魔力はすごいぞ便利だぞ!
昨日ほとんど丸一日寝ていたため、早くに目が覚めた。
なんだか少し重いものが体の上にのしかかっているようだ。
窮屈さに顔をしかめ、朝の光に目が翳みながらも重い瞼をこじ開ける。
……!?!?
目に入ってきた光景は信じがたい光景だった。
涎、そう涎だった。
ソラの口から次から次に涎が落ちてきて僕の顔を濡らせて言った。
「ちょ、まっ、そ、ソラさん起きて!! うわっ!? ちょっとソラさん本当に起きてぇ……。」
「いやー本当にごめんね。悪気があったわけじゃないんだよ。」
布で不器用に僕の顔を拭きながら謝る。
「うん。わかってるんだけど衝撃的過ぎてねちょっと……でも昨日はありがとう。それと、ごめん。」
「んーやっぱりなんか空気が湿っぽいんだよなぁ。よし!! マサミチ君気分転換に外いこ!!」
ソラは僕の了承も得ずに部屋を飛び出して行ってしまった。
断る理由もないし、ソラについていく。
外に出るのは久しぶりだな。
外の天気は驚くほど快晴で、文字通り雲一つない天気だった。
空気がおいしいな……
外に出て深呼吸してると少し遠くでソラが手招きしている。
「こっちこっち!! 天才ソラさんの特別授業が始まるよー!!」
なんか変なこと言ってる……
よくわからないけど、いつまでもしんみりとした空気のままじゃ迷惑も掛かるし、気分転換には乗り気だったのでソラの特別授業とやらを受けに彼女のそばへ行く。
「それで、何をするの?」
「えっとね、マサミチ君の話を聞いてる限りだと魔法とか無縁だったんじゃないかなーって思って。今日から特別にソラさんの魔法特別授業を開催しようと思いまーす!!」
すごく元気に宣言した後セルフで拍手していたところを見て思わず笑ってしまう。
でも色々と聞きなれない言葉に疑問がある。
「魔法って言うのは何?」
「うんうん。最初から最後まで全部!きっちりこってりばっちり教えて進ぜようではないかぁ。」
なんか変なテンションだな、どこでスイッチが入ったのやら。
「魔法はね、自分の身体の中にある〝魔力〟を使うことで起きる不思議な不思議な現象の事であ~る。勿論、私も使えるしマサミチ君も使えるよ。」
「本当? でもどうやって?」
腕組みをしているソラが笑顔で話す。
「やっぱりね。マサミチ君なら興味を持つって思ってたよ。まずね、魔法を使うんだったら大前提として魔力を自覚しておかなきゃ使えないから、魔力を知覚する為の訓練をしてもらいます。魔力があっても知覚していないんじゃ魔法が使えないからね。」
「魔力? それに知覚する訓練? 何一つわかんないんだけど……。」
「ノンノン、焦るなんてナンセンスッ! 時間はたっぷりあるんだから。まずね魔力っていうのは私たちが生まれつき持ってるものでね、えーっと、例えるなら血液と同じようなものだよ。体をめぐっているものなの。」
指先で自分の身体をなぞるようなジェスチャーをしている。
自分で自分の身体を触ってみても何も感じない。
「あっそうだそうだ。先に一番重要な事を話しておくと、魔力はね全部なくなると死んじゃうの。」
これホントに大事だからね~っと軽く言い放つソラにちょっと驚く。
魔法を使うのは死と隣り合わせな事なんだろう。
「魔力ってのは身体能力を上げたり、風とか火とか水とか自然にあるようなものに変化させたりすることができるの。ひとによっては強化しかできない~っていうパターンもあるんだけどね、後はねぇ。
少し悩んだ仕草をした後、思い出したかのように口を開く。
「魔力を使うには、どんな風に変化させるかイメージしながらじゃないと使えないんだよ。」
そういうとソラは右手を広げて、火や水、電気、風などいろんなことをして見せてくれた。
前までは授業なんてまともに受けさせてもらえなかったからすごく新鮮な気分だ。
「〝能力〟って呼ばれてる選ばれた人にしかない魔力回路があってね。まあ、選ばれた人っていうほど仰々しい物じゃないんだけどね。能力はね、魔力と同じで生まれつき持ってるものなんだけど、知覚するのに時間が掛かるんだよね。」
「なんで?」
「人によって回路がある場所が違ったりするのと、能力は所有者の力や所有者の〝生物としての在り方〟が色濃く出るものなの。例外はあるんだけどね。」
「その例外ってもしかして遺伝とか?」
「おお!! 正解っ!! なんでわかったの?」
「ソラさんの説明からして魔力は血液のようなものなんでしょ?」
うんうんとうなずくソラの姿に安心する。
「血液型とかが一番わかりやすい例なんだけど、親の血液型が子供に遺伝するときと同じ感じで親の能力も遺伝したりするのかなって思ったんだよ。」
「大正解!! すごいね! それと、隔世遺伝とかで親のじゃなくておじいちゃんおばあちゃんのを受け継ぐ可能性もあるんだよね。でもその前に能力を知覚しなきゃ遺伝してるかとかわからないんだよね。」
「うん。結構わかりやすいんだね。ありがとうねソラさん。」
明らかに喜んでいるのが分かる。
こうやって褒められるのが慣れてないのだろうか、と見てると一つ咳払いをして話を続ける。
「こほん……とりあえず本題に入ろう。魔力を自覚する訓練というか魔力を自覚できるまで魔力量を増やすことの話なんだけど魔力が作られる機関が体に備わっていてね。マサミチ君はわかると思うけど、心臓なんだよね。」
僕の胸にある心臓の場所をソラが正確に人差し指で触る。
僕が分かっていないだけで今一番僕の身体で魔力が多いのが心臓なんだろうな。
それにしても、ソラは僕の事を買いかぶりすぎているんじゃないかと思う。
ソラの説明がうまいからわかっているだけなんだけどな……。
「まぁまぁまぁ。あんまり難しく考えなくてもいいよ……毎朝日課として深呼吸と百キロちょっと走るだけだし。あくまでも必要なのは自分の心臓の機能を鍛える事だからね。あとは、自分の心臓の位置と鼓動を明確に理解することもいるかな?」
「なるほどね毎日深呼吸と百キロ……ん? 百キロ!?」
ちょっと待って……今スルーできない言葉が……
聞き間違えの可能性に賭けて恐る恐るソラの方を見る。
「え、そうだけど……どうしたの? そんなに青い顔して。」
聞き間違いの可能性が消え絶望している僕にソラは容赦がなかった。
というか生まれてこの方熱心に運動なんてしてこなかったから一キロすら走り切れる自信がない。
「青くなっているところ悪いけどまだ続きがあるよ。さっき言った事を大体一年間くらい続けると魔力を自覚できるようになるの。個人差はあるけど。」
「一年間!? 魔力の云々の前に僕が死ぬんじゃないかな……。」
「ほらほら、弱音はいてないで行くよ。」
僕の手を引っ張りながら駆け出していくソラ。
僕はあきらめる。
あっ、これ終わった……
そうして時が経ち、僕が百キロ走り終えたのは夕方だった。
「……っもうっ……無理っ……ゲホッ! しっ死ぬっ……うっ、おえぇ。」
あまりにも長い道のりをほぼノンストップで半強制的に走ったのだ。
前日まで家の外に出なかったどころかまともな運動すらしなかった男が百キロも急に走った結果が、嘔吐のち酸欠からの気絶。
走っていた時、最後の方に関しては意識がなかったくらいだし。
というか走り切れたことが謎だ。
中盤から足の感覚はなくなってたし、横腹がちぎれるんじゃないかってくらい痛かったし。
ソラの気遣いで僕にペースを合わせてくれてたおかげで道に迷うことはなかったけど、温情はそれまでで家が見えてくるとソラは自分のペースに戻して走り始めた。
三十秒もしたら背中が豆のように小さくなって見失った。
次僕が目を覚ましたのは次の日の朝だった。
外で寝ていたせいで首が寝違えたし昨日のランニングのせいで足を動かすたびに激痛が走るほどの筋肉痛になった。
まあ、それでもソラは走らせてきたんだけど。
昨日ので道を覚えたとか何とかでおいて行かれた。
疲労のせいで昨日の事を覚えてないせいで迷ったのは言うまでもない。
ソラの家の周りにある森をぐるっと回るだけなのだが、草やら根っこやらで道が隠れて何度転んだことか……。
傷だらけの泥だらけで何とか家に着いた。
道が見えないしこけやすいしとソラに愚痴を吐いたら翌日には道がきれいになっていた。
能力でやったのだろうと思ったけど、約百キロもたった一日程度で道がきれいになったことに驚いた。
逆に言えば、いずれ僕もできるようになるんじゃないかと心躍らせた。
そんなのを一か月ほど続けているうちに筋肉痛に頻度が少なくなり五十キロくらいは余裕に走れるようになった。
おかげで今まで朝出発し夕方から夜の間に家についていたのが昼には家に着くようになっていた。
さらに一か月後には一時間ほどで走れるようになっていた。
ソラさんはすごくびっくりしていたけど僕もなんでこんなに早く成長できたのかわからなかった。
僕の成長具合を見て今の訓練と並行して次の訓練が始まった。
それはソラさんと戦うことだった。
能力を持った人が犯罪をしたり、初めて会った時にいたオオカミモドキのような奴もいるから自衛の手段を、とのことだった。
訓練所という場所に、またもや強制的に連れていかれた。
僕はそこでソラと戦ったんだけど、物凄くボコボコにされた。
最初は、女の人に殴り掛かるなんてできないよ……って思ってたけどそんな考えは甘かったと、そう思い知らされた。
殴りかかっては受け流されてから投げ飛ばされるの繰り返し、こぶしが掠るどころか振り切ることもできなかった。
初日はとにかくひどかった。
受け身がまともに取れずに地面に投げ飛ばされるから滅茶苦茶咳き込んだりで後半はほぼほぼ意識が飛んでいたと思う。
それからは自分でダメなとこを見つけては改善の流れを毎日していた。
毎日のランニングの後に知ってる限りの筋トレをしたり、ソラとの戦いで木刀とかいろいろ使ってみたけど特に意味はなかった。
だから今度はソラの動きに着目してみることにした。
彼女と戦っているときの特徴は動き終わる前に、行動を抑制され体の軸をブラされてから体勢的に攻撃を防げない位置を的確に殴ってくる。
正直言って相性が悪い。
何の技術もない奴ができる手段なんて限られてるのに、それをすべて潰す術を持ってる人と戦うなんて無謀にもほどがある。
ここ数日で進歩したことといえば打たれ強くなったのと、どういう体制をすればどこに重心が行くか、どこに向かって力が向かっていくかが分かるようになったくらい。
あっ、でも受け身がとれるようになったのが一番の進歩かな……。
まあ、それらの技術をもってしても髪の毛一本にすら触れれたことはない。
所詮は付け焼き刃という事なんだろう。
明日はほかにもうちょっと試してみようかな……。
そんなことを考えながら布団に入る。
そうして夜が明け、朝の日課が終わった。




