聞こえてきた音と
デパートで仕事をしている人間ほどに自分を着飾ったことがない自分で在りますが、来店させていただいたことはあるので、その時に見知った視覚的情報を想像で補って、描いてみました。
聞こえてきた音と
「何かお探しでしょうか?」や「いかがいたしました?」とご来店されたお客様にお声をかけさせてさせていただくとき、そのお相手のお客様のご様子に合わせる。ゆっくりめや軽やかさ。わかりやすいものでいえばそういったものだ。
デパートの特定の階に設けられた、そのデパートの相談を持ちかけられるところに勤めている。コンシェルジュだ。
学生生活をだらけたり遊んだりバイトしていた私の生活はこの仕事に就いてから一変した。そのデパートに恥じぬような通勤時の装いを考えて日々過ごすようになった。カジュアルであろうと、仕事の時の服装があるので、まったく別の物を身につけるには着替える時間が足りなくなる。着替え終わってから少しゆったりする時間が欲しかった私は、仕事の時に身につけるものを朝少しは身につけて職場に出勤していた。
汗をかくまえにデオドラント効果のある制汗スプレーをもうちいたりした。そうした中で立ち仕事をこなす。初めの頃は立っている時間が長くて辛かった。家に帰ればその足の疲れをとるために時間を費やした。そしてブランド品や店舗の商品について勉強していく。
その中での仕事は目新しい物や輝いて展示されている物を目にする。そう、ワクワクする気持ちを原動力に仕事を頑張った。
丁寧な接客ができるように先輩の姿を見学したりと自分の能力の向上も努める。
一年が過ぎ、二年が過ぎ。
最近になって分かってきたが、幾分か相手の調子にこちらの調子を合わせていくようなことを無意識に自分はしていっているなぁと気が付いた。
するとお客様と会話ができるようになってきた。世間話やご要望についてなど。それらを求める理由もお話ししてくださる方もいらっしゃる。
「誕生日を迎える娘に渡すプレゼントなのだけれども」などと具体的な理由も添えてお答えしていただけるようになったのだ。
それらが嬉しくて仕事終わりに仕事の仲間と食事を済ませて帰る夜もあった。
そんな順調に駆け出したある日の午後、耳鳴りの音がするのに気が付いた。ジーっていう音だった。とても小さな。少し高い音だ。
その音は時に少し音が大きく聞こえることが出てきた。
頭に過ぎったのは、難聴になるのではという思いだった。
しかし、雨の日の午後三時過ぎ。ちょうど空を大きな雲が覆いかぶさり薄暗くなっていた夕方前の明るさとともに、奇妙な音をつれてきた。
「えっ」
「どうかしましたか?」
「ん。聞こえない?」
「何がですか?」
「ペタンって足音のような」
「まさかここ中心街のデパートですよ。裸足なわけないじゃないですか。聞き間違いですよ」
「そうだよね。てっきりその音だと思っちゃった」
そう言って、同僚と分かれて仕事をしていたら、またペタンという足音らしき音が聞こえる。続いてぴちゃんなどと水の滴る音も聞こえる。
ああ、雨降ってるからだなぁって思ったが、自分はデパートの建物の中に居る。一階の出入り口付近に居るわけでもないのにそんな音が聞こえるわけがないって思って、そしたら、腕から背中から頭の毛穴まで下から上へぞわぞわって寒気が襲ってきた。
両手で腕を擦りながらその寒気を身体から逃がして、頭の中に浮かぶ文字をどうにか思い浮かばないようにして頭を横に振った。
近くに来た後輩が言う。
「風邪ですか?」
「それが、あぁ。こわっ」
「ちょっと、怖ってやめてくださいよ。こっちにくるじゃないですか」
「ええ、ひとりにしないでよ」
「ああ、もう」
後輩が私の背中を片手で大きく上から下へ下から上へ何度か繰り返してさすってくれた。
「ああ、ありがとう」
「いいえ。そのことはいわなくていいので、そのことを仕事中は思い出さないで、さ、どうぞ。仕事を」
「ええ、ひどくない?」
「いえ、対策です」
「そんなぁ」
「ほら、あちらのお客様こちらを見ていらっしゃいます。御用聞きに」
「わかった。もう」
自分の調子を整えて、「お客様~」と声をおかけさせていただき、万年筆を探されていることをお伺いし、商品の並んでいる場所までご案内する。有難いことにご購入もいただけた。そうしてまた仕事をしていたらそのことは忘れていった。
一年が過ぎ、二年が過ぎ。
私を仕事へと戻らせた後輩の子が新人の教育係をし始めた頃。またあの音が聞こえた。今度はペタンとぴちゃんという音とともに、ジーっという機械音が聞こえた。三つ揃ったのはこれが初めてだった。
不思議なことにその日は晴れていた。午後すこし曇っていたようだが雨は降っていない。
その中で行われていくイベントの紹介をお客様にしていた時、
「そうなんです」
とお客様のオウム返しにして質問されたことにこう返事をした。
すると、
「きゃはは」という声が耳の傍で聞こえた。
ちょうどお話しをさせていただいているお客様にはその声に見合うくらいのご年齢のお子様がいらっしゃる。なので、その声が幾分大きかったためにそう聞こえたと思った。その一瞬、視界に青白い体の少年が見えた気がした。
ビックリした私は声も出ず、瞬きをして、右手で胸元を軽く触れて、呼吸を意識して行った。確かに見えたあの姿は今見えない。しっかりと先ほどから説明させていただいているお客様たちや店内の様子が見えている。
「申し訳ありません」
「いえ、いいんです。どうかされましたか?」
「すみません、ありがとうございます」
こちらの様子をうかがうお客さまへお礼を述べると、
「一緒に行ってくださる」
と右腕に軽く触れて、笑顔を向けていただいた。
「ええ、喜んで」
私は安堵をし嬉しくて、そのお客様が休憩がてらカフェへ入られるまで一緒に居させていただいていた。
深々と頭を下げてその場を後にし、同僚たちが待機している場所へと移動する。
この事を話したくなっていたが、以前のことを思い出して、言うことをよした。
そうして移動した後、勤務時間まで仕事をした。
仕事を終えて帰るために着替える。その時に、近くの同僚に話しをした。すると、
「うわぁ。なんですか、それ」
「もう、びっくりしてさぁ」
「本当のことじゃないですか」
「そうだよね。え。私、そんな力あったの?」
「いやいや、ないって言ってくださいよ」
「そう、あったのに?」
「そう、そういう時ほど、ないって言っておくんですよ」
「怒られない?」
「誰が怒るんですか?」
「それもそうか」
「それで怒ってくるようだったら、言えばいいんですよ」
「わかった。いうから聞いてね」
「えぇー。私聞き役」
「そう」
「まったく、私が居なかったら他の人にしてくださいね」
「そりゃ、まぁ、わかった」
「もう、まったく」
文句を言われながら一緒に同じホームまで移動してから、同じ電車に乗り、家へと向かった。お互いに電車の中では先ほどの話題を言わないようにしていた。忘れたように、別の話題の話しをした。
「じゃ、また」
「ええ、また」
と言って別れた後にはすっかり私の頭の中にその記憶はなかった。
駅の近くのスーパーで焼き鳥とビールを買う。残り物のスープとお惣菜。そして冷凍しているご飯を頂く。
寝るころ。ペタンと聞こえたような気がしたが、ビールを飲んで快い心地になっている私は、なんとかベッドへ移動して、ベッドで寝ることに成功した。
仰向けで寝に入る私の頬を、冷たくていいさな手が触れたような気がしたと思った後には眠っていった。
私も耳鳴りするのですが、難聴になると思ったことはないです。聞き取りずらいとは思っています。人のこうした思い方さまざまですよね。このことなどについて人に話をしてみると、こうしたらとかわかるとか言葉や行動提案などは人それぞれで人間性が垣間見えます。いや、聞いた話で、自分は休憩していたんですけどね。




