幸せは誰だって願っている
「いや~マサミチ君のいた世界にはそんな人がいたんだね! 魔力がないって言うのに自分の体一つで歴史に名を遺すなんてすごいね!」
夜ごはんの片づけをしているときも会話がやむことはなかった。
伝記や歴史の話は大好きだったけど、一緒に話をする事が出来る人がいなかったからとっても楽しい。
「うん!! とっても格好いい人たちばかりなんだ。」
そうだなぁと少し上を向いて言葉を紡ぐ。
「……その人たちの魅力に気づくきっかけは父さんのおかげなんだよね。」
「それは聞いても大丈夫なやつ?」
ソラは、マサミチの過去を知っている。
だから気を使ってくれている。
「うん。これは別にとってもつらかったって感じの話じゃないしね。」
「そっか。じゃあ遠慮なく聞かせてもらうよ。」
そういったソラは皿を水で覆う。
サラッと能力を使ってるなぁ。あそこまで出来たら楽しいんだろうな。
「ま、いいや。これは母さんが死んだ後の時の話なんだけど、よく父さんに家を追い出されてさ。寒いし眠れないし心細いしでホント不安だった。それでやることもなかったから学校に行ったんだよね。夜の学校には村の人たちは来ないから。前も話したと思うけどまともに勉強ができてなかったから、学校の図書館ってところに行ったんだ。そこでいろんな伝記、つまり過去にいろんなことを成し遂げた人たちの本を読んで、魅了されたっていうね。度々追い出されては学校で本を読みってやってたなぁ。母さんがいなくなった現実から目をそらすのにちょうどよかった。ただそれだけだよ。」
「やっぱちょっと、いやだいぶん重い話なんだよね。……ねぇマサミチ君。」
皿を洗う手を止めてソラはマサミチの方を向く。
「なに?」
「今から言うことは身勝手で私の主観の押し付けになる。けど、聞いてほしい。世の中にはいい人だっているんだよ。悪い人ばかりじゃない。きっといつか君のことちゃんとわかってくれる人がいるって、そう想ってる。そう私は信じてる。でも……やっぱりさ、まだ人のこと嫌い?好きに……なれそうにない?」
ソラはその質問の答えがどのようなものかわかっている。
でもっ。
そんなの寂しいから。
無茶だってわかってるけど。
マサミチ君、君に人を好きになってもらいたいんだ。
じゃないと……君はずっと苦しむことになる。
「いや、嫌いだな……。ソラさんがいい人で本気で僕のこと心配してくれてるのはわかってる。けど、ダメなんだ。いつまでたってもあの日のことを母さんが死んだ日、裏切られた日が頭から離れないんだ。僕は……人を好きになれそうにないや。」
言い終わる……ソラの顔を見ることができない。
僕にはわかる。
きっとソラは悲しそうな顔をしているのだろう。
ソラは、彼女は優しいから……。
だから、申し訳なさと情けなさで顔を上げられない。
今は僕もきっと酷い顔してるから。
「ごめんね。あはは……。ちょっと話過ぎたかな、喉乾いてきちゃった。水、持ってくるね。」
逃げるように駆けだしていったソラをただ見送ることしかできなかった。
ソラがいない時間は長く感じた。
独りの時間自分の呼吸と鼓動の音だけが聞こえ続ける。
僕のせいだけど、やっぱちょっと寂しいな。早く戻ってきてほしいな……。
そう思っていると何かが聞こえる。
ドタドタドタドタドタッ!!
静寂が続く部屋に猛スピードで駆け込んでくる足音。
バァン。
「イダッ。」
勢いよく開かれた扉は、可動域の限界以上まで開かれた反動で開いた本人を打ち抜く。
急な事だったので一瞬呆けていたが直ぐに平静を取り戻し、急いで扉を開ける。
「大丈夫!?」
扉に撃ち抜かれた彼女は、瞳に涙を浮かべ、額を抑える
少しの間、悶えた後にはっとしてマサミチの方を向く。
「明日人が来るの忘れてたぁ!」
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
二人の絶叫は闇夜に消えていく。
訪れる者たちはマサミチにとっての最高の来客者となるだろう。
マサミチの物語は進んでいく……。
その物語の終着はきっと、きっと




