第四十幕 これが始まり
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
絶叫して、飛び起きる
何度目だろうか
僕はあの日から何度も悪夢を見るようになった
でも、夢の内容は不思議と覚えていない
なのに悪夢だと本能が理解している
氷漬けにされた記憶が自然と解けている様な、そんな感覚なのだろうか
眠るたびにその感覚に陥って、急にまた凍らされる
そんな感覚が一週間は続いている
汗がとめどなく溢れ出して、涙を浮かべて、何かにすがるように起きる
異様なほどの日常
それは、僕だけじゃない
彼女もだ
全ては、彼女と出会い、アルベリの家に行って過ごした時の事だ
確か……始まりは──
日差しが眩しい……
そういえば昨日は騒いでいて、それでメノルさんに怒られたて……それから
乾燥した目をこすり上体を起こす
凝り固まった筋肉をほぐすように背伸びをして意識を明確にする
そうしてぐちゃぐちゃに散らかった医務室を見て昨日の事が鮮明に思い出す
あの後数回怒られて……なぜかお酒を持ってきたテレイズさんが酔っ払って、酒を僕やソラに無理やり飲ませて……うっ頭が
頭を振って痛みを紛らわせる
「んぎゃ!?」
体をゆすった反動で、僕のベットからなにかが落ちる
そういえばさっきカラダが半分くらいベットからはみ出したソラがいたような……
そんな事よりとりあえず日課を……
ベットから出ようとした瞬間重みを感じて少しよろける
さっきの重みって……
ちらっと後ろの方を見ると僕の服に涎を垂らしながら包まっているチョーがいた
僕の服じゃなかったからいいけど、いや良くないな
洗った返さなきゃな……そうだ着替えも取りに行かなきゃ
着替え……着替え……
そういえば爆発してなかったっけ、部屋ごと全部
あれ、明後日はアルベリ君の家に……じゃあ今日明日は?
お先真っ暗な現状にさらに頭が痛くなる
どうしようか……
―――少し後
皆が起きた後テレイズに礼を言い親睦の宿に戻ったのだが……
「見事に壊れてるね」
「だね……」
枠組みが少し残っている事以外何もない
当然服も何も残っていない
それでも何故かあのプリズムだけは残っていた
アルドルフの傑作だったから壊れなかったのだろうか?
いや……そんな事より
「あてもなし……野宿、か。僕は慣れてるけど二人は?」
そう、野宿だ
先日の混乱により開いている店の方が少なくなった町を見た結果たどり着いた結論だ
「問題ないっスよチョーは」
チョーは家と呼べるものがなかったから野宿には慣れているらしい
となると……
そうして二人の視線がソラに向けられる
「うぇ、えーっとぉ。嫌、ではないんだけどぉ、ほら、ね?」
あたふたとしながら言い訳を並べるソラ
次第に僕らの視線に耐えかねて俯いて静かになった
どうしたものかとチョーと二人で目で話しているとソラが「あっ」っと声を挙げる
「そういえば──」
と言う事で僕は今〝特別な人の為に〟のアジトの前にいる
「え、なんで?」
新しく作り直したであろう扉をバンバンと叩きながらアイゾメを呼んでいるソラに自分の思っていることをそのままぶつけた
「いやー遠慮なく頼ってくれって言ってくれてたしね、頼らせてもらおうかと」
テヘペロとあざとく舌をだして笑うソラに若干呆れながらもそれ以外に頼れるところも人もいないので大人しくアイゾメを待つ
何度か扉を叩いていると、苛立った足音が聞こえてきた
「誰よ! 今忙しいんだから後に……」
誰がどう見ても疲労困憊にしか見えない顔色をしたアイゾメが扉を開いた姿勢のまま固まった
信じられないものが来てびっくりしているようにも見えるし、面倒ごとが来て絶望しているようにも見える
「ど、どうも。お元気そう?ですね。はは……」
愛想笑いを浮かべて挨拶をするが、アイゾメは目を見開いたまま口をパクパクさせている
その後ろからひょっこりとアキラが顔を出す
「おい! ハナ、何やってんだ。今忙しんだから帰ってもらえよ。ってマサミチじゃねぇか! ソラの嬢ちゃんも!」
「お久しぶりって訳でもないですけど、アキラさんもお元気そうで」
「別に元気ではねぇよ、こいつらより徹夜耐性があるってだけだ。今忙しいんだが、お前らを叩き帰す訳にはいかない。あがってけよ、もてなしは期待すんなよ?」
そうしてアジトの中に入ってから小一時間、慌しくあちらこちらに動く足音がやまず、なんだか申し訳なくなってきた
「ソラ、僕なんか手伝ってくるよ。申し訳なくなってきたし」
「そう、いってらっしゃい。私も行きたいんだけどね、今動けないし」
そう言ったソラの視線は自分の膝に向けられていた
静かな寝息を立てて寝ているチョーがいるため全く動けないのだ
年相応の寝顔を見ていると起こすのが忍びなく、そのまま寝かせておくことにしたのだが
いつもは活発なソラがチョーのお世話をするために大人しくなっている
前々から感じていたのだが、世話を焼きたがるのはお姉ちゃん気質のせいなのだろうか
というかソラの家族の話とか聞いたことないけど兄弟いるのかな?
「まぁいいや。チョーの事頼んだよ」
ひらひらと控えめにを振ってから外に出る
この部屋については覚えている
ソラが壊した部屋、アキラが助けてくれた部屋だ
ほぼほぼ壊れていたのにもう直っている
誰かの能力だろうか
それにしても誰の手伝いをしようか……
正直言うとアキラくらいしかちゃんと面識がないからアキラの部屋へと直行する
「いない、か」
ノックをして入ってみたものの見事に誰もいなかった
というかここも真っ二つになってたのに直ってる
そういう感じでいろんな所を回ってみたのだが誰にも会わない
仕方ない、ジタバタして余計に仕事を増やすくらいだったら部屋で静かにしておこう
そう思い部屋に戻ろうと一歩踏み出すと扉が壊れそうな勢いで開かれる
「あーつっかれた! やや?そこにいる気配はシンジエイト君じゃないかい?ねぎらっておくれよ~」
玄関を勢いよく開けてアジトに入って来た女性がこれまた勢いよく飛びついてくる
「うわぁっ!?」
急な衝撃によろけてそのまま倒れる
「いてて。しっかりしてよねシンジエイト君。寝不足かい?」
馬乗りになった状態でペチペチと頬を叩いてくる
何この状況
「んん?君シンジエイト君じゃないね。もしかしてお客さんかい?」
「はい、そうですけど、はほ、ほっへは|ひっはははいへふははい」
頬をつままれてまともに言葉が出せない
距離感近いなこの人
「あはは、ごめんね?」
馬乗りの状態から解放され身体に付いたほこりを払う
見たまんまの姿はスタイルのいい美少女って感じの女性なんだけど……
なんで目隠ししているんだろうか
「あ~! ちょっとちょっとぉ~アカツキちゃんどこ行ってたの~!? 探してたんだから~!」
「ミレイちゃんごめーんね」
アカツキと呼ばれた女性はあはは、と笑い、素直に謝る
「じゃーまたね」
いつの間にか目の前から消えていた
足音も何も残さずに
これが彼女
暁 天歌との出会いだ




