアが同行するという利点に気付かなかった一人だった。

 フレギオンは彼女の姿を注意深く見る。

 深く被ったフードによってセトゥルシアの表情は、顎と唇そして鼻ぐらいしかみえなくなり、女性であるということぐらいしか分からなくなった。また彼女の肌が陶器のように白いため、色白な人間に見えないことも無いのだ。


「目立ちにくいということか」


 人間の国に行って、一番警戒しなければならない事は自分達が魔族であるという事実だ。勿論、フレギオンには人間だった頃の記憶が蘇ったことで、まだ少し人間気分だったが、今はもうダークエルフだ。

 魔族であるということに気付かれれば、捕まった仲間を助けることは非常に困難になる。


「ギーゼルヘアは目立ちすぎますし、彼は国に着き次第貴族に接触して、フレギオン様とは別行動になります。その時にセトゥルシアがいれば……、フレギオン様も黄色の肌ですので同じようにフードを被れば人間のように見えるでしょう。それで少しは誤魔化せると考えられます」


 彼女オーフィディナはこう言いたいのだろう。セトゥルシアと二人で人間のように見せかけて、男女のペアを演じろと。

 たしかに妙案だ。人間というのはおもしろいもので、たった一人の男か女が延々と街の中を移動していれば、気にして見てくる者もいる。気に掛けない者もいるだろうが、目で追ってくる者は必ずいるのが人間だ。

 しかし男女で動けば、気にしてくる者はいてもずっと見てくる者はいない。観光か何かだろうと思わせればいいのだ。

 なにより、二人とも人間を演じればそうそう怪しまれない。


「そういうことなら彼女にも来てもらおう」

「足手まといに、ならないように致します」


 フードを外し、セトゥルシアは眼を瞑って一礼した。その動作は一切の乱れも無く、完璧にこなし非常に(てん)()だ。ネリスト族がもっと大きい部族で、それこそ王といった上下関係までいくほど大部族であったならば、セトゥルシアは間違いなく姫君のそれの気品さを醸し出していた。


「それでサフランとウェルリーナはここに残ってもらってもいいだろうか?」


 視線を二人に向けて、彼らの意見を聞き出す。


「ここで戦闘になれば癒やし手が必ず必要になるでしょう。私が今度こそ皆を守ってみせます」


 と、言ったのはウェルリーナだ。彼女は先の戦いで仲間の回復が間に合わず、死なせてしまったことを悔いている様子だった。


「では、回復はウェルリーナに任せると言うことで彼女にはここに残ってもらう。サフランはネリスト族の中でも武闘派だと聞いた。貴方もここに残ってもらいたい」

「お、お任せを。しかし、その頼み方は……」


 言われてフレギオンは先ほど口にした言葉を思い出す。確かに臣下あるいは配下にたいして言う言葉ではない。

 しかしここは少し開き直ることにした。


「記憶が戻ったんだが……、俺はこうやって命令をする事になれていない。だから、気にしないでくれ」

「フレギオン様ほどお力を持った方が命令になれていないとは……」


 まさか、信じられん。

 と、でも言いたそうなサフランだったが、フレギオンは何も言わず、ツァハリーアスとイェレミーアス兄弟に声をかけた。


「お前達はどうする? ギーゼルヘア、こいつらは?」

「こいつらは貴族とほぼ接触がなくて、邪魔になるかもしれません」

「なら、ここに居させよう。お前ら、暴れてくれるなよ?」

「しません! 人間がきたら人間と戦うそれだけ!!」


 一応はと、クギを刺すと、兄弟は必死な様子でこれに反対した。どうやら本当に裏切るといった考えはもっていないようだ。

 それならばと、フレギオンはこの話し合いを終わらせて、オーフィディナを除く六名を退席させた。


「私にお話が?」


 六名が居なくなったのを確認したあと、フレギオンは彼女にあることを聞いていた。


「ああ、分かる範囲でいい。もし危険なら実行はしない」


 その会話のあとオーフィディナとフレギオンはテントから出てきて、エクスラード国に向かう準備にとりかかった。

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