憧れは偉大なり
気まずい……。
ソラさん、いつもなら凄い喋るのに家に帰ってきてからずっと無言だ。
夕食中だっていうのに一言も発さない。
正直ちょっと怖い。
それにこんなに静かな夜は初めてだ。
なんだか何を食べても味がしない。
……あ、ピーマンは避けとこ。
そんなことより、明日からどうしよう……。
……よし、気を紛らわすために明日の組み手の時の作戦でも考えとこうかな。
ん~でもなぁソラさんの裏をかくのってほぼほぼ無理なんだよな。
怒られた原因になったさっきの一回しか裏をかけなかったんだよな……。
あっ、そうだ。
ある、これなら絶対に不意を付ける。
それに……今なら、今の僕なら憧れてたアレできるんじゃないか?
そうと決まればっ!!
すぐに寝る準備を澄まして布団に潜り込む。
さっきまで怒られて「気まずいな……。」とか考えてたのがウソみたいにウキウキしながら眠りについた。
翌朝
朝ごはんを草々に食べ終わり、日課をすぐに終わらせた。
「……お疲れ。」
ランニングの時に飛ばしすぎて肩で息をしている僕に水を差しだしてくれる。
「ありがと。」
よし、いよいよ次は百本勝負だ!!
秘策を持ってきたからな、勝つぞ。
……あれ?そういえばソラさんちょっと機嫌が悪かったな。
なんでだろ?
まあいいや。
「今日こそ勝たせてもらうよ。」
ニコニコで手を出して握手をする僕を見てソラは深いため息を吐く。
「……君に気まずいとかそういう感情はないの?」
……?
何の話か分からないとばかりに首をかしげる僕を見て、彼女はまた大きなため息をつく。
「ま、いいや。 先に訓練所に行っておいて。」
「よーし勝つぞー。」と気合を入れながら訓練所に向かうマサミチを見送りつつ彼女はある準備をする。
見定めようか……君は変われるのかな。
「変わってくれるといいな」
そう小さくつぶやいたソラは淡い光を放っていた。
訓練所
「今日はソレ使うんだね。」
そういった彼女な目には木刀を構えた少年が映っていた。
頭の中で何回もシミュレーションはしてきた。あとはそれが通じるかどうかだ。
ソラの声も聞こえないほどに集中している。
まるでただ目の前の新しいオモチャに夢中の子供の様だった。
「じゃ、始めようか。」
いつものように手招きをしているソラ。
大きく息を吸い、一歩で距離を詰める。
今日は最初っから全力で!
持っている木刀を力いっぱい縦に振り下ろす。
が、少し後ろに下がられたことで避けられる。
わかってるよ。こんな大振りが当たらないことも、こんな大振りが大きな隙をさらすことも、ソラさんがそれを見逃さないことも。
「隙だらけだよ。」そう言っているようすら見えた呆れた顔。
そこまでが僕の策、あとは僕次第!!
振った木刀が地面に当たる前に自分の出せる渾身の力を持って静止させる。
これは僕が子供ながらに憧れた僕の英雄の技。
その技は、かの有名な巌流島の戦い。
剣聖と呼ばれた宮本武蔵との真剣勝負であと一歩まで追い詰めた技。
振った木刀は刀身が存在しない両刃の剣。
本来ならば瞬時に刀を返す必要があるこの技。マサミチにそんな技量はない、そんなことできない。
だからこの技は贋作、されど込められた憧れは贋作を技へと昇華させる。
一度通った剣の軌跡をなぞる神速の一撃。
剣技 『燕返し!!』
パゴッッ!!
二度目の剣撃は確かにソラの顎を打ち抜いた。
「痛っったぁ……!?」
そう声を上げたのはソラではなくマサミチ本人であった。
振り上げた木刀は当たった所からへし折れて宙を舞う。
「うわっごめん。大丈夫!?」
声が聞こえたのは後方だった。
前にいたんじゃ? なんて思ったりもしたがそれよりも手が痛い。
人を本気で殴ったことがなかったけどこんなに硬いのか……。
「手、見せて。早く。」
ソラは赤くはれた手を取り、両手で覆う。
「ごめん。君を見くびってたよ……。」
そう言ったソラの手は薄く光っていた。
「よし、治ったよ。」
覆っていた手を離され、解放された手からは痛みが消えていた。
「え? 痛くなくなった?」
それに、さっきの光は何だったんだ?
「ねぇ、ソラさ……ん?」
顔を上げた直後思考が止まる。
二人いた。
ソラが二人いたのだ。
え?双子……?
瓜二つなんて言葉で言い表せるものではなく、完全に同一人物と呼べるレベルだ。
それに木刀当たったのに赤くなってすらいない。
「あー最初から説明するね。まずはごめん。」
とても気まずそうな顔で謝罪するソラ。
「えっ、うん。」
「一戦目で君のことを見定めようとしててね。私の能力の植物創成で私の分身体を木で作ってたの。君がもし覚悟を決めて私のことを攻撃できた時、罪悪感がわかないように木の私で戦った。そしたら予想をはるかに超えた一撃を私に打ち込んできたからびっくりしたよ。まあ、もし昨日と同じで私への攻撃をためらってたら……なんていらない心配だったよね。」
あはは、と笑っているがさっきの目はマジだった。
もしかしたら僕、結構危なかったのかな……。
「私の木で作った分身はさ、私が頑張って操ってるからさ、私よりも弱いんだよね。魔力の操作は私ニガテなんだよね。それでも私が反応できないすっごい技撃ってくるとは……。すごいね!! それに無意識だろうけど魔力、使えてたよ。」
「え!? ホントに!?」
うれしかった。
魔力どうこうの話じゃない。
前と同じように会話できているこのひと時が。
一瞬、怒られたことを忘れていたとはいえ少し寂しかったのだ。
よかった……前と同じだ。たった一日の間だったけど気まずい雰囲気がなくなって、今までと同じような感じが戻ってきた。ずっと続けばいいのにな……。
そんなことを思いながら帰路に就く。
まだ空には太陽が浮かんでいる。
家に帰ったソラとマサミチの会話がひと段落したのは、陽が落ちるころだった……




