表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/23

18. 戦いの如き遊び

 ミシンは女衆がよく使っているらしい。洗い場で一緒の、古参女衆の恵に頼んだら容の部屋へすぐに持ってきてくれた。容の部屋の押入れに丈夫な折り畳みの木の低いテーブルがあったので、それを引き出し、ミシン台の代わりに広げて部屋の中心に置いた。


「何をお作りになるんですか?」


 恵はいつも容を格上のように扱うのが、容には気になっていた。男衆の一員、かつ太智の世話係とはそれほど偉い存在なのだろうか。以前そうほのめかして聞いてみたら、「男衆の一員であるのもそうですが、容さんはそれだけではありません。何か驚くことが起きます。私は若い時分からいますからね。手に取るようにわかるのですよ」と予言者のように語られた。


「作るのは、太智の学校の体操着入れの袋です。昔、太智のお母さんが作ってくれたんじゃないかな。もうボロボロだったから、それは大事にとっておいて、代わりに私が作ったものを使ってもらおうと思ってます」

「すっかりお母さんのようですね」


 悪気無く言われた。考え過ぎ、妄想過多かもしれないが、そう言われると天贖と夫婦のようだと言われているようで、竦んでしまう。容だけに冷たい態度を取る天贖に、心を傷つけられている。だからこそ、道場でふと向けられた天贖の視線の熱さが何を表していたのか、気になって仕方がない。


 恵が去った後、容はミシンの電源を入れた。太智の持ち物を作りたいと思ったのも本当だが、単に容の趣味でもある。結と一緒に時間を潰す時は、いつも縫い物をしていたことを思い出す。


 ミシンがガタガタと音を立て、手縫いで『山王司 太智』と刺繍した布を裏地と一緒に縫っていく。紐通し部分を縫ってから、紐を入れていく。丈夫で簡単な白い巾着袋が完成した。本当は小さな飾りなど刺繍しようかと考えていたが、太智が嫌がってもいけないと思い、名前だけにした。巾着袋を高く広げてでき栄えを確認していると、襖を軽く叩く音がした。立ち上がり、襖を開けると、太智が手を後ろにしてそこにいた。


 太智は多分小学校から戻ってきたところだ。


「どうしたの? 太智」

「遊ぶんだろ。遊んでやるから表へ出ろ」


 照れくささのあまりか、ほぼ脅迫のようになった台詞を、太智はそっぽを向いて零した。こちらから遊びに誘っても良い返事をもらえなかった容としては、太智から声をかけてもらえて胸が弾んだ。


「何して遊ぶ?」

「……キャッチボール」


 太智が手を前に回すと、グローブを容に渡してきた。気まずいのか恥ずかしいのか、恐る恐るといった手つきだ。


「天贖様が前に買ってくれたんだ。大事に使えよ」

「天贖様と、前にキャッチボールした?」

「した。1回だけ。天贖様は、これで友達と遊べって」


 ほぼ新品同様のグローブを見て、太智は誰かとキャッチボールをほとんどしたことがないのだと容は悟った。


「いいよ。やろうか!」


 太智は笑顔になると、我先にと庭先へ降りて行った。白玉砂利の庭を抜け、土だけの地面に2人で歩いていく。屋敷の中央横にあたる場所で、奥には大きな正門が見える。


 山ノ神の力を持つという太智の球は、剛速球だった。最初の一投目で、もう容は音を上げた。


「こんなの取れるわけないだろ!」


 球が早過ぎてそもそも目で追えない。全く取れなかったが、容はどなられながら懸命についていった。球を取ろうとして転び、全身土塗れになる。少し古いTシャツと安いジーンズと、汚してもいい格好で良かった。しかし髪まで汚れてしまい、一刻も早く風呂に入りたくなった。


 小僧め、よくもお姉さんをここまでよれよれにさせたなと恨みが募る。


「天贖様は取ってくれたぜ。お前、鈍いんじゃないの」


 人間離れした天贖と比べてのこの発言に、容は今後を不安に思った。普通の小学生と遊ぶ時、太智が剛速球を投げていてはキャッチボールはできないし、もしかしたら異端児扱いされるかもしれない。


 運動不足もあいまって、息切れが激しい。


「はぁ……、は……、キャッチボールはさ、今度、義喜さん達とやるといいよ……」

「いいよ。お前で」


 太智がそっぽを向いて小さく零した。聞き漏らしたかもしれないと思い、太智に詰め寄る。


「何?」

「俺が稽古をつけてやる」


 普通、立場逆だよね。


 だが、一般人はこの程度の力とスピードなのだとわかってもらえるまで稽古につきあうしかないだろう。


 太智の世話係は思っていたより遥かに体力を消耗しそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ