彼女は真っ白だった。
雪よりもずっと透き通った
真っ白のワンピースが
ふわりと揺れる
彼女は雲の上を歩いていた
触れたら溶けてしまいそうだった
誰にも聞こえない小さな声で
大切なさよならを告げそうだった
だから僕は
名前を呼ぶどころか
声もかけられずに
そこに立ち尽くした
足音ひとつ
立てることもためらわれるほど
しんとした空気は
彼女の吐く息だけが揺らせる
ひらり
風が彼女の裾をさらう
深呼吸をしたくなるような
やさしい風は
彼女に触れられる
あの白い頬を撫でられる
なんだか羨ましくなった
僕の鼓動が近づいてくる
彼女が振り向くだろうかと
期待するだけで
空は割れてしまいそうだった
一歩、また一歩
彼女は歩みを進めるだけ
雲は沈まない
白は変わらずそこにあり
決して汚れたりしない
僕は期待するのをやめて
彼女を見つめるのをやめた
近づこうとする鼓動を
胸の奥深くに押さえ込み
彼女の純白のワンピースを
汚さないように
薄い影さえも落とさないように
彼女は今も
きっとあの雲の上を歩いているだろう
真っ白のワンピースを
踊るみたいに揺らして
そして僕は
地面に足をつけたまま
その白の記憶を思い起こす
ああ、彼女は真っ白だった。
ご覧いただきありがとうございました。
彼女は真っ白だった。
誰かに届きますように。




