第四十六幕 墜ちる
……ああ、ようやく氷が全て溶けたようだ
思い出したよ、全部
あの日だ
全てを押し流すような雨が降った日
僕はあの日に壊され、真実を知った
「はぁ、酷い目に合ったねアルベリ」
「まったくだ」
昨日はお風呂に長い事入ってオーニアスとグレイ以外の三人が見事にのぼせた
自分で創った氷で頭を冷やしてたのを覚えている
丁度リビングに行ったタイミングでアカツキが帰って来たんだ
夜のご飯を食べて、みんなで騒いで、枕投げで首が取れるかのような思いをして、すごく楽しかった
それで今日は朝の早いうちから外の庭でオーニアスに鍛えて貰っていたのだが、途中ですごい勢いの雨が降ってきた
近いからという理由で裏口から家に入った
それで今、僕たちは屋内に避難した
「マサミチ、お前のでさ、この濡れたのどうにかなんねぇか?」
「よし来た! 任せて」
濡れた袖を捲り、イメージを頭の中で巡らせる
この世界に来てから素の僕でいられる時間が、場所が出来てきた
嬉しい限りだ
「四季・二式 晴乾秋好」
僕の手から乾いた暖かい風がでる
がっちりとした名前だが、ただ乾いた温風を出しているだけだ
ちなみに二式というのは秋と春と冬のどれかを同時に併用したときの技名だ
なんにもいい名前が思いつかなかったから二式にしたとかでは断じてない……断じて
「ふい~、ありがとな」
「早くチョーにもっス!」
「私もー!」
「私も頼むよ」
「みんな一斉に……とりゃー」
意図的に能力の出力を上げ、効果範囲を大きくする
もちろん濡れた床も入るようにしておく
昔、父さんが水をこぼしちゃって床にカビが生えた事もあったからな
あの時の母さんの顔は……あれ、どんな表情してたっけ
自分の記憶に違和感を感じ、頭をひねる
何といえばいいのだろうか
溶けだした氷から出た水が余分な物をもって流れるような
そんな気持ち悪い違和感が脳を刺激する
その時は自分の感覚に強い違和感を感じていたから近くに墜ちた雷にも気付かなかった
「うわっ! 今の結構近くなかった?」
「ちょっと見に行くか」
裏口から各々の靴を持ち出し、玄関に向かっていく
「──チ殿? マサミチ殿!」
「んぇっ!? な、なんですか?」
「ソラ様達は正面玄関に行かれるようですが、行かないのですか?」
「あ、じゃあ僕も……オーニアスさんとグレイさんは行かないんですか?」
外に行く素振りがあるのだが靴を取ろうとしてないところを見ると裏口から出るのだろうか
にしてもこの雨の中どこに?
「ええ、私たちは少し用事がありましてね」
「そうですか、お気をつけて」
二人と別れ、廊下を歩く
ぼうっとした頭でトボトボと歩く
……頭だけじゃない
この違和感は何だ?
何かに逃げ場を断たれている様な……
分厚い壁すらも貫通する轟音で雷が落ちる
外からは雷以外にも雨音も聞こえる
ザーっと降っている音が
こんなに大きな音がなるものなのか……?
と言うかこんなにも強い雨なら僕達が濡れる前には気づく位には雲が大きくないと無理だろう
それにこの感じ、もしかして能力か?
もしかしてアカツキの言っていた追っていた奴がオーニアスさんを狙うために……
そう考えたらこの雨から感じる魔力にも合点がいく
広範囲を包む大量の魔力と音で、気配や能力使用時の魔力の起こりの誤魔化している
早く伝えなきゃ!
今さっき通った廊下を引き返そうと身体を向きなおす
走ろうと足に力を入れた刹那
「ッ!!」
後ろから微かに魔力の起こりを感じた
玄関の方だ
皆が危ない!
この雨の中ですら感じた魔力量に冷や汗が出る
自分が使えるようになったから知っているのだ
雑ではあるが魔力を込めれば込めるほどに火力が上がるのだ
不安に駆られ走る足がもつれる
「大丈夫?マサミチ君」
「ソラさ──」
こけてしまった僕にいつものように手を差し伸べるソラ
そして、その後ろにいる知らない人
反射的に氷の短剣を創り、ソラを庇うように立つ
「誰だ!!」
見た感じ二人、両方とも男か
アルベリもチョーもソラも無事、アカツキさんの姿は見えない……
アルベリ達はきっと何かの能力で敵に気づいてない
僕しかやれない、やるんだ
自分の魔力の出力限界まで開放し、氷を空中に生成する
飛ばして使う用のを先に作って戦いの中での隙を埋めるときに使う
今朝、オーニアスから教わった使い方だ
「僕が、相手だ」
「ははっ、声震えてんじゃんかさ~」
二人ともフードを被っていて誰だかわかんないけど、オーニアスが来るまで耐える
そして気づいてもらえるように最大出力で──
「ねぇ、もう〝いない〟訳じゃないんだよ~?ユイガ マサミチ君」
「は?」
流れるように地面に押さえつけられた
無抵抗のまま、成すすべなく、組み伏せられてようやく〝意識〟がもう一人の存在を認識する
なんでだ、だって二人組だったはずなのに
なんでもう一人いるんだ
そこに〝いなかった〟じゃないか
「ざんねんだったね~、思ってたより成長してたからびっくりしたよ」
クソ、誰……だ
見覚えがある顔だ
見覚えしかない
「ミレイ……さん?」
「やぁ、おひさ~」
なぜここにいるんだ
そんな事を考えている僕の意識が一点に集まっていく
「Deep Deep Deep Fallen 現界乖離」
……?
何をしたんだ、わからないけど動けるように──
「よし、オ~ケ~。とっとと入れちゃおう」
「ああ、そうだな」
何がオッケーなんだ?
拘束が解かれたんだったら僕が動ける
でもなんでだ、魔力を感じない
身体と、今ある僕の意識が別の物のように感じる
なんなんだ
相手の意識を「人の中に存在している意思を持たない意識」と「外にはじき出された意思を持った魂の様な意識」に乖離させる技である現界乖離をくらってしまったマサミチは意識の乖離したことによる認識のズレでまともな思考ができない
だから、この世の終わりの様な世界への扉が開かれるのを黙って見ている事しかできなかった
「心象現界 開けよ世界の果て 獄界」
世界に見合わない異質な地獄の扉が現われた
燃え上る炎が扉の隙間からあふれ出ている
その大きな扉が声に呼応するようにギィと開かれる
その扉がどんどんと大きく、大きくなってラーフィット邸を全てを飲み込む
やっと、意識が身体に戻る
あれ、ここはどこ
人がたくさん……?




