真夏のクリスマス編:波乗りの聖夜と、海割れの修学旅行』
お読みいただきありがとうございます!「アニマル特区シリーズ」最新作をお届けします。
昨日の「大福特訓編」からの続きとなる、真夏のクリスマス修学旅行編です!
2日目の朝の三人娘(14歳中学生)のほっこり身支度シーンから、いよいよアニマルたちとのダイナミックな大共演ステージの幕が上がります。
アオイの王道アイドル挨拶、過去に水上ライブで地獄を見たペンタ(ペンギン)のリアルな怯え、そしてマイクを握ったコトネちゃんの変貌っぷりにご注目ください。
楽しんでいただけたら幸いです!
12月24日。
日本であれば凍えるような白銀の世界が広がる聖夜――の、はずだった。
しかし、ここアニマル特区のクリスマスは、オーストラリア基準の容赦ない大真夏。
頭上から照りつける太陽は、堂々の気温35度を記録していた。
ジリジリとアスファルトと砂浜を焦がす熱気のなか、アオイ、ユズ、コトネの3人は、早くもHPがゼロになりかけてドロドロに溶けていた。
「あづいぃぃぃ……。ねえ、なんでクリスマスなのに、私達は天然のサウナの中にいるのよぉ……」
「オーストラリア基準ですからね、アオイちゃん……。あ、でも、ほら。この水着サンタさんの格好、少し涼しくて、私はちょっとだけ気に入ってますよ?」
そう言って、首元をパタパタと仰ぎながら、ポンポンのついた真っ赤なサンタ帽をちょこんと直すコトネ。
露出度が絶妙に高めの水着サンタ姿。アオイとユズがその眩しさに一瞬だけ目を奪われる。
どれほど周囲の気温が高かろうと、彼女がふんわりと微笑めば、そこだけ涼やかな風が吹き抜けるような清らかな聖域(癒やし空間)が完成する。
「誤魔化されないでユズちゃん! かき氷食べ放題って言葉、絶対に嘘じゃないよね!? 私、昨日の売店でのイチゴ大福の絶望を、このキンキンに冷えた巨大イチゴかき氷で上書きしにきたんだからね!」
「ふふ、大丈夫ですよアオイちゃん。リヴァ先生が『キンマの巨大イチゴかき氷は、いきものの魂を震わせるネ』とおっしゃっていましたから。……あら?」
3人娘が水着のままビーチに一歩、足を踏み入れた、まさにその瞬間だった。
「ブフッーーーーーーッッ!!!(驚異の鼻血大噴火)」
バサバサッ!と生垣の陰から、音を立てて何かがもの凄い勢いで飛び出してきた。
3人娘の眩しすぎる水着姿を見た瞬間、脳内アクセス数が瞬間最高2倍に跳ね上がり、思考回路が完全なピンク一色に染まった覗き魔ペンギン・ペンタである。
「アオイちゃん、ユズちゃん、コトネちゃん……ッ! 神様ありがとう、これが僕の生涯最高のクリスマスプレゼントォォオオオ!!(限界突破のロケット猛ダッシュ)」
短い両翼を広げ、ハレンチ極まりない邪念1000%の顔で突撃してくるペンタ。
だが、その下心が少女たちの清らかな肌に届くよりも早く、洋上から「みしみし」と不穏な地鳴りが響き、巨大な影が立ち上がった。
「修学旅行の神聖な浜辺で、そのような下劣でハレンチな真似をするなぁぁあッッ!!」
海洋班の引率であり、アニマル特区きっての超常識人、大海蛇のリヴァ先生である。
リヴァ先生が怒りのままに洋上で放った、渾身のツッコミ(尾ビレ一閃)。
ドガァァァァァンッッ!!!
空間そのものを叩き割るような凄まじい衝撃波がビーチを駆け抜け、世界の物理法則が完全崩壊した。
なんと、目の前の青い海が、左右へと「みしみし」と音を立てて真っ二つに割れたのである。完全なるモーセの奇跡。
その、そびえ立つ左右の水壁に挟まれた、地神剥き出しの海底ルート。
そこに、トコトコと間の抜けた足取りで現れた、小さな影があった。
宿(貝殻)を無くした無防備な全裸ヤドカリ、宿無し庵である。
割れた海のおかげで、周囲には高級な真珠やレアな貝殻が拾い放題という、いきものからすればボーナス確定の神ポジション。
しかし、全裸の庵は無駄に前髪(触角)をかき上げ、どこか遠くを見つめながら中二病全開のミニマリズムを響かせた。
「……フッ、この俗世の青は僕のラッキーカラーではない。これほど情報量が多い海底は、僕のQOLを著しく損なうね。僕はただ、世界の果てに眠る伝説の巻貝『ゲヘナ・トパーズ』の、ミニマルで孤高な輝きを求めるのみ……」
「庵! 格好つけてないで後ろ後ろ! クラーケンのケンさん先生がすぐ後ろまで来てるわよ!」
庵のすぐ近くで、深海の環境変化に怯え、殻の密閉度をマッハ3に固定してガチガチと金属音を立てて引きこもっているホタテの高倉くん。
さらに、水圧の急激な変化により、激しく足(?)がつって「ウッ、あたいのサンゴ礁が攣る……」と悶絶しているサンゴのコウちゃん。
そしてその後方から、大人の色気をねっとりとムンムンに醸し出しながら、無数の触手をうねらせて迫る巨大イカ女教師・ケンさん。
彼女の狙いは、お気に入りの高倉くん(ホタテ)の殻をこじ開けてペロペロ(捕食)することだけだった。
「待ちなさぁ〜い高倉くぅん。クリスマスの夜ですもの、先生の温かい触手で、じっくりと殻の奥までトロトロにしてあげるわよォ❤️」
「アアアアアンッ!(殻の擦れる悲鳴)」
彼らは本編の『かき氷食べ放題』と1ミリも噛み合わない、海底暗黒サスペンスファンタジー(別次元の強制隔離スピンオフ)へと波に流され、虚無の顔で離退場していった。
「……あ、あの、ヤドカリさん達、すごい勢いで流されていっちゃいましたけど、本当に大丈夫でしょうか……?」
「コトネちゃん、心配しなくていいネ。あいつらに関わるとこっちのIQまで3くらいに下がるネ。完全に放っておくのが、宇宙の正解ネ」
いつの間にかリヴァ先生の頭の上、一番安全な場所に陣取っていたボル(インコ)が、冷酷極まりないド正論で海底組を切り捨てた。
*
【承:1日目の宿・全読者が悶絶する極上百合桃源郷】
カオスすぎる昼間のビーチが嘘のように、夜の宿泊先。
ひっそりとした露天風呂は、月明かりに照らされた完全なる光と癒やしの桃源郷となっていた。
温泉の熱気で、ほんのりと上気した3人の白い肌。
水滴が滑り落ちる鎖骨のライン、お互いに湯気の中で視線が交差する。
「はぁ〜〜……極楽、極楽。冷えたお部屋もいいけど、夏の露天風呂も最高だね、二人とも」
「そうですね、アオイちゃん。……あ、ユズちゃん、なんだか前より、その……少し大きくなりました……?」
湯船の中で、コトネが少し顔を赤らめながら、ユズの豊かな胸元に視線をやる。
「もう、ユズちゃんったら! どこを見てるんですか! えいっ!」
「ひゃあ!? お湯をかけないでください〜!」
「ふふ、二人は本当に仲良しですね。あ、お湯が目に入ったら危ないですから、気をつけてくださいね?」
コトネが優しく二人の背中を流してあげる。
生垣の裏で、その尊すぎる「音」だけで脳内ピンク蒸気爆発を起こし、白目を剥いて泡を吹いて浮いているペンタを置き去りに、湯上がりのイチャつきは布団の中へと続く。
「もう、ユズちゃん怒ってるんだからね!」
「ごめ〜ん、アオイちゃんが可愛かったからつい……てへぺろ❤️」
「……もう、可愛いから許しちゃう、えへへ」
電気を消した静かな部屋の中、枕を並べてふんわりとしたガールズトークが始まる。
天井を見つめながら、アオイがふと、素朴な疑問を口にした。
「ねえ、二人とも。好きな人っている?」
ユズが少しだけ体をアオイの方へ向け、優しく微笑む。
「私は、アオイちゃんとコトネちゃんですよ?」
「私も、お二人のことが一番大好きです」
「ふふ、ありがと。……でもさ、ほら、こないだの球技大会の時の、剛くん、刹那くん、賢人くん。あいつら大惨敗してバカみたいに空振りして泥だらけになってたけど……ボロボロになっても必死にボールを追いかけてたの、少しかっこよかったよね」
置いてけぼりにされたヘタレ3人組の、誰も見ていないはずだった泥臭い努力。
それが、本人のいないこの静かな夜に、彼女たちの心に確かに届いていたという、最高の救いの伏線。
「そうですね。不器用でしたけど、真っ直ぐ頑張る男の子たちの姿は……少しだけ、素敵だったかもしれませんね」
コトネの優しい、すべてを包み込むような癒やしの肯定に、部屋全体がにやにやが止まらない温かい空気に包まれる。
「うん。でも、今はみんなと、アニマル達と過ごすのが一番楽しいな。おやすみ♡」
*
【転:2日目の山場・3画面同時ザッピング進行】
修学旅行2日目の朝。
小鳥のさえずりと共に目を覚ました3人は、鏡の前でせっせと身支度を整えていた。
寝癖を直したアオイ、髪を綺麗に結い上げたユズ、そしてお気に入りのリボンをふんわりと結んだコトネ。
お互いの姿を見つめ合い、アオイが照れくさそうに、けれど心から嬉しそうに微笑む。
「うん! 今日もみんな、すっごく可愛い!」
「ふふ、アオイちゃんもとっても可愛いですよ」
「はい、お二人とも最高に可愛いです。よしよし、したくなっちゃいますね(にこっ)」
朝一番の尊すぎるほっこり空間。3人の少女がキャッキャと笑い合っているだけで、部屋全体の幸福度が天元突破していく。
しかし、そんな癒やしの余韻は、地元のクリスマス歌踊りステージの会場に到着した瞬間、圧倒的な熱気にかき消された。
プロ顔負けの激しいダンス、魂を揺さぶる現地の歌声。
想像以上のクオリティの高さに、3人娘はステージの袖で完全に圧倒されていた。
「……みんな、すごいね……」
コトネがぽつりと、おろおろした様子で呟く。その一言が、周囲のレベルの高さと、彼女たちの素朴な緊張感を何よりも雄弁に物語っていた。
――その時、3人の背後から、不敵な笑い声と共にペンギンが歩み出てきた。
「ハッ! お前らがこの場で普通に歌って踊っても、ただステージの藻屑となって埋蔵するだけだ!」
下心1000%のプロデューサーと化したペンタである。
ペンタはティッシュで鼻血を拭いながら、ビシッと短い翼を3人娘に突きつけた。
「しかし、俺に任せろ! この天才プロデューサーのペンタ様が、お前たちを世界一輝くクリスマスミューズへとプロデュースしてやるッ!」
そう言って、ペンタが自信満々に差し出したのは、己の欲望と妄想のすべてを注ぎ込んで用意した『決戦兵器』だった。
それは――【サンタ帽 + 少し大胆な水着 + 鈴】という、暴挙にして至高のトータルコーディネート。
それを見た地上班のアニマル達(ゴリラ、犬、猫)は、感動のあまりその場に崩れ落ち、涙を流してガチ絶賛していた。
「水着でも、サンタ帽と鈴があればそれはサンタ。サンタ服の定義は全世界共通ウホ……(限界の脳内システムバグ)」
そして、欲望の火蓋が切って落とされ、運命のステージの幕が上がる。
眩しいスポットライトのなか、まずは先陣を切ってアオイがステージ中央へと飛び出した。
両手を胸の前で可愛らしく交差させ、とびきりの笑顔で元気いっぱいに挨拶を放つ。
「初めまして〜! アニマル特区から遊びに来たよ〜! 海洋班のクリスマスステージ、応援よろしくね♡」
その瞬間、会場の雰囲気がガラリと塗り替えられた。
それまでの現地の本格的な歌踊りステージから、一瞬にして超満員の『王道アイドル会場』のような、熱狂と興奮の渦へとサイリウムの海が広がるような熱気に包み込まれたのだ。
モブ民たちのボルテージは早くも最高潮。
「アオイちゃーーーん!!」「うおおお可愛いぞォォオオ!!」と、割れんばかりの歓声がビーチを震わせる。
――その、直後だった。
いつもは控えめで大人しく、おろおろとみんなの後ろをついて歩いては「よしよし」と周囲を癒やす聖母であるはずのコトネが、何をトチ狂ったかステージ中央のスタンドマイクへとフラフラと近づいていった。
(あ、あれ? あの子も可愛いけど、ちょっと緊張してるのかな……?)
(おろおろしてて小動物みたいだな、守ってあげたい……)
会場のモブ民たちが一斉にそんな庇護欲をキリキランと輝かせた、まさにその時。
ステージ袖のペンタだけは、本能的な恐怖で全身の羽毛をパサパサと逆立たせていた。
――嫌な予感がする。いや、これは確信だ。
忘れもしない。ペンタはかつて開催されたあの『水上ライブ』の現場で、一度全く同じ光景を経験しているのだ。
あのおろおろした可憐な少女がマイクを持った瞬間、会場全体がどのような修羅の国と化すのかを、世界で一番身をもって知っているのはこの俺だ。
ペンタは、ごくりと乾いた生唾を呑み込み、静かに最悪の覚悟を決めてステージを凝視した。
(くる……ッ! あの総長が、またここに降臨する……ッ!!)
そして、その運命の瞬間がやってきた。
アオイからコトネへとスタンドマイクが渡された、まさにその刹那、ステージの空気は完全に一変した。
ガシィィィィィッッッッ!!!!
コトネの細く白い両手がマイクを鷲掴みにし、背後に突如として漆黒の特攻服オーラがメラメラと立ち上る。
さっきまでの小動物のような可憐さは微塵もない。地の底を親うような、冷酷極まりない低く沈んだ声がスピーカーから響き渡った。
「おまえら、ここに何しに来た……? 俺は全力で楽しみにきた。……が?」
ゾクッ、と会場全体のモブ民の背筋に冷たい刃が突き立てられる。ペンタの脳裏に水上ライブのトラウマがフラッシュバックする。
「まだまだ準備不足のようだな……」
冷たく見下ろすコトネの眼光に射抜かれ、会場全体が恐怖でごくりと息を呑み、微動だにできなくなる。
完全に静まり返ったビーチに、フォントサイズの上限をぶち破る覇王色の咆哮が叩きつけられた!
「ここに盛り上がる準備のできてねぇやついねぇよなああああ!!?」
「楽しむことのできないやつとかいねぇっぇよなぁ!?(鼓膜完全破壊重低音)」
「全力を出すのを怖がってるやつはいねぇよなぁぁぁ!?」
「何より――日和ってるやつとかいねぇよなぁっぁぁ!!?」
ドゴォォォォォンッッッッ!!!
息つく暇もない『いねぇよなぁ!?』の怒涛の4連撃!
もはや声帯から放たれたのは音ではなく、完全なる「物理衝撃波」だった。最前列のモブ民たちは白目を剥いて消し飛んでいく。
恐怖と興奮で脳のヒューズがぶっ飛んだ観客たちに向け、総長コトネはマイクスタンドをへし折らんばかりの勢いで引き寄せ、さらなる地獄のコール&レスポンスを要求した!
「準備が出来たら声出せ地面を踏み鳴らせ!! せい!! せい!! せい!! おらぁどしたぁぁあ!! せい!!」
「「「せ、せい!! せい!!(ドゴドゴドゴドゴ!!!)」」」
ビーチ全体が文字通り物理的に激しく揺れ、地鳴りのようなモブ民たちの足踏みと咆哮が響き渡る。狂乱の坩堝と化した会場を凄まじい眼光で見下ろし、コトネは獰猛に口角を上げた。
「よっし、あったまってきたなァ!!」
何万人の暴徒を従える総長そのものの貫禄。
コトネはマイクを口元に固定したまま、一瞬だけ――「……すぅ」と深く息を吸い込んだ。
刹那、フォントサイズの上限を完全にぶち破る、本日最大出力の覇王色の咆哮がビーチ全体にブチ撒けられた!
「行くぜおまえらぁぁぁ限界突破だァァァァァアアアアアッッッッッッッ!!!!! ついてこい!!!!!!」
「「「ひ、ひぃぃぃ総長ぉぉおおおッッ!! どこまでもついていきますぅぅううッッ!!(完全狂乱)」」」
可愛い王道アイドル会場は、わずか数十秒で「命を賭けて総長に殉ずる暴走族の集会」へと完全武装解除された。
*
コトネの覇王色によって、会場が命がけの限界突破暴走族集会へと変貌し、モブ民たちの脳の血管が千切れるほどの熱狂に包まれた、まさにその瞬間。
ザバァァァァァァァンッッッッ!!!!!!!
洋上から、すべてを圧殺するような凄まじい質量が弾け飛んだ。
クジラのグランと、イルカのルカによる、完璧なシンクロを伴った超巨大ツインジャンプである。
天を衝くほどの巨軀が真夏の太陽を遮り、ビーチ全体に美しく、かつ圧倒的な質量を誇る巨大な水の壁が立ち上がった。あまりの大迫力と、鼓膜のキャパシティを超えた水音に、さっきまで狂乱していたモブ民たちは一瞬で声を失い、会場は水を打ったような「完全な静寂」へと引き戻された。
その、きらめく無数の水しぶきが激しく舞い散る、静止した時間の中。
ステージの上空から、一人の少女が舞い降りてきた。
クジラたちが巻き上げた大量の水しぶきが天然のパラシュートとなり、まるで彼女だけが時間の流れから切り離され、ゆっくりと、どこまでも優雅に降りてきているかのように錯覚させる。
纏っているのは、清楚な白いワンピース水着。それが舞い散る水滴のプリズム光を浴びて、キラキラとした幻想的な虹色のエフェクトを放ち、周囲の空間そのものを神秘的な輝きで満たしていく。
美しい。あまりにも、美しすぎる。
会場の誰もが、呼吸をすることすら忘れて硬直していた。
目の前で起きている奇跡のような光景は、もはやステージの歌踊りなどではない。まるで本物の「女神降臨」を間近で目撃しているかのような圧倒的な神々しさ。
ゴソッ、ゴソソッ……。
誰から始めたわけでもなかった。
美しさへの畏怖と、魂の底からの感動に突き動かされた現地のモブ民たちは、一人、また一人と、砂浜の上にそっと膝を突き、両手を胸の前で組み合わせて「静かに跪き、祈りを捧げる体制」へと移行し始めたのだ。ビーチ全体が、わずか数秒で巨大な神殿と化した。
そんな狂信者たちの中心へ、静かに、どこまでも軽やかにステージへと着地したユズ。
彼女は長い睫毛を揺らし、跪く民たちを慈悲深い瞳で見つめながら、静かに、そのふっくらとした唇を開いた。
「――楽しまないとおしおきよ?❤️」
ぞくっとするほどの甘い声音と、小悪魔的なウインク。
その瞬間、会場のボルテージは「最高潮」に達した。
だが、それは声を張り上げて騒ぐような安っぽい盛り上がりではなかった。
モブ民たちはただただ大粒の涙を流し、胸を掻きむしり、ステージの女神に向かって狂おしいほどの「信仰」と「圧倒的感謝」を捧げ、砂浜に額を擦り付けて震えていた。ビーチ全体が、救済された喜びによる圧倒的感謝の渦に飲み込まれていく。
ピキィィィィィンッッ!!!
その時、ステージ袖でそれを見ていたペンタの頭頂部の毛が、激しく反応した。
下心センサーではない。これは、魂の『同志』を見つけた時の、プロデューサーとしての直感だった。
(……察した。今、僕は彼らの感情を、完全に察してしまった……ッ!!)
ペンタは、涙を流して祈りを捧げるモブ民たちの顔を見つめ、静かに己の胸に手を当てた。
アオイの王道アイドルの挨拶で、極上の『笑顔』と癒やしを知り。
総長コトネの熱い演説で、命を燃やす『士気』を極限まで高められ。
指示通り、女神ユズの降臨によって、いきものとしての本当の『信仰』と救済を知った。
完璧だ。この3ステップを経て、会場のモブ民たちの脳内は、完全に我がミューズたちの奴隷(狂信オタク)として完成されてしまった。
こうして、アオイの「笑顔」、コトネの「士気」、ユズの「信仰」によって、ビーチ全体の民草が完璧な調教(救済)を完了した瞬間――。
ここからが、本当の『アニマル特区』のステージの始まりだった。
ただ歌って踊るだけではない。少女たちとアニマルたちが大自然の中で一体となる、魂の共演イベントの火蓋が切って落とされたのだ。
「グラン君、いくよーーっ!」
アオイの掛け声と共に、クジラのグランが尾ビレを叩きつけ、高さ5メートルを超える圧倒的なメガ・ウェーブを発生させる。その怒涛の激流を、3人娘を乗せたサーフソリが爆速で滑り出していった。
引き波を起こすのはイルカのルカ。超高速のキックで水流をコントロールし、そのジャンプの軌道に合わせてユズとコトネが水しぶきの中で美しく舞う。
ラコすけラッコがマイ貝殻を「コンコンコンコンッ!」とソリの側面に叩きつけ、打撃衝撃波で木目を細かく振動させて重心を保つという、人外たちの超科学サポートも絶好調。会場の狂信者たちは「おおおおお……!」と地を這うような感動の呻き声を漏らし、ただただその奇跡を網膜に焼き付けていた。
――だが、その最高潮の平和を揺るがす「不穏な影」が、上空から音もなく近づいていた。
極上のイチゴコンテナを狙う、空のギャングこと狂暴なカモメヤンキー集団である。
ギラギラとした鳥相で急降下してくるカモメたち。ステージの進行を物理的に破壊しかねない侵入者だった。
ピキィィィィィンッッ!!!
ステージ袖で、ペンタの脳内にある『危機管理能力センサー』が、火を吹くほどの勢いで激しく警報を鳴らした。
自分の身に迫る危険ではない。ならば、今この場における最大の危機とは何か?
決まっている。目の前にある、この奇跡のようなステージと、完成された美しい会場だ!
アオイたちが笑顔を咲かせ、コトネが魂を震わせ、ユズが女神として君臨している、この世界一尊いユートピアだ!
(……あいつら、この光景を壊そうとしてる。僕たちの聖域を邪魔しようとしてる……ッ!)
(許せるか……? 否。断じて、否だぁぁぁぁあああッッッ!!!)
何があっても、俺の命に代えてもこの尊い光景を守り抜く。ペンタの胸の奥で、かつてない正義の漢気が爆発した。
……まあ、綺麗に脳内翻訳すればそうだが、その本質(燃料)は、
「ここでカモメを全滅させたら、アオイちゃんたちに『ペンタ君がんばったね❤️』って、柔らかいお胸にギュッとだっこされて、よしよししてもらえるかもしれない」という、限界の壁を遥かに突き破った妄想力である。
「僕の妄想力を、今この時の為に……! いざ、出陣ッッ!!!」
ティッシュを千切って鼻の穴に詰め込み、全妄想熱量をドス黒いピンクのオーラへと変換したペンタが、短い羽をパタつかせて大空へとロケットジャンプを敢行した。
「カーッ!? なんだテメェ、飛ばねえ鳥の分際で邪魔すんじゃねえウホ!」
「ふっ……。ただの食欲のために、この奇跡の空間(聖域)を汚そうとする無粋な鳥どもめ。お前たちに、本当の『尊さ』を教えてあげるネ……!」
ボルがステージ裏で「ペンタの顔が完全に犯罪者のそれネ!」とツッコむなか、ペンタの脳内妄想エンジンが最高回転数で火を吹いた。
(だっこ……なでなで……よしよし……アオイちゃんたちのお胸のぬくもり……!!)
「受けてみろォォオオオッッ!! 僕の愛の結晶!! ピンク・フラッシュ!!!!」
ビカァァァァァァァッッッッ!!!!!
ペンタの限界突破した下心を燃料に、全妄想熱量が網膜を直接焼き切るドス黒いピンクの精神破壊光線となって上空に炸裂した!
あまりの尊さの過剰摂取により、カモメヤンキー集団は空中でもんどり打ち、白目を剥いて次々と海の彼方へとキュン死(尊死)しながら敗走していった。
己の欲望を世界の防壁に変えた男・ペンタにより、ステージの平和は完璧に死守されたのである。
【結:すべてが繋がるハッピーエンド】
大自然とアニマルたちとの大共演ステージも無事に終わりの時間を迎え、いよいよ3人娘からの最後の挨拶が行われようとしていた。
ステージの上で、アニマル特区から連れてきた愉快な動物たちの紹介が和やかに進んでいた、ちょうどその時。
舞台の袖から、全身ボロボロになり、魂が半分口から抜けたような虚無の顔をした勇者ヤドカリPT(庵、高倉くん、コウちゃん)が、這うようにして戻ってきた。
「あ〜〜〜! みんな、どこいってたの? 心配してたんだよ?」
アオイがピュアな瞳でパタパタと駆け寄ってくる。
裏で巨大イカ(ケンさん教師)のセクシー捕食の脅威から命がけで生き延びてきた勇者PTは、その壮絶すぎる旅路を語る気力すら残っておらず、ただなんとも言えない「もの凄く微妙な顔」を浮かべながら、借りてきた猫のようにお行儀よくステージの端に整列するのだった。
一方、3人娘はステージの上で、振る舞われた本物の美味しい巨大イチゴかき氷のトッピングに挑戦していた。昨晩作った、タッパー入りの【ちょっと微妙な味の手作り大福】である。「あむっ……!! 美味しい!!!!」
そう、昨晩ボルが指摘した致命的な弱点――『モチの水分不足による硬さ』は、冷たいかき氷の氷菓子としてのシャリシャリした食感と合わさることで心地よい弾力へと昇華され、『生地の中で浮いていたイチゴの強い酸味』は、かき氷の濃厚で甘い練乳シロップと合わさることで、お互いを引き立て合う完璧な黄金比率へと変貌したのだ。
前夜の失敗(引き算の不足)が、この真夏のクリスマスビーチで『究極のイチゴ大福かき氷』という、奇跡のケミストリーへと伏線回収された瞬間だった。
「わぁ……本当に美味しいです。みんなで頑張って作って、本当に良かったですね(にこっ)」
コトネの聖母のような、すべてを癒やす天使の笑顔が咲き誇る。
上空で欲望の概念爆発を炸裂させたペンタにより空のギャングたちも全滅し、大自然とアニマルたちとの大共演ステージも無事に終わりの時間を迎えた。
そして、いよいよ3人娘から現地モブ民たちへ、最後のメッセージが贈られる。
まずはマイクを持ったアオイが、両手を振って弾けるような笑顔を見せた。
「みんな〜! 今日は一杯あそんだね〜! 楽しかったね、またきたいな♡」
「「「アオイちゃーーーん!!(号泣)」」」
会場に再び『王道アイドル空間』の温かい笑顔が咲き誇る。
続いて、コトネにマイクが手渡された、まさにその瞬間――。
ピキィィィィィンッッ!!!
会場全体に、凄まじい緊張感が走った。
もはや比喩でも何でもなく、客席の現地モブ民全員の背筋が「ガチョンッ!」と直角に伸び、誰一人として身動きができなくなる。全員の目が、完全に現役の特攻隊員のそれになっていた。
静まり返ったビーチに向けて、コトネはマイクを低く構え、地の底から響くような声で一言、言い放った。
「今日は……まぁ、悪くなかった。……しかし! お前ら、まだこんなもんじゃねぇよなァ?」
「「「(ゴクリ……ッ!)」」」
「次来たときは、もうちょっとマシになってると期待する! ……できるよなァッ!?」
「「「はい!!! 総長ぉぉおおおッッ!!!(一糸乱れぬ敬礼)」」」
ビーチ全体に軍隊さながらの狂った『士気』の咆哮が響き渡る。
コトネはすぐに「ふえぇ……また怒っちゃいました……」と涙目で口元を押さえたが、最後にマイクを受け取ったユズが、すっと前に歩み出た。
その瞬間、今度は特別な演出など何も起きていないというのに、ビーチ一面が息を呑むほど「厳か(おごそか)な雰囲気」へと包み込まれた。
ユズは跪く民たちを慈悲深い瞳で見つめ、優しく、静かに口を開いた。
「皆さんと一緒に楽しめて、私はすっごく嬉しかったですよ?」
――ドォォォォォン。
モブ民たちの脳内で、なにか決定的なヒューズが焼き切れる音がした。
盛り上がるという領域を遥かに超越した、魂の救済。客席の全員が言葉を失って大粒の涙を流し、胸の前で十字を切り、どこの新興宗教かと言いたくなるほどの「信仰・崇拝・圧倒的感謝」の渦に包まれて脳内が完全にオーバーヒートしていた。
そんな狂信の神殿と化した会場の最前列で、すべての妄想力を出し尽くして真っ白な灰になったペンタが、夕日の海へ向かって無駄にハードボイルドな背中で語りかけていた。
「(……そこら先の道はどうなってるか、誰も分からない。行ったものしか分からない。だから行けよ、行けばわかるさ……。もし、一人じゃつらいなら――俺が、お前のよこにいてやるよ……ッ)」
結局アオイたちからの「だっこしてなでなで」のご褒美は一切貰えなかった漢だったが、その背中だけは、どこまでも無駄に熱く、世界のすべてを悟っていた。
その足元。
前夜のゲイリーの熱い生き様に影で激しく感銘を受け、数時間に及ぶズブズブの海底激走を経てようやく今ゴールしたLEDヤドカリのヤドくんが、消えかけの1600万色を弱々しく、しかし温かく明滅させる。
コトネはヤドくんにそっと目線を合わせ、「頑張ったね、ヤドくん。はい、よしよしです」と優しくその小さな殻を撫でるのだった。
――なお、ステージの端でボロボロになって並んでいたヤドカリたちの、あの「もの凄く微妙な顔」の本当の理由。
それが明かされるのは、海底で繰り広げられた壮絶な『深海冒険ファンタジー』、あるいは『勇者ヤドカリの宿探し編』のなかで語られるかもしれない。
……そう、いつの日にか。
世界一優しくて、世界一カオスな聖夜の幕が、静かに下りるのだった。
(真夏のクリスマス・海割れ修学旅行編・完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!!
アオイの「笑顔」、コトネの「士気(総長・コール&レスポンス)」、ユズの「信仰(女神)」という、盛り上がるの3段階活用ステージ。どうしてもこれが書きたくて全力でペンを執りました。三人娘が最高に輝く主人公ストーリーになっていれば嬉しいです。
昨晩の『微妙な大福』の水分不足と強い酸味が、練乳かき氷の上で究極のトッピングとして化けるとは、三人娘の食い気の執念の勝利ですね(笑)。
最前列で灰になったペンタのハードボイルドな背中(猪木の道オマージュ)や、ラストのヤドカリたちの「もの凄く微妙な顔」の理由については、いつか別の『勇者ヤドカリの宿探し編』で語られるかもしれません……そう、いつの日にか。
皆様の一読、ブクマ、評価が何よりの妄想燃料です。少しでも「面白い」「クスッときた」と思ってくださったら、ブックマークや評価、応援コメントをいただけるとアニマルたちが大喜びします。よろしくお願いいたします!
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