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転生先で女の子を救ったら人生が変わった  作者: アンディオス
五章 楽しいお泊り旅行?
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第五十一幕 記憶凍結

 朝の目覚めはこっちの世界に来て、一か月たったくらいには気持ちの良い物になっていた

 全ての感覚を睡眠の呪縛から解き放つような感覚

 眠っている間に静かになった意識に一つの雫を垂らして、波紋が広がって起きる

 厨二病っぽい言い回しだけど、僕はそんな感覚を毎朝感じていた


 でも今日は違う、こんなの久しぶりだ


 寝目覚めが悪く、ぼやけた視界を乱暴にこする

 意識の波紋の一角が凍って、起きるのを妨害しているようにも感じる

 そういえば昨日、何があったんだっけ──


「うっ……」


 昨日の記憶を貼り起こそうとすると、頭の中にノイズが走る

 不愉快な感覚だ、でもこんな事を前にも経験したことがあるように思える

 いわゆるデジャブと言うモノを感じているのだ


 八月の終わりに差し掛かったまだ暑い日、僕は眠気に負けないように上体を起こす

 病室のベットの掛布団は厚く、夏にかけて寝る物ではない事だけは確かだ

 ……病室?


 僕は確か退院して、それでアルベリの家に行って……

 またノイズが……


 よろけるようにしてベットから立ち上がり、辺りを見回す

 誰もいない広い病室

 それもそうだ、能力や魔力技術で治せるのだから寝込むような人の方が少ない

 でも、じゃあ僕はなんでここで寝ていたんだ?


 そんな疑問を浮かべながら病室から出る

 ノイズの感覚に頭を支配されていたからだろう、その部屋に立て掛けられていた札に気づかなかった

 〝記憶凍結者管理病棟〟と、そう書かれた部屋から、僕は足を踏み出した

 今日は九月の三日、僕はあの日から七回目の朝を体験する



「おはよう! マサミチ君!」

「おはよう、ソラ」


 庭に出て初めに見たのは元気に挨拶をするソラだった

 さっきまで寝ころんでいたのか後ろの髪が少し乱れ、数本の草が引っかかっている

 なんともわんぱくで彼女らしい姿だろう、思わず笑みがこぼれる


「ソラ、アルベリはどこ?」

「アイツ……アイツなら確か簡易病棟の食堂にいると思うけど」

「そっか、ありがとう」


 それを聞いた僕は、足早に簡易病棟に向かおうとする


「ねえ、マサミチ君」

「……?」


 僕の踏み出した一歩目を止めるようにソラが声をかける

 なんだろうと思いながらソラの方に向きなおすと不思議そうな顔をしていた


「簡易病棟の場所、わかるの?」

「え?」


 ソラに言われて、急に違和感が芽生える

 なんで僕の足は何の迷いもなく簡易病棟のある方向へ?

 それにこの意識もそうだ

 なんでこの方向が簡易病棟に続く道だと理解しているんだ?


「……テレーズさんから聞いてたの、かな?まぁ一様、案内するよ」

「う、うん。お願いするよ」


 ……この展開も、会話も、何でしたことあるようにしか思えないんだろうか

 今通っているこの道にも、なんで見覚えがあるんだろうか

 壁の小さな傷、子供のちょっとした落書き、新しく塗りなおされたであろう塗装

 全部見たことがある

 見た感じ、ソラもこの違和感を感じ取っているのだろうか

 確か、ここの曲がり角の先に──


「味うっすいな! これ!!」

「他のお客様の迷惑になりますので少しだけ声を下げてください、アルベリ様」

「ははっ、なんか既視感があるな! この会話!」


 元気な声が聞こえる

 十中八九アルベリだろう


 扉越しに聞こえる大きな声に謎の安心感を覚えながらノブに手をかける

 ……扉越しであんなにハッキリ聞こえるものなのか?

 まぁいいか


「おはよう、アルベリ」

「おっ、マサミチ! 元気そうだな!」

「アンタ程じゃないでしょ、バカ」


 スコンという音を立ててアルベリの頭が叩かれた

 ソラお得意の手刀だ

 頭を割るように繰り出されるあの一撃は悶絶する威力だからなぁ、南無


 手を合わせて頭を押さえて静かになったアルベリを悼みながらご飯を手に取る

 薄めに作られてはいる物の栄養バランスがちゃんと考えられているご飯だ

 確かメノルが作っているんだっけ?


「今日もおいしそうだ……な?」


 今日、も?

 またノイズが流れる



 ん、ここは……?

 ああ、〝特別な人のために(スぺシャリア)〟のアジトの前だ

 なんでここにいるんだろう


「んじゃ、ちょっと外の空気吸ってくる──わぁ!?」

「どうも」


 玄関の扉の前でぼぅっとしているとアキラが出て来た

 三日ぶりか


「おぉ、びっくりしたぜ。一週間ぶりくらいか?まぁ上がってけ」

「一週間?えっと今日は八月の二十七日です、よね?」

「何を馬鹿なこと言ってんだよ。今日は九月の三日だぜ?はしゃぎすぎて日でも数え間違えたか?」


 今日が九月の三日?

 どういうことだ……


「……その顔、マジで言ってるっぽいな。おい、ボスー! ちょっと来てくれー!」


 僕の顔から何かを察したのか、アキラは大声でアイゾメを呼ぶ

 その声が聞こえたのか、数秒もしないうちに玄関が開かれた


「何よ、外の空気吸いに行ったんじゃ──げぇ」


 げぇって言った?

 もはや面倒くさそうなのを格式すらなくなってるよ?

 まぁ、ソラがいないから誰も咎める人なんていないと思うけど


「実はな────」


 アキラがごにょごにょと耳打ちすると、更に露骨に嫌そうな顔をした


「やっぱ面倒ごとじゃない。貸し一だからね」


 そう言って僕の頭に手を乗せた

 アイゾメの能力で記憶の情報を見てくれているのだろう

 これでデジャブの正体がわかるのだろうか


 そう思っているとアイゾメが怪訝な顔をした


「……結構強固な能力で栓をされているみたい。無理にやったら蓋された記憶が一気に来るからしんどいと思うけど、大丈夫そ?」

「問題ないです」

「そう、なら良いわ 記憶を読み取れ、情報収集(インプット)


 頭の上で膨大な量の光が放たれる

 もしこれが熱を帯びるタイプの光なら確実に禿げるな、なんてくだらない事を考えている頭にいろいろなモノが流れ込んできた


 まずはこの空白の七日の事、コッコと言う人の能力で記憶が凍らされていたらしい

 それを違和感なくさせる為に何日、何十日に分けてかけ続け、記憶の奥底に沈めるのが記憶凍結の本質らしい

 門のところで見た事のある金色の眼の人が僕を気絶させたようだけど、ぎりぎり意識があったよう

『私の記憶凍結は対象に気づかれた時点で効力を失います。ですので細心の注意を払っていただけると幸いです』

 僕の頭に流れて来たのはそんな言葉だった



 ──パリン


 何かが割れる音がした

 頭の奥底、能力を使ってまで思い出せないようにした記憶


 ……ああ、ようやく(記憶)が全て溶けたようだ


 思い出したよ、全部


 あの日だ


 全てを押し流すような雨が降った日


 


 僕はあの日に壊され、真実を知った


「何よ、コレ……ユイガ、あんた」

「ボス、どうし──た?」


 僕の頭の上の光が勢いを増し、アキラも包む

 そうして、森の木々を抜け、光が収まる


「おい、ユイガお前、この記憶……え、おいボス! ユイガどこに行った!」

「わかんない! 光が強くなったタイミングではもうユイガの頭の感触は消えてた!」


 二人の目の前から忽然と姿を消した男に、アキラとアイゾメは一気に焦る

 彼の壮絶な過去の真実と地獄のような体験

 その二つは、人を殺すのに十分なものだと理解しているから


「私に任せて」

「なっ!? お前は──」



 そうか、だから僕は記憶を凍らされたんだ

 負荷が重すぎるから、きっと耐えられないから


 木々が生い茂る森の中を微かな記憶と運を頼りにマサミチは思い出の場所に向かう

 さふさふと地面に生えている天然の芝が心地よい

 木々の間から光が導くように点々と差し込んでいる

 一気に全部を受け止めて脳が情報を捌き切れていないのかどうかは知らないけど、あの記憶を全て思い出したにしては落ち着いていると思う

 もう、頭にノイズは流れない




 着いた

 ソラと、二ヶ月一緒に暮らした場所だ

 二ヶ月という長い様で短い期間、寝食を共にし笑い合った思い出の家

 短い間しかいなかったけど、ここの事は生涯忘れることは無いと思う

 ここで果てれるのなら何も文句はない

 綺麗なままで死ぬことに、罪悪感が湧くが今それはどうでもいい事だ


 思い出を思い出のまま終わらせよう

 僕が、父さんを裏切った僕が幸せな思いをして生きて行くことを、他でもない自分が許せない

 誰にも言わなかったけど、きっと怒られると思うけど、それでもいいや


 心臓を起点に氷が広がって行く

 肺が凍り、呼吸が浅くなっていくのが解る

 冷気を纏いながら、浅く膝をつく

 そんな時、後ろから声をかけられる


「マサミチ君」

「ソラ……さん」


 僕に声をかけた人物の名前を呼ぶ

 最近はさんを付けて呼ばなかったから少し懐かしい

 死のうとしている所を見られたんだ

 きっと彼女は怒るだろう

 そうして顔を上げた僕の目に映ったのは揺るがない立ち姿で、しっかりと僕のことを見つめているソラの顔だ

 どうして、どうしてそんな顔をしているんだ


「マサミチ君、聞いて」


 僕にしかわからない怒った時の、微かな声の震えがあった

 いや、僕の能力で出しているこの冷気がそうさせたのだろう

 僕はそう、思う事にした


「好きだよ」

「──は?」


 思いもよらない一言に間の抜けた声が漏れる

 

 僕の声など届いていないような、そんな様子で言葉を紡ぐ

 なんでもないたった一言から始まる話

 その話は、僕の人生を変える

急展開すぎたか……

いや、でも書きたかったから仕方ない

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