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17. 温かい場所

 中棟小広間で食事をすると聞いていたので、容は時間になると自室から出てその小広間へ行った。縁側から行き障子を開けると、膳が全部で6つもあった。6つあった場合、どこに座ればいいのだろうかと悩む。天贖は外出中のため、上座が空いていた。いつもならばその上座のすぐ斜め前なのだが、おそらく男衆と同じ膳を囲むならば、自分は末席だろうと思った。


 気づくと楓が6つの膳の前に正座して控えており、容を見ると立ち上がった。


「容さん、お席へご案内いたします」


 末席かと思ったら、一番奥の上座の方へ連れていかれ、心底驚く。


「あの、他は男衆の皆さんですよね? 多分。私下座に行きますよ」

「容さんは太智さんのお世話係として天贖様と生活を共にされています。上座にご案内します」

「でも」

「ご案内します」


 にこやかに迫力を醸し出す楓が恐くなり、直立不動になって返事をする。


「は、はい!」


 上座を案内され、座ると、楓が末席の前の膳についた。太智や男衆も障子を開けて小広間までやって来た。


 上座で容は太智と向かい合って座り、その後に義喜、直大、直志、楓の順で座っている。自分の前の膳を見ると、本日の昼食は冷たい蕎麦と海老が大ぶりな数種の天ぷらと小鉢だった。容は嫌いな食べ物がほとんどなく、今日の昼食の献立も好きなものばかりだった。特に穴子の天ぷらが絶品だった。噛むたびに衣が軽やかに音を立て、それに包まれた穴子の身の柔らかさが舌の上で溶けるようだった。


「太智」

「なんだよ」


 太智は美味しそうに海老を頬張りながら、冷たく返事をした。しかし容は気にせず話し続ける。


「お昼はいつもこのメンバー?」

「俺、お前のこと信じないって言ったはずだけど」

「うん。言ったね。でもそれは当たり前のことだよ。最初から会った人全部信じてたら、心が折れちゃうよ」


 太智はその言葉を胸に落とし込むように沈黙した後、また海老を齧った。


「メンバーは、昼はいつもこうだよ。夜は家族の時間だとか言って、天贖様は俺と一緒に食べてくれる」


 太智としては天贖と2人きりで食事ができる嬉しい環境に、突如容が入ったので、あまり面白くないのだろうと思索した。


 食事をしているだけでは太智と打ち解けられない。それに世話係というならば、太智を楽しませてあげたいと思う。


「あ、そうだ、午後は私と遊ぼうよ」

「遊ばない」

「えー」


 文句を言うと、太智が今度は素直に話してくれた。


「学校、行くから。金魚とウサギとニワトリが待ってる」

「そうだったね。頑張っておいで」

「言われなくても、頑張るっつうの」


 照れくさそうに、太智は目を合わせず、食べるのに集中している振りをしていた。


 子供は、まだ世界が狭い。今の太智には小学校と天贖しか世界にいない。だからこそ、些細なきっかけが人間関係に影響を及ぼし、それが全てだと思い込んでしまう。大事に、大事に接しよう。


「ふふ」

「何がおかしいんだよ。やっぱりお前、変な奴だな」

「はいはい。変な奴はご飯が美味しいのでもう黙りまーす」


 男衆3人と楓が黙って食事をしている。こちらの会話を聞いていたのだろう。太智と容がうまくいっているか、気になっているのかもしれない。


 ふと、太智以外の全員と目が合った。直志は声を出さず口だけで「頑張れ」と言い、直大は視線だけ軽く投げ、楓と義喜は笑顔だった。


 胸の中に、郷愁に似た温かさが満ちてくる。――古くからの大切な友人のように、頑張りを褒めてくれる家族のように、ここの人達は温かい。乾いた孤独を優しく潤してくれる。


 犯人探しのためだけに勤めることになったこの屋敷を、容はもう大切に思い始めていた。

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