第六十幕 門前払いは違くない?
太陽がまだ暑い今日この頃、じりじりとした陽光に肌を焼く
ジワリと滲んだ汗が吹き抜ける風で肌を冷やしてくれる
新緑の木の葉が舞う中、ユグレシア王国城下町のとある場所
中層に位置する大豪邸の前、二人組の男女がキッチリとした服装で扉の前に立っている
いかにもガラの悪い黒メガネの大柄の男に睨まれながら
「帰れ」
「え」
勢いよく閉められた扉からわずかながらに吹く風がどことなく哀愁を誘う
二人はポカンとした様子で閉められた扉を眺めている
門前払いだった
事前に調べた話だとバリオス家はいつ何時でも仲間を募集している時聞いたのだが……
え、なんでさ
ちょっとくらい話を聞いてくれたって……
舗装された道から発される熱が立ち尽くしているだけの二人を容赦なく温める
「……帰ろっか」
「そうだね……」
ニ三分ほど呆けていたが、ようやく我に返った
どうしようかな……受け入れてくれる前提で行ってたから予定なんてものは数か月はない
急ぎの用事と言うわけではないが、手持ち無沙汰になってしまった
「ねぇ、帰る前にいろいろ寄って行かない?」
「そうだね、そうしようか」
このまま帰ってもやることもないし、ここはユグレシア王国内で随一の商業区だ
伊達に中央商業区だなんて呼ばれていない
辺りを見回せば下層とは比べ物にならないほどの人の群れが出来ており、活気に満ち溢れている
服屋に本屋、食事処にアンティークショップ、更にはサーカスみたいなのもある
「綺麗だなぁ」
「だね、ここは人の夢や希望が詰まってる場所だからね」
「夢や希望?」
失礼な事だとは思うがそうは見えない
確かに活気以外の何かを感じはするけど、それが夢や希望なのかと言われればきっとそうじゃない……と思う
「ここは中央商業区、金の行き来が一番激しい場所。ここで商売をする人は沢山いるけど、たいてい数か月も続かないんだよ」
「なんで?」
金の行き来が激しいんだったら人の行き来もそれ相応に多いはず
「それはね、ここが中央商業区だからなの。
ここにはそこら辺の区画とは比べ物にならないくらいの多くの店がある。そうでしょ?
ここでは日々需要と供給を満たす為、そして他の企業に負けないための競争戦略がたぁっくさん練られてるんだよ。
ま、そうでもしないと日々新しい物、新しい事が増え続けているこの場所で食っていく事は出来ないしね。
でも、もしここで大成しようものなら一気に準貴族のような立ち位置にまで上り詰める事が出来る。そんな夢や希望が詰まってるんだよ、ここにはね」
なるほど……そういう意味合いだったのか
僕が今感じている活気みたいなものは〝熱〟
人生を賭けた一世一代の大勝負ってところか……
「ここは良い場所だね」
「うん、私もそう思うよ」
計画が崩れて暇になってしまったけど、こうやって話しながら町ブラするのも悪くないな
気ままに話しながら、買い食いをしたり試着してみたり、思い思いの場所に行って楽しんだ
ふと、ある店の前で足が止まった
そこは活気のある中心部から少し離れた場所、ボロボロの店の前だ
「魔道具屋か……」
「興味あるの?」
「うん、ちょっとね」
というのも、最近入り用だったせいでアルドルフの場所に行けてないのだ
連絡手段もないからどうしようもない……って思ってたけど、ちょうど暇になったんだった
また今度、ソラと一緒に行こうかな
「ん?」
「どうしたの?マサミチ君」
今さっき、そこの路地裏に何かが見えた
人影に見えたのだが、明らかにおかしな様子だった
もしかしなくても……
「人攫い?」
心の中で疑問を呈したつもりだったんだけど、声に出ていた
「それどこ?」
「えっと……そこの路地にそれっぽいのが見えて……」
「行こう」
「うん」
二人で示し合わせて路地に入る
徐々に話し声っぽいのが聞こえるのだが、何処か争っているように聞こえる
見つからないように顔だけ出して様子を見ると、三人の男が小さく華奢な女の子の腕を掴み、連れ去ろうとしている現場だった
「ホントにいたよ……どうする?三二一で一気に行く?」
「そうする?」
正直、なんか演技っぽさを感じるのだが、気のせいだろうか
とりあえず、僕もソラも治療は出来るからもし誤解だった場合は治して謝ろう、そうしよう
「三……二……」
バレたらいけないので魔力は極力抑えつつ、姿勢を低くして足に力を籠める
「一!」
合図とともに勢いよく飛び出す
飛び出した瞬間に位置は捕捉されているので魔力は出し惜しみしない
もし能力持ちだった場合、下手に加減するとこっちが死にかねないからね
それぞれ反応の違いはあれど、部外者が少女を助けようとしている事を察知し、行動に移す
攫おうとしている少女を僕らから離すために狭い路地で三角の陣形を組み、進路を塞ぐために二人が前に出る
一人はナイフを取り出し、こちらに向かって構える。
一人は杖をこちらに向け、何かをモゴモゴと呟いている。
そして後ろにいるもう一人は逃げようと……
「がっ……!?」
行動に移す前に潰す
行動を無効化するってよりかは意識を刈り取る方が早いと判断した
女の子を攫おうと掴んでいる男の顎目掛けて掌底を繰り出す
それと同時に、僕とは違う一撃が男の顎を打ち抜く
ちょっとだけ飛ばすつもりが、一つ向こうの路地の壁まで飛んでめり込んでしまった
真横を見るとソラと目が合う
そのままの体勢、そのままの状態でソラが目配せを送る
わかった、なら僕は下だ
目配せの意図を理解し、姿勢を低くして技を繰り出す
「四季・冬式 凍床」
地に手を付け、魔力の膜を路地に添わせるように展開する
二人組の足が範囲に入った瞬間に一気に凍らせ、機動力をそぐ
それと同時に飛び上がっていたソラが路地に壁から先の丸まった根を二本創り出し、二人共の頭を打つ
ドゴッと言う音と共に二人共の軸がぶれ、地に伏す
「おっと」
意識を失った二人の身体を受け止める
凍らせた地面は固いから頭を打ったら大変だ
多分全員無力化できたとは思うけど……問題は
受け止めた二人に春で治療を施し、床に寝かせてから女の子に話しかける
「大丈夫だった?」
最初に感じた演技っぽさがもし本物なら何か罵詈雑言が飛んでくると思うのだけど……
「……ありがとう。お兄ちゃん」
「え?」
ひとまず僕の心配は杞憂に終わったのだが、また別の問題が発生した
「お兄ちゃんって、僕の事?」
無言でうなずく女の子
攫われそうになってたから混乱しているのだろうか
それにこの子まだ子供……って言っても中学生前半くらいは年齢行ってそうなんだけど
「あー、えっと、君の名前は?あとお父さんとかがどこにいるかとかわかる?」
しまった
急にいろいろと質問しちゃったからきょとんとしてる
やらかした……
と思っていたのだが、その子は意外にもちゃんと答え始めた
「私、ベィリィーン。お父さんはいないの、お母さんも」
自分よりも下から、上目遣いで僕とソラを見つめる
そして、懇願する
「お願い。私を守って」
金髪の少女、その紅い瞳が僕とソラに向けられる
それと同時に、遠くから大勢が向かってくる気配を感じ取る
すぐにわかった
何か面倒ごとに巻き込まれたと
でもいいだろう、ちょうど暇にだったし
「わかった、君を守るよ」
こんな状況、見過ごせないしね
中央商業区の昼下がり、町から少し離れた所で騒ぎが起こる
活気あふれた中層の一角で二人の少年少女が暴れ出す




