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帰還せし王  作者: 陽炎
1章【帰ってきた王】
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中位蘇生魔法

本日、「帰還せし王」の累計PVの数が1万アクセスを超えました!


皆様どうもありがとうございます。この小説はまだまだ序盤で先も長いですが末長くお付き合い下さい<(_ _)>

 ファッティエット族を蘇らすためにフレギオンが、ネリスト族の魔力を貸してくれと頼んでから、オーフィディナやウェルリーナやサフランそしてセトゥルシアが、全員の同意を得るために奔走し、皆の同意を得たのはそれから暫くしてのことだった。

 フレギオンは彼らに礼を言ったのち、ギーゼルヘアを呼び出し、ネリスト族のダークエルフ全員に感謝しろと告げた。


「いいかギーゼルヘア。お前の仲間が生き返った後、お前がすべきことは分かるな?」


 右手をかざし、ギーゼルヘアの前で数度振る。特に意味の無い手の動きであるが、この手が彼を諭す役割を担ったのか、彼は神妙に頷いた。


「分かってます、俺がしなきゃならないことは……」


 フレギオンの眼を見て、大きく一度頷いたあと彼はネリスト族の前で頭を下げた。

 それは彼が生きてきた人生の中で初めての行動だった。


「俺の仲間が、あいつらが生き返ったら、お前達を襲うなどやめさせる。いや、フレギオン様がいうように人間達がくるなら、俺たちが前線で戦い、俺たちがお前達を守る。お前達ネリストが俺たちを助けてくれるなら、このファッティエット族の族長の名にかけてお前達を必ず守る」


 たどたどしい口調は、こういった場で、この手の言葉を話すのが不慣れな証拠だ。現に一字一句ゆっくりと話し、ギーゼルヘア自身が適切な言葉を話そうと必死なのが窺える。

 それをネリスト族は静かに見守っていた。

 彼らはギーゼルヘアを許したわけではない。中には彼に対する憎しみの炎を瞳に宿して呪い殺すとばかりに睨み付けるダークエルフもいる。だが、そんな彼らも、ファッティエット族の蘇生が、ギーゼルヘアの改心が本当であるならば、未来に向けて大きな一歩となるのも承知していた。その未来というのが、彼らの大長老が言っていた事なのかは彼ら自身にもまだ予想もできないが、大きな一歩となるのはよく分かっていた。

 そしてもう一つその決定の大きな要因にフレギオンという存在が大きく関わってもいた。彼はネリストの命の恩人であり、光のエルフの生き写しでもある。

 その彼のメンツを守りたいという気持ちも含まれ、憎しみは未だ消えないが蘇生に協力しても良いと彼らは考えたその結果、ファッティエット族の蘇生に賛成するという意見が出そろった。


「俺を信じないってやつはいるだろう。そいつは当然の話だ、信じちゃもらおうなんて思っちゃいない。俺はそのぐらいのことを今までしてきた」


 頭を下げて跪き、土下座しながら頼み込むギーゼルヘアの様子にネリスト族からザワザワとした囁きが零れ始める。

 それを見ながらギーゼルヘアは頼み事を続けた。


「だがネリストとファッティエットの争いは終わらそう。俺は本気だ! お前達が俺たちに戦えというなら、俺は仲間を説得し戦おう! フレギオン様をお前達が王というなら、それは俺にとっても王だ。それは、ファッティエット全員にとっても王だ……!」


 顔を上げて、立ち上がり、だからと彼は続ける。


「フレギオン様の名にかけて、我らが王の名にかけて、お前達に誓う。ファッティエットは、かつてネリストとともに歩み、人間と戦ったあの時代にあの頃のファッティエットに戻る。あいつらが帰ってきたら、お前達の仲間を取り戻す! だから、頼む。力を貸してくれ」


 悪逆非道を行ってきた男が自分の部族のために、そしてこれからのために懇願し、その願いはネリスト族から認められた。



 ――その日の夜、彼らはあの襲撃の日からやっとまともな食事を取った。

 十数人と座ることが出来る大きなテーブルの上には木の実や小動物の肉、そして果物。濁りも無く透明の新鮮な水が出された。

 戦いのあとだったにもかかわらず食料があるのは、ファッティエットが略奪行為をするよりも早くネリストの追撃をすぐ行ったからのようだ。結果、ここにいる全員の食料はなんとかなるようだった。

 途中でウェルリーナが食事をもって、ヴァサドールに手渡し、彼らの食事場に案内したようだ。彼女にとってあのオーク族の戦士もまた命の恩人だった。彼はオーク族というこの場で唯一ダークエルフでない。にも拘わらずネリストに歓迎された姿をフレギオンは安心したような気分で見守っていた。


 フレギオンが魔法陣を作り上げたのは翌日になってからのことだった。

 死者蘇生の魔法を行ったあの直後に、彼らから魔力の同期をしようものなら彼らの生命力を奪うことになるのは必然だった。そのためにフレギオンは彼らに休息の時間をあてがい、一日の休息をとらせたのだ。

  もともとこの魔法自体はエルフに任せるつもりだったのだ、一日の休息でも足りないぐらいだ。しかし、彼らにもう少し休んでもいいぞと言えば、男のダークエルフ達がもう休息はいらないと断ってきた。

 ファッティエット族全員は不可能でもこの人数なら半分はいけるでしょう。と言ってきたのはウェルリーナの父であるサフランだった。


「もういいのか? あと半日は待ってもいいんだぞ?」

「いえ、私は既に十分休むことができました。もともと魔力の上限も低いので一日あれば私は」

「そうか。なら、後で頼むぞ」

「は。しかし、見事な魔法陣ですな」

「ん、これのことか」


 フレギオンは眼下に敷かれた魔法陣を見下ろす。

 それは直径と半径が二十五メートルともなろうとする大魔法陣だ。白線が円形にひろがり、真ん中には下位蘇生魔法と同じく三角形の紋がつくられている。その三角形の端っこの尖った部分から一直線に円にむかって線が走り、その線の間には今度はひし形の紋が作られている。

 そのひし形と線の間にはなんと書いてあるかは読めない、変わった文字が刻まれていた。


「この文字は?」


 サフランが反応する、聞き方から察するに彼はこの文字が読めなかったのだろう。

 しかし、それはフレギオンも同じだった。


「残念だが俺も読めない。だが、死者の国の文字だとかそういう話を聞いたという記憶ならある」

「死者の国の文字ですか?」

「鵜呑みにするな。第一、それを教えてくれたのは死者の国にいって生き返った人物ではない。れっきとした生者だ」

「フレギオン様がおられた世界のお話で?」

「深くはもう覚えていない、そう聞いたような記憶があるだけだ。さぁ、皆を呼んできてくれ。始めるぞ」

「承知しました」


 サフランは足早にその場を離れ、休息を終えた仲間を呼びに行く。出番を今か今かと待っていた彼らをずらずらを引き連れて、サフランが戻ってきたのは数分後だった。

 その中には彼の娘であるウェルリーナの姿と、大長老の妻で現在のネリスト族の最高権力者とも言って良いオーフィディナと、その孫娘のセトゥルシアの姿もあった。


「私はネリストの中でも特に魔力が高いといわれてきました。父の数人分の魔力を得られると思います」

「娘の言うとおりです、この娘がいれば必ず助けになるかと」

「そうなのか?」


 ウェルリーナがフレギオンの横で嬉しそうに微笑んだ。服は昨日まで着ていた碧玉色のローブではなく、薄い黄色のローブであった。色が違うと言うだけで、肩は出ているし、服装の差違は少ない。唯一違うのは身体にぴっちりと合うような大きさというところか。

 あの孔雀石の髪飾りも今はしておらず、銀色の長い髪をそのまま流していた。それは太陽の光を浴びてキラキラと光沢を放っていた。


「私の肌が、父やオーフィディナ様やセトゥルシアと色が違うのがその証拠です、フレギオン様」


 そういってウェルリーナがずいとフレギオンに近づく。

 さらけ出された肩から首筋にかけて褐色の肌が存在し、彼女の肌色がサフランや、オーフィディナとは全く違うのがよく分かる。


「この色がそうなのか?」


 褐色肌と呼ばれるその肌色をみてフレギオンは、彼女とオーフィディナとサフランにも本当か? と眼を配る。

 二人は力強くゆっくり頷いた。


「我々ネリスト族には褐色の肌を持つ者が生まれてくることがあるのですが、総じて褐色の肌を持つ者は魔力を多く秘めております。彼女、ウェルリーナもその一人で、中位回復魔法を何度か使っても疲労をしない魔力を持っております。彼女一人で何人分もの魔力を補えるでしょう」


 こう言ったのはオーフィディナだ。彼女はウェルリーナの魔力の多さに太鼓判を叩く。

 これに同意するようにまわりのダークエルフ達も頷いたのをみて、フレギオンは彼女によろしく頼むと告げた。


「そうなのか。助かる、がんばってくれ」

「フレギオン様のお役に立てるのなら本望です」


 ウェルリーナは少し離れて、彼女が指定された場所に向かっていく。その間彼女の背中を眼で追っていたが、フレギオンの横にセトゥルシアが来て、その場で止まったことから彼女に関心が向いた。


(そういえば彼女も皆とは違う肌だな。真っ白なダークエルフ、オレンジの髪……。褐色が魔力の高いダークエルフというなら彼女はどうなる?)


 湧き出てきた温泉が如く、セトゥルシアの肌の色からの疑問が湧き出てきた。

 彼女もまたダークエルフの肌の色からいえば特異な色をしている。そう、言うならダークエルフではなくエルフに近い肌色だ。

 それを考えれば彼女もまた魔力が高いのかと思ったが、オーフィディナ達は彼女については一切の言及を行っていない。つまり、魔力は高くないということなのかもしれない。

 しかし、それを確認する時間は今はもうなくなっていた。


「フレギオン様、準備が整いました」


 別に急かされた訳でも無く、ただの報告をしてきたサフランの声にフレギオンはハッとなって驚きそうなった。しかし、その心境をサフラン達は気付かなかったのだろう。彼らは黙ってフレギオンの合図を待っていた。


(考え事をするのは後にしよう。今はファッティエットの蘇生だ)


 魔法陣より少し外側にて円陣を組んだ、総勢四十人にもなるネリスト族と呼称されるダークエルフがズラリと並んでいる。その光景はおそらくこの大陸の歴史上初めての出来事であろう。

 そして彼らが行おうとしている魔法もだ。

 フレギオンはチラリと、魔法陣の外側にいるギーゼルヘアに視線を向けた。彼はこの儀式のあと生き返ったファッティエットのダークエルフ達を説得し、ネリスト族との争いを止める役割があたえられている。


(ツァハリーアスやイェレミーアスをどう止めるか、あとでみせてもらうぞギーゼルヘア)


 眼を離し、魔法陣の真ん中にへと視界を向けると、その魔法陣の上には三人の死体が布を被された状態で置かれていた。

 一人はイェレミーアスで、残りの二人はヴァサドールが殺したファッティエットの戦士だ。彼らには肉体が残っていたため下位魔法でも蘇生は可能だったが、中位魔法を行うついでにと、死体をここまで昨夜の深夜、ギーゼルヘアとヴァサドールを連れて運んできた。

 そのイェレミーアスの死体をみて、ギーゼルヘアが改めて「あんたには逆らわない」と言ったのが頭にのこっている。


「皆、聞いてくれ」


 フレギオンが皆に声かけた、中位魔法を行うために魔力の同期を受け入れてくれた彼らにフレギオンなりの礼が言いたかったからだ。


「ファッティエット族を生き返らすことに関して、わだかまりを持つ者もいるだろう。だが、こうして協力してくれて感謝している。俺の考えに同意し、魔力を貸してくれて感謝している」


 全員の顔をみていき、彼はさらに言葉を続けた。


「皆は俺を王だというが、俺はまだ何もしていない。だから改めて皆に言おう、何があっても、少なくとも俺がここに居る間は誰も死なせない。そしてエクスラード国という人間の国にいって、お前達の仲間を助けよう」


 その言葉に歓喜の声が渦巻き、ネリスト族の士気が大きく高揚する。

 この戦乱の世――フレギオンはまだこの北方の地の小さいな部族の争いしか眼にしていないが――で、死なないというのがどれほど大きな意味を持つのか。それが如実に物語る光景であった。

 なによりも仲間を救おうとしているフレギオンへの期待も高い。


「始めよう、少しずつ魔力を放出してくれ。あとは俺が同期させていく」


 フレギオンの合図とともに、ネリスト族全員が頷き、少しずつ魔力を放出していく。

 体内で練られた魔力を呪文に変換するのではなく、ただ単に、放出するなどいう言わば消費させるだけ無駄とも言える行動を、彼らは文句を言わず開始した。

 外世界に放出された魔力を、フレギオンは感じ取り、その魔力を全て――彼の魔力の波長に合うように遠隔操作していく。実に神経の使うその操作は、戦闘状態などという状況下では決して行えず、こうやって静かで、集中できる状況下でしか行えない。

 ましてそれぞれ個人個人で魔力の波長は異なってくる。それをフレギオン自身の魔力の波長に合わせるのだから、相当な苦労が必要だ。だが、彼はそれをやってのけようとした。


(もうすこしだ、もう少しで波長が全てあう……)


 放出された魔力を自分の波長にあわせるべく、徐々に空間に漂う魔力を変化させていく。

 しかし、このとき予想だにしていなかった事態がフレギオンに襲いかかった。

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